IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜   作:アリヤ

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第十話

 ラウラ・ボーデヴィッヒが転入してきてから数日が経ったが、織斑春十とのことで問題になったことはなかった。しかし、ラウラは転入時の印象からして他の生徒と関わりがなく、ほとんど孤立しているような状態となっていた。

 こんな風になることはラウラも予想していた範囲内であるし、それが解っていて転入時に春十を殴っているため、これと言って気にしていなかった。それに、ラウラがIS学園にいる理由は任務の為であり、誰かと友好を築こうとは思ってもいなかった。

 そんなある日のこと、凰鈴音はセシリア・オルコットとともにアリーナの使用許可を頂き、次に行われる大会の為に、模擬戦形式で行いながらお互いの弱点について調べつくしていた。

 

「やっぱり、セシリアのブルー・ティアーズは他との連携が難しそうね」

「ティアーズを操作しながらスターライトを使えたのでしたら、こちらの隙がなくなるのですけど、やはりそれだけに集中しないと今のところは難しいですわ……」

「二重処理能力を鍛えればいけるかもしれないとはちょっと思ったけど、セシリアを見ると先が遠そうだし……」

 

 二人は一度ISの展開を解除し、まずはセシリアのISに搭載されている兵器――ブルー・ティアーズについて考えていた。

 ブルー・ティアーズを使用すると、どうしても他の兵器が使用できなくなるという問題をどうにかしたいとはいつもセシリアは思っているが、あまりにも先が遠すぎる話で、次の大会までにはという期限までには無理に等しいものだった。

 

「いっそのこと、ブルー・ティアーズを封印してパッケージで他の兵器を搭載するのは?」

「それも良い考えではあるのですが……そうなりますとライフル銃による攻撃しかなくなりまして……仲間がいれば問題ないのですが」

「確かにそうなるとブルー・ティアーズを使用した方がまだいいわね。やっぱりすぐには難しい問題なのかな……とりあえずあたしのことについて聞いてもいい?」

 

 これ以上話し合っても解決策は見つからないと思った鈴は、一旦ブルー・ティアーズについて話を止めて、今度はセシリアから弱点について聞くことにした。

 

「そうですわね……正直言いますと、欠点といったところはさほど見つかりませんでしたわ」

「え? なんか一つでもありそうな気がするのだけど」

「鈴さんの場合、元々隙を与えないような連続攻撃を繰り返すものですから、先ほどの模擬戦にしても結構よけるのに苦労しましたわ」

「あれ? でもセシリアの表情を見ても焦っているようには見えなかったけど?」

「あれはポーカーフェイスですわ。焦っているような表情を見せるよりも、余裕そうな表情を見せていた方が逆に相手を焦らせると思いませんこと? 現に先ほど、鈴さんはわたくしの表情をみて焦りましたわ」

「うぐっ。だ、だってあれはセシリアがあんなに連続攻撃を繰り返しているのに、余裕そうな顔をしていたら誰でも焦るわよ!!」

 

 鈴は思わず反論をしてしまったが、実際セシリアが使ったポーカーフェイスは戦闘中において使用するにおいて、よい手段ともいえるだろう。鈴も真似たいところではあったが、実際に使えるかどうかといえば無理という二文字で結論つけられてしまう。ポーカーフェイスは鈴にとって苦手な分野に近いし、そもそも表情に出やすいタイプな人間であるため、実戦で使えるかといえば不可能と言えてしまったのだ。

 自分が踊らされていたことに気付かれた鈴はセシリアに怒っていたが、そんな鈴を見ていたセシリアは苦笑いを浮かべながら話を続けた。

 

「ですが先ほどの模擬戦――鈴さんはいつも通り龍咆を使ってきましたが、いつ放ってきたのか解りませんでしたわ。前は鈴さんの視線を追えば放ってきたかどうか解りましたのですが……」

「あぁ、そのこと? 前々から気にしていたから、何とかして改善してみたの。直すのに苦労はしたけどね」

「おかげで大変でしたわ。まぁ、徐々に鈴さんの方が焦っているように見えましたが」

「あれはセシリアのせいでしょうが!!」

 

 お互いに欠点などを真面目に話していたが、セシリアが和ませるかのようなことを言いつつ、シリアス過ぎないようにしていた。いつもなら鈴も和ませるような会話を入れてくるのだが、なぜか今日はセシリアに弄られるような形となっていた。そんなセシリアは鈴の反応を見て笑みを浮かべながらも楽しそうにしていた。

 しかし、そんな二人の前にISを纏った一人の少女が現れた。すぐにその気配に気づいた鈴とセシリアはその少女の方へと顔を向け、先ほどの和んだ空気から一変した。

 

「ドイツの専用機――シュヴァルツェア・レーゲン」

「……何の用かな? ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「……どうやら歓迎してくれているわけではないようだな」

 

 その少女――ラウラ・ボーデヴィッヒは二人の反応や表情を見て、歓迎されていないことを察した。だがその反応はラウラにとって想定内の事で、そもそも転入してきた時から嫌われるように装っていたようなものだ。そもそもあまり親しく話しかけられることにラウラは慣れていないし、一人のように思えてもデュノア姉妹が一緒にいるために寂しいと思うこともない。それに、ラウラは自ら志願してIS学園に転入してきたようなものだが、任務で来たことには変わりがなく和気藹々(わきあいあい)師に気来たわけではないため、気にしてすらいなかった。

 

「それで、鈴さんも言いましたがどのようなご用件で?」

「なに、他国の代表候補生がどれほどの実力なのか確認しに来ただけだ。信じてくれるとは思わないが、他意なんてないさ」

「嘘にしか思えないわね……IS展開している時点で、戦おうとしていることに気付くのだけど」

「言っただろう。実力を確認しに来ただけだと。実力を確認するのに有効な手段として、戦うという選択をとるというのは最善ではないか?」

 

 ラウラの言い分は解るが、要するに戦えと言っていると理解した。実際、二人のコンビネーションで教師である山田麻耶を引き分けにしたということを、ラウラはデュノア姉妹から聞いている。それを聞いたラウラは単なる好奇心のために、鈴とセシリアの戦いを申し出たのだ。

 もちろん、デュノア姉妹のコンビネーションに比べれば劣るとは思っているが、それでも気になっていた。デュノア姉妹のように長い時間をかけてお互いの戦術を知り尽くしたわけでもないはずなのに、教師相手に互角の戦いを行ったことについて興味を持っていた。

 

「確かにそのとおりね。だけど、初対面であんな行動をされたら、何か変な行動を起こすのではないかと思うのは当然でしょ?」

「やはり信用されないか。だが、もし私がそのように考えていたのであれば、不意打ちで攻撃をしていると思うが? それに、この学園で戦いを申し込む理由として、考えられる理由は少ないと思うぞ」

 

 確かにラウラの言う通りだとセシリアは思う。相手に戦いを申し込む理由として考えられるものとして、第一にISでの実力を上げるという理由だろう。他にもいくつか考えられるが一番悪い理由として考えられたとしても、専用機持ちの相手の戦術や性能を調べ、その情報を国に渡すくらいしか考えられなかった。ISを盗むためという事も考えられるかもしれないが、ラウラは代表候補生であるため、そんなことをしたらドイツの立場が弱くなるだけだ。それ以前に盗むのであれば戦わないという選択肢をとったほうが安全で、隙をみて盗んだ方が最善だとセシリアは思えた。

 ならば別に対戦相手として戦うのはさほど問題がないとセシリアは考えたが、鈴が今もラウラに警戒心を解かないでいたために、ラウラの戦いの申し込みを受けられなかった。どうして鈴がそこまでラウラを警戒しているのかセシリアは解らなかったが、その理由はラウラを信用することが出来ない決定的な情報を鈴が持っていたからだ。

 ISの開発者である篠ノ之束からデュノア姉妹を監視するようにと言われていたが、ラウラが転入してくる前に束から連絡があった。そこで知ったことは、ラウラ・ボーデヴィッヒも織斑一夏とつながりがあるということで、その真偽を調べるためにラウラの後を尾行し、屋上にてラウラがデュノア姉妹と話す姿を見ていた。

 そう――あの時屋上にて見ていたのは凰鈴音だ。デュノア姉妹とラウラは鈴が盗み聞きしていた有力候補として挙げてはいたが、たとえ解ったとしても脅威になるとは思っていなかった。しかし、鈴のバックに束がついていたとすれば話が全く変わってくる。あの時の三人は普通に一夏の事について会話してしまっているため、一夏の所在が束に知らされてしまったようなものになってきてしまった。

 もちろん、そのことを知らないラウラは鈴がそこまで警戒してきていることを知らないし、鈴も一夏についてラウラに問いただそうというつもりはなかった。

 このままでは平行線で何も進まないと思ったセシリアは、鈴にラウラを警戒している理由についてラウラに聞こえない程度の声で聞いてみることにした。

 

「鈴さん、どうしてそこまでボーデヴィッヒさんを警戒しているのでしょうか? ボーデヴィッヒさんが言いましたことを考えましても、こちらとして不利になる点は少ないと思いますが……」

「……理由は言えないのだけど、あたしはあいつの言葉が信用できない」

「何か訳ありのようですね……詳しいことはお聞きしませんが、ここは鈴さんに従いましょう」

「ありがとう、セシリア」

「小声で話し合っていたようだが、話は済んだようだな。それで、戦いの申し込みは受けるのか?」

 

 鈴とセシリアの間で口が動いていることに気付き、戦いの申し込みを受けるか話し合いを行っているのだろうと思ったラウラは、二人が話し終わるまで一言も声を出さずに待っていた。セシリアの方はラウラに対して警戒心を弱めていたが、鈴の方がいつまでも弱めようとはしなかったため、二人で話し合いを行って結論を出させた方が早いと思ったからだ。

 その結果、戦いの申し込みを受けない可能性が高いことも、ラウラはなんとなく解っていた。鈴が自分に対してそこまで警戒してくるのかラウラには解らないが、警戒されている以上、断る選択をとることなど容易に想像できた。

 そしてラウラが予想していた通りの答えが、セシリアの口から答えられた――

 

「すみませんが、その申し込みにつきましては断らせていただきますわ。理由についてですが――」

「それについては、なんとなく想像はついている。この数分の間を見ればさすがに私でも解るさ」

「……? だったら、なんで断られるのがすでに解っていたのにもかかわらず、そんな申し込みをしてきたのよ? なんとなく解っているのであったら聞かなくてもいいでしょうに」

「断られることが想像できたとしても、念のため聴いてみるほうが確実だからだ。やらずに後悔するよりやって後悔する方がいいという言葉と似たようなものだ」

「確かに、そうかもしれませんね」

 

 やって後悔した方がいいとラウラは言ったが、本当のことを言えば、その言葉は時と場合によるとしか考えていない。戦場においてその言葉は無駄に人を亡くすことや、自分の命を粗末にしてしまう可能性だって考えられるからだ。

 犠牲者を最小限に抑えるための事を考えれば、やらずに後悔をしていた方が断然よろしかった。ラウラ自身、そのような後悔を持っていたりする一人でもあるが、自分が行動したところで何か変化したのかと問われれば否としか答えられない。どうしようもない犠牲というものは必ず存在するものであり、それを区別できる人間がいるとすれば未来から人間のみだろう。

 

「さて、断られてしまった以上、私は退散するとしよう」

「……断ったからと言って、本当に何もしてこないのね」

「別に実力を調べる方法なんて、いくらでもあるからな。仮にもここはIS学園だ。今後も大会などのイベントが行われるのであれば、そこで実力を見るのもさほど変わらないだろ?」

「……ボーデヴィッヒさんのイメージが、少し変わりましたわ」

「初対面のイメージが強すぎたことが原因だろうな。素の私はこんな感じだからな。とりあえず邪魔したことはすまないと最後に言っておこうか」

 

 最後にそのことを二人に伝えると、ラウラはアリーナを後にして、鈴とセシリアだけがその場に残った。結局何しに来たのかよくわからなかった鈴とセシリアはどうすればいいのか解らず、お互いに顔を向けていた。

 

「……何もしてこなかったわね」

「……そうですね。特に何事もなかったのはよろしいことですが、この後どうしましょうか? まだ時間がありますが」

「なんかもう、今日はこれで終わりにしない? さすがにこの後模擬戦を行おうという気持ちにはなれないわ」

「そうですわね。また後日行いましょうか」

 

 アリーナの使用許可の時間はまだあり、本来ならばもう一度模擬戦を行う予定ではあったが、ラウラの介入により模擬戦をしようという意欲がなくなっていた。ラウラと戦うのであればまだ問題なかったが、結局何しに来たのかよく解らないまま去ってしまったがために、中途半端な気持ちになってしまったのだ。

 セシリアも鈴の提案に賛成だったため、二人もラウラの後に続くかのようにアリーナを後にするのだった――

 




前回の最後、あんなにもったいぶったのに結局鈴かよと思った方が多いと思いますが、正直デュノア姉妹とラウラはあまり鈴を警戒しているわけではありません。

鈴個人として動いていたとすれば、警戒するべき人物ではないからです。

しかし鈴の後ろに束が付いていたとすれば話が変わってくるため、鈴に聞かれていたことはかなり厄介なことになる……という事で前回の最後の一文はあんな感じになりました。ちょっとわかりにくかったかもしれません。

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