IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜   作:アリヤ

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一か月ぶりですね……

一話一話の投稿感覚が長いかもしれませんが、読んでくれるとうれしいです。




第九話

「これより転入生を紹介します」

 

 数日後、山田麻耶からその言葉を聞いて、1組の生徒たちは騒ぎ始める。

 ついこの前、デュノア姉妹がIS学園に転入してきたばかりだというのにもかかわらず、またしても転入生が来るとなれば驚きを隠せないだろう。ISのためにある学園で、他と違って転入生も多いのかもしれないが、それでも一ヶ月以内に三人という人数はさすがに多いようにも思えた。

 そんなみんなが驚いている最中、驚いていない生徒が四人もいた。

 一人はセシリア・オルコット。代表候補生ということもあってか、転入生が来るということだけでさほど驚いていなかった。デュノア姉妹の時も驚きはしなかったが、転入生がデュノア姉妹だと解るとさすがに驚いたくらいで、今回はそんな有名人が来るわけではないだろうと思っていた。

 もう一人は織斑春十。デュノア姉妹の時は考え事をしていたこともあって、転入生がくることすら気づいていなかったくらいだが、今回は朝のホームルームの内容を聞いていた。しかし天才である春十にとってさほど興味がなく、たとえ代表候補生だとしても自分に勝てる人間は来ないだろうと思い込んでいた。

 そして、残りの二人はデュノア姉妹だ。イリア・ヴェロフの下で人殺しをしている彼女たちにとって、正直どうでもいいことだった。唯一気になることといえば今後自分たちの邪魔をしてこないかというくらいで、そうでなければ他の生徒たちのように馴染み込めればいいとしか思っていなかった。だが、そんなデュノア姉妹の考えがすぐに崩れ去られることを知る由もなかった。

 

「それでは入ってきてください」

 

 麻耶の一言で、その転入生はドアを開けて教室の中へと入ってくる。その転入生の姿を見たデュノア姉妹は、思わず目を開いてその転入生を見ていた。どうして、彼女がIS学園に転入することになったのか知らず、思わず驚いてしまっていた。

 そう――その転入生はデュノア姉妹の知り合いでもあり、イリア・ヴェロフにかかわりがある人間だった。普段ならその情報が事前に伝われるはずなのだが、そんな情報が伝えられてなく、数日前にきたヴェロフからの連絡には彼女のことについて一切知らされていなかった。

 その転入生――長い銀髪で左目に眼帯をしている彼女は教卓の近くで立ち止まり、生徒たちのほうへと体を向けた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「……ってあれ、それだけですか?」

「それだけだ」

「で、ではボーデヴィッヒさん、シルヴェーヌさんの後ろに空いて…る……」

 

 麻耶が席を教えようとするが、ラウラは突如歩き出し、春十の目の前で足を止めた。

 春十も思わずラウラの方に顔を向けるが、その直後に思いっきり殴られ、椅子から転げ落ちてしまった。

 すぐに殴られたと分かった春十は、即座に立ち上がり、ラウラを睨み付ける。

 

「……どういうつもりだっ!!」

「……認めない。貴様が教官の弟などと!! そして――」

「っ!? まずい!!」

「あの人をどん底に落とした貴様を、絶対に認めてなるものか!!」

 

 シルヴェーヌはラウラ・ボーデヴィッヒがある名前を言うんではないかと思って、思わず声に出してしまったが、さすがのラウラも場をわきまえていたことに思わず安心してため息を吐いてしまった。

 ラウラは何事もなかったかのように後ろのシルヴェーヌの席がある後ろの席に座り、その様子に生徒たちは何が起こったのか理解できてない人ばかりだった。そんな様子に見かねた千冬は教卓を両手で叩き、自分に注目させた。

 

「以上でホームルームは終わる。さっさと次の授業の準備でもしてろ」

『は、はい!!』

 

 一瞬にしてこの場の空気を換えた千冬はそのまま教室を後にして、それに続くかのように麻耶も千冬の後を追っていくのだった。

 

「……これは、一波乱おきそうなきがするわね」

 

 先生の二人がいなくなったのを見て、後ろにいるラウラが何かしでかさないかと不安で、二度目のため息を吐くのだった――

 

 

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「……で、なんでラウラまでIS学園に通うことになっているのかしら?」

 

 今日一日の授業が終えた放課後、シルヴェーヌはラウラとシャルロットを誘い、屋上へ来るようにと伝えてあった。

 そして怪しげな行動に思われないためにも、それぞれバラバラな時間に屋上に行き、三人集まったところでシルヴェーヌがラウラにIS学園に転入することになった説明を求めた。

 

「簡単だ。私がヴェロフ元帥に直談判をしたからな」

「じ、直談判!? よく話が通ったものね……」

「いや、別に説得させることもなく、即座に了承されたのだが」

「……うん、今の説明でなんとなく察したわ」

 

 思わず額に手を当てたくなりそうになった。イリア・ヴェロフにとって、今の状況は暇といっていいほどなのだろう。シルヴェーヌを含むこの四人をIS学園、もしくはその周辺に暮らさせるなんて、本来ならあり得ないことだ。それくらいが可能なまでに、これといった大仕事がないということを指していた。

 実際、IS学園に来る以前にやっていた仕事をシルヴェーヌは考えてみると、どれもすぐに終わるような任務ばかりで、これといって難しい任務を最近与えられたことはなかった。だからこそ、ラウラが説得もすることもなくIS学園に転入することができたのだろうとシルヴェーヌは思った。

 

「……ちなみに、ラウラが来たがった理由って一夏の近くに私たちがいるからだよね?」

「もちろんその通りだ!! 貴様ら姉妹だけがお姉さまの近くにいて羨ましいと思っただけだ!!」

「思いっきり本音言っちゃってるよ……」

 

 ラウラから本音を聞こうとしたシャルロットだが、あまりにも素直すぎる答えに質問した自分が馬鹿らしく思えてしまった。

 一方のシルヴェーヌは、そんなラウラを見て正直不安でしかなかった。任務内容的なことは転入する前に聞かされていると思われるが、今のラウラの様子からして本当に大丈夫なのかと思い、念のため確認することにした。

 

「……解っていると思うけど、私たちの任務は織斑春十の監視よ。そしてIS学園の生徒である間は、たとえ更識家の当主であろうと殺すのは禁止だということは知っているわよね?」

「それくらい解っている。織斑春十を殺しても構わないとは言われたが、あいつを殺すのはお姉さまだ。とにかく、織斑春十を監視していればいいのだろう」

「……ならいいけど」

 

 まだ不安な点は残っているが、ラウラもデュノア姉妹と同じくイリア・ヴェロフに従っている身だ。命令違反をしたなんていうことは一度も聞いたことがないし、信用するレベルにはなんとか超えていたので、これ以上は何も言わなかった。

 大体のことは話し終えていたが、デュノア姉妹はもう一つだけ気になっていることがあった。というより、気になっていることだ。肝心なことでもあったため、任務内容の話を終えてすぐにシャルロットがラウラに確認した。

 

「……あとさ、もう一つだけ聞きたいのだけど、どうして僕たちにラウラがIS学園に通うことを知らされていなかったのかな?」

「私もシャルロットと同じことを聞きたかったわ。どうして知らされていなかったのかしら?」

「そのことだが、ヴェロフ元帥が面白がってあえて伏せていたらしい。どういう反応するかとかを見たかったとか」

「……それ、私たちを驚かせたとしてもヴェロフ本人に見えてないよね?」

「それにヴェロフがあえて言わなかったとしても、ラウラは転入する前に一夏に会っている筈だよね? そうなると一夏から僕たちに伝えられそうだけど……」

「いや、一夏には日本に来る前にヴェロフ元帥から伝えてあったらしいぞ」

「……本当に何がしたいのよ」

 

 これ以上考えても意味がないと解っているので、シルヴェーヌは気にしないことにした。イリア・ヴェロフはたまに意味も解らない行動を起こしたりするため、気にしても理解できないことは前々から知っていた。

 これは一夏が多少ながらも感情が戻ってきたときに聞いた言葉だが、あの篠ノ乃束も意味も解らないことをしていた事があったらしい。馬鹿と天才は紙一重ということわざが日本にはあるらしいが、天才が考えることは一般人には理解できないというのはイリア・ヴェロフに限ったことではないと知り、思わず納得してしまったことがあった。

 

「とりあえず、これ以上の質問はないわ。それで今後のことだけど、私たち姉妹は仲良く学園生活を送っている姿を見せておくつもりだけど、ラウラはどうするの?」

「たぶん誰とも付き合わずに生活していくだろうな。転入した第一声があれでは、私に近づこうとする人間なんていないだろう」

「ラウラって、自分がしたことは一応理解しているんだね。ラウラがそれでいいなら僕からもお願いしていいかな?」

「当然だ。それに、今後貴様ら姉妹と一緒にいるところを見られたら、生徒会長の更識楯無とかに怪しまれる可能性だって考えられるからな。とりあえず私は……っ!?」

 

 ラウラはある異変に気付いた。屋上に上がる際、ラウラが最後に上がってきたのだが、その時屋上のドアを完全に閉めてからデュノア姉妹が居るほうへと向かった。だが今見るとドアが多少開いたままの状態になっており、そこからして誰かがデュノア姉妹とラウラの会話を盗み聞きされていた可能性があまりにも高かく、思わず慌てている表情に変化していた。

 一方、突然ラウラの表情が変わった理由がわからないデュノア姉妹は、ラウラがどうして慌てているのか解っていない。ラウラの視線を向いてみると、屋上の出入り口に向いており、そこでラウラの表情が変わった理由がなんとなく推測でき、まずいことになったことにデュノア姉妹も気付いた。

 

「……もしかして、誰かに聞かれていた可能性がある?」

「あぁ、私は確かに屋上のドアを閉めて来た筈だ。ドアが開いていることから考えて、誰かに聞かれていたかもしれない」

「でも、僕たちがいることに気付いて、帰ったっていうことも考えられるよ?」

「それはないわ。出したら冷静な判断ができて、ドアを閉めてくれるはずよ。それに、ドアの音をしないように開けることからして、私たちもその音に気付くはず」

 

 音を出さずにドアを開けた時点で、屋上に上がる時点から怪しまられていた可能性があった。どこでそう思われたのかは解らないが、三人は有力な犯人を絞り始める。

 

「一番有力なのは生徒会長の更識楯無だが、違うだろうな。私たちの思惑が知られたとなれば、絶対に妨害してきたはずだ」

「織斑千冬も違うでしょうね。教師としての立場からして、密かに盗み聞きするなんて思えないわ」

「そうなると、有力なのは……」

「私たちの行動に怪しんだ織斑春十か、布仏本音の二人か」

「いや、凰鈴音も含まれるわ」

「凰鈴音? 中国の代表候補生のか?」

 

 シルヴェーヌはラウラが挙げた二人のほかに、凰鈴音の名前を挙げた。ラウラはどうして鈴の名前を挙げたのか解ってなく、シルヴェーヌはそのことからして、急遽任務に就くこととなって詳しく聞かされていないのだろうと思い、鈴について説明を始めた。

 

「凰鈴音は一夏と深く関わりがある人物なの。一夏が行方不明になってからというもの、独学で一夏の所在を調べていたという情報が入っているわ」

「なるほど。だから凰鈴音か」

「……その三人の中だと、一番厄介なのは僕たちのターゲットである織斑春十だね。一夏が生きていることもばれてしまうし、ラウラがさっき言った――『織斑春十を殺しても構わない』という発言を聞いていると思うから、かなりの警戒をされているでしょうね」

「屋上を選んだのは失敗だったようね。織斑春十以外ならばまだ何とかなるのだけど、祈るしかないわね…… とにかく、私たちは解散としましょうか」

「そうだな。過ぎたことをどうこう言っても意味がない。お互いに気を付けよう」

 

 その言葉を最後に、ラウラは先に屋上を後にした。すでに誰かに気付かれてしまっているが、これ以上の失敗をしないためにも、デュノア姉妹は十分くらいを戯言などで時間をつぶし、それから自分の寮の部屋へと戻っていった――

 だが、この時の三人は全然知らなかった。盗み聞きされていた相手が、織斑春十と同じくらい厄介になるかもしれなかったということを――




なんかさ、シルヴェーヌのキャラ位置のせいなのか、シャルロットが目立たない……

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