鎮守府憲兵隊の事件簿   作:文月蛇

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勢いでやったが後悔はしていない!

この話は基本的にはプロローグ・・・これから憲兵過労で大変な目に合います


第一話 下着泥棒の顛末

ゼンマイ式の部屋に置いてある時計が動く。それは今時のようなデジタル時計のそれではない。古き良き時代に人の手によって動力が付けられた骨董品の類だ。

 

秒針が動くたびに、デジタルにはないリズムがその空間に刻まれる。それは不思議と安心感を与えているものだ。規則正しいリズムは体に良いとされる論文すらある程。だが、置かれている場所には気分のいい物はまるでない。

 

その場所は二人の男が向かい合って座っていた。中央には発熱型の電灯。片方の男の目の前には「調書」と書かれた黒塗りの冊子。一般人で言うところの取調室だろう。調書を持つ男は目の前の縮こまった男を睨みつけ、静粛がその場を支配する。その沈黙の最中、ゼンマイ式時計の秒針が規律よくその空間に響き渡る。長所をとる男はその音が好きで堪らない。何故なら、目の前にいる男にかかる重圧が一秒ごとに増えているのが分かるからだ。しかも、秒針の音の響きが静粛の空間に響き渡るたびに、男は怯える。

 

「いい加減、認めましょう。言えば楽になります。それともまだやっていないと仰るつもりですか?」

 

調書をとる男は丁寧に訊く。しかし、声色には忍ばせたナイフのように怒気がこもっているようにも思えてならない。

 

その取調室にはないものがあった。というよりも彼らの服装がその空間を異質にみえさせているのだろう。

 

調書を取る男は大日本海軍第三種軍装。所謂、海軍陸戦用の軍服であった。襟や雰囲気も見る限り、軍曹の階級である。鋭そうな双眼や凛々しい顔つきからしても三十代ではない。しかし、左上腕に付けられた「憲兵」と書かれた腕章の役職はあらゆる部署の軍属から嫌われている。一般兵曰く「戦場に出ずに、悪さをすれば捕まえに来る卑怯者」上層部からは「いつ自分に向かってくるか分からない番犬」など、評判は悪い。しかし、強い軍事力を支える彼ら兵士を裁けるのは憲兵だけであり、軍法を守れるのはほかならぬ憲兵なのだ。たとえ、泥水を啜ってきた兵士達に恨まれようとも構わない。例え、友軍兵を裁く罪悪感があろうとも友軍が犯した悪は決して裁かねばならない。そういう悪を許さないのを信条にして憲兵は職務を遂行するのだ。

 

「だから、俺はやっていないって言っているだろ!」

 

憲兵の向かいに座る男は叫ぶ。

 

男の格好は憲兵とは違い、第二種軍装。一般人からしてその姿こそが大日本帝国海軍の軍人とイメージする。その純白の軍服は少年の心を鷲掴みにして離さない。子供達のヒーローなのだ。そして襟や肩の階級章は憲兵から見れば、雲の上と言っても差し支えないものだった。

 

「大佐」それは大隊長や基地司令などに着任できる階級であり、中間管理職の軍曹とは雲泥の差である。そして、目の前にいる男は艦隊を指揮する「提督」と呼ばれる地位についている。それは海の男の最高位の位と思って欲しい。そんな子供の英雄とまで言えるその提督さんは椅子に座り、膝の上には手錠を掛けられた彼の両腕があった。一体、どんなことをすればこんなことになるだろうか。国家反逆?スパイ?・・・・様々な事を予想するだろう。しかしながら、これを読んでいる方々は肩透かしを食らうはずだ。

 

 

「嘘つくな!!」

 

バンッ!!と机を叩き、憲兵は怒鳴る。それを目の当たりにした若き提督は怯えて肩を縮こまらせる。憲兵は元陸戦隊の憲兵であったこともあり、職務規定違反を犯した兵士を何度しょっぴいたのか数えることもできない。彼は三十にも満たしていないにも関わらず、凄腕の刑事・・・いや、憲兵なのだった。

 

机の横の「証拠品箱」と書かれた箱から憲兵は袋に入ったあるものを提督に見せつけた。

 

刑事ドラマなら、殺人事件の決定的証拠や薬物。憲兵なら提督が部下を殺した軍用拳銃とかもありうる。しかし違うのだ。憲兵が取り出したのは、白くて三角形。生地の良い真っ白いパンツであった。

 

 

提督は気まずそうな顔をして憲兵から顔を背ける。

 

「俺はやってない!!」

 

提督は言うが、憲兵は提督の目を見て嘘だと分かり追い打ちを書ける。

 

「そうか、大佐殿?あなたは横須賀鎮守府の艦娘用の一番ドックの更衣室で戦艦榛名の下着を盗んだ。」

 

「嘘だ!」

 

「いいや、更衣室から出てきたのを第六駆逐戦隊の雷に目撃されている」

 

「榛名は俺と風呂に入っていて・・・・」

 

どっからデマカセを・・・。と憲兵は内心呆れるが、そのまま責め続ける。

 

「戦艦榛名に聞いたところ、あなたとは一緒に入らなかったとか。ちなみに一番ドックは空母加賀も使用中でしたので、加賀も証人ですよ」

 

「むぐぐ」

 

提督は反論の余地なく黙り込んでしまった。

 

彼は横須賀鎮守府のとある艦隊の提督。つまり、艦隊の指揮官である。その艦隊は普通の兵器とは異なる兵器を指揮している。軍艦に少女の魂と肉体が深く結びついた忌まわしき兵器。突如として海から攻撃を仕掛けた深海棲艦を撃退するために作られた人類の最終兵器。それが『艦娘』である。事態は艦娘が多く量産され、戦場は人類の優位である。そのため、こういった不届き者が出てきてしまうのはもはやどうしようもない。

 

「は~・・・こんな大局に何をしているんですか」

 

「い、いや俺は榛名の・・・」

 

「よく聞こえなかったですね・・・何ですか?」

 

「パンツが何色か見たかったんだも・・・グヘッ!!」

 

その瞬間、憲兵は持っていた調書で目の前にいた提督の頭をひっぱたく。

 

「くそぉ!おれは大佐だぞ!」

 

「大佐も糞もあるか!あんたはラピ●タの バルスで目でも焼かれてしまえ」

 

憲兵は威張る提督に怒鳴る。提督は階級が高いので下士官が提督を裁けないのかと思うかもしれない。しかし、今は戦時下である。多数の左官クラスの軍人は艦娘を指揮下に入れて戦場へ赴くが、彼女らにだって人権は存在する。軍人の規律は守ってもらわなければ軍そのものが機能しない。艦娘に対するセクハラ行為は佐官クラスの大量配置によって鰻上りに上昇しているため、憲兵隊の相応の階級の持ち主は手に負えない状況になったのだ。

 

このため、大本営は憲兵隊にある種の「超法規的刑罰の使用」を認めることとなったのだ。つまり、階級が上でもきっちり裁けということである。

 

「た、頼む軍法会議だけは!!」

 

提督は涙を流し、懇願する。この時軍法会議に委ねる判決を下せるのは調書をとり「軍法会議の必要性を感じた」憲兵によってなされる。憲兵は様々な条件を鑑みて判断を決めなければならない。提督の犯罪行為は軍法会議に処すべきか否か、そして軍法会議を行った際、どのように戦局が変わってしまうのか。憲兵は細心の注意を払って決断を下した。

 

「いいだろう、軍法会議は中止する」

 

「おお!」

 

提督の顔は神に救われたような笑を浮かべる。彼にすれば、魔が差してやったのだ。些細な事であり、これしきのことでキャリアが水の泡になれば大変なことになる。憲兵は箝口令を敷き、口外はされていない。既に海軍将校が艦娘にセクハラをしたことは海軍の不祥事であり、これ以上マスコミに叩かれては不味いという、大本営直々の憲兵隊への命令があったためだ。これを知っているのは第六駆逐戦隊の雷と榛名の両名であるから、二人に口止めをすればなんとかなる。

 

だが、大本営は「事件にするな」と言っただけであって、「罰するな」とは一言も言っていない。

 

「田中伍長と比口上等兵、銃殺用の目隠しと拘束用のロープ・・・あと武器庫から標的の的を貰ってきてくれ」

 

「ちょっと!軍曹!何をしている!?」

 

軍法会議をしないと言った手前、提督はいきなり銃殺刑にされると思い、立ち上がる。しかし、それを呼ばれて出てきた兵士二人が押さえ込んだ。

 

「私は会議を開催する要請は出していないが、あなたに罰を与えないとは言っていない。」

 

軍曹のセリフに提督は顔色を青くする。すると、憲兵は近くにあった内線電話の受話器をとった。

 

「こちら憲兵隊だが交換手、金剛姉妹に繋いでくれ」

 

「!!!・・おまえ何を!」

 

憲兵は満面の笑みで答えた。

 

「そりゃ・・・犯罪者には罰を与えなくちゃ♪」

 

その笑みはまるで悪魔の微笑みに感じ、提督は憲兵の拘束を解こうと必死にもがく。しかし、悲しきかな。まるで、痴漢をしたサラリーマンのようにガッチリと押さえ込まれ拘束された提督は全く動かない。

 

「離せ!」

 

「二人共、第二試射場へ連れていけ」

 

「了解です」

 

「ちょっと、待てぇ!」

 

提督は引きずられ、鎮守府の廊下で踏ん張ろうともがくが両脇に掴まった腕はそう簡単に動けるものではない。鍛え方が違うと言えよう。

 

「離せぇ!話せば分かる!」

 

「問答無用だ。セクハラ提督には痛い目を見てもらわんとな」

 

某首相と青年将校のやりとりに聞こえかけたが、提督の懇願も虚しく廊下に彼の叫びが響き渡るのだった。

 

 

そして、三十分後。第二試射場と呼ばれる艦娘専用の練習施設には憲兵隊の他にも、艦娘達が集まっていた。一人は超弩級戦艦として英国のヴィッカーズ社で建造された金剛型一番艦、金剛である。巫女服にも見えるその服装は戦場では可憐な戦乙女として見える事間違いない。背中にマウントされた大口径の艦砲射撃で敵は殲滅されてしまうだろう。しかし、彼女は不機嫌な様子で腕組みをしていた。

 

彼女の他にも二番艦比叡、四番艦霧島。そして、今回の被害者である三番艦の榛名であった。被害者である榛名は大和撫子と言われても良い、黒髪長髪の似合うお淑やかな少女である。とても、戦艦を操り、大海原の戦場で戦っているようには見えない可憐な乙女である。そんな彼女は姉妹艦の霧島に背中をさすられていて、まだ涙を流している。

 

「提督ぅー・・・・私という女がありながラ、姉妹に手を出すなんて信じられないネ~」

 

そんなことを口にするのは戦艦金剛。彼女はかねてから提督を慕っていた経緯があるし、完全に提督に惚れていたのだ。あれほどの美少女に好意を抱かれているのにも関わらず、その姉妹艦に手を出すのは非常識である。憲兵隊の一部は提督に敵意を剥き出しにしているが、もう一隻敵意を剥き出しにしている者がいた。

 

「金剛姉さまが好きだと分かっているのに・・・・!よりによって榛名に手を出すなんて!」

 

戦艦比叡は般若お面の鬼のようにして怒り、既に砲塔は提督に向けていた。顔を真っ赤にして起こっている姿は戦場でも見られない。見られるとすれば金剛が被弾した時であるが、今回は痴話。怒りは臨界突破である。

 

「憲兵さーン、私たちは何をすればいいんですカ?」

 

語尾に妙なアクセントを付ける金剛は『MP』と書かれたヘルメットを被る先程の取り調べにいた憲兵に聞いた。

 

「そうだね、彼処に縛り付けられている提督がいるだろう?」

 

憲兵は数百メートル離れたところに指をさす。そこには一本の柱に縛り付けられた提督の姿であった。後ろで縛られ、口に猿轡をハメられた提督は銃殺される反乱将校に見られるかもしれない。目隠しはあったものの、戦艦比叡の提案で目隠しはなくなった。彼女曰く「怯えている顔が見たい」とのこと。

 

「彼の近くには数々の標的がある。提督に当てずに全ての標的を破壊してくれ」

 

「弾は実弾ではないのですか?」

 

榛名を宥めていた霧島は提督にゴミを見るような目で見つめている。憲兵は霧島にそんな目ができるとは知らず、軽く驚いたが質問に答えた。

 

「いや・・・、赤いペイント弾を使用する。提督が死んだら元も子もない」

 

「いいじゃないですか、どうせ子孫残さないでしょ」

 

「!?」

 

怒りが臨界を突破した比叡は実弾が装填された砲塔を向けようとする。

 

「いやいや、駄目だって!彼は貴重な指揮官の一人だ。セクハラ行為で銃殺刑にするわけにはいかない」

 

軍法会議にさえ銃殺刑に処せられてはいないのに、憲兵が勝手に銃殺刑、艦娘による艦砲射撃で蒸発したとなれば一大事である。そして、提督というのは、曲がりなりにも軍隊の指揮官であり、これを輩出するためには国民の血税が掛かっている。むやみに首にすることも出来ないのだ。

 

「だが、罰を与えるなとは一言も言っていないだろ?」

 

憲兵はにやりと笑う。その真意に気づいた金剛達艦娘は成程とペイント弾をセットする。

 

「提督ぅ~・・・・私にすればよかったの二・・・・」

 

「榛名にするなんて許しません。塵となっていただきます」

 

「万死に値するわ!この比叡が天誅を・・・下します!」

 

横一列に並んだ金剛姉妹は圧巻である。最後に泣き止んだ榛名が並ぶ。

 

 

 

「提督の・・・・エッチぃ~!!!!」

 

 

金剛姉妹の四十一センチ連装砲は炸裂し、一斉射で提督に発射された。それは各鎮守府や泊地にいるセクハラを行う提督に対する艦娘の正義の鉄槌として、箝口令にも関わらず配備された艦娘の耳に入ることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




憲兵の粋な計らいで復讐する事が出来た金剛姉妹。

下着盗難事件は解決するが、更に痴漢事件や提督との三角関係!更に軽巡竜田の提督に対する私刑などなど・・・

憲兵はこの苦難に耐えられるか!?

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