天才兎に捧ぐファレノプシス   作:駄文書きの道化

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Days:11

 ISスーツを身に纏い、身を包んでいた衣服を綺麗に畳んでロッカーを閉める。ゆっくりと息を吐き出して呼吸を整える。そっと肩にかかった髪を払った際に触れた青いイヤーカフスを撫でるように触れる。

 僅かに目を細め、撫でるように触れていたイヤーカフスを揺らす。上げられた顔には覚悟を。瞳には決意を込め、自らを奮い立たせるように彼女は告げた。

 

 

「セシリア・オルコット……征きますわ」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 IS学園に存在するアリーナ。決闘の当日を迎えたアリーナでは観客達がこれから始まる試合に思いを馳せていた。カードはフランス代表候補生、シャルロット・デュノア。相対するのはイギリス代表候補生、セシリア・オルコット。

 1年1組のクラス代表を賭けた試合ではあるが、国同士の威信をかけた戦いでもあり、この試合には注目が集まっていた。そんな試合の観客席、高天原のメンバーに加えて鈴音は各々に飲み物などを持ち込んで観客席の一角を陣取っていた。

 

 

「まぁ、シャルロットが勝つんじゃない?」

 

 

 投げやり気味に言い放ったのは鈴音だった。試合が始まってもいないのに勝者の予想を立てるとなれば、何か思うところがあるのかと鈴音の隣に座った一夏が問う。

 

 

「何でそう思うんだ?」

「“疾風の姫君<ラファール・ラ・プランセス>”の異名は伊達じゃないって事よ。そしてデュノアの技術力もね。……まぁ、それには何か裏がありそうなんだけど」

「裏?」

 

 

 首を傾げる一夏を見て溜息を吐いた後、前に座るハル、クロエ、ラウラの頭を見た。会話にはまったく反応していないように見えるが、彼等が過去何らかの繋がりがあったのは見え隠れしている。

 もしかしたら密かにラファール・アンフィニィの開発には関わってるんじゃなかろうかと鈴音は睨んでいる。それならば色々と辻褄が合うのだが指摘はしない。突いて藪蛇は出したくはないのだ。知る時になればいずれ知る。そして世界各国に技術協力を申し出ている以上、遅いか早いかの違いだ。

 彼等と関わるようになって鈴音は感じていたのだ。彼等は利益は求めるが、それは全て夢の達成によるものだ。彼等自身、例えば世界を支配したいなどという欲求も無ければ顕示欲がある訳でもなし。

 国家としては彼等と“親身”になりたいようだが無駄だろう。篠ノ之 束は通常の利では動かない。そして彼女達はISを武力としても扱うが、その本質は宇宙開発に取り組む為の足がかりでしかない。土台、見ている着地点が違うのだ。交渉にもならない筈だ。

 中国代表候補生として鈴音もロップイヤーズに接触し、交友を深めるように暗に伝えられているが、鈴音としては中国に余り思い入れはない。日本で育った時間が長かったし、何より煩わしいのは嫌いだ。世の煩わしさに振り回された鈴音としては折角出会い、ようやく思いが通じた男との恋愛に無粋な茶々入れは止めて欲しいと思っている。

 別に代表候補生という身分に未練でもある訳でもなし。とはいえ、中国の代表候補生という身分を捨ててロップイヤーズに流れても良い、だなんて思っても中国が鈴音をそう簡単には手放さないだろう。暫くはこのままの状態を維持するしかない。

 

 

(……少なくともIS学園に居る内には、ね。それに……ま、まだこいつとは付き合ったばかりな訳だし。どうなるかわかんないし)

「鈴?」

「……何でもないわよ。一夏」

 

 

 さりげなく伸ばして一夏の手に触れてみれば握り返された。確かめるように指を絡ませて握って、恐る恐る一夏の顔を覗けば、一夏も鈴音を見ていて互いの視線が合って目を逸らす。それでも繋がれた手は離されていなくて互いに顔を赤くする。

 そんな光景を横目で見て、やれやれ、と言いたげに隣で恋愛劇を繰り広げてくれている幼馴染みに箒は溜息を吐く。人目を気にしてくれれば良いものを。まぁ仕方なし、と箒はこれから始まるだろう試合へと意識を向けた。

 箒が意識を傾けたのと同時にアリーナにはラファール・アンフィニィを纏ったシャルロットが飛び出してくる。空中に滞空し、相手であるセシリアを待っているのだろう。そしてシャルロットが姿を現し、少しの間を置いた後、セシリアもまた姿を現した。

 

 

「……あれがブルー・ティアーズ?」

「……おかしいですね。形状に違いが見られます。新型パッケージ……? いえ、そもそも装甲バランスやビットの形状も変わってます」

「まるで別物だな。カスタム機か?」

 

 

 セシリアの纏う蒼のISを目にしたハルは興味深げに視線を送る。しかし首を傾げたのはクロエだった。かつて収集したデータと比べてみても今、セシリアが身に纏っているISとの形状が一致しない。ラウラも同意見なのか、見定めるようにセシリアの機体へと視線を送った。

 アリーナで滞空するシャルロットもまた相対するセシリアに目を奪われていた。デュノア社から提供したデータがあるのは重々承知、その上で強化されたブルー・ティアーズが来る事は予想出来ていた。

 するとシャルロットは気付く。僅かに顔を俯かせていたセシリアが口元に笑みを浮かべさせたのを。くつくつ、と喉を震わせるような笑いはどこか不気味な色を持っていた。

 

 

「……この日が来るのを一体どれだけ待ち望んでいたか」

「……いつか来ると思ってたよ。私もね」

「そうでしょう。そうでしょうとも。貴方はあの日、我が祖国イギリスに、そしてこのセシリア・オルコットの頬に泥を塗りたくりましたわ」

「否定しないよ」

 

 

 世界の技術を均一化させ、裏からコントロールが出来るように。いつか束達が目指す夢を追う為に自分なりに考え、社の利益、自分の夢の追求の為にシャルロットは様々な事に手を染めてきた。勿論、謀略だって幾度となく繰り返した。

 後悔はない。時折、その重さに苦しんでしまうけれども、高天原を見てからやはり自分の追いたい夢はアレなのだと再確認した。だからこそ引かない。

 

 

「虚飾に塗れた称賛……実のない称賛に贈られた羨望、そして嫉妬……虚ろな称号を飾った時の絶望感……。それを掲げなければ全てを守れぬ我が身をどれ程、呪ったか」

 

 

 セシリアがもたらしたデータによってイギリスのIS開発は大いなる発展を見せた。セシリア・オルコットへ贈られたのは飽くなき称賛。しかしその実、成果はセシリアのものではない。

 デュノア社からもたらされたデータによってセシリアは一躍、英雄視までされた。次期代表も間違いなしとされた。それだけの努力も積んできた。けれど、それもなんて虚しい! 虚飾を纏わなければ国の威光すらも失うと知り、何も言えずに称えられるだけの日々!

 

 

「ですが、感謝していますのよ? シャルロットさん。私は少なくともイギリスという国を守った。それは確かな事実ですわ。この栄華を以てして私はイギリスの頂点に、そしていずれはヴァルキリーの名を手にして見せる」

「……随分と大きく出たね」

「虚から実へ。私がこの泥を飲み下す為には必要なんですのよ。シャルロットさん」

 

 

 ふんわりと優しい笑みを浮かべてセシリアは微笑む。……瞳が泥のように濁った闇を淀ませていたが。それでも意思は消えない。瞳に灯った焔はその闇すらも焼き付くさんばかりに輝きを持つ。眩いまでに誇り高く。

 

 

「今日、ここで貴方を墜とす。そして私は証明する。セシリア・オルコットの名が決して陥れられただけの名ではなく、貴方に敗者の烙印を押す者の名だと言う事を」

「……私は別にセシリアさんを格下だなんて思っていない。私が勝者だとも思ってない」

「施しを与えたのは私を見下しての事でしょうに。言い訳は無用ですわ」

 

 

 猛る焔は何をしても止まらないだろう。彼女の闇を飲み込み、焼き尽くす時まで。

 会話をしている内に開戦の合図が迫っていた。セシリアは微笑みを消し、シャルロットに向けて牙を向ける。今まで耐えに耐え抜いてきた屈辱を胸に。今こそ、彼女の喉笛に食らいつく、と。

 

 

「――私の栄華の為に墜ちなさい! “疾風の姫君”! このセシリア・オルコットとブルー・ティアーズの下へ跪け!!」

 

 

 ――開戦の狼煙が上がり、セシリアのブルー・ティアーズに搭載されていたビットが解き放たれた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ――乱戦。

 二機の戦場をどう称すれば良いかと問われれば、こう称すべきだろう、とハルは思った。アリーナを縦横無尽に駆けめぐるビット達はシャルロットのラファール・アンフィニィに喰らいつかんと迫る。

 開戦からシャルロットは防戦一方だ。セシリアの操るブルー・ティアーズのビットはシャルロットの逃げ道を潰すかのようにシャルロットを蹂躙していく。今のところ、シャルロットが被弾していないのはラファール・アンフィニィの即応性に助けられての事だ。

 だが、とハルは目を細める。セシリア・オルコットの駆るブルー・ティアーズ。彼女の操るビットの追尾が並ではない。執拗に獲物を狙う猟犬の如くシャルロットに追従する様はどこか執念じみたものを感じる、と。

 

 

「シャルロットがアンフィニィで攻勢に出られないなんて……」

「アンフィニィの持ち味が完全に殺されてるな。それにセシリア・オルコット、完全にビットを扱いこなしている」

 

 

 クロエが悔しげに歯を噛む。自分が手掛けた機体が半ば完封されている状態が悔しいのはわかるが、ラウラが称賛する通りセシリアのビットの制御も見事だ。シャルロットも反撃でビットを撃墜しようとしているが見事に回避している。

 

 

「……確かに凄いんだけどさ」

「あら? 一夏も気付いた?」

「あぁ。……セシリアの奴、ほとんど動いてねぇな」

 

 

 セシリアは滞空した状態だ。時折、位置取りを変えるだけでほぼ動いていない。それだけビットによる攻撃が苛烈だと言う証拠でもあるが、一夏はそれが鍵なんじゃないか、と考えた。

 

 

「ビットってどう見たって制御に苦労しそうだろ? あれって動かしてる時は自分が動けないんじゃないかな?」

「だからこそのビットによる苛烈な攻撃か?」

 

 

 うぅむ、と一夏と箒が互いの意見に唸っている。だがその意見を真っ向から否定したのはラウラだった。

 

 

「いや、違うな。動けないんじゃない。動かないんだ」

「え?」

「シャルロットが動いたぞ。答えならすぐ見られるさ」

 

 

 ラウラの言葉に再びアリーナへと目を向ければ、シャルロットは両手にハンドガンタイプの銃剣を握りしめてビットを近づけさせまいと乱射しながら次第にセシリアへと距離を詰めていく。

セシリアは笑みを以てシャルロットを迎え入れる。シャルロットがビットの包囲を潜り抜け、セシリアにハンドガンを向けるのと同時にセシリアもまた瞬時に量子化から復元したハンドガンを握り、シャルロットへ向ける。

 互いの銃弾が交差する。シャルロットが放った実弾はセシリアに当たらず、またセシリアが放ったレーザーもシャルロットには当たらない。互いに直線上に向かい合いながら円を描いて距離を取る。

 

 

「ハンドガンタイプのレーザー兵器……! そんなものまで……!!」

「フフフ……! 行きますわよ、姫君!! 我が行進曲、阻めるならば阻んで見せなさい!!」

 

 

 シャルロットと同じようにレーザーハンドガンを2丁構え、セシリアはシャルロットへと突撃する。セシリアに付き従うビット達がセシリアへと追従し、そして散会する。

 先ほどの蹂躙とは異なる統率された動きを以てセシリアの動きを援護するビットはシャルロットを大いに苦しめる。セシリアが距離を詰めながら旋回し、シャルロットを包囲するようにレーザーの銃弾が放たれ続ける。

 

 

「……圧倒的だな」

「一対一であればビットの制圧能力がここまで機能するか。厄介な」

「見事な制御能力ですね。……シャルロットから聞いていた話を込みでどれだけ制御精度を上げたかは不明ですが、それを引いても」

「あぁ、セシリアは強い」

 

 

 ハルが思わず呟く。シャルロットの動きがまるで制限されている戦場は厳しくも見える。事実、シャルロットの顔には苦悶が浮かんでいるように見えた。

 だが、とラウラは呟く。

 

 

「あれだけ暴れてエネルギーが持つのか?」

「……成る程。それは確かに」

「エネルギー切れが先か、攻めきられるのかが先か……どちらかか」

 

 

 未だレーザーの雨が降り注ぐアリーナへと視線を向け、ラウラは静かに呟いた。

 ラウラが呟いている頃、シャルロットも同じ結論に至ったのか盾を駆使してセシリアの攻撃を回避する事に専念していた。シャルロットの頬から汗が滴り落ちる。セシリアのレーザーの豪雨とも言うべき攻撃を回避し続けるのは至難の業だからだ。

 

 

「チッ……! 破棄ッ!!」

 

 

 使い物にならなくなったシールドを投げ捨てて再び両手に取り回しの良いハンドガンタイプの銃剣を握る。背を前にして迫り来るビット達へと弾幕を張るように乱射する。

 これ以上の機動力・即応力の損失は撃墜へまっしぐらだ。ラファール・アンフィニィの持ち味を悉く殺しにかかってるセシリアの執念にシャルロットは舌を巻くしかない。

 

 

「フフフ……やはり貴方は強いですわね。シャルロットさん」

 

 

 だが、不意に攻勢の手が緩む。ビットがセシリアの下へと舞い戻り、本機へと接続される。だがセシリアも油断無くシャルロットにレーザーハンドガンの銃口を向けていて、二人の間に一時の硬直と沈黙が生まれる。

 

 

「貴方の考えている事がわかってましてよ? これだけ撃っていればいずれエネルギー切れになる、と。えぇ、推測の通りですわ。このブルー・ティアーズType.Rの燃費は改良前よりも悪くなっていますので」

「……それをわざわざ伝えるのはどうしてかな?」

「――そんな幕切れをこのセシリア・オルコットが望むとでも?」

 

 

 シャルロットよりも高い位置から睥睨するセシリア。そしてシャルロットは気付く。セシリアの纏うブルー・ティアーズ、蒼が美しい装甲に赤いラインが浮かび上がっていくのを。同時にセシリアの姿が揺らめく。まるで陽炎のように。

 

 

「何……!?」

「機体は充分に暖まりましたわ。後の事なんて考えませんわ。今は、この手に掴む栄光が全て――ッ!!」

 

 

 機体の全身、そしてビットにまで赤いラインが引かれていく。セシリアの周囲が揺らめくのはセシリアの機体が高熱を発し始めたからだ。セシリアの額にも汗が浮かぶ、だがそれでも鬼気としてシャルロットを睨む彼女の闘志は揺るがない。

 

 

「ティアーズ・リミットブレイク……!! “ティアーズ・ザ・ブラッド”!!」

 

 

 再び機体から解き放たれたビットが空を舞う。高熱を放つビットはその先端に赤熱化した刃を備えていた。まるでそれは全身から血を吹き出すように赤熱化した赤き光を纏ったセシリアはシャルロットを睨み、気炎を上げながら吠えた。

 

 

「――墜ちなさい!! 我が血涙の果てが力!! 受け止められるものならば止めてみせなさい!!」

 

 

 セシリアが突撃する。だが先ほどとは比較にならない程の速度を以てシャルロットへと迫る。同時にビット達もシャルロットの周りを旋回し、シャルロットへと食らいつかんと迫る。

 シャルロットが構えたハンドガンを己のレーザーハンドガンと銃口を合わせて発射。互いの武装を失いながらも後退する中、シャルロットは目を見開いて叫ぶ。

 

 

「無茶苦茶なッ!?」

「無茶は承知ッ!!」

 

 

 後退するシャルロットの周囲をレーザーを放ちながら、我が身を省みずに突撃してくるビットにラファール・アンフィニィのシールドバリアーが引き裂かれていく。獲物に集る肉食獣のようにビットはシャルロットへと食らいつく。

シャルロットが食らい付かれる衝撃に悲鳴を上げながらも離脱する。しかしセシリアは逃さない。装甲から発せられる熱が意識を朦朧とさせようとするも、歯を食いしばってシャルロットを睨む。

 

 

「ここで無茶をしなくて、いつ貴方を墜とせるものか――ッ!!」

 

 

 セシリアの咆哮にシャルロットは歯を噛みしめ、何かを決意したようにセシリアを睨んで量子化から復元したソレを叩き付けた。地面に叩き付けたそれはスモーク。一気にアリーナを包んでいく煙にセシリアは舌打ちを零す。

 

 

「吹き飛ばしなさい! ティアーズ!!」

 

 

 セシリアの指示を受けたビット達がレーザーを吐き出しながら飛び回り、煙を吹き飛ばしていく。しかしスモークの中にシャルロットのラファール・アンフィニィの姿はない。どこに、とセシリアが視線を這わせた先に探し求めていた姿があった。

 

 

「……ッ!? 馬鹿なッ!?」

 

 

 セシリアが驚愕したのは探し求めていた姿が先ほどと大きく変貌していたからだ。両肩から伸びる大型のカノン。全身に纏う装甲は先ほどよりも重厚。細身の姿からまるで変わってしまった姿にセシリアは困惑する。

 

 

「重砲戦パッケージ“ファシェ・トネール”……!! 換装、完了!!!」

「戦闘中にパッケージ換装ですって!? 出鱈目を!!」

 

 

 ビットを差し向けるも、重厚な装甲、そして肩部に装備されたエネルギー・シールドによって阻まれてしまう。次第に光を集めていく両肩から伸びる砲にセシリアは恐れを抱き、しかしシャルロットを睨み返しながら量子化していた武器を復元する。

 それは巨大な砲だった。収束大型レーザーカノン“メテオブレイカー”。ブルー・ティアーズが誇る最大火力の砲が今、晒される。

 セシリアは砲を掴み挙げ、ブルー・ティアーズとの接続を手早く済ませる。砲にもまた赤熱した赤きラインが引かれていき、砲口に光が灯っていく。凝縮と増幅を繰り返す光は今にも破裂しそうな勢いだ。

 

 

「ビットで崩せぬならば……真っ向勝負!!」

「……ッ、行くよ、セシリアさんッ!!」

「ッ……!! ふっ……フフフッ! えぇ!!」

 

 

 真っ直ぐに見つめながら勝負に乗ったシャルロットの顔にセシリアは目を見開き、しかし笑みを浮かべて返す。互いの砲に溜まったエネルギーは充分。そして引き金を引くタイミングも同時――ッ!!

 

 

「最大出力、持って行けッ!!」

「メテオブレイカー、マキシマムシュートッ!!」

 

 

 怒れる雷と降り注ぐ星光が爆ぜる。互いに放たれた光はぶつかり合い、そして弾けるよう轟音と共にアリーナを包み込んだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

(――ぅ……ぁ……?)

 

 

 意識が重たい。熱によって朦朧とした意識はどこまでもぼんやりとしていてはっきりと物事を認識出来ない。排熱の為に煙を噴き、冷却を行おうとしている愛機の音が聞こえる。次第に冷めていく熱の中、指一本も動かせない。

 勝敗はどうなったのか。ブルー・ティアーズは無事なのか。知ろうとしても意識がただ漂うのみで、掠れたように唇が震えて掠れた声しか出ない。なんて無様、内心で自らを笑ってみせる。

 まるで優雅でもない。ただ無我夢中でシャルロットを倒さんと挑み掛かった。半ば機体を暴走させるような手段を使ったとしても勝ちたかった。その結果が勝敗もわからず、ただ朦朧として膝を付くのみ。

 

 

「――セシリアさんッ!!」

 

 

 声が、聞こえた。

 自分を案ずるような声が。憎くて仕方がなかった声が朦朧とした意識の中で響いていく。

 

 

(……やっぱり、無様ですわね)

 

 

 ISバトルの勝敗などもうどうでも良かった。力は出し切った。その果てに――自分すら気遣ってくる馬鹿な子がいる。それだけでもう勝敗は決した。

 

 

(私の、負けですわね)

 

 

 ――ごめんなさい、ブルー・ティアーズ。無理をさせたのに。

 

 

 だが、悪くないと思えた。あんなに憎かった筈の笑顔が真っ直ぐで、噛み付いていた自分が馬鹿らしくなってしまった。栄華と言いながら、ただ自分は悔しさを晴らしたかっただけなのだ。自身を見下したあの瞳を見返したかった。

 それは叶った。最後の真っ直ぐな瞳との視線の交錯。あぁ、自分を見ている、と。ならば充分な成果だ。こうして力を出し切れる事は良いことだと笑った。今までにない充足感に満たされながら、セシリアは目を伏せて意識を投げ出した。

 

 

 

 

 




「勝っても、負けても。どちらでも得るものがあるのですよ。それが勝負というものです」by白式

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