Warcry boys―――われら、平穏なる夜明けを見んために   作:懲罰部隊員

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今回はカラオケ編です。

選曲がオッサン・おばさんホイホイな気がしますが。


第五話 雨のリグレット

 

 

 そうだ、カラオケ、行こう。

 ゴールデンウィーク直前のある日、恒一は男子たちの前でひとり呟いた。

 「いいなそれ!行こうぜサカキ!」

 勅使河原が真っ先に食いついた。

 「俺も!」「俺も参加するぜ」「行かせてもらおうか」「あしも(松山言葉であるから猿田だろう)」「おいらも」「俺様も」「吾輩も」「ミーも」

 「いや、そこで無駄に個性を出そうとしなくていいから」

 …結果としてクラスの男子メンバーのほとんどが参加することになった

 「ドキッ☆男だらけの♂カラオケ大会」

 はゴールデンウィーク初日に決行されることとなった。さらにこれに食いついた連中がいた。

 

 

 「カラオケ?自分たちも参加していいのか?」

 名越雄一郎は水野猛に懐疑的な目を向けた。名越はあの蓮見の担当していた晨光学院高校の一年二組の学生である。水野は彼と友人であった。また、前島学のいとこである雅彦も蓮見の教え子の一人であった。

 蓮見がエドマンドたちの硬化プラスチック弾&ペイント弾射撃を浴び、小狼に金玉をつぶされた上で拷問大好きな首都警察機構にしょっ引かれてから早一週間。速水の死に様を報告するためエドマンドたちが晨光の生徒たちと交流を持つようになった。英国系移民の家庭であるから、家ではもちろんキングスイングリッシュを使っているエドマンドに興味を示した名越はためしにエドマンドと話してみたが、彼は話してみて実に気持ちの良い男であった。そこに蓮見と同じところを見てしまい顔をしかめてしまった名越にエドマンドは

 「はっきり言っておく。俺は汚い人間だ。なにせ蒸発してしまった彼女のことを執念深く追っかけてるからな」

 と自分から語った。蓮見は徹底的に自分の汚さというものを見せない人間であった。名越は思わず息をのんだ。こいつは信用に足る人間なのか?そう思って恐る恐る口を開く。

 「しかし、ペベンシーくん。どうも俺は…その、あの事件以降あまり初対面の人とは」

 「うーん。それはあるな、じゃあ今度おれたちとみんなでどこかに繰り出せばいいじゃないか」

 なんでそうなる?斜め上の発想に名越は面食らった。とりあえずアドレスを交換したその夜にはエドマンドからメールが飛んできた。

 

 

 「from:エドマンド・ペベンシー

  to:名越雄一郎

 

  おっつ!初めてメールしたよ♪

  これから時々変なメール送っちゃったりするかもね☆

  んじゃもう寝るねー。お休み♥」

 

 

 「絵文字多すぎだろ!なんだよこれ!男子相手に絵文字使わないやつが無駄に気合い入れて女子に送ったデコメじゃねえか!ネカマ、いやメルカマかよ、キモッ!」

 名越は夜九時であることを忘れて壁をけ飛ばしたのである。もちろん、まだ起きていた両親に怒られたのは言うまでもないことである。

 

 

 とりあえず、面白そうではあるし、エドマンドはじめ新日高の連中を見極めてやろうと考えた名越はクラスの男子にもメールを送り、参加してみるかどうか尋ねた。反応はかなりあった。だが名越は「新日暮里高校1-3とカラオケ行くんだけど」という内容は送ったが、参加するのは男子だけというのを伝えていなかった。

 

 

 結果として

 「うおおおお!あの美人だらけのクラスか!こいつは滾ってきたぜ!参加ノ」

 「股座がいきり立つぜ!参加します」

 「俺の非リア充人生があしたで終わるな…参加するよ!」

 …飢えている連中が参加を表明した。驚くべきことに、一年三組は女子にかわいい子が多いという評判が他校にまで伝わっていた。

 後に名越はこう述懐する。

 「あのメール。まさに『非リア充ホイホイ』だった」

 

 

 そんなこんなで市内のカラオケ店「WADAX」。

 名越、蓼沼将大、などなど晨光の男子がコンビニで買った缶コーヒーやらハイスクール炭酸「マ〇チ」やらを手にたむろしていた。

 「やったな。これで俺たち勝ち組!」

 「だな。仮にフラグ立たなくても一生モノの思い出だわ」

 異常にギラギラしている同級生たちを見回しながら名越は

 (野郎しか来ないって知ったら俺どうなるんだろ)

 と思いながら缶コーヒーをちびちびやっていた。妙に甘ったるく感じた。雅彦は来なかった。というのも彼は美術部の顧問である久米教諭とアッーーー!な仲であったからである。

 (あいつ、僕は久米先生以外の男にオス臭さを感じられない男なんだよ、とか言ってやがったな。畜生、MEZMめ、肛門裂傷にでもなっちまえ)

 八つ当たり状態の名越はうつろな目で駅の方を見つめた。すると一群の男子がぞろぞろとやってきた。オーラが違う。あいつか。あいつらか!そして俺の人生、オワタ!ああ畜生、蓮見はタマ〇ンつぶされて首都警の拷問ルームでDeep♂Dark♂Fantasyな状態になったというのに、ここで俺は死ぬのか!ただ「カラオケには女子は来ない」というメールを打たなかったがゆえに!すまん速水、俺は思ったより早くお前とヴァルハラで再会しそうだ。こうなるくらいなら片桐に告っときゃよかった!ガッデム!

 

 

 名越が悲壮な決意を固めつつある中、ついに二つのグループは接触した。少年たちの視線が交錯する。

 (こいつらは信頼できるのか?)

 (同級生の女子を助けて交際するとか、うらやましい奴がいるらしいがどいつだ!)

 (ウホッ♂イイ男ばっかり)

 

 

 沈黙を破ったのは一年三組の猿田昇だった。

 「すまんがのぉ、女子はどこにいるぞな?」

 「おらん。そっちこそ、女子はどこに行った?」

 晨光一年二組のサッカー部、有馬透がつっけんどんに答えた。まさに大喧嘩寸前。かに見えたが…。

 

 

 「なぁ~ごぉ~しィィィィ!」

 四十人近い野郎どものドスの利いたシャウト。殺ったらんかィィィ!てめぇ嘘つきやがって!ヴァルハラで速水と再会させてやるぞ!可及的速やかに!と名越に寄ってたかって襲い掛かり、殴る蹴るの一大リンチが始まった。

 「ウギャアアア!一対四十?これってフェアじゃないよね?フェアじゃないよね!」

 苦しい声で名越が漏らすが、高林郁夫は彼を許さなかった。体が弱いとは思えない力で名越の腹に蹴りを叩きこむ。

 「僕のセリフ盗るんじゃねェェェ!」

 

 

 5分ほど名越に対する制裁が続いたが、ようやく王子誠が

 「ここで体力消耗したらさ、歌えないよね」

 と正論を述べたことで惨劇は幕を閉じた。もっとも、王子も名越フルボッコフェスタに参加していたのだが。

 

 

 早い話、一年三組の野郎ども(ことにRSS団)も「女子の顔面偏差値が高い」と言われている晨光一年四組に一方ならぬ興味を示していたのだ。

 

 

 さっそく大部屋を借り、曲を入れる。小狼が一番だった。

 えらくノリのいい前奏が流れ、曲名が出る。

 「英雄故事」

 歌詞が広東語であったため、一同唖然である。だが、ノリがよく、パワフルな曲であるため蓼沼や水野が

 「♪トン・チン・ハゥー♪チンボゥ・ダッサウ・チンニョウ・チンサンチィー」

 とサビの部分で唱和していた。

 

 

 小狼が香港国際警察な歌を披露したところで蓼沼と晨光軽音楽部の泉哲也が二曲目を歌う。

 「♪ラスベリィィィドゥリィィィイィィィム♪口元からoh please,please」

 「RASPBERRY DREAM」。蓼沼も泉と同じバンドに所属しているそうで、息はピッタリである。…しかし、選曲ミスで、おまけに蓼沼の声が低すぎて原曲のキーを歌い切れていないのであった。泉の高音と蓼沼の低音のハモりがきれいだったが、原曲レイプとしか言いようのない仕上がりになってしまった。

 

 

 王子と猿田は何を考えたのか「turn it into love」。「愛が止まらない」という名で有名な曲だ。キーを落として歌っていたが、王子が某デーモン閣下のような声で歌っていたため

 「やべえ、蝋人形にされちゃうよ俺」

 「くそ、原作と違った形とはいえ死ぬのか俺」

 など数名がビビッていた。

 

 

 さて、和久である。彼はどうしたものかな、俺はカラオケとかあんまりいかないしな…と言いながらも曲の予約を入れた。

 「君だけを守りたい」

 画面に予約表示が出たとき、新日暮里1-3の男子たちはニヤニヤが止まらなくなった。

 「わーくくぅーん。君は誰を守りたいのかなぁー?」

 「爆発しようねぇ♪」

 そう言われながらも和久は野郎の汗と手垢に塗れたマイクを握りしめた。

 「♪誰ーよりもー何よりーもー 君ーだけをー守りたーいー」

 確かに美声ではなかった。しかし、その迫力に皆気圧されていた。こいつは本物だ。本物のリア充だ。

 「あんな和久に愛される多々良さんは幸せぞな」

 猿田が漏らした。王子がその肩を叩く。

 「大丈夫だ、まだ僕がいるさ」

 (どうゆうことなの…) 

 シンジの背が少し寒くなった。僕も彼に尻を向けていたら危ないかもな、と思いながらジュースでのどを潤した。

 

 

 名越の歌った曲は渋かった。彼は演歌が好きだったのだ。

 「契り」

 「♪あいーするぅーひとよぉぉぉー うつぅーくぅーしくぅぅー」

 上手だった。しかし、曲が曲だけに、メンツがメンツだけに、「どう考えても死亡フラグしかない」状況だった。

 結果として第二次名越フルボッコフェスタが開催されたのであった。

 「え?ナニコレ?ナニコレ…うっぎゃあぁぁぁぁ!」

 

 泉と蓼沼はリベンジとばかりに「once&forever」を熱唱。この熱い曲が好きな連中が多かったらしく、部屋は一気にヒートアップした。みんな汗でびっしょりになっており、上半身裸になっている奴までいる。カラオケ店のエアコンは時折効きが悪いのだ。

 「♪ふけっばとぶよなー はっかないゆーめーにー かけたいのーちわらわばわーらえー!」

 蓼沼も今回は喉も裂けよとばかりに高音を振り絞る。

 「♪さまようたっまーしいがー うかびぃあがるワンッサンフォーエバー…」

 「「「「「抱いて貫けぇぇぇぇぇ!」」」」」

 四十人余りの熱い熱いシャウトがさく裂した。

 

 

 望月はというと

 オメガトライブの「REIKO」をチョイスした。はっきり言って曲名だけで選んだ感が否めない(この曲は実在するが、カラオケにはまだ登録されてない)。

 しかしまあ、彼の声域は広く、無理なく歌えていた。また、サビの

 「♪男は狩りに出るよ 女の森へ 女は魚になる 男の海で」

 という歌詞が色ボケ気味な晨光ボーイズとエドマンドグループの野郎どものハートを打ったらしい。

 「いい歌詞じゃないか…」

 「今度ip●dに入れておこう」

 

 

 水野は本当に何を考えていたのか、

 「遥かな轍」を歌っていた。いくらなんでもしぶすぎるチョイスだ。

 「♪せーめってー きえーなーいー わっだちをーのこーそうーかー」

 「ははは、お前幾つだよw」

 そう言われた水野は鼻を鳴らして言い返す。

 「いや、お前らも選曲がオッサンホイホイだろ」

 

 

 そしてエドマンドの出番がやってきた。こいつ何を歌うんだろうな。恒一は甘ったるいアイスコーヒーを喉に流し込みながら曲を選ぶエドマンドの後姿を見つめていた。

 曲名を見て一同首をひねる。

 「雨のリグレット」

 「古いな…作者幾つだよ」

 どう考えても懐メロである。

 「♪Why,oh why. 時を隔てた今 なぜ心は乱れる years a go 背中向けた恋に なぜむせび泣くの…」

 切ない歌詞、そして哀愁を帯びた声が無駄にマッチしていた。

 (ああ、こいつ、失恋を今も引きずってるなぁ…)

 「♪雨の 町は暗い海 記憶の船 運んでいく…」

 歌い続けるエドマンドの脳裏に去来するは数か月前の記憶。

 

 

 

 「ごめんね、エド君。もう会えなくなっちゃった」

 高町なのははエドマンドに対し、うつむき加減で声を漏らした。

 「…唐突だな」

 わかっていた。彼女が高校進学を決意していないということ、そしてどこかへ単身引っ越すということ。家族は固く口を閉ざしていた。

 しかし、そうであっても知りたかった。

 「教えてくれるか。どうして行かなくてはならないのか、何をするのか」

 なのはは首を小さく振った。

 「言えない…。今は言えない…」

 少年の体は怒りに打ち震えていた。なぜこうもつれない態度をとるのか。言えないようなこと?まさか。

 「時々いなくなっていたことにかかわりがあるのか。11の時の大けがと関係があるのか?」

 なのはは黙っている。それをエドマンドは肯定ととらえた。

 「そうか。…誰かに話したのか?」

 「フェイトちゃんとはやてちゃんに話したよ」

 あいつらはなのはと何らかの秘密を共有している。つまり、実質的に話していないも一緒である。

 エドマンドは固く拳を握りしめた。爪が掌に食い込み、かみしめた唇に血がにじむ。

 「本当に、なのははそれを望んでいるのか」

 「たぶん…」

 「確信もないのに、すべてを投げ捨てるのか!」

 「何にも確信を持てないエド君に、何も言われたくないよ!」

 なのはは声を張り上げた。

 「…わかった。それなら行け。…お前がそれを、望むのならな」

 

 

 「言わなけりゃよかった…」

 歌い終わった後、重い溜息を地面に落としながらエドマンドは後悔していた。 

 言いたくもないことを言ってしまったあの時。数か月たった今でも思い出すたび押しつぶされそうだ。あのゆかいな仲間たち(その数は今後も増えるかもしれない)のおかげで表には出さずに来たが、内心はどこかささくれ立っている。彼女の顔はあの時、何かをこらえているようだった。あの時何かを言いたかったのではないか?言ってはいけない何かがあったのか?強制されていたのか?やはり11歳の時の大けがの時と同じように、「何かによって」真実を隠されているのか?あの時も負傷理由がぼかされていた。やっぱり、何かあるのだ。

 ―――彼女は、奪われたのだ!

 エドマンドの心の中で疑念が確信へと変わっていった。




名越君の演歌好きは「悪の教典」どおりです。


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