Warcry boys―――われら、平穏なる夜明けを見んために   作:懲罰部隊員

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今回は若干シリアスが入ってきます。


第三話 Carry on

 森の中を三組男子は黙々と進んでいた。いつの間にやら顔面を緑の顔料で塗ったくり、銃剣(ただしダミーナイフ)には反射を恐れて墨が塗られている。よくまあ素人がこれだけやれたものだ。

 実はというと彼らがアメリカ海兵隊風基礎訓練をやったのはほんのわずかであり、あとは実戦訓練であった。

 ケンスケは素人は基礎訓練をなるだけ削って実戦訓練を強化したほうがよいと考えていたのだ。何のことはない、ナチスドイツの武装親衛隊第12SS装甲師団「ヒトラーユーゲント」の方式を丸パクリしたのだ。

 

 彼らはまず二組を掃討することを決意、彼らが陣地を設営している所へゆっくりと忍び寄っていたのだ。

 また、李小狼を分隊長として各分隊から健脚の者を引き抜いて強行偵察班を編成し、彼らがブービートラップを排除しつつ距離を詰めていった。

 小狼の配下には「逃げの功」と言われた加古、サッカー部の和久隆、川堀健蔵などが配置されている。共同訓練も行い、意思疎通にも不自由しない。小狼は加古から無線機を渡されると発信し、小隊本部へと連絡を送る。

 

 

 「牙狼1より本管、敵は装具を解きつつあり。臨戦一個分隊、他は陣地設営中、送れ」

 「本管より牙狼1、攻撃用意。かねての計画通り、敵を引きずり回せ。二分のちに本隊は到着予定、それまで粘れ、送れ」

 「牙狼1了解。これより戦闘に入る」

 

 

 小狼はため息をつくと無線機を切った。川堀が言う。

 「どうだった?特科の支援は期待できるか?」 

 バカ言っちゃあいかんよ、と小狼。我々は陣地防御戦闘は想定していないからな。あくまでも強襲戦闘部隊だ。陣地を設営せず山岳機動してきたのに、どうして重火器なんぞ持ってこれる。あるとしても軽機か擲弾筒くらいだ。

 「そうだろう。わかったかガチ堀」

 いや、ちょっと待て、と川堀が突っ込む。俺は言っとくがノンケだ。

 「え?じゃ、気になる人がいるとでも?」

 和久が面白そうな顔をしている。彼も川堀がホモだと思い込んでいたらしい。真っ赤になって黙り込む川堀。それを見た小狼が止めに入った。

 「ほらほら、遊んでないで行くぞ」

 

 

 

 二組の歩哨が大あくびした瞬間、彼の顔面にペイント弾がさく裂した。見事なヘッドショットだ。

 「うわあっ?」

 あわてて駆け付けたほかの歩哨たちに対し、小狼がトリガーを絞る。連射はしない。川堀、過去、和久らも単射で射撃を加える。しかも場所を移動しながら撃っているので敵に数を悟られにくい。

 「敵襲ー!」

 「敵の数はどれくらいだ!」

 「わからん!あっちこっちから狙撃されている…(ベシャ)ひぎっ。…ごめん俺脱落だわ」

 

 

 

 「よし、頃合いだな。お前ら、ケツをまくるぞ!」

 「合点承知!」

 小狼たちは狙撃をある程度終えると敵にばらばらと連射をかけながら全力で逃走を開始した。

 「いたぞ。追えー!」

 二組の残存兵力が必死に追ってくる。突然、彼らは開けたところに出た。獲物の前に煌くは多数の銃口。罠は完成した。

 

 

 

 「よく我慢した。狩りの時間だ!思う存分撃て!」

 「カクカク、全兵器使用自由(オールウェポンズフリー)!」

 エドマンドは敵を半包囲する形で待ち伏せていた仲間たちに、射撃開始を指示した。いつの間にか組み立てられていた擲弾筒や軽機関銃も射撃に加わる。

 「戦場は地獄だぜ!ヒャアッハァー!」

 「サーチアンド・デストロォォォイ!」

 (現象より怖いよ…)

 なぜか妙にハイになってしまっているほかの奴らを煙たがりながらも恒一は引き金を絞った。

 「目標をセンターに入れて…スイッチ」

 シンジは愛用の狙撃型M14でもってめぼしい敵を狙撃していく。

 「これひでぇ!」「鬼畜だ!」

 捨て台詞を吐きながら死亡判定を受けていく二組男子。そして、一方的な戦闘は終了した。

 

 

 「勝ったな」

 敵の重火器を鹵獲したエドマンドたちは残る一組、通称ドラゴン小隊を叩きに行くことになった。今度の敵は精鋭らしい。少なくとも簡単なおとりに乗せられて壊滅するようなことはない。

 「しかし、エド、いい作戦だったよな」

 勅使河原がレーションの中身を口に押し込みながら風見に言う。ああ、と風見は硝煙にまみれた眼鏡をぬぐいながら答える。風見は考えていた。

 (奴の力量、そしてカリスマ…あのペベンシーなら、「現象」がやってこようがBETAが攻めてこようが、俺たちを生き残らせてくれるかもしれん)

 

 

 「各分隊点呼。これより一組策源地にたいし攻撃を敢行する。各分隊長は直ちに小隊本部に集合せよ」

 分隊指揮班にいたダイチこと矢村大一がそう告げて回った。第一分隊「火龍(フォイエルドラグーン)」分隊長の恒一、第二分隊「牙狼(ローンウルフ)」分隊長の小狼、第三分隊「剣虎(サーベルタイガース)」分隊長の宇白順がエドマンドの下に集まった。

 「奇襲?」

 恒一が怪訝な顔をした。いや、奇襲は普通なのだ。だが、エドマンドの発言は一同を唖然とさせた。

 「銃剣突撃だ」

 「無理だろ」

 宇白がバッサリ切って捨てた。彼はエドマンドをあまり高く評価していなかったのだ。

 「無理だろうか?確かに銃剣突撃は無謀だ。だが、それは敵味方の火力が不均衡の時であって、彼我の火力が同等の時には、敵を潰走させ得る有効な戦法であるのだ。要はそれを使いこなす奴の頭しだいさね」

 エドマンドはコツコツと自分の側頭部を叩いた。宇白はふむ、と言って黙り込んだ。エドマンドが突然真剣な表情になって言う。

 「わかってくれ宇白。俺は一人も犠牲にはしたくない。それが…クラスの指揮官としてではなく、一人の男としての俺の責務だと思っている」

 「ペベンシー。それが、この戦術が、俺たちを守れると、本当に信じているのだな?」

 宇白は問うた。確かに、ふざけで言っているようには見えなかった。目にはなぜか哀愁が漂っているようにも見える。

 「うん、そうだ。…守れなかった人のためにも、な」

 「いや、それなら文句はない。思う存分やらせてもらう」

 聞いてはいけないことを聞いてしまったようだな。宇白はそう思って黙り込んだ。守れなかった人、か。一体お前は、誰を守りたかったのだ?そして、俺たちクラスの仲間を守ることが、その贖罪だと考えているのか?

 

 

 「守りたいもの、か」

 小狼は自分の分隊を連れていち早く動き出していた。それをはっきりと認識し、そうやって見栄を張れる奴は幸せなんだろう、と思っていた。エドマンドとは古くからの付き合いである彼には解っていた。いつも快活にふるまっているあの友人は、内心に強烈な自己嫌悪と、後悔の念を抱いている。奴は自らを破滅的思考に陥らせないために

 「仲間たちを守り抜く」

 というところに自らの存在意義を無理やり見出した。そう考えていいだろう。だが、そのままでいいのだろうか。そのうちそれにも限界が来る。エドマンドはいつか精神的に押しつぶされてしまうぞ…。

 「どうした?」

 川堀が小狼の顔を覗き込んだ。

 「いや、なんでもない」

 

 

 小狼の分隊が敵に静かに近寄り、そしてひそかに迫撃砲を組み立て始めた。その間中も小狼はずっと考えていた。

 「俺は、誰を守れるだろうか」

 口をついて出た言葉。手を止めずに作業していたが、空気は一瞬緊張をはらんだ。和久が、川堀が、加古が…一部の連中がはっ、と息を呑んだように思われたからだ。

 「だれも、守れないまま死ぬのって、辛いよな」

 加古が、一言一言かみしめるように呟いた。

 「辛いな」

 川堀がポツリと言った。いつもの彼らしからぬ、力のない声だった。




風見や川堀、カコはどうやら「前」の記憶を持っているようですが…
原作ネタバレになりそうですね。

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