Warcry boys―――われら、平穏なる夜明けを見んために 作:懲罰部隊員
今回のOP:織田哲郎「炎のさだめ」
今回のED:影山ヒロノブ「翼」
入学して一週間、一年三組のメンバーは少しずつではあるがクラスメンバーの顔と名前を一致させ始めていた。そんな中ある宿泊行事が行われることになった。
「新入生集団行動合宿」である。たいていの高校は炎天下の下で延々と解散集合をやらせるが、新日暮里高校は男子に対して妙な行動を課していた。
「クラス対抗サバゲー?」
中学時代はサッカー部だったという和久隆が驚いた声を上げた。夜見山出身者の一人である勅使河原直哉が「そうらしい」と首を振る。
「女子は何をするのやら」
「クソオ。俺たちの心のファインダーには女子の姿を映せんというのか!ちくしょー」
エドマンドと何となく親しくなった一人である榊原恒一が教室に張り出されていたその内容を見る。
「どうも合宿所の裏山は陸軍の海鳴駐屯地の旧演習場跡地らしいよ。それで、各クラスの男子は学級委員を小隊長にして各小隊で対抗、最後まで生き残ったチームが優勝みたいだね。使用弾丸は水性ペイント弾、開戦は0800、戦闘終了時間は1700、だってね」
男子一同はふーん、とやや薄い反応をした、が…。
「なんだと!小隊長は無作為決定?ペベンシーのやつが」
そう言ってこの男たちはエドマンドの方を見た。
「お前かよ、小隊長…」
早弁していたエドマンドは口に大量の物を押し込んだ状態で「え?」と振り向いた。
(リスみたいだ…///)
(くっ、どうしてよ。母性本能が…)
一応はエドマンドも紅顔の美少年と評される容貌の持ち主ではあったから、女性陣が数名胸キュン状態になっていたが、幸か不幸か、気づかれることはなかった。
「いいか○○○共!俺が今回貴様らの訓練指導官となった小隊先任軍曹の相田ケンスケだ。口で糞垂れる前にサーをつけろ」
「サー・イェッサー」
「ふざけるな!キ○○マ落としたか!」
「サー・イェッサー!」
放課後のグラウンドの一角。ずらっと整列した三組男子陣に、シンジとの古馴染みでもあるミリヲタの相田ケンスケが某海兵隊軍曹のごときマシンガントークを連発していた。、
「貴様らは厳しい俺を嫌う、だがそれを乗り越えたとき、貴様らは死の司祭となるのだ」
「サー・イェッサー!」
「俺は厳しいが公平だ、いじめは絶対に許さん。ウヨも、平和ボケも、絶倫も非リア充も、ショタもガチムチも俺は見下さん。すべて平等に価値がない!」
…とまあ、一人サバゲーが大好きなケンスケを教官に、一年三組男子一同はブートキャンプもどきを開始した。
「good for you!(お前に良し)」
「「「good for you!」」」
「good for me!(俺に良し)」
「「「good for me!」」」
「hum,good…(うん、よし)」
号令走も、確実に女子には聞かせたくないあの号令ランニングである。
そんなこんなで一週間後。新入生合宿が始まった。
「よーし、みんな、二日目のクラス対抗戦は体力を消耗する。だから今日は到着後、無理をしないように」
ミュラーがそう言って解散を告げた。一年三組の男子一同はありがとうございましたー、と頭を下げると一斉に走り出し、部屋へと戻った。部屋は割と広い和室であり、男性陣が全員車座になって座ってもまだ広々としていた。
明日の模擬戦、どうなることか。不安が立ち込める中、エドマンドが静かに口を開いた。
「諸君。俺たちは明朝、最大の戦闘に突入することとなる。私は小隊長として諸君に多くを望まん。唯一つ言うべきこと、それは全員生還だ」
「了解」
一同一斉に立ち上がり、エドマンドに対し挙手の敬礼をした(脱帽状態なので、本当ならば挙手の敬礼はしないのだが)。
翌朝、0730。朝焼けの中各クラスの男子は戦闘服に着替え、装備を受け取った。小隊長クラスの者はダミーナイフだけでなく指揮刀(模造刀)を帯びている。戦闘服は帝国陸軍の戦闘服に準拠しており、階級章もついている。
「お、エドのそれ、正宗じゃないか」
中学の時剣道部だったという前島学(夜見北出身)がエドマンドの受け取った指揮刀をまじまじと見つめる。
「よく解るな、しかし正宗とは妖刀、縁起が悪い」
「ま、うちのクラスは死亡フラグ立ちまくりだからね」
エドマンドは前島にデコピンを食らわした。アホウ、メタ発言はやめい。前島兵長、直ちに分隊に戻れ。はっ、前島帰ります。
軍人口調でしかめつらしく敬礼を交わす。
女子陣も見送りには来ている。
風見は桜木ゆかりから何か渡されている。
「風見君、あの、これ持って行ってください」
「…千人針?あ、ありがとう」
風見はふと視線を落とした。桜木ゆかりの手には絆創膏が貼られていたり、ガーゼが巻かれていたりした。
「大切にする」
ふと風見は言いようのない不安を覚えた。このまま離れ離れになるのでは?という切ない不安だった。
一方、こちらでは夜見山の出身ではない面々が装具を整えている。宇白順率いる第三分隊の面々であった。加古功はため息をつきながら銃の作動確認を行っていた。
「ちぇ、せっかくチズと同じ高校になれたってのに、何もできないままかよ」
「それはお前が積極的に動こうとしないからだ」
宇白のつれない返答に加古は口をゆがめた。そこまで言わなくてもいいのに、と言わんばかりである。
「ふん、どうせ俺は最低野郎だよ」
やけくそになった過去を第二分隊の望月優矢が慰めにかかった。
「ところで加古君、君の右肩は赤く塗らないのかい?」
「望月…貴様、塗りたいのか?」
「ははっ、冗談だよ」
最低野郎=ボトムズという略式が成り立つ人でなければ理解できないこのジョーク、どうやら加古は理解できない方だったらしい。それにしても望月がボトムズを知っているとは…人は見かけによらない。
各隊出撃準備、の合図がかかった。エドマンドは隊員一同を整列させると最後の訓辞を垂れた。
「俺からいうことはほとんどない。だが、俺は諸君が一騎当千の古強者であると確信している。諸君、私につき従う学級戦友諸君!諸君は何を望む。疾風雷火の限りを尽くし、三千世界の烏を殺す、嵐のような闘争を望むか?」
前の世界では国家の元首であっただけあってエドマンドの弁舌は冴えわたっていた。彼の非常に短い訓辞をうけた一年三組男性陣はまるでロンドンに殴り込みをかける武装親衛隊のような空気を発散する戦闘集団へと変貌していた。彼らの雄たけびが上がる。
「kreig! kreig! kreig!」
(…。どこの武装SSだよ)
他のクラスの男子は完全に引いていた。
かくて模擬戦闘の引き金はひかれた。
次回予告
ついに引かれる模擬戦の引き金!
エドマンド以下精鋭は死を決し虎口に飛び込む!そして最後の敵を打倒した時立ちはだかる最凶の敵!はたして彼らは全員生還を果たすことができるのか!
次回「ララバイ・オブ・ユー」
時代は少年たちに、何をさせようとしているのか。
今回もありがとうございました。