「まあ、最低限のレベルにはなったかな」
「……ありがとう、鍛えてくれて」
修学旅行を来週に控えた金曜日、ゼロによる百春の訓練は一段落迎えていた。
その段階とは百春の実力がある程度のレベルに到達する事。この二週間で百春の実力は飛躍的に上昇した。
ゼロのアドバイスを聞いて、その言葉を自分なりに噛み砕き、理解して行動していた。剣の振り方一つ取っても彼なりのモノになっている。
今の彼の戦い方は模造品ではなく、彼自身が作り上げたものになっている。
その事をゼロも密かに喜んでいた。決して表には出さない。それが兄のプライドだ。
「正直驚いているよ、お前がここまでやるようになるとは。まあ俺の教えが良いからだろうな。勿論
お前の努力も認めてはいるがな」
「兄さんは凄く面倒臭い性格をしている」
この二週間で二人はマトモに会話ができるようになった。互いに過去の事は聞いていない。今からの事を考えて会話している。
「自分でもわかるよ、ISの動きがだいぶ改善されている。二週間前とは大違いだ。これも兄さんの言うアメフトの練習をしたお陰かな…………でも極限状態にはなれなかった」
結局今回の特訓では百春は極限状態に自由になれるようにはならなかった。
この事に関してはゼロも何が足りないのかわからない。コレは百春とシロノの関係の問題であり、ゼロが口出す事はできない。
「あまり気にするな。お前はまだ声が聞こえていない……もし声が聞こえるようになったら、なれるようになるさ」
「ISの声……か。難しいね」
ISの声が聞こえない事に悩む百春、ゼロの経験から言うとISの声が聞こえた方が楽だ。操縦が何倍も楽になる。
「……そうだ百春、最後にアドバイスしとくよ」
「何?」
百春が聞き返すと、ゼロは少しだけ優しい笑みを浮かべ、直様真剣な顔つきになった。
その顔は百春が今まで見てきた兄、一夏の顔の中で最も真剣な顔だった。
心の底から百春の事を思って、言葉出そうとしている。
百春の身体にも無意識のうちに力が入る。
「百春、お前は憎しみや怒りで戦うな。もし人を殺す事になっても、己の意思で行え。自分の決意を他人に依存させるな。ソレを怠ってしまったなら、お前はお前ではなくなってしまう」
「…………兄さんはソレをしたの?」
恐る恐る百春は尋ねた。
「俺の戦いはお前とは違う。俺の戦いは殺意や憎しみに塗れた戦いだ。お前のように守るためじゃなく、倒すために戦っている。俺はお前に言ってるんだ。俺に言ってるんじゃない」
ゼロはハハッと乾いた笑いをした。
「決意のない殺しはお前を傷つける。兄として、そういうのは見たくねえ…………そういう事だ。俺は先に戻る。後は任せた」
アリーナの出口に向けて歩いて行くゼロ、百春は無言でその背中を見ていた。
幽霊、亡霊、幻影、まるでこの世のモノではないかのように思えた。
「頑張って、シロノと一緒に『真なる零落白夜』を見つけろよ」
「……え?」
最後に飛び出した発言、百春は耳を疑った。
『真なる零落白夜』、それが何を意味するのかゼロにしかわからない。
「結局、一夏くんは行かないんでしょ?」
「ああ、行かねえな。任務がある。それに旅行だったら落ち着いた時に行きてえよ」
夜、いつものように用務員室に遊びに来たアリサはベッドの上でくつろいで、ゼロは蜂蜜を入れたホットミルクを飲んでいる。
「そっかあ、残念だなあ」
「イギリスに行って、ドイツ行って、フランス行って、帰国か。流石はIS学園だな、お金をたんまりもってやがる」
「例年通りに海外のISについての研修と観光らしいよ。去年はロシアで一昨年はアメリカとカナダ。まあ私はフランスの研修には参加しないんだけどね」
「……デュノアか。それなら確かに参加しないな」
フランスでIS研修を行うとなるとデュノア社が関わって来るのは間違いないだろう。そうなれば同業他社の誘宵グループに属するアリサは参加できない。
「そうなの、その時間暇になるから一夏くんにも来て欲しかったのよ」
「成る程ね、だったらティファの奴に声をかけておくよ。彼奴だったら喜んで休みとって行くだろ」
「ティファちゃんか、確かに久しぶりに二人で話したいわね」
フフッと花が咲くように笑う。
「さて、そろそろ時間だ。寝るか」
「ええ、そうね」
二人は電気を消してベッドに入り込む。もう慣れた景色だ。
修学旅行が始まる。
それは波乱に塗れた血濡れた旅行、行き着く先は地獄の業火が広がるか。
「さあ、
と言うわけで次回は修学旅行編。
結構ヤバイかも。