白騎士事件から数ヶ月後、あの事件以来世界は明確な変化を迎えた。ISは世界中にその名を轟かせるようになり、それと同時に束さんの名前も有名になった。
あの事件が起きてからの日本の対応は凄まじかった。あるジャーナリストが言うにはまるで別の誰かが裏で操っているようだと。日本政府は直様、篠ノ之束とその家族の安全確保に身を乗り出した。無理も無い、もしここで彼女をテロリストなどに誘拐されてしまっては元も子もないからだ。そして、それから数日と経たないうちにIS委員会なる物を設立、これに関しては束さんが何処まで関わっているのかは僕は知らない。
そして、次々と世界の国々はISについて知りたがった。たかが1人の女子高生が作り上げたパワードスーツ、そう言われていた物が今では世界各国が欲しがるものとなった。しかし、ISに必要なコアは現在467個しか無い。これ以上作れないのか、はたまた作らないのか。さらには束さんの発表した論文から独自にISコアを作ろうとした奴らもいた。しかし、それらは全て失敗に終わった。
そして日本のIS委員会は世界各国からの要望で国際IS委員会となった。
そして、現在。
「誕生日おめでとう、一夏くん!」
パーン!
静かな部屋にクラッカーの音が木霊する。
「ありがとう、アリサ」
ここはアリサの家のリビング、ここには僕とアリサだけがいる。どうして僕ら二人だけかというと、本来なら皇さんやレインさんも僕の誕生日パーティに参加するつもりであったが、急遽会社のIS開発の会議ができてしまったため参加できなくなった。なので二人で誕生日パーティーをする事になった。
「パパ達もいてくれたら良かったのに」
「しょうがないよ、今が一番忙しい時期だからね。それよりもありがとう、わざわざパーティを開いてくれて」
「一夏くんに喜んでもらえるなら私は嬉しい」
笑顔でアリサがそう言った。彼女の笑顔をみるとなんだか僕も落ち着く。
最近、僕の周りは大変な事になっている。束さんはISの製作者なので世界中を転々として、説明会などを行っている。皇さん夫婦は会社でIS開発部を制作した。さらに皇さんのおかげでIS開発部門で他の会社を僅かにリードしている。千冬姉は千冬姉で束さんと一緒に飛び回り、実際にISに乗り込んでいる。
だからか、最近僕の周りは凄く慌ただしい。時代が変わってゆくのを蚊帳の外で見学しているような、そんな気分である。
アリサもアリサで皇さん達がいないのでよく僕を家に呼んでいるし、僕がアリサの家に泊まる事もある。
「一夏くん、これプレゼント」
「本当かよ、ありがとう」
僕はアリサから包みをもらう。アリサが早く開けて開けてと急かすので僕は丁寧に包み紙を開けた。中にあったのはかなり高級そうな箱。
(これ、中身の値段やばくないか?)
僕は中身の値段にビビりながら、恐る恐る箱を開けていく。箱を開封して中身を取り出してみる。
ネックレスだった。やはり高級そうな。シンプルなデザインでありながら他には無い。一箇所だけ石の様なものが埋め込まれていた。
「どう?」
「すごい、凄く良いよ。ありがとう、アリサ!」
僕がそう言うとアリサは自分の胸元から僕のと左右反対のデザインのネックレスを取り出した。なるほど、ペアネックレスね。
「凄いでしょ、パパがどうせなら二つで一つの物にしなさいって」
「そうか、皇さんが」
アリサは嬉しそうに僕のと自分のをくっつけている。
「ありがとう、アリサ。大事にするよ」
あれから暫くして、僕が帰る時間になった。今は皇さん達も帰ってきて、アリサだけになる事は無い。
玄関にいるのは僕とアリサの二人。
「今日はありがとう、アリサ。友達に祝ってもらうの始めてだったんだ」
「いいんだよ、一夏くん。私も一夏くんと一緒にいれて楽しかったし」
少し照れながら話すアリサ、僕もその言葉にコクリと頷く。
「じゃあ、またね」
僕は玄関を開けて、アリサの家から出て行った。
帰ってきた僕は家の中の騒がしい事に気づく。そうか、今は百春の友達がこの家で百春の誕生日パーティーでもしてるのか、僕も低学年の内は家にいて終わるのを待っていたな。でも今年はアリサに祝ってもらったからかなり嬉しい。
僕は静かに二階に上がり自分の部屋に入る。部屋に戻った僕は上着をハンガーに掛けてクローゼットに収納する。アリサからもらったネックレスは入っていた箱にいれておく.
「ふう〜」
片付けが終わると僕はベッドに横になる。本棚に目を向ければ僕が様々なものが飾られてある。一つはトロフィー、僕が初めて出場してそして四年生では初の優勝者になった時にもらったトロフィー。あの時はアリサが応援に来てくれた。姉さんは百春の大会があるとか言ってこなかったなあ。
そして他には三つの写真立て、一つにはこの前のハワイに行った時の皇さん一家とジルさん一家との写真が入っている。二つ目は幼い頃の僕と両親の写真。そして最後に僕と妹のマドカが一緒に写っている写真、マドカは昔誘拐されてしまって行方不明だ。でもいつか会えると僕は信じている。
そんな事を考えていると玄関を出て行く音が聞こえる。もう、誕生日パーティーは終わったのだろう。僕はベッドから降りてリビングに向かった。
「終わったか?」
「もう、終わったよ」
リビングに戻るといくつかのプレゼントを抱えている弟がいた。後片付けは皆でしたのだろう。僕はソファーに座ってテレビをつける。流れているのはニュース番組、ISに関する事のニュースが報道されている。
「兄さんは今日どこに行ってたの?」
突然、百春から声を掛けられた。弟から話しかけるなんて珍しい、以前は直ぐに喧嘩ばかりしていたが最近では大分落ち着いている。
「友達の家で誕生日を祝ってもらってた、かなり楽しかったさ」
「そう、珍しいね。それよりも兄さんはどうなると思うの、これから?」
多分百春の聞きたい事はこれからの家族についてだろう。千冬姉は今では世界で最初のIS操縦者として有名だ。これからは取材とかでこの家にも記者が来るだろう。
「僕は有名になると思うよ、この家は。そしたら記者が家にくる。そしたら……」
僕は一旦、言葉を切る。
「そしたら?」
百春は僕の言葉に疑問を浮かべる。僕は息を整えてゆっくりと言葉を出す。
「マドカについて呼びかける」
僕の言葉に驚いた顔をする百春、それもその筈だ。マドカは数年前に誘拐されてもう死んだと言われている。例え僕のやろうとしている事が無駄でも、僕はやってみる。
「もうマドカは死んだんだよ、何年も帰ってこないし。千冬姉だってもう諦めてるし、兄さんだってわかってるんじゃないの!?」
「でも、僕は可能性に賭けてみたい。僅かな可能性に」
僕はそう言って、部屋をあとにした。
コンコン……コンコン
深夜、僕は誰かが窓を叩く音がしたので僕は眼を冷ましてベッドから起き上がってみる。眠たい眼を頑張って開けながら窓を覗いて見る。するとそこには。
「やっほー、いっくん♪」
今現在世界を騒がせている束さんでした。
僕は窓を開けて、束さんを中に招く。
「なんのようですか、束さん」
「んーっとね、いっくんに誕生日プレゼントを渡そうと思って」
束さんはそういうとポケットからUSBメモリを取り出して、僕に渡す。なにが入っているんだろう。
「それはねー、いつかいっくんの助けになるものだよ♪でもまだ開けちゃダメだよ、いっくんが必要とする時がいつかくるから」
助けになるもの?なんだよそれ。
それに必要とするときっていつですか。
「それじゃあね、いっくん」
メモリを渡した束さんは窓から何処かへ行ってしまった。
書き溜めがあるので投下して行きまーす