これからも頑張っていきます。
黒零第二形態、繊細で細く、見た目から素早さを連想させる事の容易かった第一形態とは打って変わって、その見た目は鈍重で重厚、速度が速いとは思えない。しかし、力だけは第一形態より上がっていると思える。
装甲は一段階厚くなり、特徴的であった銀色のセンサーにもなっていた髪は失われてしまった。
装甲に覆われた翠の宝石のような瞳が光った。
右手を前に突き出す。
その一挙一動作に対して周囲にいる楯無を含めたIS学園の人間が警戒を行う。第一形態だった時も苦労していたというのに、それ以上の力を持ったという事はどういう事なのか、理解している。
楯無は周囲の先生とアイコンタクトだけで連携を計る。
黒零の前に巨大な大剣が現れ、重力に引かれコンクリートに突き刺さった。
それは刃のみが黄金に輝く、黒を基調とした両刃大剣、刀身は黒零の胴体付近まで存在し、柄もまたその刃に合わせて長大になっている。
並の人間であれば、その刃を使いこなせずに持て余してしまうかもしれない。並の機体であればこの大剣の真価を発揮する事は出来ない。
両方が揃っているからこそ、この刃を振るう。
柄を持ち、コンクリートから剣先を引き離す。刀身の近くを持ち、片手で振り回しやすいようにする。構えを撮るわけでもなく、剣先を下げる。
ギョロリと目が動き、アリーナの内部でネオと戦う一年生達に目が向けられる。
意識が戦いの外に向けられる。
その僅かな隙を楯無達は見逃さなかった。
一人の先生が剣と盾を持って果敢に黒零に接近し、それに合わせて他の先生は黒零の周囲に散開する。
一手目、先手を取ったのは意外にも先生の方であった。
剣を振り上げ、袈裟懸けを放つ。それを黒零は先生の振るう剣の何倍もありそうな重さの大剣を、その倍の速度で、片手で振り回す。
カウンターのように大剣を、振り下ろされる剣に直撃させて、叩き折った。
宙を舞う刃、ほぼ零距離で対する二名。先に動くのは黒零、大剣を持っていない左手を硬く握りしめ、スラスターの加速を生かした殴打で先生を殴り飛ばした。
その直後、黒零の肉体に三本本のロープが絡みついた。そのロープの先にいるのはラファール・リヴァイブに乗り込んだ先生。フックショットを利用して黒零の動きを封じる、先ほども使った手段だ。
さっきは上手くいった。機体の合計の力が黒零の第一形態を上回った為に黒零な動きを止めた。
だが今回は違う。
黒零は手から大剣を離すと、自分の体を丸めるようにしながら、スラスターで勢いをつけてその場で一回転を行う。
それだけで十分であった。桁外れな力で、黒零はラファールを振り回した。観客席を吹き飛ばしながら、引きずり回されるラファール達。
黒零は右手の指で手刀の形を作り上げると、そこにエネルギーを纏わせて刃を作り上げる。
まずは一閃、右腕に絡みつくロープを切り落とし、腕が自由になればその他全てを一瞬で切り裂いた。
慣性に従って吹き飛ばされる先生たち。
「吹き飛べ!」
蒼流旋に水のドリルを纏わせながら楯無が突撃して来た。必殺の一突きが黒零に迫る。
黒零は大剣を左手に取ると、楯無を迎え撃つ。剣先に『力』を纏わせて強化をかける。
柄の端を持って、大剣をまるで槍のように構え直すと、向かって来るドリルに向けて突き出した。
水のドリルと剛剣の穂先が激突し、両者の武器が弾きあった。楯無はその衝撃に後ろに飛ばされたが、黒零は左腕が大きく仰け反るだけであった。
(クル!)
楯無は空中に飛ばされながら、直感が叫んだ。体制を立て直し、柄を両手で掴んで、次に打ち込まれてくるであろう黒零の一撃に備える。
黒零は腕のスラスターを利用して鞭のように腕をしならせて、大剣を振るった。
全力の一振りは楯無の持つ槍の穂先に弾かれ、楯無の肉体の前を通過して、地面に深い切り込みを刻んだ。
眼と眼が合い、より深い闘争心が生まれた。しかし、楯無の瞳の奥には僅かに恐怖心が生まれていたのを本人は知らない。
一撃、また一撃と周囲のベンチを吹き飛ばしながら、ゼロは高速で大剣を振り回す。
未だに扱いに慣れてはいないのか、普段扱っている長剣の太刀筋と比べれば隙がありすぎる。
「終わらせる、次で。長期戦は望まない!」
楯無は体に纏わせてる防御用の水のベールを全て穂先に移す。
「ミストルテインの槍!」
楯無最強の必殺技、防御を一切考えない自爆覚悟の一撃。
黒零は大剣を右手に持ち代えると、今度はエネルギーを大剣に纏わせた。エネルギーの刃が肥大化する。
鋭く、もっと鋭く、願う。
最強の必殺技と至高の一撃。
二つがぶつかり合うと一瞬にして巨大な爆発が観客席を埋め尽くした。
防御がうまく行かず吹き飛ばされる楯無、それとは対象的に黒零は自分の目の前に『力』で不可視の壁を作り上げて衝撃を受け流した。
爆発さえも無傷。
(これは、少しキツイわね。でも、何とかしないと)
楯無のISのシールドエネルギーは殆ど残されていない。今の一撃ですべてを持っていかれたからだ。
動かなければ、戦わなければ。そう思う楯無の心とは裏腹にISは動かなかった。
大剣軽々しく持ったまま、黒零は他の専用気持ちのいる場所まで悠然と闊歩する。
────零落極夜
それは従来のような刃を生みだす零落極夜とは違っていた。自身の右手のエネルギー排出口から零落極夜の力が溢れている。
アリーナを覆い囲むシールドを掴み、ソレを引きちぎった。
崩れ落ちるシールド、残骸は雪のようにフィールドに降り落ちてくる。
全ての機体が黒零を見た。
鈍重な見た目とは裏腹に軽やかな跳躍でフィールドに降りた。
「あれ、どう思う?」
「第二移行?関係ない!潰せばいいんだよぉ!両腕の仇だ!」
専用機持ち達と戦っていたネオの猛者、ガーベラとスカーラの二人はゼロへの対応を考えていた。
落ち着いて状況判断しようとしているガーベラと両腕を切り落とされた恨みからか頭に血が上っているスカーラ。
「やれよォ!」
スカーラは周囲にいた兵士達に命令を飛ばし、兵士達は黒零に向かって突撃して行く。その手には突撃槍。
黒零が屈んだ。目の前には肉体を守るように半球状の『力』の壁が作り出される。
零から最速への殺人的な急加速、兵士達が反応した瞬間にはすでにタックルが直撃しており、上空にその身を預けていた。
理解不可能なほどの圧倒的な衝撃。
一瞬にして二機を撃破、速度を維持したまま二人に突撃する。
「アレは、無理ね。後は任せたわ。私は他の相手してるから。死にたくないし」
スカーラの背中をポンと軽く押し出して、ガーベラは死から逃れる。
スカーラはスカーラで薬をやっていて脳内麻薬がドバドバと出ているのかわからないが、戦うに連れて言動がおかしくなってしまっている。
スカーラの腕はゼロに両方とも切り落とされてしまっているため、現在は義手になっている。
異様に長く大量の節によって動くその腕は不気味に動いている。爪は敵を切り裂くのに適し、腕には幾つものエネルギー発射口が取り付けられており、攻撃も万全。
更には背中にもこれと同じような隠し腕が二本存在している。
だが問題があり、まともな人間ならば使いこなせないという事だろう。特別な薬を使って脳を僅かにお悪しくさせなければ、このISの性能は100パーセント使いこなす事はできない。
製作者曰く、作った人間も使う人間も頭のイカレテイル機体だそうだ。
四本の不気味な腕による連携攻撃が黒零に襲いかかる。
鈍重な見た目とは裏腹に軽やかな動きで腕を躱し続ける。一撃も攻撃を食らう事無く距離を詰める。
一振り、大剣で背中から生えた腕を切り落とした。
加えてもう一振りで右腕を切り落とす。
背後から気配を感じる。大剣を横薙ぎに一回転を行い、背後から迫っていた切り飛ばした筈の腕を再度両断した。
その腕はまるで百足の様に切り落としても生きていた。
──零落極夜
大剣の黄金の刃が漆黒に染め上げられる。
無双の連続斬撃が簡単にスカーラの肉体を飲み込んだ。速度、圧倒的な迄の速度の攻撃はスカーラの脱出を許さない。
四肢が全て切り落とされ上空に打ち上げられたスカーラ、その彼女の肉体をガーベラは受け止めた。
「撤退撤退、アレはヤバイからさ」
周りの隊員に対して撤退を指示して行くガーベラ、しかしそんな物はすでに無意味になりかけている。
次から次に黒零は兵士に飛びかかり、屠っている。
「ありゃりゃ、なら私たちだけでも逃げますか」
ガーベラは周囲にスモークグレネードとチャフグレネードを撒き散らしながら撤退して行く。
それを黒零は追いかけない。
戦闘行為に満足したのか、大剣を地面に突き刺したまま一歩も動こうとしない。
「どうするの?」
「攻撃を仕掛けなければ動く気はなさそうだ」
専用機持ち達も黒零の強さを悟ったのか、手を出そうとはしない。少しでも迫ろうとすればギョロリと翠の瞳に睨まれてしまい、動きが止まってしまう。
『ゼロ、気は済んだ?』
何処からか観察しているスコールが通信をしてきた。
黒零はそれに軽く頷く。
『なら、撤退しましょう。今総帥からの命令が来たわ。撤退しろと。私は私でさがるから、貴方は貴方でお願いね』
再度首肯を行い、今度は周囲を見回す。
周囲には十数機の専用機や量産機を含んだIS。皆が皆、黒零の一挙一動に注意している。
黒零は指をクイックイッと動かして挑発を行う。だがそれには誰も乗らない。
萎えた。
黒零はそう言わんばかりに両肩を落とし、大剣を収縮した。
次は何をする。皆が警戒する。
黒零は両足を肩幅迄開き、スラスターで飛翔して、一瞬にして最高速度にもっていった。
誰もが追いつけず一瞬にして逃げられてしまった。