インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第80話

 

銃口がロッカールームで雄たけびをあげた。銃口から放たれた凶弾はスーツ姿の女性の左肩を容易く砕いた。

 

女性は完全に不意をつかれてしまった。

 

目の前にいる獲物に集中しすぎていた、あと一手で詰みという段階まできたはずなのに、第三者によって盤をひっくりかえされてしまった。

 

スーツ姿の女性、巻紙礼子に狙われていた織斑百春は現状を理解できずに戸惑っていた。

 

生徒会長からシンデレラの劇の主役に抜擢され、他の生徒から追い回されるハメになり、そこを巻紙に助けてもらったと思ったら、その女性は本性を表して銃弾を肩にうちこまれた。

 

「てめえ!よくも!」

 

巻紙はISを展開、そのISの背中からは蜘蛛のような八本の足が生えていた。

 

「なんだ、まだ動けるのか。殺さないで捕縛するようにするつもりだったが、四肢を落とすか。背中に腕も大量にあるしなあ」

 

暗いロッカールームの奥から一人の男が姿を表した。

 

「あの時のスーツの人」

 

その人物は百春がクラスで巻紙に絡まれている時に助けてくれた男性だ。しかし今はその優しそうな見た目には相応しくないISの装甲を左手に纏わせ、左手にはリボルバー式の拳銃を持っている。

 

「よくもやりやがったなあ!」

 

巻紙がスーツの男に突進を仕掛ける。愚直でまっすぐな簡単に躱すことのできる突進だった。

 

「タランチュラ……だっけか?オータムのアラクネの姉妹機のはずだ」

 

スーツの男は突進を躱して、すかさずISの背中にリボルバーに詰められてある弾丸を撃ち出した。

 

弾丸はISに直撃はしたが、全て装甲に弾かれた。

 

「立ち上がれるか?」

 

「何のつもりだよ、ゼロ」

 

「……俺は貴様に名前を教えたつもりはないんだがな」

 

「楯無さんから聞いたんだよ。僕をどうするつもりだ」

 

「どうもしない、こちらは君の持つものが敵に渡るのを邪魔するだけだからな」

 

ゼロは黒零を展開、それに合わせて百春も白式を展開した。

 

「少なくとも、今回はお前たちの敵ではない」

 

「信じれるか」

 

「余所見するなあああああ!!」

 

ロッカーに突っ込んで行った巻紙が方向を変えて二人に襲いかかった。

 

背中の蜘蛛の足と自分の手を合わせた高速の連携攻撃。

 

「なんて数だ。対処は──」

 

「落ち着け、よくみろ。俺が肩を砕いた左腕はまともに動けてない。それに合わせて左側の蜘蛛の足の動きは鈍い。だからなあ」

 

ゼロは黒零を直進させて巻紙に迫る。

 

「貰ったああ!」

 

タランチュラの背中の足がゼロに向かってくる。

 

「やっぱりか」

 

ゼロは肘と足につけられたスラスターを利用して巻紙の左側に回り込み、砕いた左肩に何度も容赦なく全力の拳を叩き込んだ。

 

巻紙はゼロと正面から戦おうとするが、ゼロのISの方が機動力が高いため一方的に砕かれた左肩を殴られるだけである。

 

「簡単に」

 

ゼロはタランチュラの左側の背中の足を一本掴むと、残り全ての左側の足を巻き込むように飛び十字をしかけてひきちぎった。

 

「凄い」

 

百春はその一連の動きに感嘆していた。一方的に相手を封殺している強さに判断力、そして何よりも技能が違い過ぎる。

 

蜘蛛の足が千切れてしまっては後は一方的だった。距離を離すことができず、常に左側に回り込まれて碌に動かない左肩に必殺の一撃とも言えるような強力な拳が叩き込まれている。

 

「攻撃腕起動」

 

黒零の右腕がエネルギーに包まれて発光を始める。

 

アレはヤバイ、巻紙は本能でそれを感じ取った。逃げなければ、死んでしまう。

 

だが逃げるよりも早くゼロの右手が巻紙の左肩をつかんだ。

 

「潰れろ」

 

ぐしゃりと空き缶を潰すような音と共に巻紙は自分の左肩が潰された痛みから悲鳴を撒き散らした。

 

「さあ、他の奴らはどこにいる。教えてもらおうか」

 

「そんなこと、言えるか」

 

巻紙はたった数分で抵抗するだけの体力も失われてしまった。残されたのは死を待つ時間だけだ。

 

「そうだね、言えるわけないよね」

 

ロッカールームの扉がぶち破られ、一人の少女が入ってきた。

 

年は百春やゼロと同じくらい。背丈は百春よりも小さく160くらいだ。

 

その特徴はなんといっても『白』、病的なまでの白い肌に白い髪、唯一色がある部分と言えば瞳の琥珀色だけだろう。

 

「……ガーベラ様」

 

「何?」

 

ゼロは巻紙を漏らしたガーベラという言葉に反応した。

 

ガーベラとは何度も何度も戦ったことがあり、一度も決着がついことはなく、どちらも今も生き残っている。

 

こうして生身の彼女を見るのは今日が始めてだ。

 

「久しぶりねえ、ゼロ。会いたかったわ」

 

狂気の潜んだ愛おしそうな声をゼロに向けた。

 

「こっちは特に会いたくもないんだが」

 

「なに、つれないわね。私はね、貴方が愛おしいのよ。貴方みたいに強い人間を屈服させて、私の物にしたいのよ。行くわよ、『白薔薇(ホワイト・ローズ)』」

 

ガーベラの言葉に合わせて、彼女のISが起動した。

 

その機体は全身装甲。

 

黒い基盤の上に白い薔薇の花びらを幾重にも重ね合わせたような鎧、名前に相応しくまさに白薔薇の騎士。

 

寧ろスカートのように重なり合った装甲から姫騎士と言った方が良いのか。

 

「おい」

 

ゼロは百春に声をかけた。

 

「自分の身は自分で守れよ。俺も厄介な相手と戦うからな」

 

ゼロは徒手のままガーベラに向かって構える。

 

「機械の奥にあるその殺意のある瞳、私は好きよ」

 

ガーベラは自分の右手に薔薇の花弁で装飾された白いレイピアを呼び出した。

 

「…………」

 

「…………」

 

両者の間で殺意と殺意がぶつかり合う。

 

いざ開戦というところで、二人の眼前を水の弾丸が通り過ぎた。

 

「そこまでよ、全員止まりなさい」

 

ぶち破られた扉から御自慢のISを身に纏った更識楯無がロッカールームに入ってきた。

 

手には槍を構え、その槍にはナノマシンで操っている水が巻きついている。

 

「おお、アホんだら。てめえ織斑百春から目を離すなといったのに何誘拐未遂されてんだよ。バカか、馬鹿だ」

 

「……侵入者に言われるのは癪だけど、言い返す言葉が存在しない」

 

「私の楽しい時間を邪魔しないでよ!」

 

地面を舐めるような不気味な動きでガーベラが楯無に迫った。

 

ゼロもその背中を追いかける。

 

レイピアと槍がぶつかる。レイピアの素早い突きを躱しながら反撃の一手を探る楯無、そしてそれを援護するようにガーベラを背後からゼロが蹴り飛ばした。

 

「楯無さん、何処か戦える場所はありませんか!ここは狭すぎます」

 

百春が大声で楯無に問いかける。

 

「それならこのロッカールームの先はIS用のアリーナになってるわ。他の生徒や来客した人は防音性の高い大講堂に集まって貰ってるから、心配はないわ」

 

百春と楯無の会話を聞いていたゼロはガーベラをこの部屋から出すために突撃した。

 

タックルをぶちかましてガーベラをロッカーを吹き飛ばしながら部屋の外に連れ出した。

 

「この隙に……」

 

巻紙も残った体力でアリーナに飛んで行った。

 

「追いかけましょう!」

 

「ええ」

 

三人に連れ、百春と楯無もロッカールームから飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「それで、ティファちゃん。今まで何があったの?」

 

アリサとティファニアの二人は食度から場所を移して今は屋上にいる。

 

ティファニアは金網状の柵に体を預け、アリサは近くのベンチに座ってティファニアからの話を待っている。

 

「どうって、言われても。私はパパ達が殺されて、その後誘拐されて、一夏に助けられて、今の組織にいる事になったの」

 

「それじゃあ、ティファちゃんは何で一夏くんがその組織に入ったのか知らないのね?」

 

「詳しくは知らないけど、簡単になら知ってる。どうにも誘拐された後、変な施設にずっといたらしい。私も似たような感じ」

 

「そう……そうなんだ」

 

ティファニアからの話を聞いて、アリサは顎に手を添えて考え始めた。

 

「……他には何か聞かないの?」

 

恐る恐ると言った様子でティファニアはアリサに尋ねた。

 

「例えば、ティファちゃんが一夏くんの寝込みを襲った話とか?」

 

ドキリとした。

 

「なんでその話を知ってるの!?」

 

「この前、うっかり話してたでしょ?」

 

「あ」

 

そういえばそうだった。ティファニアにはあのタッグマッチの際にうっかりアリサに話していた事を覚えていた。

 

「怒ってるの?」

 

「いいえ、一夏くんはそういう部分があるって理解しているから」

 

「そういう部分?」

 

アリサの発言にティファニアは変な引っ掛かりを感じた。

 

「あら、気づいてないの?」

 

アリサは意外だと言わんばかりの態度だ。

 

「一夏くんは誰かから向けられる感情に飢えている。幼い頃に両親を無くして、私と会うまでは殆ど一人ぼっちみたいなものだったでしょ、誰からも理解されないで。だから感情に飢えているのよ」

 

「……」

 

「だから優しい感情を向ける人間を大切にするし、ソレを傷つけるものは容赦ない。どうでもいい人は、もしかしたら顔もわからないかもね。それと多分だけど、他にもいるでしょ?」

 

何が、どういう事を、アリサは詳しく聞かなかったがティファニアは何を言いたいのかを理解した。

 

何も言わずにティファニアはうんと頷いた。

 

「……そう、やっぱりね」

 

少しだけアリサが微笑んだ。

 

「それでなんだけどさ────」

 

二人はこの学園の何処かで、No.000が戦っている事に気づいた。二人や一夏、そして束にはわかる第六感のような、ISと会話するための感覚が教えてくれる。

 

(一夏が戦っている。私も持ち場につかないと、けど)

 

持ち場につくためにはアリサを振り切らなければならないが、それができそうではない。

 

しかし。

 

「誘宵、ここにいたか!」

 

校内へ続く扉が勢い良く開かれ、ボーデヴィッヒがアリサを呼んだ。

 

アリサはボーデヴィッヒの方を一瞬だけ見たが、ティファニアの事を気にかけ直ぐに振り返った。

 

だがそこには始めからだれもいなかったかのように柵だけしかなかった。

 

「誰かと話していたのか?」

 

近づいてきたボーデヴィッヒが尋ねた。

 

「……いいえ、誰も。それよりも──」

 

アリサはボーデヴィッヒを見ないで、柵越しに一夏が戦っているであろうアリーナを見た。

 

するとそこには大怪我をおいながら必死に逃げようとしている蜘蛛のようなISがいた。

 

「侵入者みーつけた」

 

 

 

 

「あの総帥(ジジイ)、警備ぬるくしすぎだろ。いくらネオをおびき寄せて殺す作戦だからといって二人以上はないだろ!」

 

「なにをゴチャゴチャ!」

 

アリーナでガーベラの相手をしながら、ゼロは自分の上司であり、祖父でもある轡木十蔵を罵った。

 

「うるせえ、こっちの話だ」

 

ドリルのように回転する抉る事に特化した白薔薇のレイピアを躱しながら、ゼロは反撃の機会を伺っている。

 

「……お前たちが、銀の福音を暴走させたのだろ?」

 

「ええ、とは言っても私の部隊じゃないけどね」

 

「ムカつきやがる」

 

1.5形態になる事で手に入れた両肩のバインダーにつけられてある取手を掴むと、バインダーが少し伸びた。

 

バインダーの先につけられてある砲門をガーベラは見た。そしてその直後、両肩のバインダーから何十発も撃ち出されるエネルギーの塊の弾丸。

 

しかしガーベラは容易くそれらを躱していく。

 

「無意味よ、そんな武器は貴方に似合わないってわからないの!?」

 

ガーベラが弾丸の隙間をぬってゼロとの距離を詰めた。

 

ゼロは素早く取ってから手を離すと右手に素早く零雪を呼び出して、レイピアの一突きを受け止めた。

 

ドリル状のレイピアは掘削音と共に零雪を砕きにかかる。

 

「チッ!」

 

ゼロはガーベラの腹に蹴りをいれて一旦間合いを取り直した。

 

(予想以上に性能が高いな。少し厄介だ……使うか?いや、まだだ)

 

バインダーの長さが元に戻る。

 

「ヤッハアアアアア!!」

 

背後から叫び声と共にセンサーにエネルギー反応。ゼロは咄嗟にその場所から離れて、迫って来たエネルギーの砲撃を躱した。

 

「テメエ、ガーベラ!しっかりと引きつけとけや!」

 

「黙りなさい、スカーラ。当てない貴方が悪いの」

 

ゼロはエネルギーが放たれた方に目をやるとそこには右手だけが異様に発達しているISがいた。

 

そしてゼロはスカーラという名前には聞き覚えがあった。確かシルヴィアの殺されたあの戦いで、零落極夜で右腕を切り落としたが、殺し損ねたやつだ。

 

「なんだ、生き延びていたのか。片腕をISに頼ってるようだな」

 

「ああ、そうだよ!てめえに右腕を切り落とされたんだよ!でもなあ!そのおかげでアタシはこの腕を手に入れた!最強の腕をなぁ!」

 

薬でもやっているのかと言いたくなるほど、気分が高揚しているようだ。

 

御自慢の右腕とやらをブンブンと振り回している。

 

「行くよぉ!『ガリミューラ』!」

 

自分の愛機の名前を叫びながら、スカーラが迫ってくる。

 

更にそれだけではなく、上空から何機ものネオのISが降って来た。

 

(俺たちが使った手段か)

 

「……防衛能力をあげろや。警備はザルかよ、便所の鍵の方が頑丈な気がしてきた。総帥に報告しなければな」

 

着地と同時に迫ってくるネオの兵士たち。

 

「させない!」

 

水の弾丸が兵士たちに直撃した。

 

更識楯無と百春がアリーナに入ってきた。

 

「貴方たちが誰か知らないけど、テロリストの争いにこの学園を巻き込むわけはいかないの」

 

「そいつらの狙いは白式だ。取られるなよ」

 

「わかってる!」

 

百春は力強く雪片二型を構えた。

 

「ガーベラァ!てめえは更識をやれ!こっちが残りの二人を押さえ込んでやる」

 

「…………ムカつくけど、薬中になに言っても無駄ね」

 

ガーベラは不満げではあるが、スカーラの言葉に従って更識の元に向かった。

 

「さあて、こっちもやるか!」

 

ヘルメットの奥からでもわかる。彼女は今好戦的な笑みを浮かべているはずだ。

 

ゼロの周囲を複数のISが取り囲み、一機が百春の元に向かった。

 

「この数に勝てるかァ!?」

 

挑発的な声だ。明らかに勝利を確信して笑っている。

 

「……そうだな、この数は俺一人では辛いな」

 

「なら降参して頭を地面につけよ!惨めったらしく!」

 

「だから、(オレ)が相手しよう」

 

ゼロの身を守るようにエネルギーの球体が現れた。

 

「起動、『000(ゼロ)』」

 

黒零の1.5形態によって得られた装甲が動き始める。両肩のバインダー、両足の追加装甲、背中のブースター、ヘルメットの装飾。そして元からあった白銀の髪の毛が取り外される。

 

空中に舞うそれらの装甲。ブースターを中心にして他の全てのパーツが集まる。

 

ブースターが胴、腰と脚を作る。脚部の追加装甲は裏返るように反転して膝から下の足をつくる。バインダーは複雑に変形して頭、胸、手を作った。

 

それらのパーツが空中で合体して人の形を作り上げる。

 

そして最後に残った髪と頭の装飾がつけられて、ソレは完成した。人型の装備、000。

 

コレの操縦はNo.000の意思『ゼロ』が行う。

 

翠の瞳が光る。

 

000が地面に着地した。

 

「調子はどうだ?」

 

ゼロが問いかけると000は問題ないと言わんばかりに頷いた。

 

「こうして肩を並べるのは銀の福音以来か、あの時は一瞬だけだったがな」

 

「二人になったカラってええええ!!」

 

スカーラがゼロ達に突撃してくる。

 

ゼロは右に000は左に動いてその突撃を躱す。

 

「よけるなああ!」

 

スカーラは不釣り合いな長さの右腕を鞭のようにゼロに向かって振り回した。

 

ゼロはその一撃をしゃがんて躱し、潜るように動ぎながら近づいてスカーラの腹を勢いよく蹴り上げた。

 

宙を舞うスカーラ、そしてその背後から000が両足での踵落としを決めて地面に引き戻す。

 

「もう一丁!」

 

今度はゼロが追撃のオーバーヘッドキックをしかけてアリーナの端まで吹き飛ばした。

 

000が落下して両者は背中を合わせる。

 

「嘘でしょ?」

 

そんな言葉を呟いたのは隊員の一人だった。自分たちよりも強いスカーラが赤子の手を捻るかのように容易く倒されてしまった。

 

「無零」

 

ゼロは両手にエネルギーブレード『無零』を装備した。

 

「行くぞ、000」

 

ゼロの言葉に000の翠の瞳がより強く輝きを放った。

 

000が動く。ブースターによって超高速で動きだし、一瞬で一人の背後に回った。

 

「……え?」

 

蹴り飛ばされ、ゼロのいる場所の近くまで飛ばされる。

 

「零落極夜」

 

二本の無零が零落極夜を発動させる。

 

素早く動いて、一人目を零落極夜で両断した。

 

そして次々と兵士達は000にゼロの元まで飛ばされて零落極夜の餌食にあう。

 

一分にも満たず、兵士達は全滅した。

 

百春と戦っていた兵士も無力化されている。

 

「助けないと」

 

「やめておけ」

 

百春は自分でまだ戦えると判断してガーベラと戦う楯無を助けに行こうとしたが、それをゼロが止めた。

 

「強くなっているようだが、やめておけ。あそこはお前のいる次元じゃない。大人しく自分の身だけ守ってろ」

 

ゼロに忠告され、悔しがる百春。しかし実際に二人の戦いは次元が違った。

 

「テメエエエエエエ!!」

 

スカーラが叫び声をあげながら、ゼロに迫って来た。

 

「さあ、持ちな」

 

零落極夜を解除した無零の一本を000に渡し、000が無零を持つと同時に二体は地面を駆けた。

 

完璧な連携攻撃がスカーラを攻め立てる。ゼロと000、長年ともに戦ってきた二人の息の合わせ方はシンクロの域に到達している。

 

000の性能は速度や加速度を除けば並の第三世代機。稼働時間は並以下。

 

黒零の本体もコレを発動している間はシールドエネルギーの半分を000に持っていかれてしまう。

 

そして何よりこれを発動させてある間はNo.000による機体のサポートを得る事ができず、一部は機械のプログラムに任せてはあるが、ゼロが自分で制御しなければならない部分が出てくる。

 

その負荷は半端ではなく、分離して戦えるのは合計で数分もない。

 

分離した姿は、強力ではあるがそれと同時に最も弱くなっている時間でもある。

 

故に短時間で終わらせる必要がある。

 

「腕が足りないならモットダアアアアアア!!」

 

ガリミューラの背中に新たにムカデのような何十の節がある腕が二本生えてきた。先端はクワガタムシのようにハサミになっており、挟んで切り裂く事に特化している。

 

不気味に波を打ちながら伸びて迫ってくるその腕を二機は簡単に蹴り飛ばした。

 

「零落極夜」

 

二機が共に零落極夜を放つ。

 

蹴り上げた腕を唐竹割で切り裂き、地面に着地すると一瞬で両腕が根元から切り飛ばした。

 

「終わりだ」

 

ゼロがとどめの一撃を放とうとした瞬間、ゼロと000の動きが止まった。

 

「時間かよ」

 

憎らしげにゼロが呟くと、000は分離変形して元の装甲に戻った。これ以上000を使用するのは自分の肉体に負荷がかかりすぎると判断したからだ。

 

「腕があああ、痛いのおおお!!痛み止め、薬、クスリクスリクスリクスリ!!」

 

無くした左腕から地面に血を撒き散らしながら悶え苦しむスカーラ。以前は右腕を切り落とされ、今回は左腕が切り飛ばされた。

 

黒零の中に『ゼロ』が戻り、機能の補助を行う。

 

『調子はどうだ?』

 

「問題はない。アレは短時間だけだな」

 

右手で夢零を硬く握りしめて、スカーラにとどめの一撃を刺そうと振り上げる。

 

しかし。

 

「咲け散れ、ビット!」

 

楯無と戦っていたガーベラがゼロに向かって薔薇の花弁型のビットを幾つもはなってきた。

 

ゼロは咄嗟に後方に下がってビット達を躱す。

 

ガーベラは更識を投げ飛ばすと、スカーラの元に近寄った。

 

「ああ、ああ。無様になっちゃって、また新しく腕がつけられるわね。しかも両腕。今度は薬をもっと使わないと耐えられないでしょうねえ。私は貴方みたいになりたくないなあ」

 

ガーベラは周囲をビットで威嚇しながらスカーラの治療を簡単に行った。

 

とはいっても左腕の切り口にゼリー状の止血剤を塗って、固めるだけなのだが。

 

「ゼロ、楽しかったわ。また今度ね」

 

スカーラの片脚を掴んでガーベラは飛び立つ。

 

「待てよ」

 

ゼロは追いかけようとしたが、000を使用した反動から来る激しい頭痛からその場に膝をついてしまった。

 

逃げて行くガーベラ達。

 

「……撤退するぞ」

 

ゼロは手を膝につけながら立ち上がるとスラスターを吹かせて飛び立とうとする。

 

しかしゼロの背中を楯無が襲う。

 

ゼロは横に回転してこの一撃を躱すと右手に無零、左手に零雪を構える。

 

「助けてやった恩を仇で返す気か?ああ?」

 

「それはそれ、これはこれ。大人しく捕まってくれたら、お返しでも何でも楯無さんがしてあげるぞ」

 

「冗談はよしとけ、阿婆擦れ気取りの純情さん。男女の経験を積んでから、そういう発言はした方がいいぜ」

 

ゲラゲラと楯無をあざ笑う。

 

「こちらとしてはてめえらは敵じゃねえんだよ。実力だとかいう話じゃなくて、単純に敵じゃないんだよ」

 

「どういう意味?」

 

「そういう意味だよ」

 

「話す気はないのね、なら先生方」

 

その言葉と同時にアリーナのピットから数人のラファールや打鉄を身に纏った教師がアリーナの中に入ってきた。

 

「お前らはバカか、こんなに人数いるんならさっき出しとけや。なに問題が解決しようとした時に場をかき乱すために出してんだよ。バカだろ、馬鹿ども」

 

「……返す言葉がないけど、間に合わなかったのよ。先生達の準備が」

 

「いや、馬鹿だよ」

 

その言葉と同時に遥か上空から巨大なエネルギーの柱が二本降り注いだ。

 

目の前に現れたソレに驚く教師達。

 

「遅いぞ、ティファ」

 

『大丈夫でしょう。計画通り私はゼロの撤退の手伝いをするのが任務なのだから』

 

「なんかあったのか」

 

『んん、ちょっとアリサちゃんにあってきた。No.004の反応で私だってわかったみたい。振り切るのに時間がかかっちゃった」

 

テヘッ、とでも言いたげな口調だ。

 

「そうか」

 

『あれ?アリサちゃんと何を話したのか聞きたくないの?』

 

「今は任務中だ。それに、あまり女性同士の会話は知りたくない…………それより、エネルギーをひたすら撃ち続けろ。俺はその間を縫って戻る」

 

『はいはい、じゃあ本気だすよ。シエル!』

 

上空にいるであろうティファからの無差別のエネルギー弾の砲撃が激しくなった。

 

大小合わせて一秒間に何十もの弾丸の雨がアリーナにいる人間の動きを封じる。

 

ただ二人の例外を除いて。

 

「零落白夜」

 

エネルギーの雨を切り裂きながら百春はゼロに近づいて行く。

 

ゼロはゼロで降り注ぐ雨を見切り、上空に逃げ去ろうとする。

 

「逃がすか!」

 

振り下ろされる零落白夜の刃、ゼロは降り注ぐエネルギーの雨を無視してこの一撃に対処するのに全神経を注ぐ。

 

エネルギーへの対処はNo.000に任せる。

 

「ふうう」

 

真正面から向かって来る百春の虚をつくように、ゼロは落下した。

 

百春にとってそれはゼロの予想通りに想定外の事、上空に逃げる事を想定していた刃は落下する事によって容易く躱され、百春の体はゼロにとってエネルギーの雨を弾く傘の役割になった。

 

百春の背中に何発もエネルギーの弾丸が無慈悲に降り注ぐ。ゼロに気を取られすぎて、不意打ちを食らった形になりその衝撃から手に持っていた雪片を零した。

 

「強くなっているが、やっぱり違うな」

 

体制の崩れた百春を足場に跳躍をおこない、一瞬にして遥か上空に飛んでしまった。

 

それは誰も追いつけなかった。圧倒的な加速度と負荷を無視した最高速度には誰もついていけない。

 

 

 

 

「あーあ、一夏くん達何処か行っちゃった」

 

誘宵アリサは空に飛び立って行くゼロ達を見上げながら、少し残念そうに呟いた。

 

「まあ、良いか。侵入者は捕まえたし」

 

彼女は現在ISを身に纏っており、右手はある人物の胸ぐらを掴んでいた。

 

それはISを完膚なきまでに潰され、息も絶え絶えな巻紙だった。

 

彼女はアリーナに逃げた際、ガーベラとゼロが戦っているのに乗じて逃げたのだが、それをアリサが見ていた。

 

あとは彼女をアリサが追いかけ、倒しただけだ。

 

「この人からは一夏くん達の話は聞けそうにないわね。生徒会長に引き渡しましょう。私には使い道がないから」


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