インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
本来なら元日に短編でも出そうと思ったのですが、それはまた別の機会にということで。
今年はできる限り進めていきたいと思っていますが、筆が乗らなければ意味がないのですよ、はい。


砂漠の襲撃戦2

「アドルフ、道はあってるか?」

 

「合ってる?初めて通る道だぞ、地図もない。俺にはわからない。今は取り敢えず虱潰しが先決だ」

 

施設突入から数分後、アドルフ達別働隊は未だに研究所を見つけられずにいた。

 

この施設は外からみれば二階建てになってはいるが、以前もあったように地下に施設が広がっているのかもしれない。

 

 

そこにつながるための通路を探しているのだが、いかんせん通路が複雑すぎるためか未だに見つかってはいない。

 

他の隊員達から送られてくる施設のデータに目を通しながら、アドルフは次に探すべき場所を考える。

 

「そういえば、前に一夏が言ってたな。壁に通路が隠されていることがあると。だとすれば、ここか」

 

アドルフは一箇所に目を付けた。

 

手に持っていた銃を背中にマウントさせて、目的の地点に向けて走り出した。その後ろを追っていくグレイとジークの二人。

 

「此処だ」

 

アドルフはある地点で立ち止まると手の甲でコンコンと壁を叩き始めた。何度も何度も一回ずつ壁を叩く場所を変えながら、何かを確認していく。

 

そして爆弾をその壁に取り付けると急いでその場から離れた。

 

その直後に衝撃が狭い廊下を駆け抜けた。爆弾は爆炎をあげるわけではなく、衝撃だけを発生させるものであった。

 

「ビンゴ……」

 

爆破された壁は砕け、その奥に一本の通路が出現した。現れた通路に光は灯っておらず、闇が溢れ出ているようであった。

 

一歩、アドルフがその通路に向けて歩き出したその瞬間。

 

ビービービーッ!

 

けたたましいアラームが廊下に響き渡る。

 

何故このタイミングで鳴ったのか、アドルフ達は疑問に思ったが、それを深く考えている暇はない。次に起きることを対処することに頭脳を注ぐべきだ。

 

しかしそんな思考を遮るかのごとく、アドルフと他二人の間にぶ厚いシャッターが高速で降り始めた。

 

咄嗟の判断だった。

 

「グレイ、ジーク!ゼロと連絡をつけて退がれ、俺はこのままこの道を突き進む!」

 

アドルフからの言葉を聞いた二人は素直に従う。

 

分厚いシャッターによって分断されてしまった。

 

「……進むしか無いか」

 

残されたアドルフは壁を破壊して見つけた真っ黒闇の通路を睨みつける。先にあるのは恐らく今回の目的地でもある研究施設であろう。

 

しかし、だからこそ守りは重くなっているはずだ。

 

アドルフは自分の左の手首を強く掴んだ。

 

覚悟を決めるために、突き進むために。

 

「いくか!」

 

警戒しながら、アドルフは一歩前に踏み出し、そしてそのまま走り始めた。

 

頭につけたヘルメット状の多機能装置の中から暗視スコープを選択して、目の前のモニターに展開させる。暗い廊下は予想よりも広く、少し走ると螺旋状の下り坂になっていた。

 

光が見えた。アドルフは暗視スコープを解除してその光に向けて走る。

 

暗い闇を超えた先には眩しい光があった。

 

「ここは…………」

 

アドルフが辿り着いたのは広い円柱状の部屋であった。

 

天井が高く、部屋を構成されている材質はよくわからないが一つの物質で統一されているということがうかがえる。

 

「やあー、やあー、やあー、ようこそ!」

 

中年男性が無理しているのでは無いのか思えてしまう、陽気な声が聞こえた。

 

その声を聞いた瞬間、アドルフは眉を顰めた。明確な殺意、今まで間の任務で人を殺すことはあったが、その時には殺意を出したことはなかった。なぜならそれは『仕事』として割り切れるものなのだから。

 

だが今回は違う。

 

アドルフが入ってきた方とは丁度真反対に位置しているもう一つの薄暗い入り口から一人の男が姿を現した。

 

黒いシャツとダメージジーンズの上から研究者が着る様なロングの白衣を纏い。

 

汚れた様な短めの銀髪をバラバラに、血で染め上げたかの様な赤い瞳。

 

一昔前に流行ったちょいワルオヤジとやらに分類できるダンディーな顔つき。

 

「殺したと思っていたのだがな、ゲイル・ボーデヴィッヒ」

 

「お久しぶりだなあ、我が愛しの子供達。その長男アドルフ」

 

アドルフにゲイルと呼ばれた男はアドルフのことを自分の子供だと言った。つまりそれは二人が親子の間柄にあったということなのだろう。

 

「どうして生きてる、貴様はあの時おれがこの手で射殺したはずだ」

 

追憶する、アドルフ自身のきおくを。返り血を浴びながら寝ているゲイルを射殺した時のことを。

 

「ふふん、トリックだよ」

 

悪戯をしたことを自慢する少年の様な表情でゲイルは返答した。

 

「まあ、冗談はさておいて。俺ちゃんの研究の専門分野、賢くて聡明で、父親を撃っちゃうようなアドルフ君なら何だか分かるよね?」

 

馬鹿にしたような表情でゲイルはアドルフに問いかける。

 

「遺伝子とクローン…………クソがそういうことかよ。俺が殺したのはお前のクローンか、だからあの時寝ていたのか」

 

「ビンポンピンポーン!正解!後で飴ちゃんあげるよ」

 

嘲笑うような顔のまま、ゲイルは大きく拍手をアドルフに送った。高笑い声と乾いた拍手の音だけが無機的な部屋に響き渡る。

 

「いやぁ、それにしても本当にあの日の事は驚いたぜ。何せ、俺ちゃんの遺伝子を用いた『遺伝子強化個体計画』の、最も優れた能力と軍人としての冷徹で冷静で冷血な精神を持っていたお前に全てを台無しにされたんだからなあ」

 

ゲイルは笑ってはいるが、赤い瞳には怒りの色が見えた。

 

「なんであんなことをした!」

 

怒気を孕んだ声が室内に響き渡る。

 

先程までとは対照的になった二人。冷静になったアドルフと激怒するゲイル。

 

何もかもが順調に進んでいた。ドイツ軍の研究者として、自分の叡智を世界中に知らしめるために働いていた。遺伝子強化個体として産まれた子供たちをゲイルは完璧な軍人にするべく育てていた。

 

愛する祖国のより一層の発展のために、己の研究者としてのプライドのために。

 

だがそれら全てをあの日、あの夜に失ってしまった。

 

アドルフが突然起こした裏切り、ゲイルのクローンを殺し、ある一人を除いて遺伝子強化個体を皆殺しにして、姿を消したあの夜を。

 

その後ゲイルはドイツ軍に事件の責任を問われ、追放された。そして『ネオ』の一員になる。

 

何故そのようなことをアドルフが起こしたのか、ゲイルには見当もつかない。だからこそ、今ここで問いただす必要がある。

 

「星が見たかった。ただそれだけだよ」

 

アドルフの趣味は天体観測、その理由は誰も知らない。

 

「星が……見たかった?天体…………観測ゥ?」

 

訳がわからないと言った表情のゲイル。

 

だが直様天井を見上げながら高笑いを始める。

 

「アッヒャハハハハハハハハハ!!星が見たかった?そんなくだらない理由で俺ちゃんの今までがてめえみたいな、人造人間野郎にぶち壊されちまったってか?それに天体観測ってよぉ、少し小洒落た趣味じゃないの。似合わない全然似合わねえよ。ヒャハハハハハ!!」

 

壊れてしまった、自分の築き上げてきた地位も誇りも何もかもがくだらない理由で亡くなってしまったのかと思うと、ゲイルは自分を保つことができなかった。

 

「そんなに星を見るのが好きなのか?……………………だったらッア!!テメエをお星様にしてヤラァッ!!」

 

顔を歪ませ、怒気にまみれた声を吐くゲイル。

 

その言葉の直後のことだ。無機的な天井の一部が開きそこから一機のISが降りてきた。

 

その機体はネオの量産機、亡国機業の内部では『ガスマスク』と言われている機体の後継機らしきものだ。

 

アドルフはこの機体と直接戦ったことはなかったが、ここ最近はゼロが渡してきた資料に目を通していたので、どのような性能なのか、積んでいる武装はどういったものが多いのかというのは知識として知っている。

 

「おい、そいつを殺しとけ。俺ちゃんは脱出の準備をする。さよならだ、我が愛しくてクソむかつく息子ォ!」

 

ゲイルは踵を返して、手を大きく振りながら来た道を戻っていった。

 

残されたアドルフと『ガスマスク』、アドルフは逃げるという選択肢を取ろうとしたが、この距離では一瞬で距離を詰められて殺されてしまう。

 

だが戦うという選択肢を取っても、持っている武器ではダメージをある程度までなら与えることが可能なのかもしれないが、倒すことのできる決定的な一打を与えることができない。

 

もし仮にアドルフがISを使えたのならこの問題は解決するが、あいにくアドルはゼロのように男の身でISを操縦することはできない。

 

一歩一歩、アドルフを惨殺するためにガスマスクが近づいてくる。簡単に殺す気はなく、ジワジワとなぶり殺しにするつもりなのだろう。

 

「さあ、どう殺してあげようか。お姉さんが優しく殺してあげる」

 

「…………仕方がない、使うか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くあのジジイにも困らされたものだ。なんで俺ちゃんがこんな辺境の、周りに歓楽街のねえ場所で研究しなけゃなんないんだよ……まあ、それも今日でおしまいなんだけどね」

 

己の研究室で、ゲイルは施設から脱出するための準備を行っていた。

 

上司に対する不満をぶちまけながらも、身支度を整えるその手は緩まることはない。

 

「にしても、この施設を捨てるのは惜しいが、他のところとの兼ね合いもあるし。まあ、一つ目は結果としては成功だが、もう一つがなあ、何を考えてるのやら」

 

研究データをUSBメモリに詰め込み、脱出の準備は完了。後は機を見計らってこの施設から出るだけだ。

 

「もう死んでる頃かなあ、アレ」

 

そんな物騒な言葉の直後のことだ。

 

アドルフ達が戦う広場に繋がる通路の奥から、轟音が迫り、部屋の扉を破壊した。

 

随分と物騒に戻ってきたのかとゲイルは思ったが、次に目にした光景に目を疑った。

 

それは先ほどアドルフと戦うように命じた『ガスマスク』の残骸であった。乗っていた人間ごと殺している。四肢や首は2回転以上捻られ、体の至る所にはパイルバンカーで打ち出された鉄杭が刺さっている。

 

「何だこれは!?どういうことだ、他にISが入ってくる時間はなかった。だったら」

 

ガスリ、ガスリと通路の奥から何かが悠然と歩いてくる。

 

「何だ、まだ逃げていなかったのか」

 

姿を現したのは1機のIS、某国機業の量産機『ライダ』の第三世代用試作機、いるはずのない機体がゲイルの目の前に存在している。

 

「その声……なんで男のテメエが動かせてやがんだ!アドルフ!」

 

ゲイルはISから聞こえてきた声を頼りに搭乗者を割り出した。その声は間違いなく、ISを扱えない男のアドルフのものであった。

 

しかし、目の前にいるアドルフは現実にISを操縦をしている。

 

もしかしたらアドルフ以外の誰かが乗っていて、アドルフの声を利用しているだけなのかもしれないが、ゲイルはその考えを真っ先に消していた。

 

「ISを動かしている?違うな、纏っているのだ」

 

「纏っている?」

 

「そうだ、以前手に入った無人ISを利用したのだ。無人機ならば、一人でに動くだろ。それを纏う。この方法ならば男でもISというものを使える。つくづく、ウチの技術部長の技術の高さには驚かされるよ。とはいえ、相手はブラックボックスだ。無人機には意識のあるコアが必要らしくてな、量産は無理らしい」

 

これはゼロは『趣味の悪いモノ』、リリスは『天災と至高の共鳴』などと言っている。

 

しかしこれには幾つかの欠点が存在し、例えば燃費が悪かったり、絶対防御が発動しなかったりなど。

 

「それで、今からお前を殺す」

 

アドルフは無人機に命令を与えて、右手を固く握りしめる。

 

「ま、待て。殺すのか、親である俺を殺すのか!?」

 

必死に命乞いをするゲイル。

 

僅かでも同情を引くことができたなら、まだ助かる道が存在する。そのためには無様にならねばならないと思っている。

 

「殺す?大丈夫だろ、お前はどうせ前と同じクローンだからな!!」

 

冷血な拳は本物のゲイルの頭を砕いた。

 




今回の無人機の独自設定、出して良いのか最後まで悩みました。

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