七月の中旬、今僕のいえでは兄弟三人でご飯を食べてもいないのにテーブルを囲んでいる。その理由は夏休みについての事だ。
「一夏、私と百春が剣道の合宿が重なってしまってな。お前はどうするんだ?」
姉である千冬姉が僕の目を見てきた。姉さんと弟はなかなか強いらしい。僕には夏休みの予定がない。姉さんは家を開ける一週間、僕が1人になるのでそれを心配しているのだろう。
「1人で過ごすよ」
僕が返事をすると「そうか……」と言った。
「だが一夏、本当に大丈夫なのか?」
姉さんがそう言うと、今まで黙っていた弟が口を開いた。
「兄さんが大丈夫っていってるんだからいいんじゃないの、千冬姉」
姉はそのことばをきくと黙ってしまった。
翌日、今日は終業式。僕はいつもの様に図書館でアリサと過ごしていた。僕はよく図書館にいる。僕は授業が退屈な時はよく抜け出して、この図書館の司書室で勉強なんかして過ごしている。司書の先生はしかるかと思いきや、別に先生にも報告したりするどころか、僕を匿ったりする。それが二年生ぐらいからの僕の過ごしからだ。それでも成績は悪くない、弟には劣るがな。最近ではアリサも一緒に過ごしている。
「一夏くん、ちょっといい?」
アリサが話しかけてきた。僕は本から眼を離して、対面に座っているアリサに眼を合わせる。
「その……夏休みなんだけど、良かったら一緒に旅行にいかない?」
「旅行?別に夏休みの予定は何もないから、別にいいけど。お金はどうするの?」
僕が言うと、アリサは「大丈夫」と呟く。
「お父さんが一夏くんの分もだしてくれるらしいよ」
皇さんが……だったら好意を無駄にしちゃいけないな。
「いいけど、日にちは?」
「えっと」
アリサが旅行の日程を言うと、偶然にもその日は姉さんたちが合宿に行く日だった。
「わかった、いいよ。それで何処に行くの?」
「ハワイ」
そして、時間は過ぎて旅行当日。学校の校門の前で待っていた僕にアリサの家のリムジンが止まった。僕はリムジンに乗り込むとアリサ達が歓迎してくれた。
そして飛行機に乗ってみて僕は驚いた。僕はエコノミーに座ると思っていたが違った。何故かファーストクラスだった。ファーストクラスってあれなんですね、凄いんですね。色々と。
そして無事に空港に着くと、僕たちはホテルに向かった。ホテルにチェックインして部屋に入ると、僕はかなり驚いた。なかなかに広く、ベッドは3つありベランダからはハワイの綺麗な海が見渡せる。こんなところで一週間近くも過ごすのか。
「凄え……」
思わず言葉を漏らしてしまった。それほど迄すごかった。
「ははっ、気に入ってもらって良かったよ」
皇さんが僕に言ってきた。
「すいません、僕の分も料金を支払ってもらって……」
僕が申し訳なさそうに言うと「気にしなくていいのよ」とレインさんが言ってきた。
「子供がそんなこと気にしちゃダメよ」
「一夏くん、早く海いこ!」
アリサもテンションが上がっている。僕も海に行きたいのだが、もう時間は遅い。
「アリサ、海なら明日でも行けるだろ。それに一夏くんも疲れてるし、明日いこうな」
皇さんがアリサを宥めた。宥められたアリサはしゅんとしていた。その後僕たちはホテルで料理を食べた後、明日に備えて就寝した。何故か僕とアリサが一緒のベッドだった。
翌日
「一夏くーん、早く早く!」
アリサがビーチを走っている。僕はその後ろを追いかけて、皇さん達はニコニコと微笑んでいる。
僕は水着の上に水色のマリンパーカーを羽織っている。アリサはフリルのついた水着の上に僕と同じ様なマリンパーカーを羽織っている。
「待ってよ、ちょっと」
アリサがはぐれたらいけないから僕はアリサを追いかける。
アリサに追いついて、皇さん達の元に戻ると、すでにビーチパラソルなどが用意されてた。僕とアリサは一緒に水遊びをした。
その後、一休みするためにビーチパラソル迄戻る。そして、昼食を取るためにホテルに戻る。ホテルのレストランはバイキング形式なので食べる分を取って席に戻る。少ししてからアリサとレインさんが戻ってきたので、食べ始める。やはり高級ホテルのレストランということもあってかかなり美味しい。
「おー、皇じゃねえか。偶然だな」
突然、誰かがこちら側に声をかけてきた。声のしたほうをみて見るとそこには金色の髪のダンディーな男性とクリーム色の髪の女性、そして女性の手を握っている僕と同じくらいの年齢のクリーム色の髪の少女。
「ジル、それにシェリル!久しぶりだな」
皇さんとレインさんは立ち上がって、ジルと名乗った男性達との会話に華を咲かせる。残された僕たちはどうしようかと悩んでいたところ、少女がこちらに近づいてきた。
「ティファニア・ノームです。よろしくお願いします」
ぺこりと僕たちに挨拶して来る。僕たちは一瞬あっけに取られたがすぐさまこちらも自己紹介する。
「誘宵アリサです」
「織斑一夏です」
僕が名前を言うとジルさんが此方を見てきた。その顔は信じられない様な物を見る様な表情だった。そのまま首だけを動かして皇さんを見る。皇さんは首を縦に振って何かを肯定する。
それから僕たちはノームさん達と一緒にご飯を食べた。
ご飯を食べた後、僕らは再びビーチに戻った。今度はティファニアと一緒に水を掛け合って遊んでいる。レインさんとシェリルさんは此方を暖かく見守っているが、皇さんとジルさんの姿が見当たらない。
「一夏くん、泳ご」
一旦、ビーチパラソルまで戻るとアリサがマリンパーカーを脱いでそう言ってきた。ティファニアもきていたパーカーを脱いで泳ぐ準備をする。
「いや、僕は着たままで大丈夫だからさ」
すると、ティファニアが僕の前に立つといきなりパーカーを脱がせ始めた。
「そんなこと言ってないでほら!」
「いや、本当に大丈夫だから!」
抵抗も虚しく僕はパーカーを脱がされた。
「おい皇、あの一夏ってのはもしかして」
「もしかしなくてもそうだ。織斑って名乗ったんだから気づくだろう」
ホテルの中にあるカフェ、そこに誘宵皇とジル・ノームはいた。二人の目の前には珈琲が置かれている。
「お前、いつあいつと知り合ったんだよ」
飲んでいる珈琲をテーブルにおいて一息つくと、皇は話始める。
「ついこの前だよ。娘が友達を連れて来るっていったら、そしたらそれが一夏くんだったんだよ」
「マジかよ……とんだ偶然だな」
「ああ、僕もそう思っているよ。まさか娘と同じ学校に通ってるなんてね」
軽く苦笑いしながら話す皇、その様子を見たジルはしっかりとした眼で皇を見る。
「だがまだ信じられねえぞ、あいつにはあれがあったのか?」
「さっき確認したけど、二つ。それも綺麗にあったよ……」
「二つ!マジか……」
皇の言葉を聞いたジルは額にてを添えて思わず天井を見る。
「やっぱり、彼は数児たちの息子だよ」