インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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ストレスかなあ。


世界最初の男性IS操縦者

 

「あー、やる気ねえ」

 

訓練もない日、グレイは一夏の部屋に備え付けられてあるソファーの上でだらしなく寝転がりながら、そんな事を呟いた。

 

「うるせえな、グレイ。ついさっきまで総帥の使いで任務に行ってたんだよ、その前はモノクローム・アバターでの任務。疲れてんだよ」

 

ベッドの上で寝転がりながら、一夏は悪態をついた。

 

「まあ、そう言わない。一夏も苛つくのは良くないよ。それよりも、そろそろ映画が始まるよ」

 

ソファーに座っているジークが一夏に話しかけると、一夏はベッドから起き上がると、グレイ、ジーク、アドルフがいるソファーに移動する。

 

「……今日は、何だ?」

 

ソファーの前のテーブルに置かれてあるポップコーンをつまみながら、アドルフはテレビ番組を尋ねた。

 

「確か、コメディ系ミリタリーの作品じゃない?でもやっぱり、軍を退役した元軍人が誘拐された愛娘を救出する奴とか見たいな」

 

「アフリカで特殊部隊が正体不明の地球外生命体に狙われる話もいいなあ」

 

「……未来を変えるために、現代に殺人アンドロイドを送ってくる話」

 

「お前らの趣味偏りすぎてねえか?」

 

そんな事を話しているうちにテレビに映画が映り始めた。四人は何も言わずにテレビの画面を見始める。

 

20世紀キツネさん特有のテッテレテーな音楽のオープニングが流れ始めると、四人のテンションは最高潮に上がった。

 

日本ではそろそろ受験シーズン終盤だなあと一夏はふと思ったが、最終学歴が幼稚園卒業か小学校中退かよくわからないので関係ないと思った。

 

よくよく考えたら小学校中退はヤバイと思ったが、マドカも同じ様なモノなので、一夏は気にしないようにした。

 

映画が始まり、四人は取り敢えずテンションをあげた。普段は戦場で歴戦の猛者を狩っている戦士ではあるが、こんな時だけは年相応の幼さがうかがえる。

 

こんな時にハシャがなくて、何が亡国機業の一員だ。亡国機業の戦闘員のモットーは巫山戯れる時に巫山戯ろだ。

 

明日死ぬかもしれない。だから悔いの残らない様に今を愉しむ。行事やイベントも全力だ。クリスマスの日には、デスメタルを歌って邪教崇拝紛いの事を行う奴もいる。

 

 

 

そして、映画が盛り上がる場面になったところでいきなり画面の映像が変わり、女性キャスターが現れた。

 

『臨時ニュースが入りました』

 

「は?なんだよこれ、いきなりニュースかよ。三流映画だな」

 

ポップコーンをつまみながら、グレイは悪態をついた。

 

「ドンパチやれよ、ドンパチ。それともニュース読みながら機関銃ぶっ放すのか?」

 

「ドンパチ!ドンパチ!」

 

「イエス!」

 

「ドンパチ!ドンパチ!」

 

酒が僅かに入り、かつ日頃の鬱憤やストレスが溜まっている四人は既におかしなテンションに突入し、常人では理解し難いコールを叫び続けている。

 

そんな四人の要望を画面内のニュースキャスターは聞くわけもなく、淡々とした様子で原稿を読み始めた。

 

『先ほど日本で、世界最初の男性IS操縦者が見つかりました。名前は織斑百春。元ブリュンヒルデ、織斑千冬さんの弟だそうです』

 

ニュースの内容が読み上げられると、その場にいた四人は沈黙した。

 

 

……そんなわけない。

 

 

「うるせえよ、いちいちその程度の事で臨時ニュースなんてしてんじゃねえよ!」

 

「男性IS操縦者なんて、何年も前から見てるから見飽きてるよ!映画やれや!」

 

「で、その見飽きてるIS操縦者は何処だ何処だー?」

 

「「何処だー?」」

 

「ここだー!!」

 

一夏はテーブルに右手を突き上げ、片足を乗せながら勢いよく立ち上がると、他の三人は指笛を鳴らしたり、拍手をしながら騒いだ。

 

完全に四人とも可笑しくなってる。

 

「テハハハハ」

 

「モガモガ」

 

「ニャガニャガ」

 

「シャババババ」

 

意味不明な笑い声をあげる四人。

 

「この調子なら、映画は中止だろうな。マジで俺たちの癒しを砕いた奴ぜってえ許さねえ!」

 

「いいのかぁ?弟じゃねえのかよ」

 

「何年も会ってねえし、あいつらの場所に戻る気もねえし。俺が戻るなら、俺を愛し、俺が愛する人の元にだ」

 

「うわー、キザな事言うね。一夏も」

 

冗談を言ったりや茶化しながら笑い声を上げていると、執務机の上に置かれてある携帯電話がなり始めた。

 

一夏はソレに気づくと、ソファーから立ち上がり、執務机に近づいた。

 

携帯を手に取り、通話ボタンに手をかけ、耳に当てる。

 

「テハハ…………はい、一夏です」

 

巫山戯た笑い声を挙げていたのが嘘だったかのように、一夏は一瞬で気持ちを切り替えた。

 

『一夏、今の見た?』

 

通話の相手は上司であるスコール・ミューゼル、その人だ。

 

「ああ見ましたよ、主人公が彼女を救うためにバターナイフ一本で銃を持ったテロリスト達に立ち向かうシーンでしたよね?」

 

至極真面目に一夏は答える。

 

『…………貴方が何を見ていたのか察しがつくけど、そっちじゃなくてニュースの方よ』

 

「ああ、そっちですか。確か世界で最初の男性IS操縦者の登場ですよね?世界で最初の男性IS操縦者ですか、その御尊顔を一度でいいから目にしたいですね」

 

『鏡を見なさい。今すぐミーティングルームに集合』

 

「……唖々、わかりました。では十分後に伺います」

 

一夏は電話を切り、執務机に置いた。

 

「おら、今日は解散だ。いきなり仕事が入った」

 

二度手を叩いて三人に促すと、三人は少し不満げな表情をしながらソファーから立ち上がり、扉に向かって行った。

 

「おい……片付けしろよ」

 

 

 

 

 

結局、四人で一夏の部屋を片付けた後、一夏は亡国機業の制服に着替えてミーティングルームに向かった。

 

「座って」

 

部屋に入るやいなや、既に部屋にいたスコールに促され、ソファーに座った。

 

「まず最初に聞きたい事は……貴方以外にISを操縦する男がいると思う?」

 

「…………いるだろうな。私的意見ですが、ISの中の意思が最初に触れたのが束さん、つまり女性です。だから女性はISを動かせる。そして俺はISに気に入られたから、ISを動かせるようになった。だから、俺とよく似た遺伝子を持つ百春は動かせる。あとは……そうですね、例えば俺のクローンも動かせるかもしれませんね。あくまで憶測で言ってるだけですけど」

 

ソファーによりかかり、差し出された紅茶を飲みながら、一夏はスコールに対して自分の意見を言った。

 

スコールはなるほどと手を顎に当てる。

 

「それで……要件はそれだけじゃないはずだ。わざわざ呼び出すくらいだからな。今回の事もニュースで報告されるよりも早く、情報をつかんでいたはずだ」

 

「あら、ばれた?そうね、貴方の言う通りよ。そして本題だけど、総帥命令で私たちモノクローム・アバターはIS学園に対して当たる事になった」

 

「IS学園にねえ……彼奴は研究所じゃなくて、IS学園に送られるのか。あの爺、あの場所は自分が用務員として働いていたはずだが。まあ、どうでもいいや」

 

飲み干したカップをテーブルに置いて、一夏は天井を見上げた。

 

「具体的には何するんだ?」

 

「主にデータの採取かしら。それと彼を狙う組織の撃退。そんなところかしら」

 

「なら他の部隊でいいだろ。わざわざ俺たちじゃなくて」

 

「それは無理よ。今回の任務は少数で挑む事が多くなるから、私たちが適任なのよ」

 

亡国機業の実働部隊の中には幾つかのIS部隊があるが、それぞれコンセプトが異なる。

 

あるモノは工作、ある部隊は多数による殲滅。

 

そしてモノクローム・アバターのコンセプトは少数精鋭。班員の数は存在する部隊の中で最少だが、班員一人一人の実力と一機にかける金の量は突出している。

 

機体で言えば、スコールのゴールデン・ドーン、一夏の黒零、そして最近になって黒零と同じようにNo.004が設計して作り上げたティファニアのシエル。

 

これら三機を創り上げるだけでも、量産機十機以上の金が絡んでいる。

 

しかし、その分性能も量産機と比べれば高い。

 

班員一人一人の実力にしてもそうだ。少なくともこの部隊に入るためには最低でも代表候補生クラスの実力が必要であり、毎年毎年入隊を希望する人間が後を絶たない。

 

その中でも一夏とスコールの二人の実力は班の中でも突出している。それこそモンド・グロッソで上位入賞、または優勝を狙えるほどである。

 

「最悪の場合は、弟くんと戦う事になると思うわよ。それに織斑千冬ともね」

 

「構わん。とうに袂を別ったからな」

 

一夏はソファーから立ち上がると、扉に向けて歩いて行った。

 

「黒零の調整を行ってきます。さっきからどうもこいつが騒いで煩いんですよ」

 

一夏はそれだけを伝えると足取り強く、部屋から出て行った。

 

出て行く一夏の背中を見て、スコールは寂しさを覚えた。

 

 

 

さあ、いざ舞台へ


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