インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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一番好きなロボットアニメはマクロス7

ISは…………うん。


孵化

 

『黒零』の制作開始から一週間ほど経ったある日、ソレは遂に完成した。本来ならばもう少し時間のかかって良いものなのだか、流石は天災達の所業。

 

現在は黒零の最終調整の為に実践を行おうとしている。

 

ISの訓練施設の中にあるピットに立ち入り、一夏の目に最初に飛び込んできたのは一つの塊。灰色のまるで卵のような造形のソレは、相棒が来るのを今か今かと待ち望んでいる。

 

「やーいっくん、ようこそ」

 

ニッコリと笑い手をふりながら篠ノ之束が待っていた。

 

一夏は羽織っていた上着を脱ぎ、近くのベンチに置く。ISスーツだけを着た状態で束に近づく。

 

「完成……したんですね。黒零なのに、白?」

 

自分の愛機となる黒零を撫でながら、一夏はそんなことをつぶやいた。

 

「正確に言うと、それはまだ初期段階。今から戦闘して一次移行させることでようやく完成。普通だったら、戦わなくてもいいんだけど、この子は戦わないとダメみたい」

 

ポンポンと機体を叩きながら、束は優しく微笑んだ。

 

黒零が変形して、一夏を招き入れる。胸の装甲が開き、座り込むような形になる。

 

「よっと」

 

一夏はISに乗り込む。胸部が閉まり、全身を装甲が包んでいく。ヘルメットの内部に映し出される映像を確認していく。

 

異常がないことを確認し、ゆっくりと立ち上がる。

 

体を細かく動かす。

 

「調子はどう?」

 

「問題ない。少し重い気がするが、すぐになれると思うさ」

 

一歩一歩歩き出して、発射台の上に乗る。

 

「じゃあ、いっくん。私は管制室で見守っているから頑張ってね」

 

それだけを言って、束は外に出て行った。

 

たった一人残された部屋で一夏は意識を集中していく。これから戦う相手はスコール、しかもスコールが乗るのは亡国機業の第三世代の最新型IS『ゴールデンドーン』。

 

油断して戦える相手ではない。

 

「……ゼロ、準備は良いか?」

 

一夏は天井を見上げたままここに居ない誰かに声をかける。

 

「……無視かあ」

 

返事が無いので悲しくなった。

 

一夏は気を取り直して、アリーナにむけて飛び立った。

 

「武装は……ビームガンと実体剣……酷だな」

 

装備の少なさを嘆きながら、一夏はスコールの元まで飛んでいった。

 

「調子はどう?」

 

全身装甲型のISに包まれながら、スコールはたずねてきた。

 

ゴールデンドーン、この機体の特徴は炎。さらに臀部から伸びる蠍の尻尾のような装備。

 

「さあ、どうでしょうかねえ」

 

リラックスした様子で返答する一夏。

 

「そういえば、こうして貴女と本気で戦うことになるのは初めてではないか?」

 

「そうね……確かに最近は戦ってなかったし」

 

一夏はスコールとは以前は何度も戦ったことがある。しかし、それは常にスコールが手加減して戦っていた。

 

だが今回は違う。

 

リリスと束からの要求は本気の殺し合い。それも一夏の闘争心を極限まで高めるためのモノだ。

 

現在のスコールと一夏の戦闘能力はほぼ互角と言っても語弊はないだろう。

 

故に。

 

「さあ、行きましょうか」

 

一夏は昂りを感じる。

 

右手に実体剣を構え、スコールの出方を伺う。

 

「なら……行くわよ」

 

スコールの両手から攻撃用の爪が伸びる。

 

そして。

 

衝撃が走る。

 

剣と爪がぶつかり合い、甲高い音を響かせる。

 

一瞬前までの呑気な会話の雰囲気は消え去り、互いが互いを殺そうと必死になっている。

 

戦闘は既に並のIS操縦者の領域を超えている。両者の実力は国家代表、それも上位にはいるほど。

 

そんな両者が遠慮もなしに殺しあっている。

 

 

 

一夏は右手に持った剣のみで、スコールの両手からの攻撃を凌いでいる。

 

「炎は使わないんです?」

 

「なら使って、あげようか?」

 

ゴールデンドーンの尻尾につけられてある顎が大きく開く。獲物を捕食するために。

 

尻尾がうなり、一夏を捕食しようとする。

 

一夏は剣で爪を大きく弾くと後方に大きく飛んだ。

 

「逃げるの?貴方らしくないわね」

 

ゴールデンドーンの両手と尻尾の先端から火球が打ち出された。火球は全て一夏の元に飛んで行く。

 

「ふっ!」

 

それを一夏は一振りで打ち出された三つすべてを切り落とした。だがスコールはさらに何十の火球を打ち始めた。

 

一夏は速度を変化させながらスコールの周囲を飛び回り、火球を躱していく。

 

どのタイミングで仕掛けるのかを探る。左手にビームガンをコール。直撃コースにある火球を撃ち抜いていく。

 

(近づいたところで、スコールさんにはプロミネンス・コートがある。下手な攻撃ならふせがれしまいだ)

 

……一撃だ

 

一撃で切り裂くしかない。

 

瞬時加速でスコールとの距離を一気に埋める。

 

スコールはその動きを見切り、自分の周囲に球状のエネルギーフィールドと火炎の合わせ技、プロミネンス・コートを展開する。

 

この武装は現在亡国機業に存在しているどのISの防御より堅牢である。

 

一夏はその鉄壁の防御に剣を突き立てる。速度と力任せにこの盾を打ち破ろうと試みる。

 

「無理よ、この盾はそんな簡単には破れない」

 

「わかってる!」

 

一夏は空いている左手にビームガンを展開し、剣とバリアの間目掛けて連射した。

 

剣がバリアに沈み込んでいく。もしかしたらバリアを敗れるかもしれない。だがそうは上手くいかない。

 

「貴方らしくないわね」

 

プロミネンスコートを内側から突き破り、ゴールデンドーンの尻尾が一夏を捕まえた。

 

一夏は攻撃を避けようとしたが、反応が遅れてしまった。

 

「……反応速度が遅いわね。普段の貴方なら簡単にかわせたはずなのに。そうしなかったのはまだ機体に慣れてないから。だから貴方は焦ってらしくない事をした」

 

「ご名答」

 

スコールが地面に向けて落下していく。尻尾に掴まれる一夏もそれに合わせて落下していく。

 

「はあ!」

 

尻尾が鞭のようにしなり、一夏を地面に叩きつけた。受け身も取れずに背中から叩きつけられ、気を失いかける。

 

だが直ぐに追撃が入る。ほぼマウント状態からの火炎と爪のの連続攻撃。一夏はこれを今のこの機体の唯一の長所ともいえる頑強な装甲で防ぐ。

 

「どうしたの?貴方の力はそこまでなの?」

 

「くっ!」

 

「ここに来てから何も変わってないのね。貴方は自分が何かを失って傷つきたくないから戦っている。自分のセカイのためにたたかっている。それなのに、弱いまま」

 

「……あ?」

 

「弱いから失うの。これじゃあ、あの織斑千冬以下ね」

 

「…………俺は、俺は」

 

爪からの攻撃を素手でつかんだ。

 

「俺だアアアアアアア!!」

 

そしてそのまま起き上がり、スコールを投げ飛ばした。スコールは空中で体制を立て直して、着地した。

 

一夏にとって織斑千冬との比較はタブーである。最近はなりをひそめていたが、この場所に来た当初は比べられるだけで激怒していた。

 

それが今再び。

 

様子が激変した一夏を見て、スコールはヘルメットに顔を隠されたまま笑った。

 

「そうよ、それでこそ貴方よ。貴方は貴方。それが私が惹かれた織斑一夏よ」

 

両手を広げて喜ぶスコール。

 

一夏はそんな様子のスコールの元に武器を捨てて突撃していく。

 

激昂しながらも精彩さをかくことのない、四肢から放たれ続ける芸術的な連続攻撃。

 

「そうよ、それで良い。もっと闘志を高めて」

 

攻撃の隙間をぬって、スコールは一夏を蹴り飛ばした。

 

一夏は地面を転がりながらも、最後には地面に立った。

 

興奮している。

 

内側から何かが弾け出ようとしている。

 

それは一夏にとっては久しぶりに感じられる悦びであった。

 

両手で頭をガシガシと乱雑に掻き始める。

 

「来やがった……」

 

不気味に笑いながら一夏は呟いた。

 

「一夏、行くわよ」

 

スコールの上空に巨大な火炎球が出現する。ゴールデンドーンが作り上げられる最大のサイズにして最強の火炎。飲み込まれればISと言えどただでは済まないだろう。

 

それを一夏は両手を広げてその火炎を招き入れる。

 

火炎球は一夏の肉体を飲み込み、半球状に広がる。

 

その様子を見てスコールはヤバイと感じた。まさか避けないとは思わなかった。

 

手加減なしの一撃は下手すれば絶対防御を貫き、パイロットを殺してしまうかもしれない。

 

しかし、その心配は杞憂に終わる。

 

火炎の中で一夏を中心にまるで壁でもはられてあるかのように炎の侵略を阻んでいる。

 

「孵化の始まりだ」

 

黒零の灰色の肉体が胎動を始める。母胎の中で存在を証明させるかのごとく。

 

火炎の子宮の中で黒零は急速に変化していく。

 

「時間か?」

 

『時間だ』

 

俺達(オレ)は」

 

『一人』

 

「行くぞ、相棒」

 

『行くぞ、相棒』

 

「『生まれよ、黒零」』

 

火炎を吹き飛ばし、戦士は生まれる。


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