あとアロガントスパークまじヤバイ。マンガ読んで久々に怖いと思った。
亡国機業開発部開発長室、ここには現在二人と一体がいる。
一人は織斑一夏、世界で唯一の男性IS操縦者であり、亡国機業実働部隊『モノクロームアバター』の副隊長であり、総帥警護長の役職も兼任している。IS乗りとしての実力も申し分なく、現在では亡国機業内であれば五本の指には確実に入る。
二人目は一夏の上司であるスコール・ミューゼル。
そして最後に開発局長、電脳妖精リリス。
「それでリリス、今回の件に関して総帥は何て言ってたの?」
スコールはディスプレイに写ったリリスに問いかける。
「それが、予算の事は考えなくて良いらしい。今回の事は亡国機業でもある程度の利益を得られると考えたのか……それとも唯孫が可愛いだけなのか」
「孫が可愛いは余計だ。予算考えなくていいって…………このIS作るのに普通の量産機何機作れんだよ、一とか二じゃねえよ。五機は作れるぞ」
机の上におかれた書類を睨みつけながら一夏はそんな事をつぶやいた。
今回集まっている理由は一夏にNo.000のコアが送りつけて来たIS設計図について話し合うためだ。
「しかしこれが完成し、一夏が乗ったとすれば、そこいらの兵士が乗った五機のIS以上の戦力になるとは思うがな」
「それって、俺に五倍働けって事か?俺の一日は百二十時間じゃなくて、二十四時間だという事を知ってたか?」
「初耳だ」
「なら、その莫大な頭脳の半分の容量使って刻んどけ」
全く笑わずに目を合わせずに軽口を言い合う二人。
「それより、これどうやって制作するつもりなの?性能は今までのISの中でダントツだけど、幾つかの作業で無理が生じてくると思うのだけど」
脚をくんで設計図を読んでいたスコールがリリス訪ねた。
無理が生じるという事は亡国機業の技術力を持ってしても不可能な部分が生まれてくるというわけか。それとも別の理由か……
「特にこの『精神力発生装置』ってなんだよ、聞いた事ないぜ。マジでこんなもの作れるのか?リリスさんよお」
設計図の一部を手の甲で叩きながら、一夏はたずねる。
精神力発生装置は今回制作するIS『黒零』の象徴とも言えるもので、電脳妖精のリリスでさえ全てを理解してはいない。
「そうだ、問題はそれなんだ。流石の私でもこの装置に関してはよくわからない事が多い。だから今回は専門家に任せようと思う」
「専門家?誰だよ……」
一夏の動きが止まる。そしてゆっくりと懐に手を伸ばして、拳銃を取り出した。
安全装置を解除して、天井の排気口に銃口を向ける。
人の気配。
「誰だ降りて来い。イーサン・ハントのつもりか?三秒以内におりてこなければ発砲する」
その言葉の直後、通気口の蓋が落下して一人の女性が落ちて来た。一夏は暫くの間、銃を女性に向けていたが、女性が誰かわかると安全装置をして懐に銃を収めた。
「何やってるんですか、束さん」
呆れ顔で一夏は言った。
落ちてきた女性は篠ノ之束。ISの生みの親。
「いやー、久しぶりだねいっくん。今日はそこの妖精さんに招待されたんだよ」
ビシッと指差した先には『私だ』と書かれたプラカードを画面内で担いでいるリリスがいた。
「ISの専門家はISの生みの親が一番だろ?だから彼女をこの本部に招待したのだよ。無論、総帥からの許可は頂いている」
「そーゆーこと。そこのリーちゃんと知り合ったのは前にいっくんが私の船にやってきた時。それから何度か交信があったんだよ。彼女には聞きたいことがあったからね、電脳妖精のなりかたとかね」
ジェスチャーを加えながら話す束。
そこに今まで呆然としていたスコールが話しかけた。
「あの、篠ノ之博士。私、スコール・ミューゼルと申します。以後よろしくお願いします」
軽く自己紹介を済ませてスッと一礼するスコール。束はその様子を見て、固まった。
「あ、はい。よろしくお願いします」
ぎこちない様子で挨拶をする束。それを見たスコールはそっと一夏に耳打ちをする。
「なに、私嫌われたの?博士の様子が何処か変だけど」
「大丈夫です。唯の人見知りですから、暫くすれば慣れてくると思いますよ。そしたら、テンション高く話しかけてきますから」
「そう、それならいいけど」
「それで、本題に戻りましょうか。束さんが今回来たのはこのISを作るためでしょ」
スコールと一夏を無視して、自分たちの世界に入り込み、良くからない議論をし続けている束とリリスを一夏は引き戻した。
「あー、うんうん。そうだね、彼女との議論が楽しくて忘れてたよ。それで、ISについてだよね」
束は空間投影式ディスプレイを展開させる。そして凄まじい速度でキーボードに何かを打ち込んでいく。
リリスもそれに合わせて作業をしていく。そして部屋に備え付けられてある巨大なモニターに束の画面が表示される。
「今回いっくんに届いたその設計図、ソレはNo.000のコアがいっくんの為だけに作り上げたもの」
「ゼロが?俺に?」
「そう、コア自体が蓄積した戦闘データを元に自らが選んだ相棒の為のISを制作する。始まりの五つのコアにしか搭載されていないというか、あのコアたちが勝手にやってることかな」
「つーことは、俺の他にはティファとアリサにもソレが作られるってことか?…………あれ?」
何故アリサが乗っているのがわかったのか、一夏にはわからなかった。
「それで、その設計図で作り上げたISは特徴があって、その作り上げたコアと搭乗者にしか反応しない。しかし、性能は普通の機体よりも高い」
モニターに合わせてたんたんと説明していく束。その説明は暫く続き、ようやく終わった。
だが話の本番はこれからだ。
「それで今回のISの制作に関してだが、共同作業でいきましょう。私の方は精神力発生装置を作りますので、後はお願いします」
ぺこりと頭を下げる束。
「了解した。ならば我々亡国機業は後の全てを担当しよう。それで良いか?」
「構いませんよー」
「それでは、制作と行こうか。最高の機体の為に」
技術者たちはまだ見ぬ世界を思い笑った。
「それで、今は何の作業なんですか?束さん」
あれから暫くして、一夏は現在束による精密検査を受けている。亡国機業にある一室で、ISスーツを着て身体中に小さな機械を貼り付けている。
一夏は先ほどから機械を貼り付けまま計測用の部屋の中で束の指示に従って体を動かし続けている。
束はその間ずっと空間投影式ディスプレイと睨めっこしている。
「んー?ISの為にいっくんの生体データをその貼り付けた機械からとってるんだよ、今回作るISは脳波コントロールが可能だからね、それに必要なんだよ」
「なるほど」
体を止めることなく、一夏は体を動かし続ける。
「…………ねえ、兄さん。この状況には何も言わないの?」
「なにが?」
「……いや、なんでもない」
束の膝の上に座らされているマドカが不満そうな声色で一夏に問いかけたが、一夏はそれを躱した。
何故こんなことになってしまったかと言うと、一夏と束がこの部屋に向かう途中にマドカと偶然会ったのだ、いや会ってしまったのだ。
それからの束は凄かった。目にも止まらぬ早技でマドカを拘束。そしてそのままこの部屋に連行すると、自分の膝の上にマドカを乗せて作業を開始した。
マドカはその間、自分の後頭部から感じる胸の感触が酷く気に食わなかった。
「いっくん、次は武器を使って」
「了解」
一夏は壁に立てかけられてある武器を手に取り、扱っていく。
剣、槍、斧、銃と次々に取り替える。
全ての作業は終わるまでに一時間ほどかかっただろう。作業を終えた一夏は体につけられた機械を取り外して、汗を拭きながら束の元に行った。
「良いデータは取れましたか?」
「そうだね、凄いデータが取れたよ。ちーちゃんにも以前これと同じことをしたんだけど、総合的なデータで比較すると今のいっくんとNo.000は全盛期のちーちゃんを凌駕しようとしている」
「そうか……そうなのか」
束から視線を逸らし、壁を見つめる一夏。それは束にとって悲しいものであった。
胎動は始まった。
卵より孵った戦士は……災禍を招く。