そこは無だった。
何も存在しない、何も嗅げない、何も聞こえない、何も感じない。
地に足がついていないのに、浮遊感を感じられない。どちらが上でどちらが下なのかすらわからない。
そこには俺以外何もない。
なぜ俺がここにいるのかがわからない。
気づいたらここにいた。
生まれた侭の無垢な裸の姿で、俺は彷徨い続ける。
不気味な感覚が俺の周りをみたしている。
右腕が痺れてきた。何も動かしていない筈なのに、筋肉が痙攣を起こしてきた。血管が膨れ上がってくる。熱が感じられなくなってくる。
右腕が弾け飛んだ。肉も血も骨も吹き飛んだ。
そして弾け飛んだ肉体の奥から新たな肉体が生まれる。
それは精錬された有機と無機が融合しあった精錬されつくした漆黒の鎧。
ソレは本当に俺の肉体になっている。生まれたソレは溶岩のように熱い血液が流れている。
続いて両脚が吹き飛んで、右腕と同じように脚が漆黒の鎧になる。
そして左腕も同じように。
四肢の全てが自分の肉体でない、全く異なる鎧になる。
無機と有機の完璧なる融合、矛盾を吹き飛ばした姿。左右の腕の形状が異なりアシンメトリーを作り上げている。
肉体の熱が上がる。薄い皮膚の内側で肉が、骨が、血管が、内蔵が融解した鉄のようにドロドロと溶けていく。それはまるで幼虫から成虫へと進化するための蛹の中のように、姿を変質させていく。
そして、俺の全てが鎧に変わる。外面は血の通っていない冷徹さを押し出してはいるが、内面はそれとは真逆に灼熱が通い続ける。
これは俺の肉体ではない。だが俺の肉体である。
名前は知らないはずなのに、俺はこいつの名前がわかる。
そうだこいつの名前は…………
目が覚めた。
思い返してみれば、不気味な夢であった。自分の肉体が変質してしまう夢。
気分でも直すか。
ベッドから起き上がり、カーテンを開けて朝日を浴びる。時間は太陽の位置から推測して、およそ朝の六時。いつもより少し遅い。
このところ訓練をより過酷にしたからなのだろうか、妙に疲れてしまっている。マドカやティファからは心配されているが、強くなるためにはやめるわけにはいかない。
薄暗い部屋を朝日が満たし、清潔感を生み出す。
「……ん?メールか?」
執務机に置かれてある支給されたタブレットにメールが届いている。
執務机に近づき、タブレットを手に取るとメールの中身を確認する。
差出人は…………
その名前を見た時に俺は急いでメールを開いた。メールには一つのファイルが添付されており、それをタッチして開く。
ファイルの内容は……ISの設計図であった。その設計図に簡単に目を通す。リリスのような専門家ではないが、ある程度の知識は有しているため、少しは読み取れることができる。
その設計図は余りにも異質すぎた。今までみたどの機体よりも斬新で、新鮮で、衝撃的であった。
これはNo.000が作ったモノであろう。それも他の誰でもない、ただ俺を乗せるためだけに作り上げたモノであろう。この機体こそが俺とNo.000に相応しい。
世代は今現在亡国機業でも少しだけ生産され、隊長、副隊長にのみ与えられている第三世代と同じだろう。性能も生産されているのより高い。そもそもこの機体を世代という枠に嵌めていいのかさえ不明だ。
この機体の名は…………
「
というわけで、二章はこれで終わりです。
次回から三章「IS学園」編です。そしてそれが終われば最終章、オチは考えているから後は書く気力が必要なのさ。
これからも暖かく見守ってください。