インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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破壊者

 

ビームブレードを構える。

 

静かに、静かに心の奥底より静謐な殺意を汲み上げる。汲み上げたモノは器に注ぐ。

 

さあ、力を貸せ。

 

殺せ。

 

落ちろ、堕ちろ、墜ちろ。

 

全てを(ゼロ)にしろ。

 

零落極夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵を背後から瞬時加速を行い、一瞬で距離を詰め、防御をする腕ごと一人の兵士の首を刎ねた。

 

首の飛んだ胴体を蹴り飛ばし、戦いの中心に突入する。

 

「ゼロ!?大丈夫なの?」

 

突入してきた俺に驚いたのか、スコールさんが珍しく慌てた様子で声をかけてきた。

 

「エムから補給を受けてきました。戦えます」

 

スコールさんが聞きたい事はこんなことじゃない。でもその事から逃げてしまった。

 

「シルヴィアは…………そう」

 

スコールさんは俺の様子でシルヴィアさんが死んだといういうことに気づいた。声色が凄く落ちていた。

 

「……すいません、俺のせいです」

 

「気にしないで。職業柄、慣れてるわよ」

 

そんな事を言ってはいるが、スコールさんは凄く辛そうだ。長年付き添ってきた相棒を亡くしてしまったのだ、それはとても辛い。

 

けれどその事を俺に悟らせまいと必死に強がっている。

 

「スコールさん、ここは俺が殺ります」

 

「駄目よ。貴方のIS左腕が動かないでしょ。それなら無理させるわけにはいかないわ」

 

スコールさんのいう事は正しい。

 

けどここで俺がケジメをつけなけゃいけないんだ。

 

「零落極夜が発動してます。下手したら、皆を巻き込むかもしれません」

 

「……わかったわ、なら貴方が主体でやりなさい。私たちが援護するから。オータム、ティファ、聞こえた!」

 

スコールさんが回線を繋いで他のメンバーと連絡を取る。

 

「「了解」」

 

近くで戦っていた二人が返事をする。

 

「ゼロ」

 

冷たい声音でスコールさんが俺に話しかける。

 

「了解」

 

スラスターを吹かし、敵に向かう。あのスカーラとかいう奴だけは、この場で殺してみせる。

 

今俺が一人殺したために残りの敵の数は四人。そのうちの三人はかなりの実力者、一人相手にするだけでもきつい。

 

けどやるしかないだろ。

 

「戻ってきたのかい」

 

ガーベラがこちらに突撃して来る。手にはランスを構えている。

 

零落極夜の刃を振るう。風を切り、空を裂き、命を刈る。

 

黒い軌跡を描き、ガーベラの持つランスを切り飛ばした。続けざまに胴体を袈裟懸け、しかし直前で後方に下がられ、胸の装甲の表面を僅かに抉る程度の事しかできなかった。

 

胸の装甲を触るガーベラ、無理もない。絶対防御を無効にされ、切られたのだから慌てるはずだ。

 

「全員下がって!ヤバイ!」

 

ガーベラが咄嗟に大声で叫んだ。いい判断かもしれない。だがなあ!

 

俺に正面を向けたまま、ガーベラは高速で後ろに下がりはじめる。背を向ければ殺されてしまうと思ったのだろうか。

 

熱源反応。

 

「ウザい!」

 

横から迫り来る強烈なビームを零落極夜の刃で真っ二つに流れを切り裂く。

 

「嘘?」

 

十字架のISに突撃する。先ほどまで俺たちを苦しめたビームでさえ今は赤子の手を捻るように簡単に無効にできる。

 

「クルーシャ!気をつけろ!そいつは零落白夜が使える。あんたとの相性は最悪だ!」

 

零落極夜だ。

 

十字架から放たれる大小様々なビームの弾丸を打ち消し続ける。

 

敵を間合いに入れ込むなど簡単なこと。一振りでこいつを殺せる距離まできた。

 

十字架もアームの先についている巨大な腕で殴りかかり、体を回転させながら俺に対処する。だがこいつはどうやら接近戦が苦手らしい。ガーベラやスカーラとかと比べたら、下手な部類に入る。

 

一本、左のアームを切り落とした。残りは右の手だけ。

 

構え、切り落とそうとしたところで相手の右手に変化があった。こちらに握り拳を向け、そして打ち出された。それはまさにロケットパンチ。その反動を利用することで、十字架は大きく後退していった。

 

飛んできた拳を一振りで切り落とす。

 

「クルーシャ、戻るぞ。アレはダメだ」

 

「…………わかった」

 

ガーベラとクルーシャとかいうのは戦線から離脱するようだ。

 

だがそいつらよりも殺さなければならない奴がいる。

 

 

 

「死ねええええ!!」

 

俺の背後、上空からスカーラが切りかかる。速度は速いけどなあ……

 

「貴様がアアアアアア!!」

 

振り向きざまに切り上げ、敵の武器ごと、右腕を切り落とした。神速の一太刀。

 

「あ…………ああ!?」

 

宙を舞う右腕、スカーラはそれすら認識できず動きが止まる。

 

金的、浴びせ蹴り、トゥーキック、ムーンサルトキック。ながれるような連続攻撃。

 

手を緩めるな、此処でこいつは殺さないといけない。

 

エネルギー残量を確認……少し極夜を使いすぎたか。

 

ブレードを収縮、落下してきた腕を掴み、その腕で、殴打、殴打、殴打!

 

腕がグチャグチャに潰れていく。血飛沫が飛び散り、肉片が落ち、骨が飛び出る。

 

それでも俺は攻撃をやめない。自機が破損しても、相手が戦意を失おうと、攻撃の手をぬるめることはない。

 

もっと冷静に、冷徹に、冷酷に、冷血に、相手を潰す。

 

「させるか!」

 

    とどめの一撃を放とうとしたところで、ガーベラが戻ってきて、俺とスカーラの間に割り込む。さらにそこに、合わせてビームの嵐。下がったのはフェイクか……

 

使えなくなったスカーラの右腕を放り投げて、ガーベラ達に向かおうとする。

 

しかし機体の動きが止まる。零落極夜を使い過ぎたようだ。もともとマドカから渡されたエネルギーも少なかったため、僅かな時間でからになったみたいだ。

 

空中で動きが止まり自由落下を始める。数メートルの距離を落ち、五点着地で衝撃をいなす。

 

「くそが……あいつ、殺す!腕が腕が腕がアアアアアア!!」

 

「ざまあないね。死なないうちにもどるぞ」

 

スカーラの首根っこを捕まえて、飛びたっていくガーベラ。

 

待てよ……待てよ。

 

動け、あと一撃で相手を倒せるんだ。こんな中途半端な終わり方でいい筈がない。

 

畜生が。

 

「アアアアアアアアアッ!」

 

俺はその様子を何もできず、叫ぶしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺たちは本部に戻った。

 

シルヴィアさんの葬儀は班員とシルヴィアさんと仲が良かった者達だけで行われた。

 

泣いているマドカを優しく泣き止ませながら、俺は涙が一つも出なかった。悲しいのに。

 

それ以上に心がある感情に支配されていた。

 

 

 

いつもシルヴィアさんと珈琲を飲んでいた喫茶店、二人がけのテーブル、対面には誰もいない。

 

今まで二人で過ごしていたが、今は一人だ。

 

目の前におかれてある珈琲カップを手にとり、口に含む。

 

「…………苦い」

 

その珈琲はどうしようもなく苦かった。




ヤバイ、雑になってる。

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