俺は十四歳になった。
身体も順調に育っていき、身長は14歳の日本人男子の平均身長を超える180程度、これでも他のルームメイト三人と比較すると三番目の大きさだ。筋肉も十分つけた。
実力もシルヴィアさんと同等ぐらいになって、シルヴィアさんも俺の成長に喜んでいた。
「一夏、貴方にはこの部隊の副隊長になってもらうわ」
それはある日の出来事であった。スコールさんに呼ばれ、モノクローム・アバターに与えられている部屋にやってきた。そこにはスコールさんとシルヴィアさんがいた。
そして告げられたのが上記の事 。
正直な話、ここ最近の俺の実力はそれなりなってきていた。それもシルヴィアさんとコアの性能の差はあるが肩を並べられるぐらいまでには。
だからこの昇進の話はいつかくるかと思ってはいたが、まさかここまで早いとは。
「それでどうするの一夏?」
「いや、受けたいんですけど。その場合シルヴィアさんはどうなるんですか?」
俺たちの隊は既にシルヴィアさんが副隊長を務めている。だから俺が副隊長になればシルヴィアさんはどうなるのだろうか。
「アタシは今まで通り副隊長のままさ。だから何も心配するな」
いつものような快活にシルヴィアさんは話してくれた。この人には何度も助けられた。
そうかなら心配ないな。
「わかりました。これからは副隊長として恥のないように務めます」
頭を下げる。
「そう、これから宜しくね。それと副隊長からは個室が与えられるようになるから、荷物を整理しておきなさい。今日には引っ越すわよ」
「頑張れよ、一夏」
「わかりました、失礼します」
再度礼をしてから俺は部屋から出て行った。
部屋を出て、扉を閉めて、周りに誰もいないことを確認する。
「うしっ」
小さくガッツポーズをした。
正直に嬉しい。今回の昇進は俺たちの同世代の中でも一番乗りだ。ただ一人の男のIS操縦者という特別性があっても副隊長にはなれない。つまりは実力が認められたということだ。
このまま歩きだしたらスキップしてしまいそうだ。そんな様子を見られるのは十四歳の俺にとっては恥ずかしい。
さて、ならばどうしたモノか。
「あれ?一夏、なにやってんだ?」
声をかけてきたのはここにくる前から、施設にいる時に知り合った、同僚であるオータムがいた。
オータムも大分背丈が伸びて170より少し小さいくらいだ。それに女性的な魅力も増してきた。
「よお、オータム」
近づいてオータムに抱きしめた。。
「どどどどうしたんだ、一夏。お、お前らしくないぞ」
オータムは突然の事に驚いたのか、何度も何度も同じ言葉を言っていた。
「いやさ、オータムは可愛いなあって思ってな」
その言葉を聞いて、オータムの心臓の鼓動が速くなるのが右の胸で感じ取った。
「バ、バカなこというな。お前本当におかしいぞ」
「いやあ、本当に可愛いぞ。最近は大人っぽくなったから、歳上に見られるのを悩んでいるのとか、可愛いぞ」
「お前その話を何処から聞いた!」
オータムは俺からの抱擁を振りほどいて、真っ赤になった顔で尋ねてきた。そんなに恥ずかしかったか?
「ティファとマドカだけど」
「あの二人がああ!!」
オータムは二人の名前を聞いた途端に何処かへ走り去ってしまった。
うん、可愛いなあ。
オータムと別れてから数十分後、俺は自室で荷物の整理をしていた。とはいっても荷物なんて殆どなく、数着の服と学習用の道具と娯楽の本。
荷物の整理はあっさりと終わった。
部屋の中を見渡せばこの部屋で過ごした年月を思い出してしまう。
間違って酒を飲んで酔っ払って暴れたグレイを三人がかりで袋叩きにしたこと。
賭け事でジークとアドルフと手を組んで三人でグレイを破産寸前まで追い詰めたこと。
ああ、なんでこんな事しか思い出せないんだよ、泣きたい。
「一夏、なにしてんだ?」
噂をすればなんとやら、グレイが部屋の中に入ってきた。
「引越しだよ、俺今から別の部屋に移ることになったんだよ」
「なんだ?遂に去勢して女部屋に移ることになったのか」
「てめえをそうしてやろうか?」
「冗談だよ、お前はそういう事を言うな。昔の事を思い出すだろ、お前に口の中に銃口を突っ込まれた事をよ。俺のファーストキスの相手は銃だぜ、銃口だけにな。だから笑って、ね?お願い、目が怖いの」
「するかよ、器具もないのに」
「あったらするんだ。それで本当は?」
「昇進したんだよ、副隊長に。だから一人部屋に越すんだよ」
「そいつはめでたい。それでいつ越すんだ?」
「今からだ、手伝いはいらん。だが部屋にくるか?」
「いいや、後でいくわ」
「へえー、ここがイチカの新しい部屋?」
入室早々、俺の寝るベッドにティファが飛び込んだ。
俺が新しい自室に向かう途中でティファと会った。そして俺が新しい部屋に向かうと知るとついてくると言いだした。
「部屋に入ってまずする事がそれか?」
ティファは二人が並んで寝てもまだかなりの余裕があるくらいの大きさのベッドの上でゴロゴロと寝転がっている。
「ええー、いいじゃん。それよりイチカも一緒に寝よ。最近寝てないじゃん」
「今まで一度でもそんなことがあったか?ごめん、あった」
「だからさ、ね?」
ウインクをして頼み込むティファ。だが一々構っていては引っ越し作業がまともに行えない。
「引っ越し作業が終わって、気が向いたらな」
「……それ、しないやつだよ」
ジト目で俺を見てくるティファ。
それにしても、この部屋はかなり広いな。スコールさんの部屋と同じくらいか?流石は副隊長、扱いが違いますぜ。
トイレや風呂場はもちろんのこと、キッチンに冷蔵庫、テレビやソファーまで、そして執務机もついています。
「それで、イチカ。私は何処に服おけば良いの?」
衝撃的。
「置くの?」
「え?」
「え?」
「だって、ここイチカの部屋でしよ?なら何時でも泊まりにきて良いように置いてても良いよね?」
ああ、そういうことか。
「好きにすれば良いさ」
「ヤッター!じゃあ取りに行ってくる」
ベッドから飛び降りて、ティファは部屋に荷物を取りに行った。
「全く」
ティファが出て行った後、俺は一人残された部屋で作業をし始めた。
一人で生活するには余りにも広すぎる部屋、でも少し時間が経てば慣れてしまうだろう。
執務机の椅子に座り込み、部屋の中を改めて見渡す。
副隊長。
シルヴィアさんの作戦中の行動を見る限り、スコールさんに変わって指示を飛ばすことが多い。それはシルヴィアさんの判断で行っているものだ。
つまり俺にもそういう事が回ってくる事があるかもしれない。
俺の判断一つで仲間が危険を乗り切る事もあれば、逆に危険に陥り、誰か仲間を死に追いやってしまうかもしれない。
重い、重いなあ。
俺はやれるのだろうか。少しばかし怖くなってしまう。
夜、俺の昇進パーティーが一つの大きな部屋で行われた。とは言っても最初に俺が挨拶をしただけで後は特にこれと言ってやる事はなかった。
皆が皆、好き勝手に飯を食って酒を飲んで騒いでいる。俺も少しは酒を飲んだ。こういう席で飲む酒はうまいモノだとわかった。
今は酒を飲んで酔っ払ったのか、ワイワイ騒いでいる輪から外れて一人で隅の方の椅子に座っている。
部屋の中央では何故かグレイとジークが煽られて野球拳をしている。目の毒だ。
「一夏、どうしたんだい?パーティーの中心人物が外れちまうなんてさ」
俺が輪から外れていることに気づいて、シルヴィアさんが声をかけてきた。
「少し酔ってきたんで、酔いでも冷まそうかと。それに男同士の野球拳を見ても楽しくないでしょ」
「まあ、それが好きな奴もいるんだろ」
手に持っていたグラスをテーブルに置いて、シルヴィアさんは近くの椅子に座った。
「何か悩みでも?」
鋭い質問だ。俺が悩んでいることに気づいたなんて、流石ひシルヴィアさん。
「まあ、有りますよ。副隊長をやれるか不安なんですよ。俺に務まりますか?」
「……あんたにしては随分と気弱だな。いつものあんたなら自信を持ってこなしていくと思うが、今のあんたの年だったらあたしなら無理だろうね。それにあたしも最初はそうだったさ、仲間の命を自分が背負っているという重圧に押しつぶされそうになったよ」
いつも一本の太い筋が通った生き方をしているようなシルヴィアさんだが、流石に最初は俺と同じように不安だったのか。
「今になって思えばあの時のあたしは自分に対して自信がなかったんだよ。だから恐かった。ISが生まれる前だったからね、周りにいたのは屈強な戦士たち。そんな中であたしは副隊長に抜擢されたんだよ。恐かったよ、でもその時の隊長があたしに言ってくれたんだよ、お前は強い、自信を持てってね」
自信か、確かに強くはなったが、自分を信じる心はあまり身についていなかったのかもしれない。シルヴィアさんの言葉には考えさせられるものがある。
「だからさ、自信を持て。あんたは強い。このあたしがそれを一番わかっているよ。今までに何回あんたの訓練に付き合ったと思っているんだい?」
「何回も」
「そうだろ、自信を持ちな。あたしもスコールもあんたを信頼してるんだよ。信頼してなきゃこんな大役を任せるはずがないからね。だから、な?」
スッと胸のつかえが取れて呼吸が楽になった気がした。
そうだよな、俺らしくないよな。
「シルヴィアさん、ありがとうございます。お陰で副隊長としてやっていく決意が固まりました。俺、これからも強くなります」
それを聞くとシルヴィアさんは大人っぽく笑った。今まで見たシルヴィアさんの笑顔の中で一番美しかった。
「それでこそ、一夏だ。なら戻ろうか」
シルヴィアさんはテーブルに置いていたグラスを取って立ち上がった。
「そう、ですね」
俺もゆっくりと立ち上がって、それから盛り上がっている輪に近づいていく。
「主役抜きで盛り上がるかあ!?俺も混ぜろお!」
それからパーティーはかなり盛り上がり、夜遅くまで続いた。
パーティーが終わり、元ルームメイトの三人と共に俺の部屋に来てくれた。とはいってもこの後に何かするわけではなく。俺を送りに来ただけだ。
「よーし、なら取りあえず。昇進を祝ってこのくすねえてきた四本のビール瓶でビールかけしようぜ」
部屋に入ってそうそう物騒な事を言い放つグレイに、俺とアドルフが共同で放ったツープラトン、クロスボンバーによってグレイの意識を半分刈り取った。
「マジ、ひでえ」
むせながら話すグレイ。
「しょうがないよ、グレイ。君がそんな物騒なことを言うからだよ」
ジークがグレイをなだめた。
「にしても早いよな、副隊長に昇進だなんて」
ビール瓶を冷蔵庫の中にいれながらグレイはそんなことをつぶやいた。
「確かに早いが、そんなの俺の立場が特殊だからだろ。早くから経験を積ませたいとかじゃないのか?」
男性IS操縦者、それが俺にのみ与えられた唯一無二の象徴。その貴重さから若いうちに経験を積ませてその後にある何かに備えているのか。
「まあ、俺が強いのも理由の一つだろうな」
自信満々に俺は言った。
「ぬかせ」
笑いながらグレイは言った。
「酔ってるの?」
心配そうにジークは言った。
「冗談がうまいな」
いつも通りの無表情でアドルフは言った。
傷つく。
「この部屋広いな、共同部屋の倍近くないか?これが幹部と一般の差なのか?大丈夫か?一夏。夜中に一人でさみしくならないか?」
「ぶちのめすぞ、グレイ」
「ジョーク、ジョーク。だからその握り拳開いて。じゃあ俺たちもそろそろ部屋に戻るからさ、夜な夜な一人で泣くなよ」
「泣くか、ボケェ」
「じゃあな」
「お休み」
「また」
三人は挨拶を言って、部屋から出て行った。
三人が出て行った事で部屋の中は静かだった。ここにくるまでは当たり前だった静かな部屋が、長く彼奴らと一緒に過ごしてきたからか、少し落ち着かないな。
ソファーに座り込み、部屋中を一度首を回してゆっくりと見回す。
「ふーっ」
天井を見上げ、大きく息を吐いた。
「寂しい……」
思わず声が漏れてしまった。いや、ちょっと思っただけだから。別に泣きはしないんだからね。
言ったそばからこれかよ。明日あいつらに会ったらどんな顔すればいいんだよ。笑えばいいの?
「シャワー浴びて寝よ」
そこまで夜遅くはないが、お酒を飲んで眠くなってしまった。いつもより早いが、もう寝よう。
シャワー室に向い、部屋に誰もいない事をいい事に脱衣所に入る前から服を脱いだ。
今までは共用だったが、今日からは俺の部屋に備え付けられたのを使っていいみたいだ。
シャワーを浴びながらチラリと隣に視線を移せば、俺が足を伸ばして入っても余裕がありそうなほどの大きさのバスタブ。此方は明日ゆっくり入ろう。
シャワーを浴び終えると、体をよく拭いて服を着て、髪を乾かす。
もう何もやる気が起きないから電気を消して、ベッドの中に潜り込んだ。
昨日までなら少し騒がしかったが、今日からは静かな部屋で寝られる。
明日からは副隊長だ。頑張らないと。
俺はこの時気づいていなかった。
これから自分の身に何が起きるのかを…………
ん?なんだ?
俺は珍しく夜中に目を覚ました。普段は夜に寝たなら朝まで起きないのだが、新しいベッドに慣れていないから、目を覚ましたのか?
水でも飲もう。
そう思って、まだ寝ぼけながら体を起き上がらせようとする。
ガチャ……
ガチャ?なんの音だ。それに腕が動かない……動かない?
そして気づいた両腕が可笑しな位置にあることが。それに両足も。全部大きく広げられている。それぞれ動かそうとしてみるがガチャガチャと音を立てるだけだ。
ヤバイ
そう思った時には手遅れだった。動かせることのできる首を動かして自分の腕がどうなっているのかを確認する。
手錠だ。俺の手が手錠につながれている。片方の輪は俺の腕だ。もう一方の輪にはロープがくくりつけられており、そのロープがどこにつながれているのかは確認できない。
だがこの様子だと。四肢全てが手錠に繋げられているのだろう。
しかも俺は服をきておらず裸だ。何故だ?俺は寝る前にはちゃんと服をきていたぞ。もしかして酔っていたのか?
そうだISを使おう。腕から離してはいるが、ちょっとの距離においてある。この距離ならゼロと会話をして展開させることができる。
だが……
できない。会話はできる。けど拒まれた。何があったゼロ。え?今回は許せ?何があった。
少し気まずそうにゼロは言っていた。
「あれ?イチカ起きたの?」
声がした。よく聞いたことのある声だった。だが何故こんなことをする。
「ティファ」
暗闇から聞こえる幼馴染、ティファの声。どうやってこの部屋に入ってきた。この部屋はオートロックで外からは俺の持つ鍵がなければ開けれないはずだ。
「どうやって入った」
「ん?そんなの簡単だよ、シエルにやってもらったんだよ」
「何をするつもりだ?」
正直な今の気持ちだ。何故こんなことをするのか、俺には検討もつかない。
「そんなの、決まってるよ」
豆電球がつけられた。俺はティファの声がした方に首を動かす。
薄暗い中でもティファの姿を確認できた。
何も着てはいなかった。
裸、すっぽんぽんだ。
ハワイで初めてあった時より、女性的な魅力的な身体になった彼女の姿を見て、俺は興奮した。
「ティ、ティファ?な、何をするの?」
ゆっくりと此方に近づいてくるティファ。
ベッドの上に乗り俺の腹の上にティファが跨がった。
肉と肉が触れ合う。ティファから感じる熱に思わずドキドキしてしまう。
下から見上げる形になり、彼女の顔をみようとすれば意図せずに彼女の胸に目がいってしまう。
「ファーストキスはアリサが貰ったでしょ?だから、こっちは私が貰ってもいいよね?」
喰・ワ・レ・ル
俺の中の本能が叫ぶ。そうか、そうなのか、喰われるのか。
「落ち着こう、まずは落ち着こうね?」
「ダメ」
甘ったるい声でティファが事実上の捕食宣言をした。ダメだ、逃げられない。
「だって、イチカ最近私に構ってくれないもん。それに周りにはオータムとか女の子ばかりいて、少し寂しかったんだよ。だから、今日このイチカが昇進した日に私はイチカに私をあげることにしたの。だから、ね?」
そうか、そういえば最近訓練ばっかりしてたから、構ってやれなかったな。
「ティファ……」
なんだろう、この妙な感動話になってる感じは。
「わかった、済まなかった。これからはお前をもっと大切にするよ。だから、今日はこれを外してくれ。そして、部屋に戻るんだ。」
「……ンッ!」
あれ?ティファから嫌な音が聞こえた。何か、内側から何かがきれるような。それにさっきからワナワナと震えている?
「ええい!据え膳食わぬは男の恥って!日本では言うんでしょ!だから、受けて!大丈夫、今日は安全な日だから!」
「信用ならないからあああああ!!」
そして俺はティファに喰われた。
何書いてるんだろう、俺。
大丈夫、R18じゃないから。本番は書いてないから。
因みに今回の最後に関しては前作の感想欄で少しだけ説明していました。
原作始まる時間軸までもう少し。だが、先は長い。