大切な人か……なら俺は違ったのかよ。俺はあんたのなんだったんだよ。家族と言ったのは嘘だったのか?
「覚悟しろよ、誘拐犯どもが!」
先に仕掛けてきたのは織斑千冬、己の獲物である雪片を手に持ち此方に迫る。
鬼が宿ったようなその顔は見たモノに恐怖を抱かせるだろう。
「俺が一人でやります。逃げる時にはお願いします」
実体剣を一本コールする。今までの作戦で慣れ親しんで来た武器の一つだ。
「ちょっと待ちなさい」
スコールさんの言葉を無視して俺は織斑千冬に向かっていく。
倉庫の中に剣戟の音が響いていく。此方が劣勢、当たり前だ。相手はIS界においては世界最強の称号を背負う阿魔。だがそんなのはさっきまでだ。世界最強の称号を捨ててまで、家族を助けに来た。
引くも負けるもいけない。
織斑千冬が来た時に銃を百春に突きつけながら撤退すれば良かったのかもしれない。スコールさんと協力して戦えば勝機はあったのかもしれない。
だがそんな事では俺の怒りが収まらない。この闘いは俺の我が儘、エゴのための闘いだ。
俺は勝たなければならない。でなければ俺は進めないのだろう。俺は何一つ変わる事ができないのだろう。
故に戦う。
神経を最大限まで尖らせろ。気を抜くな、倒すこと以外に考えることなどはない。
ISを最大限まで使え、
紛い物を振るうモノにオレは負けるはずがない。
呼吸を合わせろ、
「くっ!」
僅かだが
ただひたすらに自分の中から湧き上がる怒りに身を任せているだけだ。
両者つばぜり合う。
「どうした、そんなのかよ。折角、自分の弟を捨ててまで手に入れた称号を、弟を救うために放棄してきたのによお!」
心からの嫌味だ。こんなことぐらい言っても罰は当たりはしないだろ。
「……なんだと」
顔色が変わる。戸惑っているのかわからないが一瞬だけ力が緩んだ。
なんだ、動揺するなよ。お前は俺を捨てたんだろ。
「織斑一夏の時はよく覚えてるぜえ」
「まさか、一夏の時も貴様らが……」
「さあ、どうだかな。でもよく覚えているぜ、お前に来てくれと助けを求めてたよ」
「貴様……」
阿魔からの剣の力が増してくる。
「それでお前が来ないと分かると泣き叫んでいたんだぜ、笑えるよなあ」
最初から来ないとわかっていたのに…………
「貴様がああああ!!」
激昂した織斑千冬に押し返された。怒れよ、もっと怒ってみろよ。それ以上の怒りを俺はあの時と今孕んでいるんだよ。
なんで来なかったんだよ、なんで来たんだよ。
俺と百春の違いはなんだ。生意気だったのか、なあ教えてみろよ。聞く気は無いけどな。
「お前を憎んでいたのかもなあ、織斑一夏は。何度も何度も雑言を放っていたんだせ」
事実、あの時の俺は何度も何度も言ってたよ、
「貴様が一夏の何がわかるんだ!!」
黙れよ。
「お前が語るな!」
俺の事を語っていいのはアリサやティファのような俺の大切な人たちだ。
貴様じゃねえよ。
「一夏は、一夏はそんな子じゃない」
だったら、だったら。
「ははははははははは!!」
不思議だぜ、笑いがこみ上げて来やがる。怒ってるのに、怒ってるのに。
なんでだよ……
その思いが一瞬の隙を作ってしまった。
見逃されるはずはない。袈裟懸けをくらい、そして腹にも蹴りを一撃もらった。
意識が飛びそうになる。視界が暗くなっていく。だから……
力を入れろ、剣を握りしめろ。目の前の敵を倒せ。
覚醒、追撃を仕掛けて来た阿魔に一太刀をいれる。だが暮桜の非固定ユニットに阻まれる。後ろに飛びながら右手に持っている剣を収縮、右手には新たにビームサーベル。
再度構える。
息を整えていく、冷静になれ。有利なのは
だがまだだ。もっとこみ上げていく怒りを現せ。
力が必要だ。
ねじ伏せる力が。
存在を証明するための力が。
「貴様のような奴と話していても拉致があかん。百春を誘拐したことと、一夏を誘拐して殺したことを償ってもらうぞ!」
雪片が真っ二つに別れ、鍔の位置から白い美しい刃が現れた。
零落白夜、織斑千冬の戦闘の代名詞とも言える単一能力。絶対防御を無効にして敵を切り裂く、必殺の劔。
黙れよ、俺の仇なんてとってんじゃねえよ。
「マガイモノが、オレにそれを見せるのか?贋作風情が、オレに嫉妬を向けたのにか?」
「貴様は何を言っている?」
内側から力が溢れてくる。そうか、これはあの時のか。
そうだ、行くぞ。
奴らに見せつけろ。
こみあげろ、絶望を見せてやれ。
何もかもを零にさせ、全ての命を落とさせる。
これ喰らえば二度と光を拝めると思うな。漆黒の闇に落ちてみろ。
ビームサーベルの刃が消え去り、また新たな刃を生み出した。
それは零落白夜とは対照的な漆黒の刃。死を連想させる色ではあるが、禍々しさを感じさせない。余りにも美しい刃。
さあ、行くぞ。
これは
この刃の名は。
「零落極夜」