肉体にまとわりつく
コールタールのように深い粘りつくような怒り
怒りは俺の肉体を変質させていく
怒りは鎧になる
殺意という鎧に
アリサを救う時に感じた殺意とは種類が異なる
耳に入る戯言が鎧を鍛えていく
鎧は俺の体を完全に包み込む
鎧という繭は俺を変質させる
手に持つは破壊を司る慟哭の劔
さあ、行こうか
目の前の敵を屠ろうか
「一夏、貴方今身長はどれくらいになったの?」
目の前のソファーに座っているスコールさんがいきなり訪ねてきた。
「ええっと、この前の健康診断の時には170を超えてました。ここにきてから20ぐらい伸びましたね」
亡国機業に入ってからというもの、俺の生活週間は変わった。沢山の食べ物を食べて、血を吐くような訓練をする。そのお陰と成長期が重なって、かなり身長が伸びた。
「そう、やっぱり。ちょっと前までは私より低かったのに、最近は殆ど同じ目線だっからね。この調子だとすぐ抜かれちゃうわね」
微笑むスコールさん。その視線が恥ずかしくて俺は目をそらした。
「それにしても、なんで俺はスーツをきているんですか?」
俺は今スコールさんに買って貰ったスーツを着ている。普通のサラリーマンが着るようなあれだ。まさか十二歳で着るとは思ってもいなかった。しかも値段が高く十万はしていたと思う。支払いはスコールさんのポケットマネーから。
「いいじゃない、似合ってるんだから」
「それにサングラスまで」
「貴方、まだ顔つきは子供っぽいからね。誤魔化すためよ。こういう場所は大人の場所なのよ、ほらもうすぐ始まるわよ」
スコールさんは指を口に添えながら色っぽく話す。
窓の外に目をやる。そこでは二機のISが死闘を繰り広げていた。ISの性能を比較すると俺たちとどっこいどっこいだが、どちらも俺よりか技術力がある。部隊の中でも
スコールさんかシルヴィアさんぐらいだろう、あれに勝てるのは。
俺たちがいるのは第二回モンド・グロッソが行われているスタジアムのVIP席。完全個室になっているため、俺たち以外には誰もいない。
今は準決勝が行われている。
「態々俺を連れてくるなんて、どういうつもりですか?俺がコレ嫌いなの知ってるでしょ」
前大会の時に俺は誘拐された。だから俺はこの大会の事を好ましく思っていない。その事をスコールさんも知ってるはずだ。
「そうね、そんなのは百も承知よ。けど、それ以上にコレを見る事で得られるものもある筈よ」
「…………確かに、そうですね」
「それより、貴方は何処が勝つと思う?」
「下馬評通りなら、イタリアか日本でしょうね。まあ、勝敗には興味ないけど」
「そう、それで一つ聞きたいのだけれど。貴方は織斑千冬についてどう思っているの?」
その言葉を聞いて俺はスコールさんを睨みつけてしまった。サングラス越しでも視線は感じている筈だが、スコールさんは態度を変えない。
「それは…………憎いと言えば憎いですが、しょうがない気もします。まあ、今となればどうでもいいんですけどね」
「……そう」
俺の話を聞いたスコールさんは何処か悲しそうだった。
沈黙が部屋の中を占領していく。別に嫌というわけではない。ただこんな空気を作り出してしまったことに対する罪悪感があるだけだ。
そんな空間を壊すように携帯の呼び出し音が室内の空気を塗り替えた。
スコールさんが携帯を取り出して受け答えし始める。
会話を続けて行く内にスコールさんの顔が険しくなっていくのがわかる。どんな事をはなしているのだろうか、気にはなるが聞いてはいけないだろう。
「……ふう」
会話を終え、携帯を切るとスコールさんは目の前に置かれてあるアイスコーヒーを手にとって啜った。
一息いれる。
「ゼロ、任務よ」
コードネームを呼ばれて、私から公へ心を入れ替える。ISを装着している左腕に妙な力が入る。
「織斑千冬の弟、織斑百春が誘拐された。私たちはそれの救出にいくわよ。まあ任務は誘拐犯の排除だけどね」
「…………バカなのか」
その言葉を聞いて、生まれた感情は衝撃ではなく呆れ。実の弟が誘拐されたというのに悲しいな。
「俺の時に日本は学習しなかったのかよ。警備はいるはずだろ?」
「それがいたけど相手の方が手練れだったそうよ。弟くんが泊まっていたホテルを襲撃したらしい」
成る程、もうどうでもいいや。
「わかりました。行きましょうか、どうせ織斑千冬はこない。ならせめて、兄である俺が行きますよ」
織斑千冬は俺の時と同じで助けに
こないはずだ。
じゃないと俺は…………
だが意外にも救出劇は簡単に終わった。場所は港近くの倉庫、もう少し場所を考えなかったのかベタすぎるといいたくなる。
探し出したのは亡国機業の技術の賜物だった。
作戦なんてモノは録になかった。敵に気づかれないように俺が屋根に登って、ISを展開してから屋根をぶち破って中に侵入。
敵が驚いている間に剣や銃をコールして、切ったり撃ったり撥ねたり捻じったり潰したりして皆殺しにした。
実力のある者たちだったのだろうが、いきなりの事で戦闘体制に移れなかったり、ISによる高軌道戦闘についてこれずにいた。
皆殺しにするまでは三分も時間はかからなかった。火薬の匂いが倉庫の中をみたしている。
今は眠らされて、目隠しと猿轡をされ、倉庫の柱に紐で結び付けられて座っている弟に銃口を突きつけている。
呑気に寝てるなあ、俺が引き金を引けば簡単に命が終わるな。
「何をしてるのかしら?」
ハイヒールを履いた足で、倉庫の中に足音を響かせながらスコールさんが入ってきた。
「いやさ、任務は誘拐犯の排除ですよね?だったら撃ってもいいかと思いましてねえ」
「言い訳ないでしょ、早く戻るわよ」
「了解」
ISを解除しようとした瞬間、扉が吹き飛んだ。スコールさんも咄嗟にISを展開した。
埃が舞う、よく目を凝らして扉のあった場所を観察する。
そこにいたのは鉄の武士、右手には剣を持っている。俺はよく知っている。こいつの事をよく知っている。だがどうしてここに来た。どうして来てくれなかった。
「お前たちが百春を誘拐した犯人か」
殺気を静かに孕みながら武士は此方に剣先を突きつけてきた。そんなモノを向けるなよ、どうして来たんだよ。
忘れようとしていた怒りが内側からこみ上げてくる。あの日の記憶を思い出してしまう。
来ると信じて裏切られ、家族だとほざいていたくせに見捨てやがって、そこまでして栄光が欲しいのかと罵った。
慟哭はあの場所をみたしていった。犯人たちは俺には何もしなかった。
何も見えずに暗い暗い絶望がそこにはあった。何も見えなかった。
今回も助けにくるはずが無いと思っていたのに。
それなのにコイツは、コイツは…………
力を貸せよ、ゼロ。俺と共に奴に一泡吹かせてやるぞ。
「私の大切な人を失うわけにはいかん、覚悟しろ!」
それじゃあ俺は………何だったんだよ。
どういう事だよ、教えてくれるのか?なあ、織斑千冬。
話は大雑把だけど考えた。
あとは気力だけだ。