インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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投稿が遅れてしまい申し訳ありません。



貴方を誘う、今宵

鮮血を撒き散らしながら身体を両断された敵の肉体が速度を失い、俺を通り過ぎて敵のトラックに直撃した。

 

 

 

 

 

振るった劔は敵の盾を真正面から切り裂いていく。発動するはずの絶対防御は発動するがその直後に刃に打ち消されて行く。

 

刃は盾を切り裂いて、敵の腕にその牙を向ける。皮膚を裂き、肉を切り裂いていき、骨を断ち、また肉を切り裂き、再び皮膚を裂いた。

 

そこまででも敵の顔は何一つ変わっていなかった。いや、正確に言うと脳が認識することを拒んでいたのかもしれない。剣を振るってから腕を断つまでに数秒もかからなかった。

 

そして漆黒の刃が己の肩に触れた時、敵は己の死というものを確信した。本来の時間は一瞬の出来事だったのだろうが、俺にとってはゆっくりと見えた。

 

触れた刃が敵の身体をなぞって行くごと敵の顔は絶望に歪んでいくのがわかった。

 

臓器を切り裂いていくのが刃を伝播して俺の手に伝わってくるのがわかる。

 

そして完全に敵を切り裂いた。敵の命が止まるのがわかった。命と共にISも終わり、やがてその力が消えて行った。

 

命を枯らす一撃、これはそう例えるべきだろうか。

 

 

 

トラックの動きが止まった。機能を停止したISがトラックにぶつかったさい、運転していた敵にISが直撃したのだろう。運転席から動くものの気配がない。即死だったのだろうか?

 

トラックに近づいていき、誘拐犯達の様子を確認する。ISに乗っていた女は俺に身体を切り裂かれて息をしておらず、もう一人の運転していた女はトラックとISがぶつかった際に押しつぶされて死んでしまったようだ。

 

なんとも呆気なく終わってしまったな。それにしても最後に振った一撃は訳のわからない威力だった。ブレードの柄を見るとビームを放出する場所が焼き溶けていた。リリスさんは限界まで威力をあげても溶けないと言っていたのに。

 

トラックの後方に回り込んで破損しているコンテナの扉に手をかける。扉をむしり取って、地面に投げ捨てる。

 

仮面は装備したままISを解除してからトラックのコンテナの中に乗り込んだ。

 

いた、肩を震わせながら怯えながらこちらを見ているアリサが。

 

「いや……やめて」

 

怯えている。アリサを悲しませてしまった。その事がズキりと心を切り刻む。

 

安心させてやらないといけない。ある種の使命感に心が駆られてしまう。だがこれをしてしまうのは良い事ではない。けど俺はやらないといない。

 

仮面に手をかけて留め具を外す。そして仮面を持ったままゆっくりと顔から離す。

 

「……助けにきた、遅れたけど」

 

相変わらず無様だな。ティファの時もそうだったけど、俺はどうも言葉を選ぶセンスがないな。

 

「……え」

 

アリサが俺を見て驚いている。無理もないか。

 

「大丈夫か?」

 

「…………一夏くん?」

 

アリサの目が涙で満たされていく。涙目で俺を見つめ、嗚咽を漏らし始めた。そして我慢できなくなったのか、立ち上がって俺に飛びついてきた。

 

「良かった、良かった!一夏くんが生きてて!」

 

「ごめんな、もっと早く言えたらよかったんだけど」

 

大泣きするアリサの頭を優しく撫でる。

 

「ううん、良いの。一夏くんが生きていただけでいいの。悲しかったんだよ、いきなりいなくなって!ティファちゃんもいなくなったんだよ」

 

そうか、確かティファも死んだ事になってるんだっけか。

 

「安心しろティファもちゃんと生きてる。俺と同じ組織に所属している」

 

「本当?良かった」

 

「ああ、本当だ。それよりここから出ようか。動けるか」

 

アリサに問いかけるとアリサは俺の服をギュッと強く掴むと首を横に振った。

 

「運んで」

 

数少ないアリサからのお願い事、聞かないわけにはいかないな。

 

「……わかった。しっかり掴まってろよ」

 

腕と脚の装甲を展開してからアリサを抱え上げた。その体制は所謂お姫様抱っこというやつだ。

 

「わっ!ちょっ、一夏くん!?」

 

いきなり抱っこされてアリサが驚いている。さっきよりも抱きしめる力が強くなり、顔も近くなる。うん、いつ見ても可愛い。

 

「嫌か、こういうの」

 

「嫌じゃないけど……うん、これはこれで」

 

頬を赤らめながら顔をそらすアリサ。

 

トラックから降りて、道の端による。そこでアリサを下ろすと、アリサは俺から離れた。俺も展開していた腕と脚の装甲を収縮した。

 

「一夏くん、説明して。あの時から何があったのか」

 

アリサが今まで見せた事のない不満げで、かつ真剣な表情をしている。

 

流石にアリサには説明しないとな。誘拐されてから今日までの事を。

 

「わかった_______」

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず、こんなもんだな」

 

「…………」

 

アリサに説明する事数分、アリサは言葉を出せずにいた。

 

「……一夏くん、しゃがんで」

 

「ん?わかった」

 

アリサに言われた通り、その場にしゃがみこんだ。するとすぐにアリサが俺を包み込むように目の前から抱きしめた。

 

「アリサ?」

 

「ゴメン、今はこうさせて。なんだか一夏くんが遠くに感じたから、近くにいて欲しいの」

 

「悪い、離れすぎてたな。でも俺にはやる事があるんだよ、だからまた行かないといけないんだよ」

 

俺がその言葉を言うとアリサの抱きしめる力がました。俺を離さない様により強く。

 

「わかってくれ、俺は行かないといけないんだ。また戻ってくるから」

 

「やだ!もっといてよ、なんで一夏くんは何処かに行くの!?私は一夏くんといたいの!ここで離れたら一夏くん今度は本当にしんじゃうかもしれないんだよ!」

 

力強く抱きしめる腕を離して、アリサの肩に両手をおいてアリサの目を見つめる。

 

「アリサ、俺は死なん。だから待っていてくれ、この国に俺の居場所はないんだ。また必ず会える」

 

「一夏くん……」

 

アリサが俺の顔をじっと見据える。瞳は涙で潤んでおり、悲しげに俺を捉えている。

 

『一夏、撤退命令だ。誘宵と警察のヘリがこっちに来ている。数分もしないうちにこっちに着くはずだ。』

 

(了解)

 

話しかけてきたゼロに言葉を出さずに返事をする。

 

撤退するという事はアリサから離れないといけないという事か。

 

「アリサ、ここにもうすぐヘリがくる。俺は戻らないといけない。わかってくれるな」

 

俺が諭す様に話すと、アリサは涙を堪えながら微笑んだ。

 

「わかった、いつかは戻ってきてね。私、待ってるから」

 

微笑むアリサの肩に両手をおいて、俺は優しくそっとアリサの口に口をつけた。

 

一瞬だったが永く感じた。ゆっくりと口と口を離すとアリサは信じられないくらい顔が紅くなって、顔から湯気が出てしまいそうになっている。

 

「またな」

 

一度微笑んでから、アリサに背を向けて俺は高速道路のフェンスを乗り越えて、山の中に消えていった。




ISの最新巻、軽く流し読みしました。それに伴い誘宵母の名前を変更します。

ひよこ饅頭は福岡銘菓ではないのでしょうか。


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