私の時は再び止まった。
あの日一夏くんがいなくなってから私は心をゆるせる友達がいなくなった。
一夏くんがいなくなってから行く意味がなくなってしまい、学校にはいかなくなってしまった。所謂不登校というやつだ。それでも勉強だけは続けていた。
そんな生活を続けていたのは五年生が終わるまで、六年生になる時に私は私立の小学校に編入した。学力の方は何の問題もなかった。
新しい環境で友達を作って欲しいのがパパやママの願いなんだと思う。けれどそうはうまくいかない。一夏くんがいなくなって心にポッカリと穴が空いた気がした。
一夏くんが死んだなんて今でも思っていない。あの葬式の日に見た物を覚えている。何も入っていない棺、あれが憎いと思った。
お墓には一週間に少なくとも二度は行っていたと思う。あそこに行けば一夏くんが近くにいるような気がして、ママに連れて行ってもらってた。
話は戻るけど、私立に入ってからもクラスメイトとは馴染めずにひとりぼっちだった。
修学旅行も一人だ。バスで京都まで向かう途中のサービスエリアで私は一人で休んでいた。
そしたら突然、目の前にISが現れた。あまりにもそれは怖かった。足は震えて、腰を抜かしてしまい、どうしようもなかった。
私はこのまま誘拐されてしまうのかな?
助けてよ、一夏くん。
「目標確認しました。落下体制に移ります」
「了解」
ヘリコプターの上で目標のトラックに狙いを定める。その高度差はおよそ二百メートル、俺は上空から山道の交通量の少ない高速道路を走り抜けるトラックに向けて、ノーパラシュートのスカイダイビング。行う。
何故俺がこんな事をしているかと言うと、あれにアリサが乗っているからだ。いや、正確に言うとアリサは誘拐された後にあのトラックに載せられたらしい。
何故それがわかったかと言うと、俺がアリサの携帯電話の番号からGPSをゼロにハッキングさせて調べ上げた。そしてGPSの発信源を辿り、高速道路やその他の場所の監視カメラをハッキングして何処にも所属しておらず、ナンバーも正しくないトラックを見つけ、正確な位置を割り出すことに成功した。
警察の捜査も此方から妨害している。敵と闘っている途中で警察がこられたら厄介になる。しかし、俺が戦っていれば遅かれ早かれ警察がくるのは間違いない。
なので俺は警察がくる前に誘拐犯を皆殺しにしてアリサを救出する必要がある。そのためなら手段を選ばず、容赦もしない。時間をかけずに終わらせる必要がある。
(ゼロ、頼みごとがある)
『何だ?』
(高速道路の監視カメラを停止させ、入り口を封鎖しろ、出口はしなくていい。警察がこなければ良い)
『……わかった。要件はそれだけか?』
(あと、誘宵皇さんの携帯にメールを送ってくれ)
『なんてだ?』
(俺がアリサを助けます……って)
『わかった』
ゼロが己の意識層からインターネットへと侵入して行くのがわかる。
どうやらISコアの人格、通称サイバーエルフには電脳の中を進みハッキングをすることができる。その中でもゼロはその能力が他と比べて高い。
仮面をはめてから、扉から身を乗り出す。目標に向けて狙いを定める。
「行きます」
ヘリコプターから飛び出す。身体を矢のように真っ直ぐ伸ばして敵へと近づいて行く。ISを展開すると敵に気づかれてしまう恐れがある。
風が身体を殴り続ける。少しでも体がずれてしまえば目標には届かない。
そしてギリギリまで近づいて行ってからIS、ウルテナを展開。今回も前回と同様にアサルトアームズを使用している。
トラックの上に着地、そして拳を握りしめてルーフを殴りつける。
「何ッ!」
女の声がした。恐らくいきなりの襲撃に驚いたのだろうか、車体が大きく蛇行し始めた。
振り落とされないように左手で車体を掴みながら、トラックのルーフを引き剥がしていく。
女が二人乗っていた。顔つきからして日本人のようだ。運転席の女は俺を振り落とそうと必死でハンドルを動かしていく。
右手を伸ばして助手席の女の胸倉を掴み、トラックの中から引きずり出し、後続車がいないことを確認してから、高速道路に投げ飛ばした。
続いてもう一匹の処理をしないといけない。此方はできるだけ丁寧にトラックが事故らないようにしないと。
左手にハンドガンを展開、無駄な弾は撃たない。一撃で脳天を射抜いて見せる。女は此方をチラチラと確認しながらもひたすらにトラックをうごかしている。
引き金を引こうとした瞬間、銃を持つ手に何かが絡みついた。それは鞭、伸びる先は後方。
どうやら誘拐したISに乗っていたのは運転席ではなくて助手席の女だったみたいだ。
振り向いて敵の姿を確認する。
ラファール、確かフランスのデュノア社が開発した機体。特にこれと言って秀でた性能ではないが、満遍なく良い性能を誇っている傑作らしい。
それがどうした、こっちはそんなのよりもスペックにおいて上、更に近接格闘では負ける気がしない。だが、問題は相手が勝つためでなく、守るための戦闘を行った場合。
考えてもしょうがないか、守らせなければ良いだけだ。
あれがアリサを誘拐したIS。それを考えるだけで心の奥底からドス黒い感情が湧き上がり、蠢く。戦闘においてこんな気持ちは初めてだ。
コロシテヤル
明確な殺意を持ったのはこれが初めてか?昂揚感は覚えがあるが殺意はない。今ならばどんな残虐なことでもできる。
「ブッコロスッ!!」
トラックから飛び降りる。ハンドガンを収縮して、右手に最近開発された試作武装、ビームブレードを展開。縦長い柄を握りしめて、棒状の翡翠色の刃を作り出す。
それで鞭を引き裂いて敵へと迫る。トラックとの距離を考え続けながら闘い続けなければならない。
敵は両腕にシールドを持っている。敵は守りの闘いを続ける気か?
厄介だな。
攻める、攻め続ける。敵が守るというのなら此方は攻めるしかない。
一手一手豪快かつ繊細に、矛盾を孕んだブレードよ一撃を加え続ける。針の穴に糸を通すように、敵のガードの隙を縫っていく。
だが連撃は長く続かない。トラックとの距離が離れすぎた。敵に蹴りをいれてその反動でトラックに向けて、走り出す。ホイールを地面につけて滑走する。
後方からの弾丸、体重移動で機体の起動をずらしてよける。モニターで敵の様子を確認、片手にアサルトライフル、もう片方にランスを構えて此方を追いかけてくる。
止まるわけにはいかない。だが敵は倒さないといけない。
「ふぅーッ」
タイミングを見計らう。ゆっくりと息を整えながら敵の出方を伺う。
敵がランスを構え、突っ込んできた。
今。
敵がランスを突いてくるタイミングに合わせて、上に跳躍。そして両膝で相手の頭を挟み込み、空いている左手で相手の頭を押す。更に背中のスラスター吹かせて一気に加速をつけて相手を顔面からアスファルトに叩きつけた。
敵から離れてトラックを追いかける。トラックも必死に逃げようとしているのだがいかんせん俺の方がスピードは速い。トラックと俺の距離は次第に縮まっていく。
走りながらブレードを構える。そして中にいるはずのアリサを傷つけないようにトラックの荷台のコンテナのとびらを切り裂く。
いた
暗い暗いコンテナの中にアリサはいた。僅かに入り込む月明かりが彼女を照らす。
泣いている。
それが堪らなく嫌だ。奥歯を血が出そうなほど噛みしめる。今すぐ顔の装甲を外して、俺の顔を彼女に見せたい。安心させたい。
仮面につけられたボイスチェンジャーの機能を停止させる。普段の任務中なら男であることを隠すために停止することは禁止されている。
けれど
「待ってろッ!今俺が助けるッ!!」
叫んでしまった。
「えっ?」
アリサは驚いている。無理もないか、女にしか操縦できないISから男の声がしたんだもんな。
ブレードを収縮、両腕で扉をこじ開ける。
「アリ……ッ!」
名前を叫ぼうとしたところで首に先ほどと同じ鞭が絡まった。
まだ生きてるか、ならば次で終わらせる。より深く、一撃でその生命を絶たせてみせる。
トラックから飛び降りる。
右手に再度ビームブレードを展開、刃を顕現させる。ブレードで鞭を切断、そして敵に斬りかかる。
敵も実体長剣で応戦、対向車線にも移動しながらの斬り合い。剣の実力は俺の方が高い。しかし、相手は前腕にシールドを装備しているため、上手く攻撃が通らない。
より心を研ぎ澄ませていく。より鋭く、より強烈に、相手を葬るための一撃を。
『……少しだけ制限を外してやる』
ゼロの声が頭に響いた。珍しい、彼奴が斬り合いの真っ最中に声をかけるなんて。
そう思ったのも束の間、横薙ぎに振ったブレードが敵の剣を切り裂いた。
「ナッ!?」
敵は武器を投げ捨て、俺から距離を離そうと前に進む。
何だ今のは?異様な程の鋭さを持っていた。今の俺では不可能な一撃だった。それに異様に反応速度が速い。これが制限を解除した力か?性能が上がっているのがわかる。
だが考えている暇はない。敵を追わねば。敵はついにトラックを追い越し、俺もまたトラックを追い抜いた。
ドス黒い感情を刃に載せる。機体から力が溢れてくる。
何だこれは?訳がわからない。力がこみ上げてくる。
劔を構える。溢れるエネルギーに耐えきれず、形を保てなくなった刃が霧散する。
そして新たに刃が生まれる。
それは今までの翡翠色の刃とは異なる宇宙の如き漆黒の刃、あまりにも美しく、しかし連想するは死。これから放つ一撃は生命を枯らす零させるだろう。
敵もこの刃の危険性に気づいたのかシールドでガードを先ほどよりも深く固める。
だがそんなものは意味がない。この刃にその程度の守りなど無いに等しい。
落ちろ
墜ちろ
墜ちろ
その名は。
「ーーーー」
リメイク前の作品が一年以上投稿してないのにジワジワとお気に入り数が伸びていて、気づいたら千件超えていた。何でだろう。