インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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市街戦闘 3

    剣戟が繰り広げられる。気を抜けない瞬間が続いて行く。長剣でレイピアを弾き、いなし、受け止める。

 

    敵のレイピアが当たる度に衝撃が伝わってくる。重みが違う。ティファを見つけた施設で戦った奴ともこの戦場で戦った誰よりも一撃が重い。それでもまだスコールさんやシルヴィアさんには及ばない。

 

     ここで引くのは不味い。俺に防御用の装備はほとんどない。近接格闘メイン、守るなら攻めろがこの装備の理念。

 

    バックステップ、そして左手にショットガンを展開。敵に向けて構える。引き金を引こうとしたその時、敵は半身になりバインダー盾にする。

 

    引き金が引かれ、弾丸が放たれた。それらはバインダーに阻まれてダメージは与えていない。

 

「クソッ!」

 

    ショットガンを格納、代わりに前腕部分に新たな装備を展開。円錐状の棘が生えた長方形の装備、アサルトアームズにのみつけられた装備。

 

     滑らかな動きで敵が迫り来る。俺は左腕を近くの建物の壁面に向ける。

 

    レイピアによる突き刺し、しかしそこに俺はいない。俺は壁面に張り付いている。空を刺したレイピア、敵は僅かに動揺していた。

 

    壁面を蹴り上げて、接近。此方に気づくが遅い。上半身はバインダーに阻まれているために攻撃は不可、狙うは下半身。

 

    掠った。敵も反応が早い、攻撃が当たる寸前にバク転をして直撃をまぬがれた。

 

    着地すると同時に後方に下がる敵。

 

    左腕の円錐を敵に突きつける。円錐が射出される。円錐には紐がつけられていて、さらに円錐から三本の鉤爪が飛び出した。

 

    フックショット、それがこの円錐の正体。壁に突き刺して移動し、敵の動きを拘束して強制的に近接格闘に持ち込むための武器。

 

「くっ!」

 

    しかし、バインダーに阻まれる。そんなのは予想済み、フックショットの紐を掴み振り回す。

 

    左手を軸に頭の上で、フックショットを振り回す。フックショットは忽ち鞭へと姿を変える。

 

「ショッ!」

 

    弦がしなり、敵へ迫る。バインダーで弾かれるが、戻ってくるフックショットをもう一度敵に振るう。

 

    今度も動揺に弾かれ……違う受け流された。体を回転することによって俺の攻撃を受け流した。

 

    しかもそれだけでは無く、回転を利用して俺に近づいてくる。急いでフックショットを巻き上げ、右手に持った長剣でレイピアを防ぐ。

 

    長剣でレイピアを捌き、蹴りを脛でガードする。

 

    隙をついて敵に蹴りを入れて、すぐそばのショッピングモールの入り口の扉を破壊しながら入店する。

 

    スコールさんが被害は考えなくて良いと言っていた。だから躊躇い無くこの中で戦える。

 

    敵が追撃してくる。その手にはレイピアとアサルトライフル、薄暗いショッピングモールにアサルトライフルの発射光が眩しい。

 

    あちこちに立っている柱を盾にしながら迫る。壁や天井を蹴り、敵の死角を狙っていく。

 

    まずは一撃、天井から背後に迫る。しかし、それを体制低く前方に回転して躱される。

 

    追撃の二撃め、転がった敵の背中に一文字切り。しかし、転がり終えた敵も此方に振り向きざまにレイピアで俺を突き刺さんとする。

 

    腹にレイピアが掠っていく。だが俺の一撃は止まらない。敵のボディを切り裂くが浅い。飛ばれた。振り向きながらスラスターを使って僅かに距離を離されてしまった。

 

「マズっ」

 

    ランドホイールを床に接地、そしてそのまま敵から離れる。敵もスラスターを使い此方に迫る。

 

    長剣を収縮、代わりに二丁のアサルトライフルを展開。ランドホイールで床を滑る。銃弾が後方より飛んでくる。ジグザグにもしくは滑らからに移動して躱していく。

 

    此方も振り向かずに後ろに向けてアサルトライフルを射撃、流石に当たりはせず躱されてしまう。

 

    一撃をいれるための次の手を探しながらショッピングモールを駆け抜けていく。生半可な技では一撃は通らない。

 

    見つけた。直様思考。決定打にはならないが少しはダメージを与えられるだろう。

 

    右手にフラッシュグレードを展開、一秒くらいは目くらましになるだろう。栓を引き抜き、前方に投げる。瞬時加速、つられて敵も瞬時加速を行う。俺の真後ろ、敵の目の前で閃光が放たれた。

 

「なっ!」

 

    敵の驚愕する声が聞こえる。無理も無い。目の前にいたはずの俺がいなくなっていたのだから。

 

    敵の背中が見える。俺の現在位置は敵の真上、一階と二階そして天井をつなぐ吹き抜け空間に移動している。

 

    俺が行ったのは天井にフックショットを引っ掛けて直進する勢いをそのままにして天井を中心に扇状に移動して吹き抜け空間に飛んだ。上空に飛んだことで敵はいきなり消えたように見えたのだろう。

 

    両手に構えたアサルトライフルによる弾丸の雨。床に降り注ぎながらも敵の背後に直撃する。

 

    敵の左肩のバインダーが伸び、持ち手が展開される。そのまま持ち手を掴み、此方に先端を向けてくる。

 

    バインダーに備え付けられた銃口が此方を睨む。

 

    あれは多分マシンガンだろう。それも俺の使っているアサルトライフルよりも連射性能も威力も高そうだ。

 

    回避行動に移る。僅かだが敵の武器に気を取られていた。コンマ数秒の遅れだが、命取りにならないとは限らない。

 

    フックショットを二階の天井に射出。スラスターも利用して二階に飛び移る。

 

    敵から放たれた弾丸が下半身をかすめていく。二階の天井に転がりながらも着地、背後で吹き抜けの硝子の破片の雨が降りそそいでいる。

 

    ランドホイールで二階を駆け抜けていく。敵も一階から此方を追いかけている。敵の位置はセンサーでわかる。

 

    引いていても埒があかない。

 

    アサルトライフルを収縮し、徒手空拳で敵の出方を伺う。剣で攻めても銃で攻めても両肩のバインダーが邪魔になる。

 

   ならばいっその事、徒手で迎え撃てばいい。

 

    神経を研ぎ澄ます。チャンスは一度、下から迫ってくる。敵はどう攻めてくる。俺の後ろにあるさっきとは別の吹き抜けからしかけてくるのか、それとも床を壊して攻めてくるのか…………

 

    来た。

 

    足元から振動が伝わる。そう思った次の瞬間には敵が左のバインダーを盾にしながらタックルで床を破壊して来た。

 

「ラアアアアアッ!!」

 

    渾身の力を込めた右の掌底を敵のバインダーにぶつける。敵からの衝撃と俺が与えた衝撃が腕に伝播してくる。

 

    一瞬、俺たちは動きが止まった。ならば次はどちらが先に動くか……これによって、これからが決まる。

 

    右肘を曲げ、回りながら敵の懐に接近。そして先ほどとは逆の左手による掌底。狙うは敵の胴体では無く、邪魔なバインダーと本体とを繋ぐアーム部分。

 

    アームにぶつかり、折れ曲がる。伸び切ったままの左手に長剣を展開、そして長剣でアームを切り落とした。

 

    勝機が訪れた。片側だけでもバインダーがなくなったのなら俺にも勝つ可能性がある。

 

    そう思ったのも束の間、残されたもう一つのバインダーによるラリアットが俺を吹き飛ばした。

 

    並の衝撃ではない。気を抜いてしまえば意識がとんでしまいそうになる。二階から一階に飛ばされた。

 

    エネルギーは既に半分以下になっている。けれどまだ死んだわけではない、戦闘続行。

 

    敵が二階から此方にむけて飛んできた。スラスター点火、突撃してくる敵に此方もカウンターの様に瞬時加速のタックル。敵の腹に直撃、呻き声を敵が漏らした。

 

「飛べええええええ!!」

 

    右手を相手の股を通して背中を掴み、左手で肩を掴む。

 

    最高速度において亡国機業のISの中でこのアサルトアームズを超えるものはない。故によほど相手の性能が良くない限り、速度で競り負ける事はない。

 

    敵が何度も何度も俺の横腹を殴りつける。拘束を振りほどくために執拗に殴る。

 

    そんな攻撃には怯みはしない。より一層拘束を強め、硝子の天井に突っ込む。敵を盾にしながらの突入のために俺のダメージはほぼゼロ。

 

「離せッ!」

 

    左足の蹴りが俺の横腹に入る。衝撃に耐えきれず思わず敵を離してしまった。

 

    敵がレイピアを展開、此方も長剣を展開。地面に落下しながらの空中での斬り合い。バインダーのなくなった左側を執拗に責め立てる。

 

    僅かな隙をついて敵の左のマニピュレーターを切り飛ばした。だがそれは此方も同じ、俺と敵の左マニピュレーターが宙を舞う。

 

    切断された左手の断面で敵の顔面を殴りつける。

 

    そしてさらに幾度の攻防の末、もといた道路に着地する。

 

「私は……私は生きるんだッ!!」

 

    敵が叫ぶ、どうしようもない絶望から抜け出す様に声を出す。声の感じから俺と同じくらいか?

 

    敵までの距離は二十メートル。ここで決める。長剣をより強く握り敵へと迫る。

 

   敵のバインダーが伸びる。またマシンガンか、しかし違った。バインダーに備え付けられているものを見て息が止まった。

 

    ロケットランチャー、歩兵が戦車を打ち破るためのそれはISでも直撃したのならただでは済まない。

 

   なれど引く事も止まる事もならない。放たれた砲を紙一重で躱す。

 

    そして敵に接近し。

 

    もう一つのロケットランチャーを見た。どうやら敵のバインダーには二つのロケットランチャーが備え付けられていたらしい。これを喰らえば俺は死ぬかもしれない。けれどもう回避動作は間に合わない。敵がロケットランチャーを発射する様子が恐ろしいほどゆっくり見える。

 

    敵は後方に下がりながら、俺に銃口を向ける。

 

    俺は死に直面しながらも意外なことに落ち着いていた。

 

    持っていた長剣をロケットランチャーに突き刺し、ロケットランチャーは爆発した。

 

    吹き飛ばされる両者、アスファルトを転がり続け、やがて止まった。

 

「クソッ!腕が壊れやがった」

 

    立ち上がろうにも両腕が爆発の衝撃で壊れてしまい動かない。それは敵も同じらしい。

 

    動かない手を使わずに足と胴体を動かしてなんとかたちあがり、敵を睨みつける。敵も同じく此方を睨む。

 

    敵は重りになるバインダーを外している。敵のヘルメットに罅が入っている。互いにまともに戦闘を戦闘を続けられる状況ではない。

 

    しかし、俺たちは闘志を消さない。どちらかが潰れるまで続けていく。

 

    駆ける。スラスターには頼らずに両者は己の両脚で敵へと突き進む。

 

「おらあああああああ!!!!」

 

「うりゃああああああ!!!!」

 

    ハイキックとハイキックがぶつかる。力では俺の方が上、敵の脚を押し返して後ろ回し蹴りの準備をする。

 

    敵もただでは負けない。押し切られた脚を素早く振り回してから、俺と同じく後ろ回し蹴り。

 

    互いの腹に蹴りが入った。一瞬も怯みはしない。

 

    残されたエネルギーは残り僅か、次で何とかしないといけない。

 

    敵の脚を振りほどき、大きく一歩を踏み出す。上体を大きくそらす。

 

    これが最後、残りの力を全て込めての一撃。

 

    己の頭を撃鉄の様に勢いよく振るう。ヘッドバット、狙うは敵の顔面。吸い込まれる様に頭と頭がぶつかった。

 

    飛んでいく。敵が飛んでいく、その光景を見ながら俺は何もできない。エネルギーが切れたとかいうわけではない。力が入らないのだ。重いISで垂れ下がる両腕に体全体が持っていかれそうになる。

 

    立つな、立つな。地面に倒れる敵に願う。

 

    しかし、その願いは叶わない。ふらつきながらも敵は立ち上がった。もう俺にはどうしようもない。目が霞む。これ以上はまともに闘えない。

 

「はあ……はあ……生きて、あいつに会うんだよ。だから……お前を……」

 

    ヨロヨロの足取りで近づいてくる敵。だが突然その脚を止めた。

 

「なに……撤退……わかった」

 

    誰かと通信しているのだろう。撤退というワードが聞こえてきた。

 

『ゼロ、聞こえる』

 

    スコールさんから通信がきた。

 

「はあ……聞こえます」

 

『革命軍が政府軍に押し勝ったわ。ネオも撤退しだしたは、私たちも撤退するわよ』

 

「了解」

 

    通信が切れ、互いに見合う。

 

「この勝負……お預けだ」

 

「らしいな、助かるぜ」

 

「あたしの名前はガーベラ…………あんたは?」

 

「ゼロ」

 

「……ゼロか、イイねえ。覚えた」

 

    それだけ言って敵は何処かに飛び去った。俺はその光景を見ながら尻餅をついた。

 

    動けない。誰かに来てもらわないとここから動けない。力を使い果たした。

 

    大の字に転がり、天を見上げる。青い空と白い雲、殺し合いをしたばかりだというのに美しいと感じてしまう。

 

    目を閉じれば寝てしまいそうだ。

 

《未確認機接近》

 

    眠気が飛んだ。

 

    天から何かが落ちてくる。スコープを使い、接近してくるものを確認する。

 

    それは小型の空中戦艦だ。ISが登場するよりもずっと前に作られたそれは現在、ISの輸送などに使われている。俺たちも今回この地に来るために空中戦艦を使用した。

 

    敵の援軍か?だがその可能性は少ない。いま敵は去ったばかりだ。

 

    ならあれは何だ?

 

    俺の戦いはまだ続く様だ。


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