根塊の話は自分でも途中から何を書いているのかわからなくなってしまった部分があります。
「ダメだ」
「なんでお兄ちゃんはわかってくれないの!」
俺は今、マドカと口論をしている。理由は簡単だ。マドカがモノクローム・アバターに入隊しようとしているから、俺がそれを止めているだけだ。
マドカはスコールさんに入隊を直談判したらしいが、そのスコールさんが俺の許可が無い限り入隊させないと言ったらしい。
俺としてはマドカには戦ってほしくない。理由は簡単だ。マドカが傷ついてほしくはないから。戦場では何時死んでもおかしくはない。そんな場所にマドカを送りたくは無い。
「俺はお前に傷ついてほしく無いんだよ」
「私だってお兄ちゃんが傷つくのを見たくない! あの時の、最初の任務や廃墟の街でお兄ちゃんを見つけた時、私辛かったんだよ。見たくなかったんだよ、意識も無く運ばれるのを。嫌なの、何も出来ないのが……自分が嫌なの」
自分の両手で顔を抑えながら、マドカは泣き出した。
「……マドカ」
頭では理解している、マドカの考えを理解すべきだと。だがそれを心が許さない。
だから俺が言える言葉は------
「とにかく、俺はお前に戦ってほしくない。マドカにはここで安全でいて欲しいんだよ……話は以上だ」
マドカから背を向けて俺は歩き出した。マドカが何か言ってたが、俺は聞かないようにした。そうでもしないと…………
「機嫌悪いね、一夏」
「あ?そうか」
「うん、食べ方が何時もより雑だよ」
場所は移り変わり、昼の食堂。今はルームメイトの四人と一緒に食事をとっている。ジークは俺に話しかけ、グレイは人より速く食べ、アドルフは機械的に処理していくように食べている。
亡国機業の食堂は亡国機業自体が世界各国から人が集まっているのでメニューの種類がバラエティに富んでいる。
和食、洋食は言うまでもない。その他にも各国の料理が期間限定で販売されていたりする。
フェアも開催されていたりする。
その他にもお金を払うことで飲食することができる喫茶店、バー、居酒屋、コンビニなどなど様々なものがある。
「少し、妹の事でな」
ランチを食べながら目の前にいるジークに話しかける。
「マドカちゃんだっけ、彼女がどうしたのかい?」
「ああ、いきなりモノクロームアバターに入りたいと言ってきたんだよ。でも俺としてはなんとか止めたいんだよ」
「僕は妹がいないからわからないから妹についてはよくわからない。けど、妹さんは妹さんでなにか考えているんだと思うよ」
「ああ、それはわかってるんだがな。だからどうしたらいいか俺にはわからないんだよ。あいつの意志も尊重してやりたいんだけど」
「つーかよお、妹ってそんなに大切なもんなのか?俺さ、家族いないかったからわかんないんだよねえ」
飯を食べ終えたグレイが話に入ってきた。
家族がいないってどんな生き方してきたんだよこいつは。
「大切だ。勿論。だからこそ、戦場に出したくねえんだよ」
「へえ、そんなもんなのか。俺には家族はいなかったけど、一緒に暮らす仲間はいたけどな。お前はどうなの、アドルフ。家族とかって大切なの?」
グレイの問いかけに、アドルフは作業を中断する機械のように食事をやめた。
「……わからないな。俺には家族や友達と呼べるような奴らは周りにはいなかった。周りにいたのは競い合い、兵士になるのが生まれた時から義務付けられた奴らだったからな。だから俺には家族愛なんて知らないし、わからない」
アドルフの話に思わず俺たちは絶句する。
アドルフは俺たちの中で最も生い立ちが悲惨なのかもれない。生まれた時から兵士になるのを義務付けられ、周りの奴らと競い合っていた。
だが、なら何故今アドルフはここにいるのだろうか。生まれた場所でなにかあったのだろうか。
「……だが、今お前たちと一緒に暮らしているのは楽しいな。共に競い合う、前の施設の時の敵同士では無く、仲間として。初めてわかった気がするんだよ、友情っていうやつがな」
少しだけ微笑んで話したアドルフに俺たちは少し微笑ましくなった。
「イーチカ」
不意に名前を呼ばれ、後ろを振り返るとそこにはティファとその後ろにオータムがいた。二人とも亡国機業の制服をきている。
あれからティファはモノクローム・アバターに入隊し、今現在は俺たちと一緒に訓練を受けている。
「何かようか、ティファ」
「えーっとね、シルヴィアさんが喫茶店に来いってさ。以上」
ニコッと笑ってから、ティファは離れていった。
シルヴィアさんからの呼び出しか、なんだろう。
「珈琲でいいか?」
「大丈夫です」
「マスター、珈琲二つ」
飯を食べ終えた俺はシルヴィアさんのいる喫茶店についた。喫茶店にはすでにシルヴィアさんがいて二人がけのテーブルに座っていた。
亡国機業には食堂の他にも個人で営む店やコンビニに近いものがある。そこには実働部隊を引退した人などが働いている。俺として
はマドカにはそちらに就いて欲しかったのだが。
「それで呼びだしたのは何でですか?」
「ん、ああ。少し強情で素直になれないアホと話をしようと思ってな」
「イラっとくる言い方ですね」
「イラっとくるということは、自分が強情なアホって理解してることだ」
テーブルに二つの珈琲が置かれる。俺は砂糖を入れ、シルヴィアさんは何も入れずに飲んだ。
「あんただってわかってるんだろ、このままじゃダメだってさ」
「…………マドカの事に関して言えば俺だってあいつの意見を尊重したい。でも俺はあいつが戦いで傷つくのを見たくないんです」
「それであんたが傷ついて帰ってくるのをマドカの奴は指を加えて泣いて見てろってか?あいつだって恐いと思うぜ、戦いに出るのが。それでもお前が傷ついているのを黙って見てられないんだろうな」
シルヴィアさんの言っていることはわかっている。でも俺はマドカが戦場に出てきてあいつが傷つくのは嫌だ。
「俺は……俺は弱いです。だからあいつを守れるのかわからないんです。戦場に出てきたあいつを。あいつが傷つくのが恐いんです。あいつが戦場に出るなら、俺はもっともっと強くならないといけない。でもそれができるか俺にはわかんないんです」
思わず本心を口に出した。俺が弱いからマドカを心配させてしまった。だからもっと強くならないといけない。あいつに心配されないようにするために。でもそれができるかどうかがわからない、恐い。俺がマドカに反対する理由の一番は俺自身が弱いからだ。
「はあ、あんたはやっぱりアホだねえ。悩みがあるならあたしたち大人に相談しなよ。あんたの周りには立派な大人がいるんだよ。それともあたしたちが信用ならない?強くなりたいならあたしが力をかしてやる。あんたもまだ若いんだから溜め込まずに外に吐き出していいんだぜ」
「……すみません。確かに強情でした。昔から周りに悩みを打ち明けられる大人がいなかったんで自分で悩んでばかりだったんです。でも、今は違いますよね……シルヴィアさん、俺を鍛えてください」
おれが欲しかったのは他人からの後押しだったのかもしれない。自分では決められないから、他人に後ろを押してもらう。そんな無責任なことを。でも結局、最後に決めたのは俺だ。だから、言い訳はしない。
「勿論だ。そうと決まれば、行く場所があるだろ?」
「わかってます、失礼します」
残っている珈琲を全て飲み干して、席を立ち上がる。シルヴィアさんに一礼して俺は喫茶店を後にした。
あれから三十分後、俺はマドカを見つけて二人で話し合える場所に来た。
「マドカ、俺はお前がモノクローム・アバターに入隊することを認める」
「本当!?」
「ああ、でもこれだけは言っておく、お前の俺が傷つくのを見たくないって言ってくれたのは嬉しい。けど、お前はお前の命を一番大事にしてくれ。俺じゃなくて、お前自身を大切にしてくれ。俺が言いたいのはそれだけだ」
「…………わかった。ありがとう。今からスコールさんの所に行ってくる」
マドカは後ろを向いて歩き出した。しかし、数歩歩いたところで一度止まり、こちらを向いた。
「でも、私はお兄ちゃんを守るよ」
その言葉を言って、マドカはまた歩き出した。
安心しろ。そうならない様にお兄ちゃんはもっと強くなるから。