インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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最初の任務

「ふうー、ふうー」

 

「なあ、一夏。貧乏ゆすりやめないか?凄いこっちに振動が来てるんだけど」

 

「オータム、これは貧乏ゆすりじゃない武者震いだ。そうだ武者震いだ。そうに違いない」

 

    そんな軽口を叩きながら、俺は震える足を両手で抑える。

 

    今俺がいるのは亡国機業が所有する飛行戦艦、その出撃待機室である。部屋には壁に沿うように椅子が設置されてあり、俺の隣にはオータムが座り、他の隊員たちもそれぞれ椅子にすわっている。

 

今日は俺の初めての任務、その事が告げられたのはつい昨日のことだった。訓練の後のミーティングの時に任務に行くと言われた。俺にとっては初の任務だ。

 

    任務の内容は簡単、これから俺たちはとある研究施設を襲撃する。その施設というのは俺が誘拐されてから数ヶ月間いたような、誘拐して来た奴らに殺し合いをさせるような場所である。そんな場所があの場所以外にもあるというのははなからわかっていた。でも、こうも早く、そして俺の初めての任務に当てられるなんて思いもしなかった。……いや、俺の初めての任務だから当てられたのか。

 

「なんだ一夏、緊張でもして震えてんのか?」

 

「いえ、武者震いです」

 

    俺に声を掛けて来たのは『モノクローム・アバター』の副隊長であるシルヴィアさん。

 

「そんな無理すんな、アタシも最初の任務の時はそうやって震えていたんだから。アタシの初任務の時より若いオマエが震えていたって可笑しくねえよ」

 

「……すいません、心配をかけてしまって」

 

    ぺこりとシルヴィアさんに頭を下げる。

 

    この人が副隊長だというのはすごく納得できる。ISの操縦技術が上手なのはもちろんのこと。スコールさんとは違い、姉御肌というのだろうか非常に頼りになって安心することができる。

 

    そうか、シルヴィアさんでも最初の任務の時は震えていたんだ。なんだか意外だな。シルヴィアさんはいつでも凛としているから、最初の任務の時もいつもと変わらないようにしていたと思っていたんだけど。

 

    でも、やっぱり震えを抑える為に少し黙想でもしておこう。そう思いながら目を閉じようとしたその時

 

「やーん!震えてるの?ねえ、ふるえてるの?大丈夫お姉さんが守るから」

 

    室内に広がっていこうとしていく沈黙をぶち壊す様にクーネさんが俺に絡んでくる。

 

「…………クーネさん、すいませんが今は集中したいので話しかけないでもらえませんか?」

 

「つーめーたーい、でもそういうことならしょうがないわね」

 

    俺の話に納得したのか、クーネさんは自分の席に戻って行った。

 

『そろそろ目的地に到着する。準備しな』

 

    俺が黙想を始めようとしたその時、室内にあるモニターに一人の老人が映し出される。

 

    頭には帽子をかぶり背中近くまで伸ばした白髪と口の周りに生えている髭、そして左の目元に傷がある老人。その名はスティーブ・H・フォスター、彼はこの艦の艦長である。スコールさんが言うにはスティーブさんは亡国機業に在籍している人間の中ではかなりの古参らしい。

 

『一夏、任務頑張れよ』

 

「了解しました」

 

    スティーブさんからの激励の言葉に俺は返答する。

 

「みんな準備して、カタパルトに行くわよ」

 

    今まで沈黙していたスコールさんが立ち上がり、俺たちに指示を出す。それを聞いた俺たちは全員椅子から立ち上がると着ていた上着を脱ぎ捨ててISスーツになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    既にスコールさんたちはカタパルトから出撃して残りは俺一人だけになった。

 

「ライダ、行くぞ」

 

    俺は発射台の前で俺の機体の名前を呼ぶ。すると一秒もしないうちに体にISが装備される。

 

その名はライダ、この機体に関していえば正式名称は『ライダ・カスタム』。この機体は俺の専用機、ライダのカスタム機。

 

    これを作ったリリスさん曰く、こいつは実験機らしい。推進力などは他のライダと対して代わりはないが、装備に試作品が装備されている。例えば、腰に付けられた二丁のビームマシンガン『デスペラード』、キアストレートのビームより一撃の威力は劣るが連写性能に長けている。他にも試作品はあるのだが、紹介は省かせてもらおう。

 

    さらにこの機体の股間部だけは他の機体と違う。開発部の男性たちが俺の為だけに股間部に少しゆとりを持たせて、更には最高の衝撃吸収剤が使用されている。「もしものため」だそうだ。お心遣い感謝します。

 

『ゼロ、出撃お願いします』

 

    ヘルメットのモニターに一人の女性の顔が映る。彼女はこの艦のオペレーターのひとりである。

 

「了解しました」

 

    オペレーターの指示の元、おれは両脚をカタパルトの上に乗せる。

 

「発進準備完了」

 

『了解、射出タイミングをゼロに譲渡します」

 

    ゆっくりと深呼吸をしたのち、薄暗いカタパルトの奥を見る。そこにあるのは新たなる世界、一夏がゼロとして行う初めてのこと。

 

    さあ、出撃だ

 

「…………あ」

 

『どうしたの?』

 

「いえ、こういう時って何て言って出撃するんですか?」

 

『ふふ、何でも良いのよ。頑張ってね』

 

    オペレーターからの激励の言葉を貰い、再び出撃の為に構える。

 

「ライダ・カスタムはゼロで行きます」

 

    出撃コールの後、俺の体に後ろ向きに力がかかり前に進んで行く。スラスターを吹かせる。段々出口へと近づいていく。

 

    そして発射台の先端に到着し、カタパルトのロックが外れる。

 

    その瞬間、スラスターを一気に吹かせて加速させて外に勢いよく飛び出す。

 

 

 

 

任務開始

 


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