「はい、それじゃあ。一夏の専用機のお披露目式を始めるぞー」
ここは第一整備室、今ここでは俺専用のISのお披露目式が行われている。この部屋の中にいるのは俺、スコールさん、マドカと壁に設置された画面にリリスさんが写っている。俺達三人は横一列に並んでおり、目の前には俺の専用機になるISがあるのだが幕で隠されている。
「まあ、面倒くさい話は無しで早速お披露目デース!」
リリスさんが画面の中で右手を挙げると同時にISを隠している幕が下がる。
そこにあったのは墨色の『ライダ』。
「これが俺の専用機ですか?」
専用機に触りながらリリスさんに訪ねてみる。
「ああそうだ。残念なことに普通のライダの色を灰色から墨色に変化させただけだがな。量産機として使われるはずだったものを急遽専用機にした。だから性能も変化はないし、専用機特有の一次移行もできない。まあ取り敢えず起動確認してくれ」
起動キーに触れて、ISに乗り込む。今まで動かしていた感覚と至って変化はない。そしてヘルメットを展開して装着する。
「お兄ちゃん、すごい」
マドカがすごいキラキラした目でこっちを見てくる。ちょっと恥ずかしいな。
「よーしそれでは武装を確認するぞ。まずライダ全機の共通武器であるガンブレード、『キアストレート』を展開してくれ」
リリスさんからの指示のもと、右手を前に突き出して武器を展開する。現れたのは柄の部分に引き金がつけられ、さらには銃口までもあるブレード。この武器はリリスさんからの説明があった様に剣とビームガンが一体となった武器であり、剣の部分は取り外し可能でありビームガン単体でも使える。
「ガンブレードに不備はなさそうだし、展開時間も悪くはない……次はアサルトライフルを右手に、シールドを左前腕に展開してくれ」
今度は右手にアサルトライフルを、左前腕にシールドを展開する。シールドを展開するとカチリと装甲と噛み合う音が聞こえる。そしてそのまま銃とシールドを構える。
「次はアリーナに行って機動確認するぞ、スコール相手を頼む」
スコールさんは快く承諾していた。
「あれ?スコールさんの機体変わりましたか?」
アリーナで待機しているとスコールさんが飛んできた。しかし、今まで見てきたライダでは無くてライダに似た別機体に乗ってきた。
「ええ、そうよ。この機体の名名前は『ライダ
ライダの後継機か……灰色のボディカラーはそのままで所々金色ラインが目に付く。機体のシルエット自体はそこまで変化は無いがヘルメットが、ライダは少し丸みを帯びていたのに対して、こっちは流線系のように見える。そして肩のアーマーも後方に少し曲がっている。
「因みに私が前まで使っていたライダは今貴方が乗っている機体よ」
「え?」
「新たにこの子が開発されて私に与えられることになったから余ったその子を貴方の専用機にすることになったの」
なるほど、だから俺の専用機がライダなのか。
「それじゃあ先ず好き勝手に飛んでみて、その後にフリスビー状の目標が5つ射出されるからそれをキアストレートで破壊しなさい」
「了解」
一旦スコールさんから離れて飛行の準備をする。好きに飛んでいいと言われたがどうすれば良いのだろうか?瞬時加速か………それとも円周上運動?でも瞬時加速は上手くできるようになったが円周上運動はまだまだだし。
「……よし」
飛行内容は決まった。ゆっくりと目を瞑り、体の力を脱いて行く。そしてゆっくりと自然落下を開始する。
落下していく感覚がISを通して伝わってくる。このまま何もしなければ地面に激突してしまうだろう。でもまだ何もしない。
10メートル
まだ何もしない。
5メートル
俺は目を開き、スラスターを吹かせ始める。
3メートル
体の向きをわずかにずらして、瞬時加速の準備をする。
1メートル
一気スラスターから推進剤を放出して、瞬時加速を行う。地面との距離は1メートルにも満たない、しかし地面にかする事無く綺麗に地上ギリギリを飛行していく。
そして壁に激突する直前に進行方向を変えて上空に飛んでいく。そして一回、二回と立て回転を行って減速していく。
「一夏、ターゲットが射出されるわよ」
スコールさんからの秘匿回線での連絡があった。するとヘルメットのモニターに射出された目標が映し出される。
「行くぞ」
キアストレートを展開して素早く目標に接近していく。0.6秒、最初に比べればコンマ3から4秒ほど短縮できたけどまだまだ短縮できる。まず一機を接近してブレードで切断する。そして近くにあった一機に向かって瞬時加速を使ってすれ違いざまに切断する。
そして柄にある引き金に手をかける。俺はそこまで射撃場がうまい方ではない。けれども一定の動きをするフリスビーぐらいならば撃ち落せる筈。
一発、引き金を引いて銃口から放たれたビームはターゲットの中心を撃ち抜いた。
二発、ビームはターゲットの中心に当たる事はなく、端っこに当たって軌道を変えるだけとなった。
「ちっ」
外してしまった事に少し苛立ちながらもう一発放って今度は確実に撃ち落とした。
残り一機
すぐさまモニターで最後の一機の場所を確認する。
「あった」
地面に今にも落下しそうなターゲット、急いでスラスターを吹かせて瞬時加速を行う。
「はああああ!」
今にも地面についてしまいそうなターゲット、キアストレートを逆手に持ち替えてすれ違いざまに地面にターゲットごと突き刺す。ターゲットはキアストレートの刃に突き刺さっている。
そして勢いそのままにランドスピナーを使い、飛行機が着陸するようにスピードを落としていく。
「終わりました」
停止してスコールさんに無線を繋ぐ。
「初起動にしては上出来よ。それじゃあ、ISを待機状態に戻して」
スコールさんの指示の元、ISを待機状態に変換する。俺の専用機である墨色のライダの待機状態は墨色のブレスレット、そしてさらに頭にはインカムが装備されている。専用機をもらう時に一緒に貰ったのだ。このインカムはリリスさん特製のものである。これはこのインカムで捕らえた英語を自動で日本語に変換して、俺が話す言葉を英語に変換してくれるものだ。因みに俺が聞く言葉はその人の声で聞こえ、俺が話して変換された声は俺の声になるという優れものだ。
「それじゃあ次は貴方のフィジカルを鍛える人を紹介しにいくわよ」
スコールさんもISを待機状態に治してアリーナから出ていった。
「お前が一夏だな、儂の名前はセルゲイ・アゼフ。この部隊の隊長だ。よろしく」
「同じく副隊長のアレクサンドル・アゼフ、気軽にアレキサンダー若しくは先輩って呼んでいいぜ」
俺に自己紹介をしてきたのは赤い髪の三十代から四十代ぐらいの男性、着ている制服の上からでもわかるぐらいに鍛えてある。そしてもう1人の方の男性はスキンヘッドにサングラスをしており、十代だろう。どことなく軽い雰囲気を纏っている。
「よ、よろしくお願いします」
スコールさんに案内された場所はトレーニング施設、室内に置かれてあるのは様々なトレーニング機器でどれも最新の機器のようだ。それに他にも冷蔵庫や戦闘用のエリアがある。
「じゃあ一夏、後はこの二人に任せてあるから」
スコールさんはそのまま退室して行った。
「一夏、儂らはISを教える事はできねえが、身体の鍛え方や格闘技を教える事ができる」
セルゲイさんは腕を組みながら話す。
「それにお前が悩んでいる事があったら気軽に相談してくれ、女性に話しにくいことがあっても儂らになら相談できるだろ」
セルゲイさんは何処か頼りがいのある父親を連想させる。
「そういうわけだから、特訓始めるぞー」
アレキサンダー先輩は俺の背中を押して施設の中に連れて行く。
「儂らがお前にするのは筋力トレーニングと格闘技術を教えることだ。筋力トレーニングに関してはこれから来る成長期に影響を及ぼさないようにやっていくつもりだ」
今俺がやっているのはテレビで良く見かけるようなトレーニング機器を使っての筋力トレーニング、重りの個数をギリギリまで持てるぐらいにセルゲイさんが設定して、上げたや下げたりしている。もともと柔道や剣道をしていたので同い年と比べたら筋肉はついていた方だが、正直言って結構キツイ。
「大丈夫か?無理ならギブアップしても良いんだぜ」
俺の顔をのぞきながら先輩はニヤニヤと笑っている。ここで辞めてしまったらアウトだ。
「まだ……いけます!」
「良いぞ、あと三十」
「ウッス!」
「ほーら一夏。そんなんじゃあたんねえぞ」
「まだまだ!」
今度はアレキサンダー先輩とのナイフの特訓、使用しているのは特訓用の切れないナイフ。セルゲイさん曰く、アレキサンダー先輩は亡国機業の中でもトップクラスの格闘技術を誇るらしい。
さっきから攻撃をしているのだが、悉く余裕の表情で防がれていく。俺も施設にいた頃はナイフを使っていたことがある。
そう、使っていただけだ
俺が相手をしていたのは俺と同じように誘拐されて来た素人の子供だからこそ攻撃を当てることができた。しかし、今相手にしているのは本職の軍人であり、素人の子供とは訳が違う。ナイフの軌道は一瞬にして読まれ、かわされてしまう。
「足元がお留守だぜ」
先輩が足払いを仕掛けてきた。しまった、攻撃するのに集中しすぎて防御を怠ってしまった。足払いをくらい、容易く倒されてしまう。そして続けざまに先輩は仰向けに倒れている俺に向かってナイフを突き出して来る。
「危ね!」
慌てて転がりながらナイフを避けて、すぐさま立ち上がる。
「やるじゃん、でもまだ訓練は続くぜ!」
近づいて来る先輩に俺は再びナイフを構えた。
訓練を終え、ご飯も食べ終わり、風呂にもはいった俺はスコールさんから英語を教えてもらっている。最初はアルファベットを書くことから始まりはや一ヶ月以上が過ぎようとしている。今では日常会話ぐらいなら何とかなるようにはなってきているがまだまだ、日本語で会話するのと同じくらいのコミュニケーションが取れるようにならないとまずいだろう。これからこの組織にいるのであれば。
「一夏、セルゲイとの訓練はどうだったの」
いきなりスコールさんが声をかけてきた。訓練がどうだったと言われればすごく為になったと言うべきだろう。スコールさんは基本的にはISの操縦技術を教えるから、ああいった近接格闘のやり方はよくわからなかった。
「そうですね、とても良かったです」
「それはよかったわ。貴方にはこれからも私によるISの訓練とセルゲイたちによる訓練を同時進行でやってもらうことになるから」
「わかりました」
「それと来月中には新たな寮が完成するのよ、だから貴方はそこにうつってもらうことになるし、そしてそれと同時に私の部隊で訓練を受けてもらうことになるわ」
「そうですか……やっとですね」
思わず安堵した。
「あら、私と同室は嫌だったの?悲しいわ」
「い、いえ。そんなんじゃありません」
「ふふ、冗談よ」
からかうようにスコールさんは喋る。
スコールさんには感謝しているが少しこの生活はキツかった。何がキツかったって精神的にキツかったです。俺だって健全な青少年です。スコールさんの様な魅力的な女性と一緒の部屋で寝ることはすげえドキドキした。
スコールさんの寝ているベッドはかなり大きく俺とスコールさんが一緒に寝ても問題ないとスコールさんは言っているのだが、流石に恥ずかしいので俺は部屋に置かれてあるソファーで眠っている。
けれどもある日、朝目覚めた俺は何時の間にかベッドの上で寝ていた。そして目の前にはスコールさんが起きていて、俺の顔をじっと見ていた。俺は慌てて起き上がり、スコールさんからどうしてこうなったかの説明を受けた。
曰く、連日の特訓で俺が疲れていると思ったらしく、寝ている間に俺をベッドに運んだらしい。
俺はスコールさんからの説明を受けて心配をかけてしまい申し訳ない気持ちになった。それに対してスコールさんは嬉しそうに微笑んでいた。
「今日はもう遅いわ。明日に備えて寝なさい」
思い出に耽っているとスコールさんから声をかけられた。ふと、時計を見てみれば既に時計は11時をまわっていた。確かに子どもが起きているには遅い時間だ。それにこれ以上起きていたら明日の訓練に支障が出るかもしれないな。
「わかりました、おやすみなさい」
「おやすみ」
スコールさんに挨拶を済ませて、勉強用のノートを閉じて椅子から立ち上がると毛布の置かれてあるソファーに向かう。
明日もまた、頑張らないといけないな。ISだって専用機を貰ったのは良いがまだ完全にライダを使いこなせてはいない。円周上運動、二重瞬時加速などなど、習得しないといけないことはまだまだ多い。それにセルゲイさんたちによる特訓も勉学の習得も頑張らないといけない。そしてもっともっと強くなって………………いや、考えるのはやめてもう寝よう。
ソファーに寝転がり、体に毛布をかけてゆっくりと目を瞑っていく。暫くするとだんだん意識が薄れていき、やがて俺は眠りについた。
そして翌朝、俺はスコールさんのベッドで起きた。今度は抱き枕にされた状態で。