インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

18 / 137
今までで最長


強くなるための道

 

    俺がISを動かしてから二日間、身体検査などを行った後、正式にスコールさんの部隊に配属になった俺。

 

    そしてその数日後、亡国機業の本部の中にあるIS訓練施設のアリーナにいる。アリーナの中には俺とスコールさんの二人しかいない。互いにISスーツをきている。ちなみにだが俺の着ているスーツは、俺がISを動かした後に大急ぎで作られた物であり、女性ものしかなかったISスーツで初めての男性用のデザインだ。初めてこれができた時、俺は心の底から喜んだ。なぜなら、これがなければ俺は女性もののISスーツを着用しなければならないからだ。そんなの、あまりにも恥ずかしすぎる。

 

 

 

 

「よし、それじゃあISを展開してみて」

 

    目の前にいるスコールさんから命令が下る。スコールさんは既に以前俺が見た、あの施設を襲撃したISを使用している。

 

「わかりました、こい『ライダ』!」

 

    俺は右手を突き出して、ISの名前を叫ぶ。すると右手に着けられた籠手が光、僕の体を包み込む。一秒ほどで俺の体にISが装着された。名前は『ライダ』、今スコールさんが使っている物と同じ物である。灰色のボディの全身装甲タイプだが、重装甲と言うよりは軽装甲で機動力が高い機体だ。でも今は二人ともヘルメットを展開していない。背中には突起状のスラスターが装備されている。そして何よりの特徴としては脚部に装備されている地上を移動するためのホイール、ランドスピナーである。故にこのISは空中戦闘よりも地上戦を得意としている。

 

「展開するまでに約一秒……まだISの操作に慣れてないと考えるとこのタイムは上出来よ」

 

    スコールさんからお褒めの言葉を頂いた。

 

「それじゃあ次は歩行練習よ、私は少し離れるからそこまで歩いてきて」

 

スコールさんはそう言うと、ライダのランドスピナーを使用して器用にバック走行を行い距離を取る。凄いな、あんな簡単に操れるなんて。

 

    そして俺はISを動かしてからの記念すべき一歩を踏み出そうとする。まずは右足を動かす。ISで歩く感覚はあまりいつもの様に歩く感覚と酷似していて、違和感は無い。

 

(良し!)

 

    初めの一歩が成功したことに俺は喜んだ。また一歩、今度は左足を動かす。そして左足が地面につこうとしたとき

 

「あれ?」

 

    俺はバランスを崩してしまい倒れてしまった。なんとか倒れる瞬間に前受け身をとったのであまり痛みはない。思っていたよりISでの歩行は楽だが、油断は禁物と言う事だろう。

 

「大丈夫?立てる?」

 

    スコールさんがランドスピナーを使って近づいてくる。俺が立つのを手伝うつもりなのだろうが、ここで手伝ってもらったら駄目だ。ここで手を借りたら、きっと俺はこれからも弱いままでいるだろう。だから

 

「大丈夫です。一人で立てます」

 

    右手を前に突き出して拒否を示す。そしてそのまま左手を地面につけ、左膝を立てて右足から立ち上がる。立ち上がった瞬間、またバランスを崩すがなんとか踏ん張る。

 

「よっしゃあ!」

 

    立ち上がれた事に思わず叫んでしまった。その様子をスコールさんは暖かく見守っている。そしてそのままランドスピナーを使用してスコールさんは元の位置まで下がる。

 

    今度は失敗しないように気をつけながら歩く。一歩一歩確かめるように歩いていく。今度は順調に

歩いていく。

 

「あんよは上手♪」

 

    スコールさんが俺に向けて手拍子をしながら、母親が歩き始めたばかりの子供に言うように話す。確かに、今の俺の歩き方は凄いぎこちなくて、歩き始めたばかりの赤ん坊みたいだろう。恥ずかしい、恥ずかしすぎる。多分今俺の顔をみたら真っ赤になっているかもしれない。そしてなんとか俺は歩き進めて、スコールさんの元までたどり着いた。

 

「よくできました」

 

    俺の頭を撫でるスコールさん。凄い恥ずかしいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

    あれから二時間後、なんとか歩行練習と走る練習をし終えた。一時間も練習すればなんとか不自由なく地上で活動できるようになった。それで今はランドスピナーを使用した滑走練習を行っている。最初は歩くのとも、走るのとも違う感覚に最初は戸惑っていたが今ではなんとか曲がれるようになった。曲がれるようになったのも何回も転けてそして立ち上がり、また滑走するのをくりかえしたからだ。それでもまだまだスコールさんには及ばない。あの人は俺と同じ機体を使っているはずなのにスピードが俺よりも速い。

 

「はーい、止まって」

 

    スコールさんからの声がかかる。俺はアリーナの周りを滑走するのを止めてスコールさんに近づく。

 

「だいぶ良くなっているわね。それじゃあ次は飛行訓練よ」

 

    スコールさんはヘルメットを展開して、スラスターから推進剤を噴射して上空へと飛翔する。

 

    俺もヘルメットを展開する。そして両足を肩幅ぐらい開いて膝を軽く曲げる。昔束さんが言ってた事だが、ISで飛翔する際にはPICと言う物が重要らしい。これがある事によってISは空中で浮遊または加減速を行う事ができるらしい。なんでもこれはISコア自身がプログラムの案を出して、それを束さんが作り上げたらしい。

 

(まずは30センチメートルぐらい浮いてみよう)

 

    軽く推進剤を吹かして浮き上がる。PICのお陰でその場にとどまる事ができる。

 

(凄い、これが浮くってことなんだ。なんだか初めての感覚で少し戸惑うな)

 

    次はいよいよ上昇だ。ISはイメージで飛べると束さんが言っていたがどれくらいの物なのかはわからない。取り敢えず少量ずつ推進剤をスラスターから放つ。

 

スーッ

 

    ゆっくりではあるが確かに俺は上昇している。

 

(飛べた!)

 

    飛べた事に感動しながらどんどんと進んでいく。ISで飛行するというのは、地面を走ったり、地面を蹴ったりして飛び上がったり、自転車で思いっきり坂を下るといった感覚とは全く違う。説明し難いが鳥が飛ぶのはこんな感じなのかもしれない。

 

    順調に飛んで行き、スコールさんにさんの元まで辿り着く。案外簡単に飛ぶ事はできた。でもこれはまだ初歩中の初歩、飛行が上達するにはまだまだ練習が必要だ。

 

「初めてにしては上出来よ。次はもっと速く飛んでみて」

 

    スコールさんはまた距離を取る。今度はさっきよりもかなり長い。

 

    速く飛ぶにはもっと勢いよく推進剤を噴射しなければならないな。だからさっきよりも大胆に放つ。

 

スオオ!

 

    勢いよく噴射した推進剤は俺の体を予想よりも速く移動させる。

 

(ヤバい!)

 

    俺は慌ててブレーキをかけて減速を行う。そしてある程度制御できるくらいまでスピードを落としたところで、そのスピードをキープしながらスコールさんの元まで飛んでいく。そして距離が近づいたところでゆっくりとブレーキをかけていき、丁度良くスコールさんの元に到着する。

 

「すいません、スピード制御を失敗してしまいました」

 

    俺はスコールさんに頭を下げる。

 

「大丈夫、初めての操縦でここまでできるのはなかなかのものよ。それじゃあ次は今出せる最大の速度で直線的な移動をしてみて」

 

    スコールさんは頭を下げている俺の頭を優しく撫でた。そして俺は顔を上げて再び構える。スコールさんは少し距離を取る。

 

(最大速度か……ええっと、一気に加速するにはどうすりゃいいんだよ)

 

    取り敢えず制御も何も考えずにスピードを出す事だけを考えてみよう。イメージはなんとなくできている、取り敢えず推進剤をために溜めて一回吐き出してからそれを素早く戻して再噴射。確か……瞬時加速とか言うものをイメージしてみた。

 

グオオオオオ!!

 

「は?」

 

    勢いよく噴射した推進剤は俺の体を勢いよく前方に押し出して、予想よりもものすごいスピードになる。今までに生身で体験した事のないような速度に。

 

(やばっ!このままじゃ壁にぶつかる)

 

    どんどんとアリーナの壁が迫ってくる。このスピードでアリーナの壁とぶつかったら一溜まりも無い。今更ブレーキをかけたところでどうにかなるとは思えない。こうして考えているうちに迫り来る壁……ならば一か八か。

 

「うおおおおお!」

 

    体を振り向いて、進行方向とは反対側をむく。そしてそのままスラスターから思いっきり推進剤を放つ。徐々にスピードが落ちていき、それと同時に俺の体に負荷がかかる。しかし、なんとかそれに耐え切って無事に静止する。焦った、ほんっとうに焦った。思わず両手を膝に置いて肩から息をする。まさかあんなに速いとは思っていなかった。練習すればあんなの、焦らずに冷静に対処できるのだろう。でも今の俺にはあれで精一杯だ。まだ俺は直線的な飛行しか出来ないけど、いつかは自由自在に空中を飛行できるようにはなりたい。

 

「おーい、大丈夫?」

 

    スコールさんが飛んできた。

 

「まさか瞬時加速紛いのことを初めての起動でするなんて驚いたわ。これからが楽しみね」

 

    ヘルメットで顔はわからないが、多分今出せる笑顔でいるのだろう。俺は息を整えて、膝から手を離す。

 

「それで次は何をするんですか?」

 

「今日の訓練はもう終わりよ」

 

「そんな!まだいけます。だからもっと教えてください!」

 

    思わず叫んでしまった。

 

「ダメよもうかなりの時間練習してるからあなたの体力が心配だし、それに次にこのアリーナを使用する人たちが待っているのよ」

 

    その言葉を聞いて、俺は黙ってしまった。まだまだ練習しなければ強くはなれない。でも、スコールさんの言うように体を壊してしまったら元も子もない。だから俺はその言葉に従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

    訓練を終えてISを格納庫に直し終えた俺は一息ついた。俺は正式にスコールの部隊に所属してはいるがまだまだ実力やIS操縦の経験がないためにしばらくはこうしてスコールさんによる個別特訓が行われる。いつかは部隊での任務に加わる事になり、様々な違法施設などを襲撃することになるだろう。

 

「疲れたな」

 

    思わず床に座り込んでしまった。訓練している最中には感じなかったのだが、こうして訓練を終えて一息つくと体中が疲れているのがわかる。まだまだ練習しないとな。

 

『疲れてるみたいだね』

 

    頭の中に少女の声が響いた。

 

(白騎士、どうしたんだい)

 

    俺は目の前にあるISのコアを介して話しかけてくるISのコア、コアNo.001白騎士のコアに返事をする。

 

(そういや、お前は今どこにいるんだ?)

 

『私?今は束のところにいるよ、でも白騎士としてではなくてただのコアとしてね』

 

   そうか、白騎士は分解されたのか。

 

『それで今回あなたに話しかけた理由はね、あなたに取りに行ってもらいたいものがあるの』

 

(取りに行って欲しいもの?)

 

『それはね、あなたが束から貰った誕生日プレゼント』

 

    は?つまりそれは一度あの家にもどれと言うことか。でもなんで今更そんな事をこいつは言い出したのだろうか。

 

(それは俺にこの組織を抜け出して、あの家にもどれと言うことか)

 

『ううん、違うよ。私はあなたが決めたことに口出しする気は今は無いよ。それに、あなたが束から貰ったものはきっとあなたの力になる。だから私からのお願いを聞いて』

 

    確かにあの時束さんは俺に対してこれは助けになるものだと言っていた。でもなんでこいつはそのプレゼントに拘る。何かあるのか?

 

(……わかった、スコールさんと相談してみる)

 

『ありがとう、それじゃあまたね』

 

    そう言うと白騎士からの声は聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    白騎士との会話を終えて、自室に戻ってきた。自室と言ってもスコールさんの部屋にお邪魔しているだけなのだが。なんでこんな事になったなかと言うと、無事に病室から退院した俺は新しく居住区に増設される部屋に入る予定だったのだが、増築工事に数日の遅れが出てしまったために俺の泊まるところがなくなった。病室に泊まればいいと言うかもしれないが、あそこは病人が寝るところなので、俺みたいな元気なやつはダメらしい。

 

    そこでスコールさんが私の部屋に泊まらないかと言ってきた。もちろん最初は断ったのだが、スコールさんから強制的に部屋に連行された。

 

    スコールさんの部屋はかなり広く、そしてとても清潔に保たれていた。同じ年齢くらいなのに織斑千冬とは大違いだ。それに部屋が広いのは一部隊の隊長だからだそうだ。亡国機業の実働部隊では部隊長や副部隊長にだけ個室が設けられるらしく、一般兵は何人が一緒の部屋に集まって生活するらしい。マドカもこっちの集団部屋で生活している。

 

    部屋に入るとスコールさんはいなかった。どうやらまだ帰ってきてないらしい、ならば先にシャワーを浴びさせてもらおう。そう思い、部屋にある自分のクローゼットから支給された衣服を取り出してシャワールームにいく。個人部屋にはそれぞれシャワーとバスタブがあるが、集団部屋にはそれがないので集団浴場などを使う。

 

    シャワールームに入る前にノックしてから中に人がいない事を確認する。そして返事がないので中にはいる。そして服を脱いで選択カゴの中に入れる。

 

「これからもっと練習しなきゃ……そして強くなって……強くなって」

 

    そう呟きながらお湯を出してシャワーを浴びる。疲れが癒されていくようでとても気持ちがいい。施設にいた頃には考えられなかったことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャワーを浴び終えて服を着て、部屋に戻るとそこにはマドカがいた。

 

「どうしたんだ、マドカ?」

 

「お兄ちゃん今日から病院食じゃないんでしょ?だったら食堂を案内するついでに一緒に食べたいなーっと思って」

 

   そうだった、今日から俺は病院食を卒業して一般の食堂でご飯を食べることになっている。そのことを思い出して口に涎があふれてでくる。思えばここ数ヶ月間真面な食事を食べてはいない。誘拐されてから施設を脱出する迄は不味い飯を一日二食、それが数ヶ月間も続いた。そして施設を脱出してゴーストタウンで食べた飯は、そこいらにあった生ごみ。あんな物を食べるのはこれから二度と無いと思う。そして亡国機業に入ってから食べたものといえばお粥や病院食と言った満腹感を満たすには足りないものだ。いや、文句を言ったらいけないのはわかっているがそれでも早く満腹感を満たす食事が食べたかったのだ。だから、今日これからある時間は俺にとってとても大切なものなのだ。

 

「おう、良いぜ」

 

「それじゃあ行こ!」

 

   マドカに手をひっぱられながら俺は食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばマドカ、お前英語話せるのか?」

 

   食堂までの廊下を歩きながら俺はマドカに気になった事を話した。 この亡国機業では基本的に英語が公用語として用いられているが、マドカやスコールさんは日本語を話していた。スコールさんは日本人じゃ無いから英語を話せるのは当然だと思う。けれどもマドカは日本人だ。しかし、ここにいるのだからマドカも話せるのかもしれない。

 

「なんの問題もなく話せるよ」

 

「はは、やっぱりそうか」

 

    俺の妹ながら、この年で自由に英語を話せるなんて凄いな。そんなことを考えると同時になんだか凄い落ち込むな。

 

「でもお兄ちゃんも直ぐに話せるようになるよ。スコールさんからも教えて貰ってさ」

 

「そうだな、ありがとうマドカ」

 

    俺は少し落ち込みながら廊下を歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あらすじを変えた方が良いのか考え中。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。