インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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ガチスランプに突入したり、多忙な日々が続いた為に全く書けなかった。

取り敢えずできた分です。


第137話

 

 

気がつけばゼロは部屋にいた。

 

白で纏め上げられた部屋であった。彼はこの部屋に備え付けられてあるソファーに座らされていた。

 

ゼロはこの部屋に見覚えがあった。ISの意識の中、数回この部屋にやってきたことがあったからすぐにわかった。

 

「起きたか?」

 

ゼロが座っているソファーとは低めのテーブルを挟んで対称的に置かれてあるソファーに一人の男が座っていた。

 

No.000(ゼロ)………」

 

「元気そうだな、ゼロ」

 

ゼロの目の前に座っていたのはNo.000(ゼロ)のISコアの意思だ。

 

 

二人は黙った。

 

何も言い出せないまま、ただただ重苦しい雰囲気が二人の間を占領していく。

 

二人ともNo.1000に負けてしまったことを引きずってしまっているのだ。一夏は死にかけるような敗北をした経験がなかった。

 

五分か、十分か、それくらい長い時間が流れた時、漸く口を開いた。

 

「負けたな」

 

「………ああ、そうだ」

 

二人とも最善の手を尽くして、自身の限界を凌駕した。

 

それでも負けた。

 

原因は何だったのか、ゼロの肉体が耐えられなかったからか、黒零の性能が理想郷よりも劣っていたせいか。

 

考えれば考えるほど敗因を思いついてしまう。

 

「俺の肉体があと一秒動けていたら殺せてた」

 

「それを言うなら、お前の速度に着いてこれなくなっていたオレにも原因がある」

 

互いに相手に非はない。自分のせいで負けてしまったと思っている。

 

「「……………」」

 

二人は黙った。

 

これ以上続けても話は平行線から動くことはないと理解してしまったからだ。

 

ただただ重苦しい雰囲気が二人の間に広がってしまう。こうなってしまえば喋り出すのは困難だ。

 

何分時間が過ぎたのだろうか、一夏(ゼロ)が漸く口を開いた。

 

「その………なんだ………結局はアレだ。どっちかが悪いんじゃなくて、どちらも悪かった。俺たちがもっと強ければ、あいつらを倒せた…………そういうことでいいだろ」

 

二人は黙ってしまった。

 

どちらが悪いではない。どちらにも足りない部分があったのだ。

 

だからこそ互いにソレを補い、より高い次元に高め合う必要がある。

 

「次は勝つ………勝たなきゃいけねえ。俺たちは勝たなきゃならねえんだ」

 

「当たり前だ。No.1000(アレ)に負けたままでいられるか」

 

二人ともリベンジする気満々だ。負けたままでは死んでしまう。奴らを倒さねば意味がない。

 

その思いはただ単に負けた時よりも大きかった。相手は二人の別の側面とも言える存在であったから……ただ負けるよりも何倍も何十倍も悔しかった。

 

「そろそろ戻れ、お前を待つモノたちが目覚めを待っている」

 

「それは呼び出した奴のセリフじゃねえが、まあいいや……またな」

 

目が霞む、視界が狭まる。眠気に襲われたわけでもなく、気絶していくわけでもない。ただこの世界から、一夏の意識が消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたら視界がオレンジ色だった。

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

事態が飲み込めず、起きてそうそう慌てる一夏。だがすぐに自身が置かれている状況を理解することができた。落ち着きを取り戻し、力を抜いた。

 

亡国機業でよく使われている液体を用いた治療装置、それに間違いなかった。一般では出回っていない代物である。

 

カプセルの中を特殊な液体で満たして、その中に治療したい患者をいれる。時間はかかるが、失った手や足を再生させる事ができる。

 

開発者曰く死ななければ治せる。

 

よくSFとかで見かけるアレ。

 

亡国機業の技術力が開発させた代物だ。

 

液体の中にいる筈だが呼吸をするの苦しさは一切ない。普通の呼吸を行うよりも心地の良い呼吸が行えているような気がする。

 

この場所にいるということは、誰かに連れて来られたのだろう。

 

ゼロはジックリと自分が眠っている間に起きた事を考える。

 

誰かに治療され、本部まで運ばれてきた。

 

チラリと視線だけを左側に移すと、そこには理想郷によって切り裂かれた筈の左腕が綺麗に傷跡なく生えていた。

 

斬られた腕をそのままくっつけたのか、それとも何らかの技術を使って一から早したのかわからないが、何の問題もなく動かす事ができるのでよしとした。

 

(あとどれくらい治療すれば良いんだ?)

 

ゼロとしてはいち早くこの治療装置から出て、現在の状況を確認したかった。

 

だがこの治療装置は治療が終わるまで中から開ける事はできない。

 

なのでゼロとしては早く誰かにきて欲しかった。

 

「おや、起きられたのですね」

 

部屋の中少女の声が聞こえた。

 

最初から部屋の中にいたのだろう。ゼロが視線を声の元に向けると、そこには椅子から立ち上がったばかりのクロエ・クロニクルがいた。

 

彼女はゼロが入れられているカプセルの前までやってくると装置を弄り始めた。

 

治療装置の中に入っていた液体が抜かれ、蓋が開けられる。

 

ゼロは装置の中から外に出ると近くに置かれてあったタオルで体を吹き上げ、そして綺麗に畳まれてあった服を着た。

 

「どれくらい眠っていた?」

 

「二週間ほどですね。腕を再生させるのに時間がかかりましたし、他の部位もダメージを受けすぎていました」

 

どうりで体がいつもより重く感じてしまうわけだとゼロは思った。この二週間動かなかったことによって筋肉が衰えてしまっている。どうにかして短期間で前と同じような筋肉を手に入れる必要がある。

 

「この二週間の間に何があった?」

 

「此方に纏めてあります」

 

クロエはゼロの考えを予め予想していたのか、タブレット端末を手渡した。

 

クロエはこの亡国機業に所属するようになってからはゼロの秘書のような立場になっている。

 

ゼロが仕事を行いやすいようにサポートを行うのが彼女の役割だ。

 

渡されたタブレット端末の電源を入れて、纏められた情報を確認する。

 

十分ほどでゼロはまとめられた情報を読み終えた。

 

「…………第三次世界大戦か」

 

それの始まりは世界各地で同時に発生したISを用いたテロ行為だった。

 

世界の大都市でISが出現し、多くの人間の命を奪った。各国は警戒し、やがてとある国が宣戦布告を行った。

 

それにより戦禍の炎は爆発的に広がり、忽ち世界を巻き込む戦争になってしまった。

 

「亡国機業としての動きは……」

 

「今の所は各地で暗躍するネオに対して動いているだけです。ネオが本格的に動いた際に対抗できるように準備しているといったところでしょうか」

 

ゼロはタブレットで情報を確認しながら、治療室を出てとある場所に向かっていく。

 

「IS学園……崩壊か」

 

タブレットの中に入っていた情報に気になるものがあった。

 

あの戦いでIS学園は崩壊した。

 

犠牲者は戦闘に参加した教師、生徒合わせて数十人。避難していた生徒達の中に犠牲者は奇跡的にいなかった。

 

それだけは救いだっただろう。

 

「今はどうなっている」

 

「校舎が崩壊してしまったために、現在は休校になっています。生徒達の多くは自分の国に帰り、教師達は後始末に追われています」

 

「……そうか」

 

しばらく廊下を歩き続け、クロエは黙って後ろから着いて来ている。

 

とある部屋の前で立ち止まると、ノックもせずに部屋の中に入っていった。

 

この部屋は整備室で、一機のISが静かに鎮座していた。

 

「……修理は完了しているみたいだな」

 

機体の名前は黒零、ゼロのISで、亡国機業最強の機体である。

 

先の戦いで半壊状態になっていたが、この場所で修理されたのだろう。完璧な状態で相棒の目覚めをこの場所で待っていた。

 

『そうだね、この子を修理するのは手がかかったよ』

 

『結構派手にぶち壊したよね、いっくん』

 

部屋に備え付けられた二つのモニターにそれぞれ映し出されるデフォルメ調の可愛らしいキャラクター。

 

一人は亡国機業技術局局長、亡国機業の天災『リリス』。

 

もう一人はISの生みの親、一夏にとっては近所の天災『篠ノ之 束』。

 

二人とも元は人間としての肉体を持っていたが、今現在はISの意識と同様に電脳精霊になっている。

 

肉体をなくし、電脳の世界に生きる存在になっている。

 

「ここまで派手にしなければならない相手だった。とは言っても、負けてしまっては意味がないのだがな…………今すぐにでも動かせるか?」

 

『動かせる。だが、少し待っていて欲しい。この機体に細工をしている途中なのだ。明日まで待って欲しい。…………それに、目を覚ました事を報告しに行った方が良い。心配していたぞ』

 

アリスが画面の中で『GO!』と書かれてあるプラカードを掲げている。

 

「ならそうさせてもらおうか」 

 

『くーちゃんはここに残って、私たちの手伝いをしてね』

 

「わかりました、束様」

 

クロエはゼロに対して一礼すると、部屋の中に備え付けられてある執務机に座った。

 

「なら明日から動かせる様に調整お願いします。今日は……大人しくしておきますから」

 

ゼロは束達に頭を下げ、この部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で、なんで俺の部屋で寛いでんだ?」

 

「え?良いじゃん。私と一夏の仲じゃん」

 

一夏が自室に戻ると、彼が普段使っているベッドの上ではティファニアが我が物顔で寛いでいる。

 

数ヶ月間部屋に戻っていなかったので埃が溜まっていると思ったが、綺麗に掃除されているようだ。

 

「随分寝てたね、二週間くらいだっけ?ここまで酷く負けたのって始めてじゃない?」

 

ティファニアはベッドに寝転がっているが、丁寧なことに靴をしっかりと脱いでいる。

 

「まあな、訓練とかで負けることはあったが、実践でここまで酷い負け方はしたことねえよ。完敗だよ」

 

上着を脱いでハンガーにかけると、一夏はドッカリとソファーに体重を預けて座った。

 

「なんか飲み物ない?」

 

「んん?コーラはこの前補充したからまだ残ってると思うよ?」

 

「…………もしかして、ティファ……日常的にこの部屋使ってねえか?今の様子からも察してるけど」

 

ソファーから立ち上がって、冷蔵庫からコーラを取り出すと再びソファーに座った。

 

「……勝てる?」

 

誰に、とは聞かない。

 

ティファニアがそんなことを聞いてくるなんてこれまでは一度もなかった。

 

一夏は今現在の亡国機業の最強だ。スコールやティファニアよりも遥かに強い。

 

その一夏が負けたと言うことが亡国機業全体に嫌な空気感を広げている。

 

「………勝つ」

 

勝てるとか勝てないとか、そんなことを言うつもりは彼には一切ない。勝たなければならないのだ。

 

二度の敗北は許されない。

 

次の敗北は亡国機業の敗北を意味する。

 

「………重くないの?そんなに背追い込んで。普通の男子高校生だったら、今頃は普通に学生して、普通に勉強してる。それなのに背負うの?」

 

一夏は少しだけ黙った。

 

今になってこんなことを聞かれるなんて思ってもいなかった。聞ける機会などいくらでもあったはずだ。

 

なぜ今こんな事を聞いてきたのかは聞かない。今だからこそ聞いてきたのだと、一夏も理解しているのだ。

 

「背負うさ、俺だから。それにさ、俺に重いんだったら他の人には背負えねえだろ。俺以外に誰が背負える?背負えないね」

 

自信満々に一夏は答えた。

 

それが本心なのかはわからない。

ただ一向に気高く振舞っている。少しだけ不安になっているティファニアを心配させないように、自信満々な態度を見せている。

 

「ふーん、じゃあ私もついて行ってあげる。一人じゃ辛いでしょ?」

 

「……ありがとう。だが、俺を甘くみるなよ。これくらい背負ってみせるさ」

 

一夏はコーラを飲み終えると立ち上がり、執務机に向かおうとする。

 

「だーめ」

 

だがティファニアが起き上がって、ベッドの横を通り過ぎようとした一夏を引きずりこんだ。

 

「今日くらいはユックリしようよ。私、久しぶりに一夏と楽しみたいし。こういう時間もたまにはあっていいんじゃない?」

 

抱きしめられる形でベッドに寝かされたので、すぐ目の前にティファニアの顔がある。

 

一夏の拘りで最高級の品物で揃えているためにただ単に寝転がるだけで、夢の世界に行きそうになる。

 

「……いや、ダメだ。身体がなまりすぎてる。筋肉の方は、寝ている間に電気流してたから大丈夫だが………実際に機体を動かさないとわからないこともある……………だが、眠いな」

 

時間的にいえば現在はお昼寝がしたくなる午後三時、先ほどまで数週間眠っていたが………いや、寧ろ眠っていたからこそ、眠くなっている。

 

「うん、だから今日くらいは──」

 

「楽しそうだね、ティファちゃん」

 

部屋の扉が開かれる音が聞こえ、ここにはいないはずの誘宵アリサがそこにはいた。何故か知らないが亡国機業の制服を着ている。

 

「……あれ?アリサちゃん、スコールの所に行ってるんじゃなかったの?」

 

ガバリと勢いよく、ティファニアが起き上がった。

 

「ええ、行ってたよ。それで、一夏くんが目覚めたって聞いたから急いで戻ってきたの」

 

「あれ?なんでアリサがいるんだ?」

 

一夏も眠たさをごまかしながらユックリと起き上がった。

 

「おはよう、一夏くん」

 

「うん、おはよう。なんでアリサがここにいるんだ?」

 

「一夏くんが心配だからついてきちゃった。勿論、お父さん達には許可もらってる」

 

友達の家に泊まりに行くような気軽さで、アリサは亡国機業の本部にやってきたようだ。

 

「ついでに百春くんも来てるよ。彼の場合は別の理由もあるけど」

 

「マジか、あいつも来てるのか」

 

一夏はユックリと立ち上がった。

 

「良かった。心配したんだよ」

 

アリサは一夏に優しく抱きつき、一夏もそれに応えるようにそっと抱きしめた。

 

「悪い、ちょっと無茶苦茶しすぎた。先に謝っとく、俺はこれからも無茶する。無茶しないと駄目だからさ」

 

悪いとは思っている。だがそれ以上に自分がしなければならないことを理解している。

 

自分以外の誰も、あの理想郷に勝つことができないと長年戦ってきたことによって生まれた直感が告げている。

 

「うん、それはわかってる。でも、ちゃんと戻ってきてよね」

 

「おう」

 

「…………あのー、私もいるんだからさあ、二人だけの世界にならないでいただけますかねえ?」

 

二人の世界に入り込んでいる一夏とアリサの間に、ティファニアが割って入り込んだ。

 

「………すまん」

 

「わかればよろしい………そろそろ時間だし、ご飯食べにいく?」

 

ティファニアからの提案に二人は頷いた。

 

 

 

世界は混沌に包まれ用としているが、ここだけは平穏が広がっている。


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