インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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終わらせないと


第136話

力感のなくなった四肢が落下の影響を受けて空に向けられている。

 

理想郷への最後の攻撃を与えた後に気絶してしまったゼロは地上へ向けて無抵抗のまま自由落下を始めていた。

 

本人の意思は最後の攻撃をしかける前には殆ど無くなっており、攻撃をした後は無気力な抜け殻になってしまっている。

 

黒零もエネルギーが底を尽きたのか機能が停止してしまい、非常用の装置すら起動しなくなっている。

 

このままいけば間違いなく地面に叩きつけられて死んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ、何故奴らは撤退した」

 

襲撃をしかけてきたネオが撤退していく様子を百春は疑問に思いながら、周囲の様子を確認していた。

 

「それに、さっきの光………零落極夜?兄さんに何があった」

 

校舎は既に半壊……いや、それ以上の状態になっており、学校としての機能は殆ど消滅している。

 

この状態から元の状態になるには何ヶ月かかるかわからない。

 

百春は無事であるが、負傷者多数出ており中には戦いによって死亡した教師や生徒もいる。

 

唯一救いがあったとしたら避難をしていた生徒達が全員無事だったという事だろう。負傷者は全て今の戦いに出ていたものだけ。

 

全員が無事で済むことなど戦いではあり得ない。

 

「急いで、負傷者の手当にいかないと」

 

百春自身疲労はしているが負傷はしていない為に負傷者への救護へと向かうことにした。

 

今行けば助かる命が必ず何処かにあるはずだ。

 

「何処に…………ん?」

 

ISからのアラート表示、百春はまた新たな敵かと身構えたが敵が来たわけではないようだ。

 

空を見上げるように指示が来たのでそれに従う。

 

「……何だ、何が落下して来ている」

 

百春は上空から落下してくる何かに気がついた。それは垂直に、IS学園に向けて落ちて来ている。

 

ISに備え付けられてあるスコープを覗き込み、映し出される映像を拡大して落下物の正体を確かめる。

 

「…………兄さん」

 

百春の背中から嫌な汗が流れた。

 

兄である一夏が空から落下して来た。

 

しかも気絶しているのかピクリとも動きはしないし、左腕が無くなっている。

 

百春は何が起きているのか全くわからなかったが、ヤバイ事が起きているという事だけは理解できた。

 

一夏の強さに関して、百春は一切の忖度なしに客観的に最強候補であると評価している。

 

そんな兄があんな状況になっているのが信じられなかった。

 

「あれ、ヤバイ!!」

 

呆然としている場合ではなかった。

 

このまま行けば一夏が地面に叩きつけられて死んでしまう。

 

救助に向かおうと動き出そうとしたその瞬間、別の場所から藍色の機体が最高速度をもって一夏の元へ飛んで行った。

 

「一夏くん!!」

 

誘宵アリサだった。

 

彼女は他の全ての事を後回しにして落下してくる一夏を助ける事を最優先事項とした。

 

彼女は一度落下してくる一夏の上空へと上がり、落下していく彼の軌道に自身も合わせていく。

 

そして彼に追いつくと速度を同じにしてそのまま優しく抱きしめた。

 

チャクラを使用して衝撃を限りなく零に抑え込みながらユックリと減速を行い先ほどまで一夏が戦っていたメインアリーナに着地して行った。

 

「俺も………向かわないと」

 

自分に何ができるかわからないが、百春もメインアリーナに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏くん!!しっかりして!!」

 

アリーナに着地したアリサはすぐさま地面に救護用マットを敷いてそこに一夏を仰向けに寝かせた。

 

ISは既に自動で解除されており、元は左腕に付けられていた待機形態の漆黒のガントレットはつける場所をなくして、地面に転がり落ちている。

 

着地を行うまでに一夏の呼吸がない事を確認している。更に最悪な事に心臓も停止しており、このままの状態では数分もしないうちに完全に死んでしまう。

 

それをそれ阻止するためにアリサはゼロに対して心臓マッサージを行っている。

 

医療班は他の負傷者の元に向かって居るはずだからこの場所にくるのはかなり時間がかかる筈だ。

 

だからアリサがどうにかするしかないのだ。

 

IS『アイリス』から送られてくる応急救護の手段と手順を参考にしながら、アリサは手際良く作業を行い続ける。

 

アイリスに備え付けられてあった救命道具を活用しながら、アリサは一夏に必至で呼びかける。

 

「嫌だ!嫌だ、また一夏くんを失うのは嫌だ」

 

普段は冷静な様子からは考えられないほどアリサは現状に対して取り乱してしまっている。

 

一夏が死にかけているという現実は彼女にとって受け取り難いものであった。

 

二度も失ってたまるか、あの時の悲しみを繰り返してたまるか………そんな思いが彼女の心の中を占領していく。

 

「私は、一夏くんを幸せにする。だから、生きて!」

 

そこに少し遅れて百春がやって来た。

 

「誘宵さん!兄さんの様子は!?」

 

「結構危ない。急いで本格的に治療しないと、死んじゃう…………」

 

手を止めることなく、アリサは治療活動を続ける。

 

死という結末から抗うために。

 

百春が自分にできることは何かないかと探し出したその時であった。

 

 

『ああ、聞こえていますか?』

 

 

突然誰かからISコアを通じて通信が入った。

 

「誰!?」

 

『此方は亡国機業、今そちらに向かっています。あと一分もしないうちに到着します」

 

亡国機業という名前に二人は反応した。一夏から所属しいている組織の名前として聞かされたことがあるからだ。

 

(……この声?)

 

そして百春には通信を行って来た相手の声に聞き覚えがあった。

 

そんなことを考えているうちに巨大な何かがアリーナに飛来した。

 

それはメカメカしいデザインをした巨大な倉庫であった。

 

二人は僅かに警戒し、百春はいつでも防御を行えるようにチャクラを発動させる。

 

倉庫の扉が開かれ、中から一人の少女が降りて来た。その少女の姿を見た瞬間、二人の顔が驚愕に染められた。

 

「…………クロエ・クロニクル」

 

その少女はかつてこの世界に向けて自分の存在意義を問いたモノだった。

 

「亡国機業、総帥直属部隊、部隊長補佐、クロエ・クロニクルです。皆さん、お久しぶりですね」

 

 

 

 

 

 

 

 


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