インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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久しぶりの投稿です。遅れて申し訳ありません。

あと、近いうちにもう一つ作品を投稿すると思います。それもISですね。

感想ください


第132話

 

 

──世界は闇に染め上げられる。

 

たった一振りの攻撃だけで、相手を絶望させるには十分すぎる。

 

今まで夜空の星のように見えていた戦いの点、それらを繋ぎ合わせて作り上げる星座のような勝利の道筋は一瞬で黒く塗りつぶされてしまい、彼女の目では見えなくなってしまった。

 

二撃目、次は何が起こる。たった一振りで勝利への勝ち筋が消えてしまっている。ならば次は何がかき消されてしまうのだろうか。

 

二つ目の黒はそれとは真っ向から相反している純白によって防がれた。

 

「……零落極夜……だと?」

 

白の黒の激しい交錯の中、千冬は敵が発動させた単一能力に対して驚いていた。

 

それでも攻撃の手を休めることはない。休んでしまったらその瞬間に殺されてしまうというのを理解してるからだ。

 

何故敵が零落極夜を発動させたのか理由はわからないが、ソレがどれだけ危険なモノなのかを千冬は理解している。

 

プラスの感情が力になる零落白夜とは対照的に、零落極夜はマイナスの感情が力になる。

 

誰かを護りたいと願うのに対して、此方は誰かを殺したいと叫ぶ。

 

一見すれば色が違うだけの技のように見えるがその本質は全く異なるモノである。

 

「行くぞ!!」

 

漆黒の斬撃が世界を切り裂く。

 

千冬は零落白夜を発動させてその全てを防いでいく。体に直撃を喰らえばそれだけで勝負がついてしまう。

 

先の交錯の際もあと少し反応が遅れていれば確実に殺されていた。

 

「………まさか、『失敗作』がここまでやれるとはな…………知っているか?お前は儂が作り上げたクローンの一体だということを」

 

明かされる出生の秘密。

 

「…………ああ、知っているさ」

 

その衝撃的な事実を千冬は当たり前のように知っていた。いつから知っていたのか………

 

「……だが、わからないところがある。私は完成系だと聞いていたが、『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』のな」

 

織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』、かつて日本で行われていた究極の人類の研究、その研究の成果が千冬とマドカの二人なのだ。

 

「……ああ、そうだな。確かに貴様は『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』としては完成系かもしれないな。究極の人類、貴様のこれまでの活躍を見ればわかるだろう…………まぁ、あの天災が出てきたせいで計画は中止になったのだがな」

 

天災、篠ノ之束の存在によって『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』は終わらされた。

 

「人工の天才が天然の天災に負ける……か。所詮はその程度だったということか」

 

『一夏』は自虐的に笑いながら、刃の切っ先を千冬に突きつけた。

 

「………だがな、『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』のもう一つの目的……儂が目指したのはそんな目指したモノではない。頂点を作り上げる?そんな必要があるのか?この肉体こそが、この頭脳こそが……頂点の証明なのだからなァ!!!」

 

理想郷の触手が蠢く。

 

「……貴様もあの計画に参加していたのか……何者なのだ、貴様は!!」

 

「その肉体で………何故、貴様という意識は生まれた。生まれるはずではなかった。それなのに、なぜ生まれた?貴様が生まれなければ、儂は……儂は、再び出会えたはずなのだ」

 

理想郷が世界から消える。

 

そして次の瞬間には千冬の背後に出現し、彼女の首を狙う。

 

「チッ!!」

 

千冬は咄嗟に躱すが、完全には躱しきれずに左肩の非固定ユニットが零落極夜の刃によって破壊されてしまう。

 

「貴様に教えてやろう。『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』の目的は確かに究極の人類を人工的に生み出すこと……だが儂はそれを利用してもう一つの計画を行っていた……儂にとっての『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』は『誕生』ではなく、『再誕』なのだよ。故に貴様は、失敗作なのだ!!」

 

一撃一撃に殺意が込められている。その殺意は火山のように激しいモノではなく、日本刀のように美しく鍛え上げられたモノだ。

 

「故に殺す。その姿をもつ貴様は……死ね!!」

 

『一夏』が千冬を圧倒し始める。

 

暁桜と理想郷を比較すれば、理想郷の方が性能が高い。もし仮に操縦者の性能が同等でらコアとの繋がりも同等であるとすれば、どちらが有利になるかは明らかである。

 

「どうした、失敗作!!」

 

取れる戦闘手段の数が暁桜と理想郷では圧倒的に違う。

 

千冬は零落極夜と瞬間移動のコンビネーションに対して防戦をしいられてしまう。

 

それでも、千冬は追い詰められてしまう。理想郷の力の前に。

 

「これで、終わりだ」

 

千冬に向けて、零落極夜が振るわられた。

 

 

 

 

 

「ノロマーー!!」

 

高速で動き回る兎の形を模したIS、兎の形に相応しく空間を跳ねて敵を翻弄し続ける。

 

速度だけでならば黒零よりも早いかもしれない。

 

通常のISならば追いかけるのは非常に困難、専用機であっても苦戦は必死になるだろう。

 

かれこれ学園側の数機のISが破壊されており、これ以上の被害が出るとなると戦線の維持ができなくなってしまう。

 

「………速いな」

 

現在この兎を相手にしているのはドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ。その愛機は以前起きた楽園での戦いの際に進化し、黒の深淵(シュバルツェア・アブグルント)となった。

 

高速で動き回る兎に対してラウラは両手のAICを駆使してその動きを制限させて一撃を狙う。

 

「そんなので止められると思うなよ!!」

 

兎は飛び回りながらエネルギーの斬撃を飛ばす。

 

斬撃はラウラに向けて飛んでいくが、彼女はコレを僅かな動きで躱したり、AICを応用した盾で受け止める。

 

「そんなんで攻撃を止められるなん思うな──」

 

「ならば貴様を止めてやろう!!」

 

黒の深淵(シュバルツェア・アブグルント)の両手の指が全て射出される。

 

指はBT兵器のように空中を自由自在に飛び回る。だがその動きは全てがバラバラであるが、兎の動きを確実に阻害している。

 

「ちょこまか、ちょこまか!!」

 

兎は自分に向けて飛んできた一つの爪に向けて蹴りを入れようとする。

 

だが兎の脚は爪に届くことはなかった。

 

兎の脚は目に見えない何かで縛り上げられているかのように爪の目の前で動きを止めてしまった。

 

「これは………AIC!?」

 

その正体に兎が気がついた時には全てが手遅れであった。

 

他の指が兎に迫り、AICの見えない網がソレを雁字搦めにして身動きを一切取れないようにした。

 

進化した黒の深淵(シュバルツェア・アブグルント)に新たに装備された武装、爪につけられた小型のAIC、一つ一つの拘束力は低いが遠距離の敵を捉えることもできる。

 

「どうした……動かないのか?ならば、これで終わりだ」

 

黒の深淵(シュバルツェア・アブグルント)の両肩につけられたレールカノンから放たれた弾丸が兎の肉体を砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

──闇と闇が衝突する。

 

「………ほう」

 

零落極夜を受け止められた『一夏』は受け止めた相手を見て笑った。

 

「……良いタイミングじゃないか」

 

闇と闇が交錯し、『一夏』は距離を取るために瞬間移動を使って大きく後ろに下がった。

 

「大丈夫か、姉さん」

 

「……一夏」

 

攻撃を受け止めたのは黒零に乗った一夏であった。

 

「ああ、私は大丈夫だ」

 

「だったら、姉さんはココから離れて別の奴らの援護に向かってくれ。他は押され始めている………こいつは俺が抑えておく」

 

「だが、勝てるのか?」

 

千冬が実際に戦ったからわかる。

 

一夏では『一夏』には勝てない。

 

二人の戦闘能力は同等ではあるが、黒零よりも理想郷の方が機体スペックが高い。

 

戦えば勝てる可能性は少ない。

 

それでも、一夏は一人で相手をすることを望んでいる。

 

「勝てないかもな。だが、それは二人掛かりでも同じことだ。だったら、俺が一人でコイツを止める。俺だけができる事だ」

 

「………任せても良い──」

 

「話は終わったか?」

 

理想郷が瞬間移動で迫ってきた。

 

一夏は持っている大剣『零』を使って『一夏』の攻撃を受け止めた。

 

「行け!!!!」

 

「任せた!!」

 

これ以上の会話はしていられなかった。一夏は理想郷を足止めして、千冬はスラスターを噴かせてこの場から素早く離脱する。

 

「逃すか──」

 

「させるか!!」

 

理想郷が去っていく千冬に向けてエネルギーを放ち、一夏が零落極夜でソレを切り裂く。

 

続いて迫ってきた触手を躱し、手刀で二本切り落とす。

 

「ほう……流石だ!!流石だ!!」

 

理想郷の残った触手と両手の指先から数えきれないほどのエネルギーの弾丸が放たれるが、一夏は零落極夜を使うことなく全ての弾丸を躱してみせた。

 

「クハハ!ソレだ流石は儂の肉体、完璧だ。ソレこそが頂点だ!!」

 

「俺の身体を使って好き勝手喋ってんじゃねえよ!!」

 

理想郷が嘆きの弩を呼び出し、瞬間移動で一夏との距離を一気に詰める。

 

一夏は背後に出現した理想郷に向けて防御姿勢を取る。撃ち込まれてきたエネルギーの矢を左手から出したチャクラの壁で受け止めると、背後に流しながら右手で殴りかかる。

 

触手に受け止められ、硬い金属音が響く。

 

「その口ぶりだと……何もかもを知っているようだな……十蔵の奴め、余計なことを教えよって」

 

「ああ、知っているさ。その肉体が俺のクローンだってこともな。あの砂漠の研究施設で、見たぞ!!」

 

かつてゼロ達が襲撃して壊滅させたネオの施設、その場所にあったのは無数の一夏のクローンと誰かのクローン。

 

ソレら全てはゼロ自身の手で全て破壊された。

 

「成る程な……そうともコレは貴様のクローンだ。儂には新たな肉体が必要だったのでな……作らせてもらったよ」

 

「蝶羽大数、テメエは俺が殺す。この俺が、全部終わらせてやる」

 

「殺せるのか、儂を」

 

「殺してやるさ、爺ィ!!」

 

ゼロの瞳には、普段以上の決意と殺意が混在していた。


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