インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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プロローグ……お終い

 

今日は凄く楽しみな日だ。第一回モンドグロッソが終わり、一夏くんが登校してくる日だからだ。第一回モンドグロッソは無事に一夏くんのお姉さん、織斑千冬選手の優勝で終わった。

一夏くんのいない生活はかなり淋しかった。話す相手は誰もいないし、図書館にいってもつまらない。私はこの日にちを早くこないかなー、早くこないかなーと待ちわびていた。

でも、実際会うのは少し恥ずかしいかな。だって、見送る時にキスしちゃったから。今思えば何であんな事したんだろう。確か、一夏くんがどこか遠くにいってしまう、そんな気持ちになってしまったからだ。

それにしても一夏くんが来ない、普段ならもう席について私とおしゃべりしてる時間なのに、さっきからくる気配がまったくない。そうこうしてるうちに予鈴がなってしまう。一夏くん、応援の疲れで今日は休みなのかな?それだったら学校が終ったらお見舞いに行かないと。

そんな事を考えていると担任の先生がやってきた。どこかうかない顔でいる。どうしたんだろう。

 

「みんなに悲しいお知らせがある……織斑が死んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………え?

 

一夏くんが死んだ?嘘だ嘘だそんなの絶対に嘘だ。だってだって

 

「火災に巻き込まれたらしい。おい、誘宵。どうしたんだ誘宵!」

 

私は席を立って荷物を持つとそのまま教室の扉を開けて、帰っていった。信じられない、どうして一夏くんが。

 

「もしもし、ママ?あのね……一夏くんが死んだ

 

私は気づいた時にはママに電話をかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、私は一夏くんの通夜の会場にきていた。

あの後私はママに迎えにきてもらい、家にかえって私はママの胸の中でたくさん泣いた。ものすごく悲しかった。一夏くんは家族以外で初めて私に優しくしてくれた人だった。私にとって一夏くんは光であった。なくてはいけない、私にとって何割かを占める存在、それが一夏くんだった。それが今ではもういない。ぽっかりと胸に穴が空いた……そんな気持ちだ。

通夜には、私以外にも何人かのクラスメイトがきていた。そして私はある人を見つけた。織斑千冬、彼女の顔はものすごく悲しそうだった。そして何かを後悔しているようなそんな表情だった。

私は受付を済ませると一夏くんの棺の前までやってくる。遺影には笑顔で写っている一夏くんがいた。私はこの写真を知っている。確かこれは一夏くんとハワイにいったときに撮った写真だ。

私は遺影を暫く見た後に、棺の中を確認して一夏くんの遺体を見る。先生の話だと火災で死んじゃったから、火傷の跡とかたくさんあるんだろうな。そんなことを思いながら棺のなかを覗き込む。

 

「……え?」

 

そこには何も無かった。たとえではなく本当に、一夏くんの体だと証明するものは棺のなかには何も無かった。でも一体どうして?一夏くんの死亡は確認されたんでしょ、それだったら死体はあるはずなのに。

パパもママも私と同じように驚いている。するとパパが私たちの元から離れて一人の男性に話しかけた。すると二人は少し離れた場所に移動した。何を話しているんだろう。ここからだったら聞こえない、私はママにお手洗いに行ってくると言って、パパの跡をつけてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったいこれはどういうことだ!」

 

パパが凄い形相で怒っていた。私の前であんな顔を見せたことはない。それに恐怖しているのか、男の人はビクビクしている。

 

「お、落ち着いてください。これにはわけが」

 

「なんだ、話してみろ」

 

「では」

 

 

 

 

男の人の話によると今回の事件の内容はこうだ。

事件が起きたのはモンドグロッソ決勝戦の前、突如政府に対して織斑一夏を誘拐したという電話がかかってきた。最初政府はいたずらだと思ったが念のため、織斑一夏がどこにいるのか確認して見たがどこにもいなかったらしい。犯人の要求は全くわからなかった。そして、織斑千冬に一夏が誘拐された事を伝えると今にも試合を棄権しそうであった。しかし、政府は国の威信の為に千冬をなんとか説得して試合に出す事に成功した。そして政府は犯人からの二回目の電話の後、犯人の居場所を特定する事に成功して直ぐに特殊部隊を向かわせた。だがそこで特殊部隊が到着すると同時に織斑一夏がいるとされる建物から火が上がった。部隊はすぐさま突入して救出しようとするが、ここで悲劇が起きた。監禁場所に爆弾が仕掛けられており、それが爆発したらしい。爆発の影響で捜索は困難になり、少し火の手が収まってから一夏を発見したらしい。しかし、その時には既に一夏は骨が僅かに残るぐらいしかなかった。そしてその周りには一夏と同じ様な子供の焼死体が何十体もあったそうだ。そして何故一夏の遺体か確認できたかと言うと、その遺体の近くに一夏の所有する携帯電話が落ちていたそうだ。

これが織斑一夏誘拐事件の全て。

 

 

 

私はこれを聞いて、ある事を考えてしまった。

 

一夏くんは生きている

 

確かに一夏くんの携帯電話を見つける事には成功した。しかし、その近くにあった焼死体が一夏君であるとは限らない。もしかしたら誘拐犯が一夏くんは死んだと見せかける為にしかけたかもしれない。でも何の為に?私はそこまで考えて悲しくなってしまった…………

 

「アリサ?何してるんだ」

 

声を掛けられたのでふと見てみるとそこにはパパがいた。

 

「今の話、聞いていたのか?」

 

私は無言でうんと頷いた。するとパパは「そうか」と言って私の手を繋いだ。そして私はパパに連れられてママの所に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通夜の行われた後、ここには二人の男女がいた。

 

「誘宵さん、私はこれから姿を消します」

 

一人は篠ノ之束、世界でも有名な発明家でISの開発者。

 

「そうですか、何か困ったことがあったら僕に相談してください。隠れ家や食料など用意しましょう」

 

そしてもう一人は誘宵皇。世界的な企業でもある誘宵グループの会長だ。

 

「すいません、私がしっかりしていればいっくんは」

 

「気にしないでくれ、もう過ぎてしまったことだ」

 

そう言い合う二人の間には重たい空気が流れていた。

 

「でも僕は一夏くんが生きていると信じている」

 

「そうですね、私も信じてみますよ、いっくんのことを」

 

そう言うと篠ノ之束は振り向く。

 

「それじゃあ、誘宵さん。ありがとうございました」

 

ISを展開して篠ノ之束は空に向けて飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

一夏が誘拐されたと聞いたのは決勝戦前のことだった。政府の人間からそのことを聞かされた私は今すぐ試合を放棄してでも一夏の所に行きたかった。しかし、政府は国のためにそれをさせなかった。私は政府からの説得で試合に出ることを決めた。今思えば、私は一夏の事をどこか蔑ろにしていたのだろう。だから試合に出場した。

一夏が死んだ。私は表彰式が終わり、インタビューもあらかた終えた所で私はそのことを聞かされた。私はその場で崩れ落ちてしまった。私が行けばもしかしたら、私が出場しなければそんな思いにかられてしまった。だが、悲しんでいる暇はなく、直ぐに百春と共に家に戻って葬儀の準備をしなくてはならない。

家に帰って葬儀の準備をしていた所で私はあることに困った。それは遺影についてだ。一夏と写真を撮ったことはあったがどれもこれも笑っている写真はなかった。一夏は笑わない子だった。まだマドカがいた頃は笑っていたがマドカがいなくなってからは笑わなくなってしまった。もしかしたら一夏の部屋にも写真があるかもしれない。そう思って私は一夏の部屋に入った。一夏の部屋に入るのは初めてだった。一夏の部屋は綺麗に掃除機がかけられており清潔にされている、私の部屋とは大違いだ。部屋の中で探していると私は棚に飾られてある物を発見した。柔道のトロフィーと三枚の写真。トロフィーは一夏が初めて出た大会で優勝した時の物だ。あの時は百春の大会と被って見にいけなかった。二枚の写真は両親とマドカと撮った物。どれも子供の頃の一夏が笑っている。

しかし、私が注目したのは最後の一枚。去年とったものだろう、そこには一夏が写っていた、笑って。

 

『家族面しないで』

 

一夏から言われた言葉を思い出して、私は泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏くんの葬式も終わって、私は今自分の部屋のベッドの上にいる。パパもママも今は仕事に出かけている。部屋の電気も全て消して、部屋の中に聞こえてくるのはカチッカチッと淋しく音を出す時計の秒針の音。無情にも時計は鳴り、ただ……ただ時を刻んでいく。私の中にあった一夏くんとの時間、それは突如として私の中から零れ落ちてしまい。すぎていく時の中に残されてしまった。

 

「一夏くん…………」

 

机の上に置いてある写真を見ながら、私は呟いた。大切だった。好きだった。でももう彼は戻って来ない。もしかしたらまだ生きているかもしれない、いやきっと生きている。だから私はまだ生きていたい。いつか彼とまた会えると信じて……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一章         完


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