「死ねよやァアアア!!」
ゼロは高速で敵の背後に回り込み、両手で頭を掴むと力任せに首をへし折って息の根を止めた。
相手の動きがなくなったのを確認すると直様地面に投げ捨てて周りに視線を向ける。
(……厄介だな。零落極夜の回数を極限まで減らさないと、コッチのエネルギーが尽きてしまう)
エネルギーの消費を減らすために極端に格闘戦を仕掛けている。使うならば確実に殺すことのできる一瞬だけ。
周囲に転がったネオの兵士の残骸を踏み潰しながら、ゼロは敵がいるであろう場所に向かう。
どこかで補給を一度挟みたいが、もしそれをやってしまうと戦線の維持ができなくなってしまう。
何故ならIS学園には亡国機業の部隊とは違って人を殺せる人間が少ない。
特に学生の中ではラウラや楯無を除けばほとんどいない。
「さっきから嫌な気配がしやがる。ガーベラ、あのボケとか…………それに………ヤバイな」
機体から送られてくる情報を脳で直接確認しながら、次の行動を考える。
学園のアチコチで先頭が繰り広げられている。何処を手伝えば良いのか、最善の一手を考える。
「………ッチ!!」
突然の機体反応、合計四つがゼロに向けて閃光となって襲いかかる。
ゼロの周囲を取り囲み、牽制をかける。一糸乱れず、ゼロを中心に正円運動で取り囲む。
そしてほぼ同時に閃光がゼロに向けて突撃した。
一つ目、ゼロはコレを躱して背中にチョップを叩き込む。
二つ目、しゃがみ込んで相手の懐に入り込んで渾身のアッパー。
三つ目、仰向けに倒れながらの蹴り上げ。
四つ目、迫り来る相手に向けて拳真っ正面から叩き込む。
「…………あの時の奴らか」
ゼロを襲ったのは八神官のウチの四人。狐、蜥蜴、仙人掌、鰻の四機。
ゼロに襲いかかったのはいいが、カウンターをくらって傷を追ってしまった。
「イイぜ、相手してやるよ。あの時とは状況が違う」
楽園で戦った時は、クロエとの戦闘後であったために逃げるという選択肢を取らざるを得なかった。
だが今は万全の状態といっても過言では無い。
「四機いてもガーベラ一人を相手にする方が厄介だな」
ゼロは漆黒の両刃大剣『零』を呼び出して左手で掴んだ。
『零』は普通のISなら装備としては重いため両手で掴んで振るうのだが、黒零は性能にモノを言わせて片手で軽々しく振り回す。
「あのキチガイより我々が弱いと言うか……………甘くみるなよ!!」
狐はガーベラと比較されるのが余程癪だったのか、直上的にゼロに向けて感情をぶつけてきた。
「んじゃア来やがれ。証明して見せろや」
「甘くみるな!!」
ゼロに向けて神官たちは突撃した………………
(コイツらさっさとブッ殺さないと面倒だな………早くしないとアレが来る。確実に近くにいやがる。No.1000が…………)
「チィッ!!」
「ほら、どうしたの?織斑百春!!」
場所は変わって此処ではガーベラと百春が一騎打ちを繰り広げている。
教員や他の生徒たちが百春の援護を行おうとしたのだが百春自身がソレを拒んだ。
誰かが援護に入ればその人間が確実に足枷になってしまうという事を本能的に理解してしまっているのだ。
失礼かもしれないが、事実だという事を。
「お前に構ってる、暇は、ない!!」
「私も貴方をさっさと倒して、ゼロと戦いたいのよ!!」
互いに目の前にいる相手と戦いたいという思いはそれほど無い。だが両者は目の前にいる人間を無視しておくとどれ程の害を味方が被るかということを理解している。
だから戦う。
百春は白式・真になることによって新たに手に入れた双剣──真月を両手に構えた。
ガーベラも両腕から片腕一本ずつ、合計二本のエネルギーでできた鞭を発生させた。
超高速で振るわれる鞭の先端の速度は音速にも迫るほどなのだが、百春はその動きを機体で予測して真月で防ぐ。
「ならねぇ!!」
ガーベラは鞭の振り方を変えて真月に鞭を巻きつける。
「なら!!」
百春は直様真月を収縮させて、今度は代わりに左腕に備え付けられた多機能攻撃腕『真雪』をガーベラに突きつけた。
躊躇う事なく指先からエネルギーの弾丸を放つが、ガーベラは目の前にチャクラの壁を張って攻撃を全て防いだ。
「今度は!!」
真雪がエネルギーを纏い、通常の手よりも遥かに大きなエネルギーの手を作り出す。
「そんなの、コッチもできるんだよ!!」
どうやらガーベラの乗る白薔薇にも同じ装備があったらしい。百春の真雪がゼロの黒零を元にしたモノだから、彼女のもそうなのだろう。
ガーベラの右手がエネルギーを纏い、百春と同じようにエネルギーの巨大な手を作り出す。
エネルギーとエネルギーの激しい殴り合い。互いに固めた拳で相手を攻撃するが、両者ともに決定打が生まれない。
実力は拮抗しているのか…………それとも単にガーベラが乗り気ではないだけか。
『100010001000100010001000100010001000100010001000100010001000100010001000100010001000100010001000100010001000100010001000100010001000100010001000100010001000100010001000』
「「ッ!?」」
二人の視界に突然『1000』という文字が広がった。
それは目で直接見てるわけではなく、例えるなら脳に直接映像を送り込まれていると言った方が適しているのかもしれない。
彼らのIS────またはISコアの意思が警鐘を鳴らしているようだった。
「何だ?1000?…………No.1000か!!」
百春はコアが何を伝えたかったのか直ぐにわかった。
ラストナンバー、No.1000と呼ばれるコアがすぐ近くに来ているのだ。
「来られたか……ならコッチも早くしないとな!!」
ガーベラはエネルギーの手を今度は突撃槍の形に作り変えて素早い突きを百春に食らわせた。
弾き飛ばされる百春は空中で態勢を整えながら背中のウイングスラスターを羽ばたかせてエネルギーの羽を弾丸にして飛ばした。
だがガーベラはコレを一振りで払い落とした。
「………ここは、兄さんに任せるか」
IS学園メインアリーナ、此処ではかなり大規模な乱戦が繰り広げられていた。
代表候補生四人と教員六名、それに対するネオの戦力は生態同期型が一体と無人機が十機近く。
完全な乱戦であるのだが、質の差でIS学園側が僅かに押していた。
「ふむ、流石にこの数が相手では多少の性能の優劣は対して関係ないという訳か」
蝙蝠は雷撃を周囲にいる代表候補生達に飛ばしながら、多少有利な戦いを繰り広げていた。
「諦めたらどう?」
シャルロットは蝙蝠に向けてマシンガンを放ち続けているのだが、その弾丸はまるで予測されているかの如く簡単に躱されてしまう。
「そういうわけにはいかないんだよ。此方も総帥のために道を作る必要があるからな」
「総帥?」
聞き慣れぬ単語にシャルロットが反応する。
「これ以上は────」
「もうよい」
「──ッ!??????」
若い男の声がスピーカーを通じてアリーナ全体に響いた。
何事かと思ったIS学園側の人間の動きが全て止まり、そして何故か無人機の動きも止まっている。
「…………何故?」
ギリギリと蝙蝠の首が動き、観客席の一角を見た。それにつられて他の人間達も見た。
そこにいたのは一人の青年、白を基調とした軍服らしきモノに身を包んだ、何処かで見た事のある青年だった。
右手にはマイクがあり、どうやらコレを使ってアリーナのスピーカーから声を出したのだろう。
男はマイクを近くに投げ捨ててユックリと立ち上がった。
「………蝶羽一夏?」
アリーナないにいたセシリア・オルコットは、その顔の男、ゼロこと蝶羽一夏の名を呼んだ。
何処からどう見ても彼だ。
「違うでしょ!!」
その近くにいた鈴音はセシリアの
発言を否定し、一切の躊躇いなく圧縮した遠距離砲撃モードの龍砲を『一夏』に向けて放った。
その一撃は『一夏』に直撃し、煙を巻き上げた。
「鈴さん!!!何をやってるのですか!!」
セシリアは鈴音の行動に思わず驚いてしまった。
「撃つしかないでしょ。アレは敵よ、一夏じゃない。それくらい判断しなさいよ」
鈴音としては撃たない理由が一切なかったようだ。
「全く、とんだジャジャ馬娘だな」
煙が晴れるとそこには無傷の『一夏』がアリーナの観客席に何事もなかったかのように座っていた。
そして彼の周りの観客席も何故か傷がついていなかった。
「さて、儂も行くとするか」
『一夏』はユックリと立ち上がり、軍服の右腕の袖を捲った。
腕には漆黒のガントレットがつけられており、『一夏』はソレを胸の前に掲げた。
「顕現せよ………『
眩い闇に包まれ、『一夏』はこの世界から姿を消した。
「………え?」
余りにも突然の現象に思わずIS学園側の人間は素っ頓狂な声をあげてしまった。
何が起きた。何故消えた。
訳がわからないと言った様子だ。
──それはまるで空間が歪んでいるかのような音だった。
音の発生源は世界から。
ソレは空間を撃ち破って突然現れた。
小さな眩い闇が現れたかと思うと直様闇は肥大化した。
そしてソレを内側から弾き飛ばしたモノが世界に現れた。
特徴的な漆黒の全身装甲。
両肩からは特徴的な、蛸の触手の様なモノがそれぞれ二本ずつ合計四本飛び出しており蠢いてる。
余りにも不気味なのだが、何処か不思議な神々しさを感じる。
悪神や邪神と形容するのが正しいのかもしれない、そんな印象の機体だ。
名は
「さあ、来い。試運転だ」
今此処に、最悪が顕現した。
次回からようやく暴れさせられる。