インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第128話

 

 

 

曇天を貫いてIS学園に向けて降下してくる無数のIS達、明確な殺意を持ったネオの猛者共平和ボケをしている生徒たちに向けて襲いかかろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ………アレは?」

 

IS学園二年生、篠ノ之箒は空を見上げながらそんな事を呟いた。

 

彼女やその周りにいる代表候補生達──オルコット、鈴音、簪の三人──の足元には無数の無人機の残骸が転がっている。全てが彼女達の手によって破壊されたのものだ。

 

「何って言われましても………」

 

近くにいたセシリア・オルコットはご自慢の愛機に備え付けられてある超望遠スコープを使って空に浮かぶものを見る。

 

彼女の乗る機体ならば天高く浮かぶナニかを見る事ができる。

 

「………巨大な建築物でしょうか?ですが、完全に空に浮かび上がっています」

 

したから見たそれは美しい円を作り上げていた。つい先ほどまでソレを見られなかったが、突然としてソコに現れた。

 

浮遊要塞とでもいうべきものなのだろうか、超巨大な建築物がIS学園の真上に浮かんでいる。

 

「何か来ます!」

 

セシリア突然大声をあげたかと思うと、直様手に持っていたライフルを構え天高く掲げた。

 

浮遊要塞から八つの光が射出され、高速でIS学園に向けて落下して来た。

 

そして八つの光に続くように大量の機体が浮遊要塞から飛び出してくる。

 

「敵襲ですわ!全てコアの反応があります!」

 

その言葉と同時にセシリアは迫り来る八つの光に向けて弾丸をはなった。

 

そしてそれに追従するように他の専用機持ちたちも天にむけて遠距離用の攻撃を放った。

 

だが迫り来る八つの光はその攻撃の全てを躱して箒たちとの距離を一気に詰めた。

 

速い、普通のISの速度よりも明らかに速い。

 

光は美しい軌跡を描きながら箒たちに襲いかかる。

 

「何だ!?こいつら!」

 

箒はその攻撃を両手に持った刀でいなしていく。

 

候補生は互いの背中を庇い合うように背中合わせになって一点に固まる。

 

「どうする!これ結構キツイわよ」

 

鈴音は双牙天月を構えながら龍砲を放って牽制を続ける。

 

「凌ぐしか……ない」 

 

更識簪は荷電粒子砲をあたり一面にばら撒きながら相手の動きを止めようとする。

 

だがそれでも八つの光は止まる事なく彼女たちの周囲を高速で飛び回っている。

 

やがて光はそれぞれ分散して少し高くなっている場所に着地した。

 

「何だ、つまらん奴らだ」

 

八つを包み込んでいた光が収まると襲撃者たちの姿が見えるようになった。

 

蜥蜴、兎、蝙蝠、蟷螂、狐、仙人掌、鰻、狼。

 

襲撃してきた八人の姿は様々だ。

 

統一感があるわけではないが、全員が生物をモチーフにしている事がよくわかる。

 

「ねえ……あれって」

 

「ええ、確か大晦日の時に襲撃してきた奴らでしょうね。報告されてた特徴と一致する…………最悪ね」

 

八人はあの大晦日の最後に現れた八機の生体同期型ISであった。

 

専用機持ちたちの間に緊張感が走る。

 

今目の前にいるのは先ほどまでの無人機よりも遥かに強い。正直なところ、今の彼女たちがタイマンで勝てる相手ではないだろう。

 

それが八機。

 

絶望的な状況である。

 

「救援を呼ぶのは確実ね、アレの相手は私たちじゃ厳しい」

 

救援を呼ぶにしても誰に助けてもらうか……今のこの学園の最高戦力はゼロと百春の2人、そして次に実力があるのはアリサ、楯無そしてラウラの三人。

 

少なくともこの三人の力は必要になる。

 

だがそんな事は敵も考えているのかもしれない。既に彼らに対して何らかの対策をしているであろう。

 

特にゼロと百春の2人にはそれなりの戦力を送り込んでいるのは間違いないと見える。

 

「ヒャハハハ!こりゃあ良いぜ。代表候補生程度だったら、この数いても余裕だろ」

 

鰻をモチーフににした形のISが下卑た笑い声をあげながら、四人に向けて武器を突きつけている。

 

「油断するな、我々の目的は『王』のために場を作り出す事であろう」

 

鰻の近くにいた狼をモチーフにしたISが、鰻の言動を諌めた。

 

「そうだ、それこそが我ら『八神官』に与えられた使命であるはずだ。ゆめ、忘れるな」

 

そして蝙蝠型のISが周りにいる他の奴らの気を引き締らせるために鋭い視線を送った。

 

「あーあー、相変わらずお前はお固い野郎だ。蝙蝠野郎のクセに『王』への忠誠心は凄えんだな。蝙蝠からワンちゃんに改造したらどうだ?」

 

鰻はゲラゲラと笑い、触手ような手で拍手しながら蝙蝠に向けて軽口を放った。

 

「鰻とは……ナヨナヨした、軟派な貴様に相応しい姿だな」

 

「おーおー、言いたければ言えよ。柔軟に受け流してやるからさ。ヒャハハハハハ!!!痛ッ!?」

 

鰻の頭に弾丸がぶち込まれた。

 

相当な威力があったのか鰻は少し吹き飛ばされた後に頭を抑えながらゴロゴロと地面を転げ回っている。

 

「痛え!!痛え!!」

 

「少し黙っていろ、傷は浅いだろうが……………どういうつもりだ。貴様の親がどうなってもいいのか?シャルロット・デュノア」

 

蝙蝠が空を見上げると、其処には巨大な対物ライフルを構えたシャルロット・デュノアが其処にはいた。

 

鈴音との戦いで生じてしまった傷は元に戻っており、万全の状態でこの戦いに挑んでいるようだ。

 

「僕は決めたんだ。父さんたちも守る。そして君達も倒すって………………それで僕は幸せになる。全部勝ち取るって決めたんだ!!」

 

デュノアが脇に抱えた対物ライフルから弾丸を放った。弾丸は真っ直ぐに進み、蝙蝠を狙うが寸前の所で空に飛び上がられてかわされてしまった。

 

他の七機も同様に空へと飛び上がった。

 

「そうか、ならば死んでもらうか…………来い」

 

蝙蝠が右手でフィンガースナップを行うと、何処からか二機の無人機がやってきてシャルロットの前に立ちふさがった。

 

二機はそれぞれ右手と左手が異様な形をしており、まるで夫婦のような姿をしている。

 

無人機の異様な形の腕──それは腕の関節が三つ以上あり、長さも自身の大きさと同じくらいになっている。

 

そして何よりも先に目に付くのはその腕の先にある鋭利な爪であろう。

 

「貴様の相手はこいつらだ…………貴様にはそれが最も相応しい」

 

「甘く見ないでくれるかな」

 

デュノアは対物ライフルを収縮させると、直様両腕にパイルバンカー付きのシールドを装着させた。

 

「やれ」

 

蝙蝠が手を振り下ろすと同時にデュノアに向けて襲いかかった。

 

左右からの挟撃、得物である爪を構えながらよくできた連携攻撃を仕掛けた。

 

「無人機如きに!!」

 

だがデュノアは無人機の動きを見切り、攻撃を躱した後にパイルバンカーを二機に突きつけた。

 

「これで────」

 

 

 

(…………アレ?)

 

鈴音はデュノアと無人機の戦いを見て、心の底にある疑問が浮かんでしまった。

 

そして心の奥底から溢れ出る悪寒が鈴音に警鐘を鳴らす。

 

(………何か………おかしい。何がおかしい)

 

鈴音は敵の様子を観察する。

 

(……あ)

 

そして気がついた。

 

敵が全員楽しそうに仮面の奥で笑っているという事を。

 

まるでこれから起きるであろうナニかに対して期待しているような、胸糞の悪い笑みを全員が浮かべている。

 

「シャルロット!!止まれ!!!!」

 

鈴音は慌てて、パイルバンカーを撃ち込もうとしているシャルロットに向けて大声で叫んだ。

 

止めなければ、ダメになる。

 

心が告げているのだ。

 

 

 

「────終わりだァ!!」

 

パイルバンカーは無情にも無人機の心臓付近に突き刺さった。

 

絶対防御が発動する事なく、すんなりと鉄杭が突き刺さった事にデュノアは違和感があったが、ソレを振り払ってすぐに蹴りを入れて距離をとった。

 

ピクリと無人機が動く。

 

「まだ動くなら!」

 

デュノアは両手にマシンガンを持って、止めを刺すためにありったけの弾丸を放った。

 

無人機の装甲には無数の弾丸の直撃痕が残り、装甲を貫通している。

 

 

その証拠に無人機の奥から赤い液体がダラダラと零れ落ちてくる。

 

 

「………え?」

 

シャルロットの動きがようやく止まった。

 

気がついてしまったのだ。

 

無人機の奥から溢れ出て来るものがオイルなどではなく、人間の血である事に気がついてしまったのだ。

 

「………え?………え?」

 

「あーあー、ヤッチャッタァ。やっちゃったなぁ、シャルロット・デュノア。ギャハハハハハ!!!!」

 

鰻がゲラゲラと大きな声で笑っている。

 

「撃ったな?貴様は『親』を撃ったな!?」

 

蝙蝠は仮面の奥底で嘲笑い、侮辱しながら、シャルロットを指差した。

 

「お、親?」

 

シャルロットの体に悪汗がしたたる。

 

「そうだそいつらの正体を見ろ!!」

 

蝙蝠がもう一度フィンガースナップを行うと無人機に被せられたヘルメットが解除された。

 

「……あ……ああ」

 

ポロリと、彼女の手から銃が零れ落ちて、重力に従って地面に落ちてしまった。

 

血に濡れた四つの目がデュノアを優しく見つめる。その目は目の前にいるシャルロットに心配させないようにと、残された体力で装っている。

 

「言っただろ、貴様の両親には死んでもらうと…………だから、貴様に殺させた。貴様が悪いのだ。我々の提案を断った貴様が悪いのだよ…………」

 

冷徹な、心が一切込められていない声色で蝙蝠がシャルロットに告げる。

 

認めたくない現実が其処にはある。

 

無人機の奥から現れたのはシャルロットの両親であった。

 

体を強引に無人機に固定され、一切の抵抗ができない状態で攻撃をくらい続けていた。

 

「………すまない、シャルロット」

 

「貴女にこんな思いをさせてしまって…………」

 

目線は朧げで、すぐ近くにいるシャルロットの顔を見る事ができない。今の彼女がどんな表情をしておるのかわからず、それがとても辛かった。

 

「ゴメンなさい…………ゴメンなさい…………」

 

シャルロットの指先が震える。自らの手で守りたかったものを破壊した感触が未だ消えずに、今にも手が千切れて落ちてしまいそうになるくらい重く感じてしまう。

 

「まあ、もう少し楽しませてやるよ」

 

無人機が壊れかけの肉体を強引に動かす。ただ目の前にいるシャルロットを殺すためにプログラミングされた行動を眈々と行う。

 

振り下ろされる凶爪が無抵抗なシャルロットの肉体を傷つけていく。

 

「シャルロット、私たちを殺せ」

 

「このままじゃ、貴方が死んでしまう」

 

両親からの必死の懇願も今のシャルロットには何も聞こえない。受け止めたくない現実を目の前にして、両目から涙を零しながら拒絶するように泣いている。

 

「できない、そんなのできない!!だって、そんな事したら………誰か、誰か止めて──」

 

「ならば私が止めてやろう」

 

蝙蝠が右手を天高くあげる。

 

それはまるで演奏を始めようとする指揮者のように、この場にいるデュノア一族を除いた全ての人間の視線が蝙蝠の指先に向けられる。

 

「死刑執行」

 

蝙蝠の腕が振り下ろされた。

 

 

 

一瞬の沈黙。

 

 

 

IS学園の皆は次に何が起きるのかと警戒を行う。

 

 

そして、デュノア夫妻の乗る無人機が爆発した。

 

「…………………………………え??」

 

爆風を絶対防御で防いだシャルロットだったが、その心に受けた衝撃だけは誰にも防ぐ事だけができなかった。

 

呆然としながら、機体に付着してしまった親の血をマニュピレーターで拭き取り、視線を向ける。

 

「………なんで?」

 

平穏を壊して、圧倒的格上に挑んででも守りたかった家族が目の前で消し飛んでしまった。

 

──何故こうなってしまった?

 

自身を責めると同時に心の奥底から尽きる事のない怒りがこみ上げてしまう。

 

「どうだ、止めてやったぞ。感謝しろ」

 

シャルロットの心情を一切無視して蝙蝠はアザわうかのように声をかけた。

 

「お前が………お前が………」

 

ギリリッと奥歯を強く噛み締め、拳を硬く握りながら、シャルロットは爆発を促した蝙蝠を殺意に満ちた目で睨みつけた。

 

「違う、お前だ。お前の選択が殺したんだよ」

 

蝙蝠は嘲笑った。

 

「お前が殺したんだろうがァアアアア!!!!」

 

シャルロットは両手に近接戦闘用のブレードを呼び出して蝙蝠との距離を一気に詰めた。

 

「怖え、後は任せたよ。蝙蝠野郎」

 

他の七人は蝙蝠との距離をとってシャルロットの相手を蝙蝠一人に任せる事にする。

 

そしてシャルロットの相手をする事になった蝙蝠はシャルロットに一方的な攻撃をされ、それを全て防ぎながらシャルロットを連れて別の場所に移動した。

 

「ちょっと今のシャルロットを一人にするのはマズイわね、援護しにいくわよ」

 

残された鈴音、箒、簪、セシリアは頭に完全に血が登っているシャルロットを助けるためにスラスターを吹かせて援護に向かう。

 

「おっと、お前は行かせねえぞ!!」

 

八神官の一人、蟷螂型のISが箒の前に立ち塞がり両腕に付けられたご自慢の鎌を全力で振るった。

 

「チッ!!先にいけ、私はこいつを倒してから後を追う!」

 

両手に構えた武器で鎌の攻撃を防ぐ。

 

「できるの?お前如きが!!」

 

鎌を振り下ろし、続けざまに蹴りをいれる。

 

「やれるさ、やってみせるさ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑先生、生徒の避難は完了し、教員も全員出撃しました。私もすぐに迎撃に向かいます」

 

生徒主導によるシェルターへの避難は完了し、戦う事のできる生徒と教員は襲撃者たちの迎撃に向かっている。

 

織斑千冬もまた自らISに乗って襲撃者の迎撃に向かうことになっている。

 

千冬は少しだけ緊張していた。現役の頃はそんな事を感じたことは一度もなかったのだが、今は感じてる。

 

「私も……鈍ったな」

 

『牙の抜けた獣』、一夏にそう言われた千冬はかつてのの自分を取り戻すためにこの数ヶ月間かなりハードな訓練を積んできた。

 

それには一夏も手伝っており、彼曰く「少しはマトモになった」だそうだ。

 

「機体は少し心許ないが…………やるしかないようだ」

 

これから乗るIS──倉持技研の最新型第三世代IS『打鉄・三ノ型』──コレに対して千冬は僅かな不安があった。

 

それは使用されているコアが意識のない量産型のコアだからだ。

 

量産型のコアではISの力を完全に発揮することはできない。

 

「………こんな時──」

 

『フフッ、お困りのようだねぇ』

 

部屋に備え付けられたスピーカーから突然声が聞こえた。

 

「ッ!?その声、どういうことだ!!」

 

千冬は声の主に覚えがあった。だがおかしい、声の主は既に死んでいるはずだ。

 

『私が誰かって?私は兎の風来坊、その名は──』

 

「おい、束」

 

『………………ちーちゃん、人がせっかくノリノリなんだから邪魔しちゃダメでしょ』

 

「黙れ、この際貴様がどうして生きてるのか知らんがどうでもいい。何のようだ?」

 

『お困りの様子のちーちゃんに束さんからのプレゼント…………カモン!!!!』

 

束の言葉の直後、天井を突き破ってクリスタルの八面体が落下してきた。

 

「…………コレは?」

 

『束さんの最新作………ちーちゃんが昔使ってたIS、暮桜のコアを使用した傑作』

 

 

八面体が開かれて中から一機のISが姿を表す。

 

それは朝焼けのように美しかった。

 

『その名も暁桜(アカツキサクラ)


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