インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第127話

 

「…………二人か」

 

鈴音がデュノアと戦っていたちょうどその頃、ゼロはIS学園の最深部にあるメインコンピュータールームの目の前までやって来ていた。

 

メインコンピュータールームに続く通路は所々狭くなっており、ISに乗ったまま通るには不便だったので、ゼロは今ISには乗っていない。

 

コンピュータールームの内部には二人の人間がいる事が確認できている。中に突入すれば戦闘になるのはまちがいない。

 

だが銃を使う事ができない。

 

メインコンピュータールームの中には重要な機材がある為に銃だと誤って傷つけてしまう可能性がある。そのため、ゼロは今両手に漆黒の刃の刀を持っている。

 

「二人だけとは舐められたモノだ…………いや、余程自信があるといった方が正しいだろう」

 

メインコンピュータールームにいるのが二人だと言う事はわかっている。

 

特別な機械を使ったわけではないが、そういうのは何となくわかってしまうのだ。勘というか、第六感的な奴だ。

 

「さて、行きますか」

 

行動開始。

 

ゼロは手始めに扉を一太刀で両断してみせた。そしてすぐに扉を払いのけて中へ侵入。

 

中にいたのはやはり二人…………双子?なのだろうか、どちらも似たような体格で、似たような顔立ち、似たような服装、違うところと言えば白銀の髪に入っているメッシュの色とオッドアイだろう。

 

メッシュの色は片方が赤で、もう一方が青。

 

そしてオッドアイは両方とも橙色と水色なのだが、それぞれ左右が逆になっている。

 

「来たね」「来たのね」

 

双子はゼロの方を向くなり、いきなり拳銃を突きつけてきた。この拳銃は特殊なデザインをしており

、元はIS用の武器なのかもしれない。

 

だがゼロは拳銃を向けれても止まる事はない。まずは二人をコンピューターから引き離すために全速力で突撃した。

 

引き金は迷いなく引かれ、ゼロの頭目掛けて真っ直ぐに二発の弾丸が飛んで行った。

 

このままいけばゼロの頭を貫く………はずだったのが、弾丸はゼロの目の前で、まるでそこに壁があるかのように急停止した。

 

「アレはチャクラ」「非常に厄介」

 

ゼロは訓練を重ねる事で、ISを待機状態にしていてもチャクラを展開できるようになった。

 

そのおかげでISなしの肉弾戦においても、かなり優位になった。

 

ゼロの振るう刃を躱しながら双子は巧みな連携でゼロに銃弾を放ち続ける。

 

その連携はゼロから見ても『上手い』と素直に評価できる動きではあった。

 

連携に全くの異和がない。

 

完璧な連携。

 

普通の連携が必ずしも足し算になるとは限らないが、この双子の連携は掛け算のように互いの力を高め合っている。

 

一対一なら負ける事はないが、今の一対二の状況ならば負けてしまうかもしれない。

 

「厄介だな……チッ」

 

ゼロはセキュリティを確認するために、コンピューターの画面を確認して思わず舌打ちしてしまった。

 

画面に映し出されていたのは、セキュリティ解除の画面。しかも完了してある。

 

つまり今のIS学園は無防備な状態に近い。

 

この学園のセキュリティを守るプログラムは世界でもトップクラスに頑丈なはずだが、この双子はそれを突破してみせた。

 

「無駄な争いは意味がない」「任務は果たした。撤退する」

 

双子は目的を達成するやすぐにゼロが切り開いた扉か室外に出て行った。

 

「待てや!……ッ!?」

 

その直後、コンピューターが爆発を起こした。正確にいうならばコンピューターにつけられていた爆弾が爆発したのだが。

 

ゼロは爆炎から身を守るためにISを展開し、地面や天井を突き破って最深部から一気に地上へと飛び上がった。

 

「最悪だ………初動が遅れてしまった」

 

爆炎を突き抜けた先にはいつもとは違う日常が広がっていた。

 

一般生徒には避難指示が出されており、教師の指示に従って避難場所まで急いで逃げている。

 

戦う事のできる専用機持ちや、指示をしている以外の先生はISに乗り込んで無人機達と戦っている。

 

無人機の数も先ほどまでよりはるかに多い。下手すれば五十は超えている。

 

「一夏くん!」

 

ゼロが地上に飛び上がると直様近くにいたアリサが飛んできた。

 

アリサはゼロに近づきながら、持っている遠距離用の狙撃武器で次々と無人機のセンサー部分を撃ち抜いて弱体化させている。

 

両手に加えて、スカート型の装甲が変化して出来上がった隠し腕とも呼べる二本の腕……合計四本の腕全てに狙撃用の武器が持たされてある。

 

流石に四本の腕全てを一気に操る事はアリサの脳に負担がかかってしまうので、スカートの二本はアイリスのコアに操縦を任せてある。

 

「これどういう状況なの?」

 

「最悪な状況だ。本当に最悪な状況だ…………ネオの奴らが本気で戦争を仕掛けにきたみたいだ」

 

ゼロも指先から次々とエネルギーの弾丸を放ち続けて無人機の動きを止めていく。

 

「雨後の筍みたいに数がドンドン増えてるわね……確かにこのままだと完全に対処しきれなくなる」

 

今現在IS学園の各所では専用気持ちや教職員、そして上級生たちが無人機の対処をしている。そしてそれ以外の生徒たちは避難場所に急いで向かっている。

 

「いつこんな数の無人機の待機形態を設置させた?…………ヤバイな。本隊が………くる」

 

曇天を見上げながら、ゼロは忌々しそうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

「皆!焦らないで!避難場所はすぐそこだから」

 

戦闘に参加していない一般生徒は、核シェルター以上の強度を誇るとされている緊急避難所に向けて歩みを進めている。

 

一年生は非戦闘員である上級生の指示にしたがいながら、秩序を守りながら避難場所に向かっている。

 

避難する人たちを数人の上級生がISに乗って護衛している。

 

「百春さん、大丈夫かな………」

 

避難する生徒の一人、五反田蘭は思い人である織斑百春の事を心配しながら避難場所に向けて歩みを進めていた。

 

彼女はこの学園に入ってから百春に対して猛烈なアピールを仕掛けていた。昨年の一年間はろくにアピールができなかったから、それを埋めるかよように猛烈すぎるアピールをした。

 

それ故に篠ノ之やオルコット、デュノアといった百春に恋をする面々に目を付けられていたが、彼女は誘宵アリサに何故(・・)か可愛がられていたので何も手を出されなかった。

 

「無事でいてください」

 

彼女が今できる事は、戦っている人たちの邪魔にならないようにすみやかに避難する事だ。

 

それは彼女自身がよく理解している。

 

力がないから、自分ができる事をするのだ。

 

「キャアアアアアアアア!!!!」

 

避難する生徒たちの一角から悲鳴が上がる。

 

蘭が驚いて声のした方向を見ると、そこには数機の無人機が避難する生徒を今にも殺そうとしていた。

 

「させない!!」

 

だがそこに上級生が無人機にタックルをかまして、逃げ惑う生徒たちから強引に引き離した。

 

「急いで逃げて!」

 

だがこの瞬間、避難する生徒を護る護衛役はいなくなってしまった。

 

その一瞬を見計らっていたかのように新たな無人機が蘭の目の前に現れた。

 

「あ……………………」

 

蘭の目から無意識のウチに涙が零れ落ちていった。

 

死ぬ事を理解してしまった。

 

恐怖で足が竦んでしまう。動こうとしても体は命令を聞いてくれない。

 

これから蘭がどう動いても目の前にいる無人の兵器は彼女に対して無慈悲に武器を振り下ろすだろう。

 

(ああ、百春さんに告白すれば良かったなぁ…………)

 

蘭は走馬灯を見た。

 

これまでの人生の記憶、楽しかったものから辛かった記憶まで。

 

そして後悔した。

 

百春に告白すれば良かったと。

 

「好き………でした」

 

蘭は瞳を閉じた。悔いしか残っていないが彼女にやれる事はない。

 

彼女が今思う事は百春への恋心だけだった。

 

もう一度やり直せるのであれば今度は一切の躊躇いなく、エゴイズムに塗れてアプローチをするのだろう。

 

(告白する。絶対に告白する)

 

死ぬ覚悟はしたが、それでも怖い。

 

いつ武器が振り降ろされるのかわからない。

 

……………だが、いつまでたっても刃が振り降ろされる事はない。

 

もしかしたら既に切られていて、本人が気づいていないだけなのかもしれない。

 

 

「蘭、大丈夫?」

 

 

優しい声が無人機がいる場所から聞こえた。

 

その声に蘭は驚き、ユックリと目を開けた。

 

そこにいたのは純白と黄金の色合いの調和を完璧に取れた騎士だった。背中からは一対の大きな翼を生やし、右手には美しい剣を持っている。

 

そして騎士の足元にはついさっきまで蘭を殺そうとしていた無人機が両断され、機能を停止させていた。

 

それどころか先ほどまで足止めされていた無人機たち全てが破壊され、機能停止している。

 

その正体を蘭は知っている。

 

「あ……ああ……」

 

蘭の目から再び涙が零れ落ちていった。

 

今度は悲しみなどによるものではない。安堵や嬉しさが入り混じった、悲しみのない涙が彼女の目から流れ落ちて行った。

 

力が抜け、その場に尻餅をついてしまった。

 

「立ち上がれないなら、チョット待って」

 

騎士は蘭を優しく抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこの形だ。

 

「え、え!ちょ、ちょっと待ってください!」

 

恋心を抱く人からそんな事をされるのは嬉しいのだが、余りにも突然で、そして命の危機を脱したばかりなので戸惑いの方が大きくなってしまっている。

 

スラスター使ってスムーズな動きで逃げる生徒の元まで蘭を連れていく騎士。

 

そこに一人のISに乗った女子生徒が近づいてきた。彼女は蘭達を護衛していた生徒の一人で、真っ先に無人機に突撃したのだ。

 

「ゴメンなさい、私たちがもっとしっかりしてたら」

 

「大丈夫だよ、相川さん。このまま護衛を続けて、それが終われば彼女たちと一緒に避難所にいてくれ」

 

「え?でも、私たちだって戦え──」

 

「ダメだ」

 

相川と呼ばれた少女の言葉を騎士は強く抑え付けた。

 

「敵がこのまま攻撃を終えるとは思えない。もう少しすれば必ず本隊がくるはずだ。そうなれば少なくとも代表候補生以上の実力がないと太刀打ちできない……だから、わかってくれ。君たちには死んで欲しくないんだ!」

 

「………わかった。無事でいてね」

 

納得はしたくないが、納得せざるを得なかった。

 

実力が足りない。

 

それだけで戦えない理由には十分すぎるのだ。

 

悔しいが頷くしかなかった。

 

だからこそ、できる限りの檄を飛ばす。

 

「相川さんも無事でいてね」

 

「うん」

 

騎士に返事をして、相川は避難する生徒たちの護衛に再び向かった。

 

「蘭も、大丈夫?僕はもう行かないといけないから」

 

「は、はい……あ、あの」

 

背を見せて今にも飛び立とうとする騎士に、蘭は思わず声をかけてしまった。

 

止めてはいけないとわかっているのに、これだけは言わずにいられなかった。

 

感情が溢れ出してくる。

 

今なら言える。

 

「百春さん──」

 

命を救ってくれた恩人で、思い人である百春の背中を見ながら、蘭は勇気を振り絞る事を決めた。

 

「何?」

 

 

「好きです!ずっと、ずっと、好きです!」

 

 

思いがけないタイミングでの告白であった。

 

百春は急な告白に驚いて固まってしまう。

 

そして言った本人である蘭もまた、何故突然こんな事を言ってしまったのかと思い、顔を真っ赤にしながら固まっている。

 

「あ……ああ、その」

 

先に動いたのは百春だった。

 

照れているのか、器用に機械の手でヘルメットを掻いている。

 

「嬉しい」

 

その言葉を聞いて蘭はパアッと顔が明るくなった。

 

「でも!今はそれに答えられない」

 

今度はシュンとした顔になった。

 

「この戦いが終わって、色々片が付いたら………その時だ」

 

「……はい!」

 

百春が乗る白式の大きな翼が淡い光を放つ。

 

「百春さん無事でいてください」

 

「ありがとう!」

 

百春は敵がいる場所に向けて一気に飛び立った。

 

残された蘭の顔には自然と笑みがこぼれていた。

 

不謹慎かもしれないが、喜びがそれを上回ってしまう。

 

「百春さん、無事でいてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、ソロソロ行くとするか。平和ボケしている者共に見せてやるぞ。理想郷を」

 




これ終わったらアズレンの二次とか書きたい。普通にイチャイチャするやつ。

もしくは主人公がIS乗るけど一切戦わないIS。

普通に女の子とキャッキャウフフする感じの作品が書きたいです(切実)

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