没になったエピソードは下手すれば取り返しのつかない事になってたから。
最初の方はオリ弟アンチでいこうとしたのですが、なんかそれだと嫌だと思い急な路線変更がありました。
集合時間まではあと二十分近くある。少し早く来すぎたと思ったが、一夏がさっさと行けと言っていたので、さっさと来た。
この日のために一昨日の訓練が終わった後から、デートの対策会議が行われた。
メンバーは一夏、百春、アリサそしてアリサの友人数名によって用務員室で密やかに行われた。
場所は若者が集う大型ショッピングモール『レゾナンス』、そしてその周辺。
レゾナンス内部とその周辺にある店については既に情報が調べられてありデートに相応しい場所はピックアップされてある。
そしてお勧めのデートスポットも調べ上げた。
女性陣の意見を取り入れながら、
柔軟に対応可能なデートプランを練り上げた。
問題はないはず。
余計な障害が発生しなければ。
「と言うわけで、俺たちは
此処で言うジャマモノは百春に好意よせている専用機持ち達の事である。
もし百春がデートを行うという事を知れば彼女たちは確実にこのデートを邪魔するであろう。
だから知らせた。
正確にいうと百春がデートをするという噂をワザと流して、彼女たちの耳に入るようにしむけた。
「でも良かったの?百春くんがデートするなんていう情報を流して。そんな事を知ったら彼女たちは邪魔をするはずよ」
「だからこそさ。彼奴らは確実に邪魔をする。偶然を装ったりしてな。それに来るのか来ねえのかわからねえ奴ら相手にするよりも、最初から来るってわかってる奴相手にした方が楽じゃねえか」
一夏とアリサも私服に着替えて百春のデートを影ながら支援できるようにしてある。二人ともスタイルや顔が良く、加えて服装のセンスも良いために其れなりに目立つ。
そんな事を言ってはいるがこの二人、デートする気満々である。
最近はデートがマンネリ化しているために何か刺激を求めていた二人、丁度良い機会なので弟のデートを勝手に利用させてもらう事にした。
「さーて、それでは」
携帯の通話アプリを起動させて複数人同時通話状態にする。
「今回の作戦に協力してくださった皆さんに連絡です。代表候補生を見つけたら直様此方に連絡をください。捕まえて
こいつ、酷い。
携帯から「オー!」というやる気の入った返事が聞こえ、一夏は通話を切った。
「良いねえ、ノリの良い子達は」
一夏は亡国機業での立場上、同年代の人間と比べて人に対して指示を出すのに慣れている。
今回も大勢の人たちに協力してもらっている。
私服に着替えた複数のIS学園の生徒たちが街に散らばり、百春たちの様子や代表候補生の動きを報告する事になっている。
なので一夏自身が直接動いて何かをする事はない。司令塔として状況を判断して行動すれば良いだけだ。
「お、来た」
待ち合わせ場所に百春のデートのお相手である五反田蘭がやってきた。
「服装に気合が入ってるのね。よっぽど今回のデートが楽しみだったみたい。これは応援しないとね」
「……楽しそうだな」
「それはそうよ、だって私の義妹になるかもしれない子なのよ。どんな子なのか気になるじゃない」
ニッコリとアリサが笑った。
「…………まあ、なんだ。そういうのは、アレだよ。色々終わってからだな。今はやらなきゃならない事があるから、それが全部終わったら………な」
一夏も恥かしいのかアリサの方を見ずに答えた。
このオトコにもこんな一面があるようだ。どうやら内面にはまだまだ思春期の男子の心が残っているらしい。
「やあ久しぶりだね、蘭。合格おめでとう」
「はい!ありがとうございます!」
二人のデートが今始まろうとしている。それを見守る人間が幾人、それを妨害しようとする人間もまた幾人。
「服、似合ってるよ」
「は、はい!」
弟のために兄は珍しく力を貸している。一年前では絶対に考えられなかった光景だ。
「じゃあ、行こうか」
「いやぁ、まさかこんなに簡単に全員見つかるなんて思ってもいなかったぜ」
レゾナンス入店から数十分後、百春のデートを邪魔しようとした一部の専用機持ちたちは一夏達の巧みな連携によってアッサリと捕獲された。
勿論百春には気づかれてはいない。細心の注意を払っていたから。
捕まえたのは篠ノ之箒、凰鈴音、セシリア・オルコットそしてシャルロット・デュノアの四名だ。
篠ノ之は今にも百春と蘭のデートを邪魔しようしていたところをラウラに見つかり捕獲された。
凰とセシリアは物陰に隠れていたが、怒りのあまりISを部分展開してしまったところを楯無に捕まえられた。
そして最後に残っていたシャルロットは呆然とした様子で通路の真ん中に立っていた時に一般生徒によって捕獲された。彼女は今も心ここにあらずといった様子だ。
今はレゾナンス内部にあるカラオケ店のパーティールームの中に四人を連れ込み、他の協力者と共に千冬の到着を待っている。
「何故私たちが縛られなければならない!」
「そうよ、あたし達は何もしてないわよ!」
後ろ手に縛られながら抗議する専用気持ちたち。ISで暴れられては困るので現在は楯無が彼女たちの機体の待機形態を預かっている。
「してないだけでこれからするつもりだったんだろ?推定有罪って奴だよ」
「そんな理由まかり通りませんわ!」
「通る通らねえじゃないんだよ、通すんだよ…………俺はな、今回の彼奴のデートを邪魔してほしくないんだよ。これは単なる俺のワガママなんだよ、兄としてのな」
弟にはできる限り幸せになってもらいたいし、恋愛をして欲しい。
そんな願いで今回は動いていた。
「それにさ、今回くらいはあの子のターンにさせて上げろよ。テメエら今まで何回チャンスあったと思ってんだ?あったチャンスを悉く潰してきて、それなのに一人の少女にようやく回ってきたチャンスも潰そうとしている。だから今回は彼女の味方をしてあげた…………まあ、もしかしたらワンターンキルを決めるかもしれねえがな」
ケラケラと笑いながら近くにあったドリンクバーで注いだジュースの入ったコップを煽った。
「それにさ、俺は彼奴に幸せになって欲しいんだよ。だから俺は彼奴の恋を応援するんだ。わかるか、この気持ち」
弟には恋をしてほしい。
そして平和な家庭を築いてもらいたいと思っている。
「だったら、私の恋を応援してくれ!幼馴染のよしみだろ!」
拘束された状態で篠ノ之箒は抗議した。
彼女は百春と幼馴染であり、それと同時に一夏とも幼馴染なのである。悲しい事に一夏本人はそんな事を一切思っていないのだが。
「応援?お前の?面白い事いうんだな、すっげえ面白いぜ」
そんな事を言っていながら一夏の表情は一切笑っていなかった。温度を感じさせない無の瞳が箒を捉えている。
「なにが、可笑しい?」
「可笑しいさ。普通に考えてみろ、誰が好き好んで木刀やISを使って暴力をふるったりする奴と弟を結びつけようと思うんだ?お前らの噂は聞いてるぜ、なかなか酷い事をしていたらしいな………これがお前たちの恋を応援しない理由だ。理解できたか?理解できたな」
一夏の言葉に箒たちは無言を貫くことしかできなかった。図星だった。何も言い返すことができなかった。
「シャルロットさんも何か言い返してくださいませ」
縛られているオルコットは、同じく隣で縛られているデュノアに反論を促した。
「え?……ああ、うん。そうだね」
だがとうの本人は心ここにあらずと言った様子で、オルコットの話を一切聞いていなかったようだ。
「そろそろ来る頃だし、コッチは任せるぞ。後は頼んだぞラウラ・ボーデヴィッヒ」
一夏はコップをテーブルの上に置いて、近くにいた今回の捕獲任務を手伝ってくれたラウラに声をかけた。
「任された。教官がくるまでこいつらは見張っておく」
ソファーに足を組んで座ったまま、甘いケーキを食べながら返事をした。
「アリサ、俺たちもデートに行かないか?」
「ええ、良いわよ」
アリサと一夏は立ち上がり、テーブルの上に全員分のカラオケ代と二次会費用をおき、部屋と廊下を繋ぐ扉を開けた。
出口に向かう廊下を歩きながら、どこの店にいくかの相談をする。二人とも今回の作戦を立てた都合上、頭の中にはこのレゾナンスの敷地内に入っている全ての店舗の情報がある。
欲しいモノがどこで購入できるのかすぐにわかる。
カラオケ店の出口についたとき、一人の女性とでくわした。
「よう」
「お前たちは何処かに行くのか?」
出会ったのは織斑千冬、代表候補生達が百春のデートの邪魔をしないように見張って貰うために一夏が呼んだのだ。
今日は休日だというのに、服装はいつものスーツ姿だった。流石に替えは何着かあるようだが、微妙にシワができているのを一夏は見逃さなかった。
私服を買えと言いたかったが、口に出すのを直前でやめた。
「これから俺たちもデートなんだよ……………あんたも早く良い人見つけろよ。俺たちに先こされるぞ」
すれ違いざまに肩を軽くポンと叩いて、浮いた話を一切聞かない元世界最強である姉を励ます。
姉に対しては色々と言いたい事がある。
部屋を綺麗にしろだとか、酒の量を減らせとか、少しは家事ができるようになれとか、色々。
そんな思いを全て込めて肩をポンと軽く叩いたのだ。
「馬鹿もん、武勇が広まりすぎて寄ってくる男がいないんだ……」
振り向けなかった。
「……なら、自分から行けば良いだろ」
「…………逃げるんだ」
「……………………………………すまねえ」
「…………………………………………あやまるな」
姉にはいつかきっと素敵な男と出会うだろうと思いながら、アリサと共にカラオケ店を後にした。
部屋に向かう千冬の背中はそれはそれは小さかった。
「私は下着を買ってくるけど、一夏くんもついてくる?」
軽く食事を済ませ、コレからの季節に着る服を買った二人。
一夏はある程度の用事を済ませたので、今はアリサが行きたい店にやってきている。
その店はランジェリーショップで男である一夏が入るのは難がある。
「いや、俺はやめておくよ」
「どうして?私の付き添いなんだから大丈夫よ」
「そんな問題じゃなくてな、そういう時の楽しみに取っておきたいんだよ……俺はな」
この男にもつまらない性癖の一つや二つあるようだ。
「ふぅん、それじゃあ楽しみにしていて。私買ってくるから」
ヒラヒラと手を振りながら、ショップの中に入って行った。
アリサを見送った一夏は近くにあった有名コーヒーショップでコーヒーを買って、空いていた席の一つに座った。
店内は他の客で煩雑しており、席が空いていたのも運が良かったと言えるだろう。
コーヒーを飲みながら、タブレット端末で送られてくる百春のデートの様子を見る。
どうやら順調のようで、一夏が心配する必要はなさそうだ。
「相席大丈夫ですか?」
店が混んでいるので、相席を求められた。声の主は女性、年齢は一夏と同じくらいだろうか。
「ああ、大丈夫だ」
ゼロは声をかけてきた女性を一瞥する事なく、返事を行った。
「それでは失礼して」
女性は一夏の対面に座った。
一夏はその間一度も女性を見る事はない。タブレットでネットニュースを見ている。
「それで、用件はなんだ…………ガーベラ」
一夏は目線だけを動かして、目の前にいる女性を鋭く睨みつけた。
「へえ、気づいていたの」
目の前に座っているのは、病的なまでの白色の肌、雪のような白色の髪、そして美しい琥珀色の瞳。
一夏が何度も戦場で戦ってきた人間、ネオのガーベラだ。
彼女も休日なのだろうか、年齢にあった私服に身を包んでいる。センスは良い方だ。
「テメエはこの店に入った時から俺に向けて殺気を飛ばしてきてただろうが」
ガーベラの存在に関してはこの店に入る前から気がついていた。
「あら、殺気で私かどうかわかるのね。嬉しい」
ニコリと美しく笑い、上機嫌に鼻歌を歌いながら名前の長そうな飲み物をストローでかき混ぜている。
こうしていれば二人とも普通の一般人に見えるのだが、一度戦場に出れば一騎当千の活躍を見せるそれぞれの軍の中の最強の存在。
彼此五年近く戦場で戦ってきた。既に相手の細かな癖や息遣いは完璧に把握している。
一夏も自身と並ぶ操縦技術を持っているのはガーベラだけだと思っている。それほど彼は彼女のことを警戒している。
「それで、ご用件は?」
二人ともこの場所で殺し合いをする気はないようだが、互いに自分の愛機の待機形態を相手に見せて牽制している。
この場では殺し合いをしない。するならば相応しい場所でしたい。
もしこの場で殺し合いをすればこの建物はすぐに壊滅し、死者の数は膨大になるだろう。
互いにそれぞれの組織の現在の最強戦力、こんな長閑なショッピングの雰囲気は似合わない。
「今日はね、貴方に会いにきたわけじゃないの。あのデュノアの小娘に伝えたいことがあったの」
「……なんだ」
「お父さんとお母さんは元気だから心配しないでね……って。ほら、この前のフランスの戦いで別の部隊の子が誘拐してきたみたいなのよ…………安否を心配してると思ったから伝えにきたのよ」
デュノア夫妻はあのフランスでの事件から消息不明になっている。
その原因が目の前にいる。
「……ふぅん」
だが一夏は一切興味がなかった。本当に心の底からどうでも良さそうだった。
「それだけか?」
「もう少し楽しみましょうよ。私はもっともっと貴方と話していたいの。普段は戦場でしか会えないから、こんな機会嬉しくて仕方がないの」
その姿はまるで年相応の恋する乙女のようだった。長年片思いをしていた男の子と一対一で話すことができて、その嬉しさを隠すことができない。
そんな様子だ。
「コッチはそういう気分じゃねえな」
「私はね、貴方に恋してる……いえ、愛してるの」
彼女の美しい琥珀色の瞳は狂気の花に彩られていた。長年かけて一夏と戦い続けてきたことによって彼女の中で芽生えてきた『狂気』がそれはそれは美しい花を咲かせた。
「私は貴方と戦いたいの。心の底から、心の果てまで全てを十全にそして完全に満たしてしまえるほどの
止まらない。
「唖々、初めてあった時から貴方はとても、ドス黒く、まるで黒真珠のように気高く、強く、冷徹に、その美しさを放っていた。だから、求めた!私は求めた。貴方を、貴方様を!!それが届かぬ願いなのだとしても私は求め続ける。この思いが決して叶うことのない一方的な、エゴで、色欲という大罪に塗れた穢れたものであっても構わない。それなら私は更に愛を燃やし、全ての理を、道を、因果を焼き払って貴方を手に入れる……………………………だから、相応しい舞台で、戦いましょ!!!!」
なんというか、その気迫に思わず押されてしまいそうになる。圧倒的な、心の奥底から溢れ出てきて止まらない感情が空間に広がっている。
「……そう」
一夏の返答は非常に短いモノだった。
「そろそろアリサが買い物を終えると思うから、帰ってくれないか?…………ほら、俺今デート中なんだよ」
一夏はコーヒーを飲み終えると、静かに席から立ち上がった。
今の話をされて、すぐに別の女の話題を出す一夏の精神は随分と肝が座っているようだ。意識せずにやったことなのだろうか、それとも相手を挑発するために態とやったことなのだろうか。
「今日は帰れ、ここは舞台じゃねえだろ。戦うなら、舞台の上で……だろ?」
「……ええ、そうね。今日は帰る。でも次は、次戦う時は心奥底まで楽しみましょうよ」
ガーベラも席から立ち上がり、まだ残っているコーヒーを持ったまま何処かへと立ち去って行った。
ひとまずはこの場で凄惨な殺戮が起きることは無事に回避した。だが足音はまた一歩、彼らの平穏に近づいてきた。
「お待たせ、待った?」
アリサの買い物が無事に終わり、二人は合流した。アリサは店の紙袋を持っており、一夏はそれを持とうとしたがアリサが拒否した。
下着が入っているので、気を使って遠慮したのだろう。
「いいや、待ってないぜ……それに、俺もお前に対して酷い事をしてしまった」
「?なにがあったの?」
「ちょっとな、因縁のある相手と出くわしたんだ。まあ、もう終わったがな」
「……そう、それなら良いんだけど……それで、これからどうするの?」
「晩御飯を済ませてから、帰るか?丁度この辺りに何回か行ったことのある店がある。味も心配はない……無論、金は俺が払う」
「ありがとう、それじゃあ行きましょ………でも、百春くんの恋路を見守らなくて良かったの?」
今回の外出の目的は百春のデートを見守ることだったが何時の間にかその事を疎かにしてしまっていた。
「まあ、大丈夫だろ」
兄なりに弟の事を信頼しているようだ。
「俺たちも俺たちで、デートを楽しもうぜ………この限りある平穏をね」
一夏は本能的に足音に気がついている。だからこそ、今この時間を愛しい人と共に楽しもうとしている。
その後学園に帰った一夏は、百春からデートが楽しかった事を聞いて、満足した。
急激なヒロインムーブ。
元々この作品のヒロインは、アリサ、ティファニア、ガーベラの三人になる予定でした。
ガーベラに関してはあまりそういうところを書けなかったので、ヒロインから外れていました。なのである部分に設定の名残が残ったりしています。
ですが今になって名残惜しくなって、こういうことになってしまいました。
可能ならば完結させてから色々と番外編を書いたり、加筆修正を行なっていきたいですね。
……ティファニアについてもいろいろと書かないとね……アリサと比べると少し……ね。