インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第122話

 

「だいぶ強くなったじゃねえか。これなら簡単に戦場で死ぬことはねえな」

 

「それ褒めてるの?」

 

「褒めてるさ、今のテメエは白式の性能も合わさって強え。そこんところは自信を持てよ」

 

今年からIS学園に新たに設営された男性用のロッカールーム、そこに訓練を終えた一夏と百春はいた。

 

今の時期は春休み真っ最中、授業がないためにいつもより長く朝の訓練を行っていた。

 

「明日は訓練休みだが、明後日はやるか?」

 

「明後日は申し訳ないけど、中止にしてもらえるかな………親友の妹と用事があるんだ」

 

いつもは百春から進んで訓練をしてくれと言うのに、今日は珍しい。

 

「その子ってアレか?凰がこの前言っていたあの五反田蘭って子か?」

 

一夏は百春の浮いた話に興味を示した。一夏本人は弟のこの鈍感さをどうにかしたいと常日頃から思っていた。

 

「ああ、そうだよ」

 

一夏はたまにではあるが鈴音と話すことがある。

 

五反田蘭の話題が出たのは一夏と百春、そして鈴音の三人で会話をしていた時のことだ。

 

その時から一夏は蘭という人物が百春に好意を持っていると鈴音の態度から感じ取っていた。

 

「用事ってなんだ?」

 

「彼女がIS学園に合格したから、その合格祝いを一緒に買いに行くんだよ」

 

「デートか!」

 

こういう時だけは思春期の少年らしい反応を見せる一夏。弟の前なのだから肩肘をはる必要がない。

 

「デートって………ただの合格祝いの買い物だよ」

 

この野郎、一夏は内心で毒付いた。

 

「デートだろ」

 

「……デートなの?」

 

さっきまで少し笑っていた百春の顔が真剣になった。

 

「デートだよ」

 

「デート……だと?」

 

「デートさ」

 

「デートなんだ…………」

 

百春はロッカーに手をつきながら、目を閉じた。

 

「お前なぁ、その子はお前に好意を持ってると思うぜ。じゃねえと男と女の二人きり、思春期の人間が誘うと思うか?」

 

もしこの場に百春に好意をよせる人間がいたならば全力で一夏を

殴りに行っていただろう。

 

小舅一夏、面識が一切ない五反田蘭を援護している。

 

「………そうなのかな?そうだよね。蘭、俺に好意を寄せていたのか。気づいてあげれなかったな」

 

「しゃあねえよ、俺たちはそういうのに鈍いからな。俺もアリサがいなかったらお前と同じようなもんだったよ」

 

一夏も百春も愛というモノをよく知らなかった。

 

だから一夏は愛に飢えていた。

 

故にアリサからの愛を受けた。

 

「……兄さん、デートってどうすれば良いの?僕はよくわからないんだ。兄さんはそういうこと詳しいでしょ?教えてくれよ」

 

「偏見だな………いや、偏見じゃねえな」

 

この男、案外遊んでる。

 

「教えてくれと言われてもな……お前とその子の関係はよく知らねえし。まあ、お前はセンスは悪くねえ…………なんとかなるだろ。自信持っていけや、俺の弟なんだから心配ねえよ」

 

一夏なりの激励の言葉だった。

 

「……そう言ってくれるとありがたいよ。頑張ってみるさ……………そういえばさ、前から気になってたんだけど、何であの瞬間移動に反応できるの?」

 

百春は頻繁に一夏と模擬戦を行い、その度に 白式・真になってから手に入れた瞬間移動能力を駆使して戦っているのだが、一夏は瞬間移動に簡単に対応してみせる。

 

一夏以外の人間が相手だったら対応されることもほとんどないのだが、一夏は瞬間移動を使わずに百春の世界に追いつく。

 

「……なんで?……………なんでだろうな、俺にもよくわからねえんだがな………直感と言うか、なんというか………変な言い方かもしれねえが、未来が見えるんだよ」

 

「……未来が見える?」

 

百春にはわからない感覚だった。

 

未来が見えるとは一体どういうことなのか、百春は頭の中で考えてみるが答えは見つからない。

 

「まあ、大雑把な言い方だけどな……クロエと戦っている途中から何となくだけど相手の次の動きを頭の中で見えるんだよ……………多分だけど、ISコアとの極限のシンクロ状態に陥ってるのが理由だと思う」

 

理由は一夏にもわかってはいない。

 

だが使えるのなら使ったほうがよい。

 

「無茶苦茶だね、未来が見えるなんて」

 

「お前の瞬間移動も大概だよ。未来が見えなきゃ反応するのが辛いからな」

 

「……出来ないじゃないんだ…………それよりさ、服着ないの?」

 

「あ?暑いんだよ」

 

一夏はシャワーを浴びてから、暑いらしく一切服を着ようとしていない。

 

一切の恥じらいなく、威風堂々と全裸のまま仁王立ちで運動後のスポーツ飲料を飲んでいる。

 

もしこれが男女入り乱れる場だったならば変態と呼ばれるだろうが、ここは男だけのむさ苦しい場所。糾弾する人間は誰もいない。

 

「急に女の子が入ってきたらどうするの?」

 

「馬鹿野郎、ここは男子更衣室だぞ。女子は入ってこねえよ。入ってくる奴がいたらそれは────」

 

「失礼しまーす!」

 

「待って、オニール」

 

いきなり廊下と更衣室を繋ぐ扉が開かれ、似たような髪と顔つきの水色と橙色の髪の少女が入ってきた。

 

──あ、ヤベエ。

 

一夏が気がついた時には既に手遅れだった。音に反応して体ごと振り向いたのが災いして、入ってきた少女たちに向けてモノを見せつけるような形になってしまった。

 

「初めまして、お兄ちゃんた──」

 

「オニール、いきなりはいるのはや──」

 

 

悍ましいモノを見た。

 

 

一夏のまたの間に存在するソレを見て、少女たちはあまりの衝撃に立ったまま気を失ってしまった。

 

「……兄さん、それはマズイよ」

 

百春の何とも言えない視線が一夏の背中に突き刺さる。

 

「いやぁ、まて。冷静に考えろ、確かに状況はマズイ。だがな冷静に考えろ、ここは男子更衣室だぞ。男が全裸でいて何が悪い。むしろいきなり入ってきたこの子達の方がマズくね?」

 

「どっちみちマズイよ」

 

さてどうしたモノか。服を着なければマズイと一夏は思ったが、もうどうしようもなかった。

 

「二人とも、いきなり更衣室に入るのは礼儀がなってないわよ」

 

ここで登場生徒会長の更識楯無と来年度から編入してくる三人の代表候補生。

 

彼女たちの目に映るのは立ったまま気絶している可憐な二人の少女と全裸で仁王立ちしているむさ苦しい男。

 

さて、どちらが悪い?

 

裁判が始まろうとしている。

 

「これは、どういう事か──」

 

「君たちが、新しく編入してくる代表候補生達だね。私はこの学園で用務員を務めている蝶羽一夏だ」

 

なので裁判を始める前に閉廷させる。

 

主導権を握るのは自分だと言わんばかりに一夏は自分から楯無達に親しみやすい笑顔を向けながら話しかけた。

 

「……隠さないの?」

 

楯無が閉じた扇子で一夏を指す。

 

「隠す?なぜ隠す必要がある。俺は自分の肉体に完璧な自信を持っている。恥かしい場所など何もない」

 

「その気持ちわかる」

 

腕を組んだ状態の白色の髪の少女が一夏の意見に同意している。

 

「…………それに、言わせてもらうがここは男子更衣室だ。 男子更衣室で男が全裸でいて悪い事があるだろうか……いや、ない!だからこそ言わせてもらう、俺は全裸をやめない!」

 

仁王立ちのままに宣言する。

 

それを聞いた楯無は呆れ、白色の髪の代表候補生はウンウンと頷き、台湾とタイの代表候補生は顔を赤面させながら取り敢えず一夏の体を見ていた。

 

……なんだこの状況。

 

「兄さん、服は着ろ」

 

「………しゃーねぇ」

 

弟に言われ、ようやく一夏は服を着た。

 

襟を正し、おかしな箇所がないのかを確認する。

 

「……では改めて自己紹介を行わせてもらう。今現在この学園で用務員勤めいる蝶羽一夏だ……そして世にも珍しい男性IS操縦者の一人だ……以後お見知りおきを」

 

完璧な、親しみやすい笑顔を浮かべながら一夏は挨拶を行った。

 

 

平穏の終わりは近づいている。

 


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