インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第118話

「どうした、そんなに驚いて……自分の顔なんて見飽きているだろう」

 

『一夏』は驚いて動きを止めているゼロを見て笑った。

 

ゼロの頭の中に大量の情報がうねりをあげ、今までの情報が点と点で繋がっていく。

 

何故と理由が繋がり、真実が彼の目の前に生まれる。

 

そして真実を知って、怒りを覚えた。

 

「随分と、人様の体で好き勝手してくれるんだな」

 

明確な嫌悪感を込めて『一夏』に向かう。コイツは殺さなければならないと心の奥底が命令している。

 

「何をそんなに怒るか、コレは我々が作り上げた肉体なのだぞ」

 

「だが元々は俺の肉体だろうが!」

 

大剣『零』を『一夏』目掛けて振るう。

 

「おお、おお。随分と気性の荒い。亡国機業は育て方が悪いな」

 

『一夏』はNo.1000のコアを利用して零の攻撃を防ぐ。機体の性能自体は黒零が優っているが、No.1000の力が攻撃を阻害し続ける。

 

決めきれないもどかしさがゼロを襲う。

 

「流石にこの程度の機体ではマズイな…………来い、僕達よ」

 

八つの閃光がゼロを襲った。

 

禍々しい殺気を放ちながら迫ってきた八機のIS、そのどれもが普通のISとは異なる気配を放っていた。

 

生体同機型IS。

 

それが八機。

 

動物を模した八機のISがゼロに牙を向けた。

 

「ナメンナヤ」

 

一瞬でその動きを全て見切った。長年の戦闘によって鍛えられた観察眼は並ではない。バラバラの特徴を持つ八機の動きに反応する。

 

武器、手、足、ISに搭載されてある全てを使って迫り来るIS全てに見事カウンターをいれた。

 

八機のISは弾き返され、空中でその動きを止めた。

 

「動物園じゃ……ないんだぜ」

 

蟷螂、襟巻蜥蜴、兎、蝙蝠、狼、狐、仙人掌、鰻。

 

その姿、なんと多種多様な事か。

 

これがもし敵機でなけばジックリと機体を観察したいとゼロは思っているが、今現在はそんな事をほざける余裕なんてどこにもない。

 

「此奴らは、我らネオの八神官と呼ばれるモノ。そして、今貴様らの目の前にいる我こそがネオの最高権力者。総帥であるぞ!」

 

ネオの総帥、そして八神官。

 

最高権力者、何故そんな人間がこんな戦線の最前線にいるのか。

 

敵の戦力は本当にこれだけなのか?

 

もしかしたらすぐ近くに大部隊が潜んでいるのかもしれない。

 

最悪のタイミング、完全に漁夫の利を狙っていた。

 

目標はNo.1000だろうか……それを回収した今ネオの人間がこの場にとどまり続ける理由はない。

 

「さて……どうしたモノか」

 

ゼロは撤退してほしいと思う反面、どうにかしてNo.1000を回収せねばならないという思いと板挟みになっている。

 

一対九は流石のゼロも辛いモノだ。これがもし量産機ならば平気なのかもしれないが、相手は最新型の生体同期型ISとNo.1000のコアを使う男。

 

百春はガーベラと激戦を繰り広げており、エムはISを用いてクロエの治療に当たっている為援護は期待できない。

 

ならばせめて離れた場所にいる他の奴らの増援を期待するが、この場所から待機地点までは少し時間がかかってしまう。

 

(…………エネルギー残量が少し不安だな。極夜を使うにしても最低限のエネルギー消費に収める必要があるな)

 

頭の中で戦闘プランが練りげられていく。今さっきあった一瞬の攻防から相手の大凡の実力は把握した。

 

(一瞬でケリをつけてやる。反応を許さない速度と機動力で距離を詰めて極夜を使って一撃で……)

 

零を握る指に無意識のうちに力が入る。ゼロでもこの数は面倒なようだ。

 

反撃されないように、どれから殺すかを見定める。

 

先ほどの一瞬の攻防からどれが良いかを判断。

 

(……仙人掌)

 

殺す為の構えにはいる、その瞬間に『一夏』は僅かに後ろに下がった。

 

そしてそれを見たゼロの動きが止まった。

 

(今の……わかったのか?機体の性能が追いついていないだけで、パイロットの実力は高いのか?)

 

再び膠着状態に逆戻り、どうにかして一手打って均衡を破壊せねばならない。

 

その時だ。

 

更に四機のISがゼロ達の元にやってきた。

 

「誰!?……………マジで誰!?」

 

やってきたのは、先の戦いで死んではいなかったクロエの仲間である進化体の四人であった。

 

ゼロが誰と言うのも無理はない。ゼロは一切彼らの事を知らないからだ。

 

彼らが戦っている際中、ゼロは移動の疲れを癒す為に少しだけ休憩していた。

 

豹、白熊、甲虫、鍬形虫、四機のISが増援として来てくれたのだが、ゼロは彼らの実力を知らないので正直少しだけ迷惑だと思った。

 

「クロエを殺させてたまるか!」

 

「彼女は我らの希望!」

 

「故に!」

 

「此処は引いてもらう!」

 

四機のISはゼロと協調して戦う事なく、勝手に『一夏』向けて突撃を行った。

 

「総帥、お下がりください。此処は我々が」

 

八神官のウチの一機、蝙蝠型の生体同期型ISが総帥『一夏』を守るように進化体の前に立ちふがった。

 

「よい、下がれ」

 

だが『一夏』はそれを必要としておらず、盾になろうとしている蝙蝠型のISに下がるように命令した。

 

「ですが、総──」

 

「下がれ」

 

「ッ!?」

 

有無を言わさぬ覇気が『一夏』の肉体から放出される。それは生まれた時から限られた人間にのみ持つ事を許された支配者の才能であった。

 

蝙蝠型のISは言葉に従って元いた場所に戻ることしかできなかった。

 

「さあ、試させてもらおうか。最強、最高、最後のISコアの実力を」

 

『一夏』の手に握られてあるNo.1000のコアが激しく闇の光を放った。

 

暗く暗く、明るく眩しいその光は見たモノに無意識の恐怖を与えるのには十分すぎるほどの説明不可能な力を持っている。

 

『一夏』に迫る四人の背中に嫌な汗が流れ、そして頭の中を激しく走馬灯が激流のように流れて行った。

 

「さあ、力をみせてみろ!!」

 

『一夏』がNo.1000を持つ右手を大きく振るった。その姿はまるで地上に神罰の雷を振り下ろす神のように神々しく感じられた。

 

だが振り下ろされるのは神の雷ではなく、悪魔の刃。

 

闇の光が四機に襲いかかる。圧倒的な力、全てを包み込み一瞬で彼女たちを闇の世界に引きずり堕とす。

 

「……え?」

 

一瞬だった。

 

世界が闇に染め上げられる。

 

闇の光の刃が彼女たちを無惨に斬り裂き、命をその搾りかすが無くなるほど闇は輝いた。

 

四機のISが命を枯らし、何もかもを奪い去って地に堕とす。

 

「はははは!!なんと言う力!これが終わりの力!……………少しお転婆すぎるがな」

 

刃を振り下ろした『一夏』の右腕の装甲はズタボロになっていた。

 

今の力は余程のものだったのだろう。一瞬で四機の絶対防御を無視して殺戮の限りを尽くした圧倒的な破壊力、なんの調整も行われていない機体では耐えきれなかったのだろう。

 

「…………さて、目的は済んだ。戻るぞ」

 

『一夏』は少しだけ満足げな表情を浮かべながら空へと上がって行こうとする。

 

「行かせると?」

 

「ああ、行かせてもらうよ。君も死にたくはないだろ?お互いに手打ちにしようか?それに、まさか部隊が此処にいる人間だけだと思ったのか?」

 

『一夏』の言葉の直後、この場にいる三人のIS学園側の人間のISに救援信号が入る。

 

「此処以外にはネオの部隊を複数、君たちの仲間の元に向かわせてある。早く戻らないと、彼女たちが危ないかもね」

 

「…………成る程ねぇ。ムカつくが有効だな」

 

「そうだ、だから下がれ」

 

威圧してくる。

 

「テメエを倒したらな」

 

ゼロも威圧で返す。

 

「まあ、此方にも他の部隊はこさせてあるのだがな」

 

上空から複数のIS反応、敵の増援。総帥や八神官が撤退するまでの時間稼ぎの為にやってきたのだろう。

 

恐らくは捨て駒、命は保証されていないだろう。

 

「それでは、下がらせてもらうよ……ガーベラ、戻るぞ」

 

「はい!総帥」

 

百春と戦っていたガーベラも『一夏』の撤退に手を貸す。

 

「百春、エムとクロエを連れて下がれ。俺が殿を勤める」

 

「わかった」

 

百春は後ろに下がってエムの元に向かう。

 

「マドカ、彼女の容体は大丈夫か?」

 

「大丈夫だ。今の所は傷口は塞いであるし、なにより彼女の体内に流れるナノマシンが治療を始めている。命は助かる」

 

「それは、良かった……なら、下がるよ。護衛は僕がやる。彼女を優しく運んでくれ」

 

二人はこの戦場からの撤退を開始する。エムがクロエを優しく運び、百春が万が一のことがないように彼女たちを護衛する。

 

そしてその間にゼロは襲いかかってくる敵を屠りながら、逃げていく『一夏』を追いかけようとするがネオ側の殿を任されたガーベラが行く手を阻む。

 

「そこ、どいてくれるか?」

 

「それはムリね、いくら貴方の頼み事でも。それにね……貴方と戦うと心が暖かくなるの!」

 

ゼロの大剣『零』とガーベラの持つ大斧が激しくぶつかり合う。

 

互いに夫々所属している組織の最高戦力。

 

戦場で何度も刃を交えてきた二人、何方が勝ち、またある時は決着がつかなかったこともあった。

 

互いに相手に負けたくないという意識が無意識のウチに芽生えてきてしまっていた。

 

その意識がなんなのかを説明できる人間はいない。二人だけがわかる。二人だけの世界。

 

「ねえ」

 

何分間戦っただろうか、時間すら忘れて戦っている。

 

「そろそろ終わりにしない?私たちの目的は完了させた。これ以上戦う理由がないの……」

 

「…………そのようだな」

 

ガーベラに行くてを阻まれてしまった為に『一夏』はすでに何処かに消え去っている。今から追跡するのはほぼ不可能。

 

その事実にゼロは内心舌打ちをした。

 

「それに、全力じゃない貴方と戦ってもつまらないの」

 

クロエとの戦いで体の部位の幾つかが傷を負っている。このまま戦えば確実にどこかで限界を迎えてしまう。

 

まあ、そうなってもゼロは脳波を使って強引に機体を動かすのだが。

 

「貴方とはもっと本気で戦いたいの。心の奥底から濡れるような戦いをね……だから、またね」

 

手を振りながらガーベラは去っていく。そしてすぐに全速力で何処かへと消える。

 

それをただ見ていたゼロ、追うことはできたかもしれない。だがそれは単独ではあまりにも危険すぎる。

 

それに。

 

「唖々…………」

 

体は限界を迎えかけていた。

 

今日一日ほぼ休むことなく戦い続けてきた肉体は疲労のピークを迎えかけていた。

 

仰向けに大の字になって地面に倒れこむ。周囲には敵も味方もいない。ただ周囲には無数の死体が散らばっているだけ、そのどれもが人の形をなしていない。

 

先ほど出されていた救援要請は既になくなっている。どうやらアリサ達が上手く撃退させたのだろう。

 

「……最悪だ……最悪だ。一番奪われてはならないものを奪われてしまった。弱い、弱い、弱い。もっと、もっと強くならないと……俺達(オレタチ)は強くならなければならない」

 

聖夜の夜、血塗れの大地の中心で嘆いた。

 

 

 

 

 

一つの戦いが終わった。

 

それはこれからの大きな時代の流れの序章にすぎなかった。

 


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