色々と強引かもしれない。
とういうか強引。
「来たか、マドカ」
「え?マドカ?どう言う事?」
「兄さんたち、話は後だ。今はアレを倒す」
三人がこうして揃うのはいつ以来の事なのだろうか、もはや誰も覚えてはいない。
そしてこれからゆっくりと家族三人で仲良く談笑する時間も許されてはいない。
クロエから放たれたエネルギーの弾丸を躱した後、三人は夫々得物を構えた。
「一気に決めにかかるぞ!」
ゼロは二人に対して短期決戦を仕掛ける様に指示を飛ばす。
ゼロが乗り込む黒零は既に限界を迎えかけている。先ほどの段階で一度限界を迎えている。それを強制的に修復させたので、長時間の戦闘は不可能だ。
それに加えてNo.1000を取り込んだ黒鍵は今も性能を上げ続けている。覚醒したコアを使ったIS三機がかりといえど、長時間戦えば勝てるかどうかわからない。
「了解した!」
マドカが蒼天の装甲の一部である砲撃型ビットを分離させ、そしてエネルギーを反射させるリフレクトビットを呼び出した。
腕の一振りでリフレクトビットが周囲に散らばっていき、マドカとクロエを複雑な線で結びつかせる。
「エム、俺と百春に対してリフレクトビットのデータを送り続けろ。俺たち二人はその隙間を掻い潜る」
「わかった、任せて」
エムは蒼天専用の遠距離エネルギーライフル『快晴』を呼び出す。サイレント・ゼフィルスに積まれてあったスター・ブレイカーよりも射程は長く、連射性能も一撃の威力も高い。
「咲き誇れ、咲き狂え。数多の蔦に絡まり、終われ」
快晴そして二機の砲撃型ビットがエネルギーの弾丸を放ち、空中に散りばめられた無数のリフレクトビットがエネルギーを乱反射させる。
エネルギーは次々と撃ち出され、次々と反射を繰り返していくうちに空中に巨大なエネルギーの
網を作り上げる。
その網の形は一秒ごとに変化を続け、隙間はIS一機がギリギリ通過できる程敷かない。
「兄さん達、任せたよ!」
黒鍵の動きをエネルギーの網が阻害する。加えて一秒よりも短い単位で変化し続ける網は対処困難。
下手に瞬間移動を使えば移動した先でエネルギーの網が機体を焼き払う。
「行くぞ、百春!」
「ああ!」
ゼロと百春が網の中に突撃する。高速で変化し続ける網に対してエムから送られてくる情報を参照しながら完璧に対処してみせる。
ゼロは「零」、百春は「真花」を呼び出してクロエに攻撃をしかけ続ける。
一切の躊躇いを見せない。一切の油断も見られない。
「ナメルナ!ナメルナ!」
それでもクロエは押される事なく、両腕の爪で攻撃を捌き続ける。
エネルギーの網の直撃を受けながら、クロエは決してひるむ事などあり得ない。
己の願いを貫き通さねば、ここまでついてきてくれた仲間達に対して立つ瀬がない。
「私は、勝たねばならんのだ!」
黒鍵が不気味に光り、己と世界の間に拒絶するかの如く不可視の壁を生み出してしまった。
「これ、は!?」
「チャクラか!」
種さえわかってしまえばどうという事はない。
ゼロは黒零に備え付けられてあるチャクラ発生装置を起動させる。
クロエが発生させたチャクラの壁の硬度は高い。ゼロも強い意思を以ってチャクラを発生させる。
ゼロとクロエ、それぞれのチャクラが真っ正面からぶつかり合う。
二つの拒絶の力が相手のチャクラと干渉を始める。混じり、拒み、やがて二つの壁は相殺を始め、消滅に移る。
「こ、これは!?」
クロエはゼロの自我が産んだ強烈な精神の壁に思わず気圧されてしまう。
それ程までに今のゼロはキテイル。
「ウォヴラァアアアア!!!!」
クロエの発生させた拒絶の壁をゼロは強引に両手でブチ開けた。
なんとういう力任せ。そこには卓越した技など存在せず、本能的な野生が道を切り開いた。
「そんな、馬鹿な!?」
あまりにも強引すぎる行動にクロエさえ戸惑っている。
「最大放射!一斉射撃!」
そしてその僅かな隙をエムがつく。
最大までエネルギーを溜めた一撃がクロエの背中を襲った。
三人は一気に勝負を仕掛ける。
このタイミングを逃してしまったら次に勝てるタイミングはやってこない。
「一気に畳みかけろ!百春!」
「真・雪月花!」
真花、真月、真雪、進化する事で手に入れた三つの武器を一つに合体させて一つの武器、弓型の「真・雪月花」を作り上げる。
今の百春が放つ事ができる最大最強の一撃。
弓を引き絞り、限界ギリギリまで武器にエネルギーを蓄える。
ほぼゼロ距離から放たれた最強の一撃は黒鍵を圧倒的なエネルギーで飲み込んだ。
並のISであったならばこの一撃でケリがついている。
それなのに、黒鍵はエネルギーの激流を真っ向から受け止めている。
「こんなモノで、この程度のモノデハァアア!!」
凶悪で凶暴な黒鍵の両手が雪月花のエネルギーを引き裂いた。
「しょ……正気か?」
撃った百春は勝ちを確信していた。
だがクロエと黒鍵は百春の予測を軽く凌駕してみせた。
最大最強の一撃は凌いだ。クロエの中に勝ち筋が見えた。
小さな点は大きくなり、細い線はより太くなり、勝利という到達点への道筋が現れる。
「私が、私が生きる意味はわかるようになる!貴様らに勝ち、世界を見て、そして……理解するのだ!!」
ようやく、ようやくなのだ。
あと少しで手が届く。
だが。
「零落極夜」
絶望は突然突きつけられる。
悪魔はこの一瞬を狙っていた。
クロエが勝利を夢見た瞬間に『敗北』という現実を見せつけてきた。
クロエは慌てて瞬間移動を行おうとするが瞬間移動は発生しない。どうやら先ほどのエムの一撃で瞬間移動を発生させる為の機材がイかれてしまったようだ。
「歯ァ、食いしばれよッ!!」
右腕に零落極夜を纏わせ、加えてチャクラでブーストさせた全身全霊の一撃。
容赦なくクロエの胸に叩き込まれたソレは彼女を地面へと引き摺り下ろし、地面に落下しても威力は消える事なく彼女を硬いアスファルトの道路に引き摺った。
「こんな、まだ、まだ負けられない!私を信じてくれた仲間の為に、私は戦わなければならない!」
咄嗟に後ろに飛んで威力を殺しはしたが完全には殺せなかった。胸部装甲に僅かな罅が入っている。
「ヌァラァッ!!」
ゼロも地面に降り立ち、クロエに全力でタックルを喰らわせ、揉みくちゃになりながら地面を転がる。
そこから先は野蛮だった。
武器を捨て、両拳を握り固めて全力で殴り合う。
二人とも飛び立とうとはしない。
両足で地面を強く踏みしめながら、拳を振るう。
「何故、私は生まれた?何故だ。あんな狭い菅の中で、何故生まれた?教えろ、教えろ」
「知るか!」
殴りあいながら問答、頭に血が登っているゼロは今現在録な思考を持っていない。
「人間が生きる意味なんてなぁ、簡単にわかってたまるかよ!俺だってわからねえよ、俺だって聞きてえよ!わからねえよ!それでもなぁ、生きていかなきゃいけねえんだよ!」
故に感情的になってしまう。
「それなら、私はどうすればいい!私はどうやって生きていけばいい!」
クロエの拳をゼロは一切かわそうとはしない。彼女の主張を受け止めるように、全ての攻撃を胴体で止めている。
「ソレを、考えろ!」
「ウルサァアアアアイ!!」
硬く握り締められたクロエの拳をゼロは優しく受け止めた。
予想外の行動にクロエの動きが止まった。
「わからねえなら、そんなに知りてえなら、俺が手伝ってやる。誰かを愛する為に生まれた。何かを発見する為に生まれた。何かを成し遂げる為に生まれた。意味なんて幾らでもあるんだよ!……だから、止まれ!」
「……………………なんで、なんでそんなに、私に語りかけてくれる。私は酷い事をしたのに」
「あの人に……束さんに言われたんだよ『頼む』ってな。あの人はお前を思っていた。だから俺はお前の為に行動を起こす。あの人が思ったお前を信じて!」
理由なんてモノはそれだけで良い。
「良い……のか?」
「まあ、流石に毎日お前に付き合うのは無理だな。俺を愛してくれる女性がいるからな」
ユックリとクロエの手がゼロの手から離れ、硬く握り締められていた拳は優しく解かれる。
「そう……か」
黒鍵のエネルギーで作られた大翼が霧散する。
クロエはもう戦う気力がなくなったのだろう。彼女の気配から闘志が消え去る。
それはゼロも同じ。
「……ごめんなさい」
「なんで謝るんだ?」
「だって、こんな事をしてしまったから。世界中の皆に迷惑をかけてしまったから」
「そうか、なら俺も一緒に謝ってやろうか?そんでその後はクリスマスパーティーだ。急げば間に合うかもしれねえぞ」
「ありがとう、ございます」
戦いは終わった。
聖夜の夜、楽園での激闘は今この場で終わった。
だが。
「終わったか?」
閃光がクロエの肉体を貫いた。
戦いはまた始まる。
なんか端折られ捲りですが許してください。
でないと書き終わりそうにないです。