インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第114話

海上都市楽園、その場所の中心に聳え立つタワーの中に今回の事件の首謀者であるクロエ・クロニクルはいた。

 

「ああ、束様……」

 

恍惚感溢れる表情で、クロエは玉座の様なモノに座る篠ノ之束の亡骸を愛おしそうに抱きしめた。

 

束が座る玉座の背後には巨大なタンクが置かれてある。

 

「私は、私は知りたいのです。自分が生きる意義を、自分がこの世に生まれた意味を………だから、その為に、私は貴方を捨てなければならなかった」

 

クロエの目には涙が出ていた。

 

「唖々、仲間が倒されていく。生まれた事が罪だと言われてる。断罪、また断罪…………そして此処にも、来る」

 

クロエが惜しみながら束から離れる。

 

その直後、扉が破壊され黒零を纏ったゼロが室内に侵入してきた。

 

「……やはり、貴方でしたか」

 

「おう、今回の事件を終わらせにきてやったぜ」

 

ゼロは右手をクロエに突きつける。既に殺す準備は完了している。

 

だが一瞬、ゼロの意識がクロエから逸れてしまった。意識が向けられたのは束の亡骸、ではなくその後ろにあるコンテナ。

 

より詳しくいえばその中身なのだが。

 

No.1000(アナザー・ゼロ)……」

 

箱の中にNo.1000が厳重に閉じ込められている。

 

「へえ、よくわかりましたね。今はああやって黒鍵の催眠能力をあげる為にしようしています」

 

クロエの使っている黒鍵のコアでは流石に世界全体を覆い尽くし、人を眠らせることは不可能である。

 

しかし、No.1000の力を使うことによってそれを可能にしている。

 

「この力があれば、私は……できる」

 

クロエが自身の愛機である黒鍵を身に纏う。

 

「……何故こんな事をした?」

 

「気になるのか?」

 

「いや、ただ何となくだよ」

 

ゼロは大剣『零』を呼び出して床に突き刺した。

 

「以前も言ったさ、私ら自分が生まれた意味を、これから生きていく意義を知りたいのだ。そうしなければ、此処までやってきた意味がないだろ」

 

黒鍵の装甲の一部を泥が覆う。その泥にゼロは見覚えがあった。

 

それは以前IS学園で戦った相手であった。

 

「VTシステムか……腹の立つモノを使ってくれるな」

 

大剣を床から引き抜いて肩に担ぎ直す。

 

VTシステムの研究を行っていた場所は篠ノ之束が破壊した。その際にクロエは奪うなりなんなりしたのだろう。

 

「ご名答、だがその改良品さ。意識を奪われることは決してない……なあ、お前は私に教えてくれるのか?」

 

「んなもん、自分で考えてみろや」

 

ゼロが大剣を構える。

 

「そうか、ならば倒して、この計画を全て完了させて、確かめてやる」

 

クロエが泥で作り上げた雪片を構えた。

 

煮えたぎる様な熱い戦意とは真反対に空間は静かに冷え切っていた。

 

「いざ!」

 

クロエがゼロに向けて突撃する。雪片を構え、完璧に模倣した織斑千冬の力を使ってゼロに襲いかかる。

 

「……一言言っておくぞ」

 

クロエが迫り目の前にきた時、ゼロは動いた。

 

 

零落極夜

 

 

究極の一振りがクロエを吹き飛ばした。真っ正面からたった一振りでVTシステムを破壊した。

 

弾き返され、No.1000の封じられているコンテナまで吹き飛ばされたクロエ。

 

「織斑千冬はもう少し強いぞ」

 

それは昔から見てきたゼロだから言える言葉。そして自身の力で撃ち破った相手であるからこそその言葉が出せた。

 

「ク……クォハァ!」

 

コンテナに打ち付けられた衝撃から血を吐き出すクロエ、VTシステムは零落極夜の一撃で破壊されてしまったのか元の泥になって床に零れ落ちている。

 

「もう、終わるか」

 

零落極夜を解除して、零の剣先をクロエに向けて突きつける。

 

「終わる?否、否!否!!否!!!否!!!!終わるか、だと!?終われない!終わらない!」

 

ゼロの言葉にクロエは激しく反応してしまう。拳を硬く握りしめて床を殴り、闘志をもって立ち上がる。

 

機体は一撃で半壊、元々戦闘用のISではない黒鍵では完全に戦闘に特化している黒零と渡り合う事は不可能。

 

「私はよく知らない!此処で終われば全てが無に消えてしまう。だからこそ、私は戦う事を選ぶ。今此処に再度宣言する!」

 

意思がある。

 

意地がある。

 

故に戦う。

 

『力を貸してやろうか?』

 

甘い、脳髄の全てを溶かしてしまいそうになってしまう毒の声。

 

それは世界ではなく、二人の中に広がった。

 

「これは、No.1000か?」

 

『そのようだな、彼奴が目覚めたようだ』

 

一夏(ゼロ)No.000(ゼロ)は心の中で会話を行う。

 

『マズイな、あのコンテナごとNo.1000を破壊しろ』

 

ゼロはエネルギーを右手の指先からコンテナに向けて放った。

 

『させると思うなよ』

 

コンテナが内側から破壊され、漆黒のエネルギーでできた翼が飛び出す。翼はゼロの放ったエネルギーを容易く受け止める。

 

「さあ、力を貸せ。知る為の力を、変える為の力を、私が生きる証明の為に」

 

コンテナの内部からNo.1000が飛び出した。

 

通常のISコアとは違い黒い光を放ち、漆黒のエネルギーで作り上げた翼を持っている。

 

その姿はまるで破壊の天使。

 

この世に顕現したからには全てを破壊し尽くす。

 

「もっと、もっと力をォォ!!」

 

『よかろう。ならばせめて、我を楽しませろ。余す事なく力を求めろ、さすれば我は貴様の欲を全て満たしてやろう』

 

黒鍵の中にNo.1000が入っていった。

 

黒鍵に異変が起こる。

 

装甲が内側から湧き出て来る力に耐え切らなくなってきているのか徐々に胎動していく。

 

小さな胎動は時間と共に大きくなっていく。

 

「己の肉体を満たす為に求めるモノがいた、暴食」

 

一つ。

 

「ただひたすらに己の内から溢れる怒りを向けた、憤怒」

 

二つ。

 

「自分にないモノを持つ相手を妬んだ、嫉妬」

 

三つ。

 

「己の全てを優れていると思い他者を見下す、傲慢」

 

「自らの肉体を焦がしてしまうほどの愛と快楽を求める、色欲」

 

五つ。

 

「己の力ではなく他者の力によって歩みを求める、怠惰」

 

六つ。

 

「自分にないモノを求めて手を広げすぎた、強欲」

 

七つ。

 

「今此処に、我が身に大罪は七つ集う。この身は器、大罪を飲み干す為の器」

 

黒鍵からエネルギーが溢れ出し、変化が始まる。あっという間にエネルギーが黒鍵を包み隠し、この世から分断させる。

 

「我が名は、黒鍵(ワールド・パージ)七つの大罪(セブン・デッドリーシン)


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