インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第113話

 

「さあ、もう終わり?」

 

「まださ、まだ私は戦える」

 

ここでも一つの戦いが終盤を迎えてようとしていた。

 

二対二の激しい戦いであったが、ある出来事がきっかけで戦局は大きく片方に傾いてしまった。

 

それはISの進化。

 

「でも、もう終わりよ」

 

誘宵アリサは進化した自身のIS『アイリス・エクストリーム』の機能をフルに活用しながら、目の前にいる敵を追い詰めていた。

 

「まだねえ、死にたくないのよ。私はね、身が焦がれる程の恋をしていたいの」

 

赤いカブトムシのような生体同期型ISを操るのはヘラクリウス・アンカトゥス、少し男のような名前ではあるが列記とした女性だ。

 

名前はコードネームのようなモノ、そこに性別は含まれていない。

 

最初はアリサと互角に近い勝負を繰り広げていたが、進化したアイリスの前に一方的にやられた。

 

「恋をして、愛して、そして溺れてみたいの。誰かを強く思い、そして私の全身全霊を受け止め、捧げたいの」

 

ヘラクリウスは立ち上がり、自分の通常の両腕とカブトムシ型に相応しい左右一本ずつあるサブアームで構えを取る。

 

突き刺したりつかむ事が得意そうなクロー状の手がアリサを狙う。

 

「だったら私はもっと負けられないわね。なにせこの体には恋と愛が詰まっているから、故に負けることは許さない」

 

アリサの両手に双剣が握られる。

 

この武器に名前はない、というよりもこんな武器のデータはアイリスという機体の中には入っていない。

 

では何故今使っているのかというと、アリサとアイリスがこの場で創り上げたからだ。

 

これこそがアイリスの手に入れた新たな能力『創造』、アイリスの拡張領域の中で武器を創り上げる。

 

ソレは剣だけではなく、銃などの遠距離用の武器を創り上げることも可能である。

 

故に戦い方に限りはない。

 

問題があるとすれば本人の実力。

 

「いざ」

 

「愛をかけて、恋の為に、溺れる程に、零れる程に」

 

勝負、四本の腕から放たれるエネルギーの弾丸をアリサは躱す。その動きに無駄は感じられない。

 

距離が詰められる。

 

両者ともに構えを取る。

 

流れるような動きの双剣を上段の両腕が受け止める。

 

そして空いた下段の両腕でヘラクリウスが殴りにかかる。

 

「そんなの」

 

アリサは双剣から手を離して素早くヘラクリウスの腹に蹴りを入れ、その反動を利用して後方に下がる。

 

「三叉撃」

 

アリサは新たに三叉撃を作り上げる。

 

荒れ狂う大海を征するかの如く、三叉撃を振り回す。刃にエネルギーを纏わせて勝負をかけた。

 

上段右腕を切り落とし、怯んだ隙に左腕も切り飛ばした。

 

「これで、決める!」

 

三叉撃の三つの刃が一つに重なり、巨大な一つの穂を作り上げた。

 

エネルギーの刃による一撃、狙いは敵のコアのある心臓。躱す暇を与えない、次で終わらせるとアリサは決心している。

 

スラスターの加速を利用したアリサの出せる最速の一撃、ソレはヘラクリウスも反応が遅れてしまった。

 

ヘラウリウスは死を思い、悔いが生まれた。強い『セイ』への執着心、まだ死ねない、生き続けなければならないとより一層強く渇望した。

 

「………?」

 

だが三叉撃は心臓を貫く事はなかった。心臓の目の前で刃は止まっている。

 

「どういうつもりだ?情けか?そんなモノ──」

 

「気が変わったわ」

 

アリサは三叉撃を収縮して、ヘラクリウスに背を向けた。攻撃する気配はない、完全に背後に隙を晒している。

 

「そんなに愛を知りたいなら、知ればいいじゃない。その体で最後の最後、果ての果てまで愛を感じなさい」

 

振り返る事はない。

 

「その為の手助けくらいなら……あまり使いたくないけど、家の権力使ってあげるから」

 

「……ありがとう」

 

「感謝しないで。貴方が本当に私や一夏くんの敵になったら、その時は息の根を止める……だからそうならない様に全力で愛を見つけて見なさい」

 

馴れ合うつもりはあまりない。最低限の情を見せている。

 

何故そんな事をしたのかはアリサにしかわからない。

 

「あれ?そっちももう終わったの?」

 

声がした。

 

アリサが声をした方向を見ると、ティファニアと進化体の最後の一人がいた。

 

何故かは知らないがティファニアが進化体をおぶっている。

 

ティファニアのISであるシエルも今回の戦いで進化しており、名は『シエル・エクストリーム』。

 

新たな能力として武器に属性を付与する『チップ』という能力が与えられた。

 

しかし、戦闘はまたいつの機会に。

 

「……何で?」

 

状況が飲み込めず、言いたい事がつもりに積もった結果、アリサは凝縮した一言を放った。

 

「いや、なんか、戦ってたら、結果として、意気投合した」

 

「理屈がわからないし、理解が追いつかない」

 

先ほどまで殺意バチバチで殺しあっていた筈の四人なのだが、何時の間にかのほほんとした空気になっていた。

 

「なんでおぶってるの?」

 

アリサの目がティファニアの背中でやる気のなさそうにしている進化体に向けられる。

 

「戦ったら疲れたみたい。もともと怠惰な性格してるみたい」

 

「すまない、妹が迷惑をかけて」

 

ヘラクリウスは非常に申し訳なさそうな顔をしている。

 

「あ、お姉ちゃん。お疲れー」

 

「クワガスト、好い加減に降りなさい。少しは自分の力で歩きなさい」

 

クワガスト・アンカトゥス、進化体の最後の一人でヘラクリウスの妹。

 

姉が赤いカブト虫型のISなのに対して彼女のISは青色のクワガタ虫型のIS。

 

姉とは違って非常にやる気がなさそうだ。

 

「降りなさい」

 

「えー、わかった」

 

渋々といった様子でクワガストはティファニアの背中から降りた。だが直ぐに地面に座り込んだ。

 

非常にやる気がなく、眠たそうだ。

 

「大変そうね」

 

「やはり、そう思うか」

 

殺し合いをしていた雰囲気はどこに行ったのか。そこには年相応の女子達がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、太平洋上のとある沖合。そこに篠ノ之束の秘密のラボ圏潜水艦があった。

 

ゼロからの指示を受けてエムとオータムの二人はこの場所にやってきていた。

 

目的は篠ノ之束がエムの為に作り上げたISを回収するためである。

 

「本当に此処にあるんだろうな」

 

「ゼロが言ってるんだ。間違いない。だが……何処にあるんだろうな」

 

格納庫に入る事に成功した二人だが、肝心のISが何処にあるのかは検討がついていない。電気のろくについていない薄暗い船内を探索するのは骨が折れる。

 

そう思っていたのが、一人でに室内の明かりが灯される。

 

そして。

 

「……いや、わかる。感じる。呼んでる。誰かが、誰かが私を呼んでる」

 

エムは誰かを探すかの様に周囲を見回し始めた。だが周りにはオータムを除いて誰一人いない。それでも、エムはこの場に誰かがいると確信している。

 

「……コッチだ」

 

エムは声のする方に走り出した。

 

「おい、待てよ!」

 

オータムも後に続く。

 

呼んでる。

 

声のする方向に進んで行く。進めば進む程声が大きくなってくる。

 

そしてエムはとある部屋に辿り着いた。

 

「此処が…………貴方が呼んだの?」

 

その部屋には一機のISが鎮座していた。自らを使うに相応しい人間が来るのをずっと待ち続けていた。

 

「『蒼天(アオゾラ)

 

それがこの機体の名前。

 

篠ノ之束と亡国機業が合同で開発した第三のIS。

 

 

 

使用コアはNo.002

 

 

 

最後の始まりが動き出す。




ヒロイン二人の戦闘はしっかりと書きたいのですが、毎回曖昧な感じで終わってしまう。次はどうにかせねば

蒼天のボツ名は蒼宙。読み方は同じ。

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