インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第111話

煌き輝く黄金の戦士『白式・真』、その内から湧き上がる力に百春は衝撃を受けていた。

 

自分が機体と一体化しているのがよくわかる。自分にはないはずの巨大な翼の先端迄神経が通じているのが感じられる。

 

ギョロリ、ヘッドギアにある空のような青い瞳が三人を睨みつける。

 

「あれ、スゲえな」

 

「わかる」

 

「落ち着け、冷静に倒す」

 

進化体三人は覚醒した百春を甘く見てはいない。先ほどよりも警戒している。

 

「だが手始めだ!」

 

「良いなあ!」

 

パンターとポーラーの二人はヒューロッドの指示を無視して百春にむけて突撃した。

 

真月(シンゲツ)

 

白式の両手に進化し『月』が握られた。ソレは余りにも美しい、何かの芸術作品のように無駄がない。『月』からは基本的に形は変わっていないが、今迄色のつけられていなかった柄などに白色が加えられた。

 

深呼吸、迫り来る進化体二人を前に百春は落ち着きを見せる。焦りはしない、この機体に乗っていれば負ける気などしなかった。

 

「シャアア!!」

 

「オラァ!!」

 

真っ向から二人が突撃してくる。

 

「……行こう、シロノ」

 

白式が動く。

 

一瞬であった。

 

二振りで勝負を決めた。

 

美しい──そして迷いのない太刀筋であった。

 

「……嘘だろ?」

 

「え?」

 

二人は地面に倒れた。あれ程迄大暴れしていた進化体がこんなにも簡単に倒されてしまった。

 

「…………成る程、確かに強くなっているようだ」

 

ヒューロッグもそのヤバさを感じている。今目の前に立っている白式は機体としての格が違う。ある種の到達点にいる。

 

故に油断などあり得ない。自身の持つ全てを使って勝利をもぎ取るつもりだ。

 

構えにより一層の力が入る。

 

百春も真月を収縮する。

 

「一刀繚乱、真花(シンカ)

 

刀が咲いた。

 

美しい花の刀が。

 

右手に持った真花を振る。

 

「……零落白夜」

 

黄金の煌き、朝焼けの太陽よりも美しい光が白式を包み込む。それは今迄の零落白夜の輝きとはまるで異なる。進化したが故に到達した百春とシロノによる『真なる零落白夜』。

 

互いに次の一撃に全力をかけるつもりのようだ。

 

白式の黄金の翼が広がり、黄金の粒子が放出され始める。

 

白式が動く。

 

真花の切っ先をヒューロッグに向けて突きつけながら突撃する。

 

それはさながら荒野の決戦、静謐な世界に二人の鼓動が響く。

 

「いざ!」

 

突っ込んでくる百春をヒューロッグは待ち受ける。自身の高性能センサーを利用した最高のカウンターで百春を倒すつもり。

 

だが、百春はその思考を超越した。

 

消えた。

 

百春がヒューロッグの目の前から消え去った。

 

「…………え?」

 

センサーと肉眼から百春の存在が消えてしまい、ヒューロッグは呆気に取られた。

 

そしてそれは致命的であった。

 

 

 

目の前に百春が突如現れた。

 

それにヒューロッグが気づいたのは切っ先が肉体に触れるか否やという時であった。この段階ではもう手遅れ、カウンターを行う事ができない。

 

「ああ……そうか」

 

ヒューロッグは死を認識した。

 

だがいつまでたっても刃はヒューロッグの肉体を貫かなかった。

 

「……何故殺さない?」

 

「僕は君たちが完全な悪だとは言い切れない。だから殺さない、殺せない。彼女たちもタダ気絶しているだけで殺してはいない」

 

百春はヒューロッグの視線を自身の後ろに向けさせた。そこには地面に倒れた二人がいるが、確かに外傷はなく、ユックリと息をしている。

 

百春には彼女たちが悪いのか、それとも彼女たちをこんな風にしてしまった人間が悪いのか、わからなかった。

 

「こんな事をしたのにか?」

 

「……ああ、君たちはこの戦いを存在証明だと言った。それに君は言っただろ、何もかもが欲しい………でも君が一番欲しかったのは高価な物じゃない。あれは嘘だ。本当に欲しかったのは、普通の生活、違うか?」

 

切っ先を突きつけたまま、百春が問いかける。

 

「……どうだかな。忘れてしまったよ」

 

「ソレも嘘だ」

 

その言葉を真っ向から否定する。

 

「……はあ、確かにそうだ。私は普通の生活が欲しかった。あんな暗い研究施設の生活じゃなくて、明るい学生生活を送ってみたかったよ。だが無理なんだ。私は、こうなってしまったから」

 

ヒューロッグの瞳は何もかもを諦めていた。

 

「……なんだよ、ソレ。そんなの辛いだろ……」

 

切っ先が震える。それは怒りによるものか、それとも悲しみによるものか。

 

「失ってばかりなんて辛いだろ!失ってばかりなら、これからは得る事を考えろよ!悲しいことじゃなくて、明るいことを!僕も手伝うから、皆に謝って、それで、それで」

 

百春の感情が爆発する。

 

ヒューロッグもまさかそんなことを言われるとは思ってもいなかったのか、再び呆気に取られている。

 

「……そうか、ありがとう。私みたいな奴の為にこんな事を言ってくれて。最後に、君が欲しくなったよ」

 

ヒューロッグの声色が先ほどよりも優しくなった。

 

「最期なんて言うなよ」

 

「言ってしまうさ。私は負けた。ならば、罪は償わねばならん……君に負けて良かったよ」

 

その言葉の直後、ヒューロッグは自身の肉体に真花を躊躇いなく突き刺した。

 

「なっ!?」

 

まさかそんな行動を取るとは思っていなかったのか、真花から手を離してしまった。

 

「訂正するよ……まだ、失えるモノがあった。一番大切なモノだ……命があったよ」

 

より深く刃が突き刺さった。

 

「あ……ああ。何やってんだよ!!」

 

百春は膝から崩れ落ちるヒューロッグを前に、漸く事態を受け止めた。

 

ヒューロッグは傷口を抉るように真花を抜き、投げ捨てる。

 

百春はヒューロッグを抱きかかえて受け止める。

 

「コレでいい。コレが私の贖罪だ」

 

「何言ってんだよ!罪があるなら最後まで向き合え!死ぬ事は贖罪じゃない、生きて行動を行うのが贖罪だろ!」

 

百春は予めゼロから貰っておいた亡国機業特製のゲル状の応急処置用の止血剤を傷口に塗る。ヒューロッグを殺してはならないと肉体が突き動かされる。

 

「やめてくれ、惨めになる。私は死ぬと決めたんだ」

 

「だったら、惨めでいろ。惨めでもいい、生き続ける事を考えろ。そうすれば、今よりもっと良い事があるはずだから」

 

「…………そうか、それは私ではなく、クロエの奴に言ってくれ。彼奴は、背負いすぎた」

 

「お前も生きるんだよ!」

 

「……君に幸運がある事を祈ってるよ。ありがとう……そしてお休みだ」

 

ヒューロッグが静かになる。

 

機体が解除されて、彼女の美しい顔が露わになる。その顔に後悔はなく、満ちていた。

 

「…………虚しいだろ、虚しいだろうがアアアアアアア!!」

 

慟哭がゴーストタウンに響いた。




ボツ案でヒューロッグさんヒロイン化はあった。

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