インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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あけましておめでとうございます。

なんやかんやで四周年です。更新が遅すぎて泣きたくなります。

できる限り頑張っていくのでよろしくお願いします。

アーサーは持ってるんだよぉ。


第110話

 

思えば何かを失ってばかりの人生であった。

 

幼い頃は両親と妹を失った。

 

悲しかった。余りにも悲しかった。

 

失った悲しさもあったが、何もできない悲しさもあった。

 

その頃から兄さんは泣かなかった。何を考えていたのかよくわからないが、あの人は泣かなかった。孤高を極めていた。

 

今考えれば、あの頃から強くなる機会はいくつもあったはずだ。それなのに僕は全て捨ててきた。

 

怠惰だ。

 

守りたいと願っていたそれなのに、ただ剣道をやるだけだった。本当に守りたいものがあるならば、覚悟を示すべきだった。

 

力のない主張は無力だ。

 

平穏を失った。

 

新たな力の誕生は、僕たちの世界を容易く変えてしまった。

 

共に切磋琢磨する幼馴染も失った。

 

彼女は強かった。憧れがあった、一緒に練習して、遊んで、純粋に楽しかった。

 

兄を失った。

 

あの時は……結局何かわからなかった。でも今ならば何かがわかる。

 

あの人の強さは僕とは違う。決して会いいれないが、理解することはできる。僕にはあの人の強さを、あり方を否定することはできない。

 

明るく照らしてくれた友を失った。

 

兄を失った僕や姉さんを明るく励まし、照らしてくれた彼女を失った。

 

 

 

平穏を、また失った。

 

自分の愚かさで、またしても失ってしまった。しかも今度は誰のせいでもない、自分自身のせいで平穏な世界を失ってしまった。本来ならば今頃こんな場所にはいなかったのだろう。

 

 

 

ああ、だからこそ……

 

何も失いたくはない。

 

 

 

 

 

 

「ウオオオオオオオオオ!!」

 

静謐な都市に一人の男の叫び声が木霊する。肉体が震え上がる程の寒さを打ち払うために雄たけびが上がる。肉体に絡みつく恐怖心を振り払おうと檄を飛ばす。

 

「オラァ!どうした!」

 

黒豹の鋭利な爪が百春に襲いかかる。

 

躱す、躱す、躱す。

 

爪の軌道を見切り、最小の動きで躱し続ける。無駄な動きはタブー、少しでも隙をみせてしまえば他の二人の餌食になる。

 

「なら、これだァ!!」

 

爪から飛ばされる無数の三日月型のエネルギーの刃、それらは曲線的、そして直線的な軌道の二つが入り混じって百春に向けて飛ばされる。

 

百春もウイングスラスターを大きく羽ばたかせ、エネルギーマントを身に纏い全てを受け止める。

 

「背中がガラ空きだァアアアアアア!!!!」

 

今度は背後からポーラーが攻めてきた。

 

体全体に冷気を纏い、巨体を動かす。

 

豪腕から振り下ろされるダブルスレッジハンマー。絡み合わせた手には氷解がまとわりついている。

 

百春は上下反転させて、ハンマーを両足で受け止める……わけではなく、ハンマーの威力を利用して地面に落下する。

 

羽毛のような軽やかさで地面に着地、すぐに次の動きに移る。

 

降り注ぐエネルギーの刃、極寒の氷柱の雨を花のエネルギー斬で打ち消した。

 

だがすぐに次の攻撃が迫った。

 

真正面からヒューロッグ、鞭のよにしなる腕を巧みに振るい、百春を攻める。

 

百春はソレを躱していくが、躱した直後にパンターが放ったエネルギーの斬撃が肩に直撃した。

 

怯む。

 

そしてその直後に胴体を数度の鞭打が直撃した。加えてヒューロッグは百春の間合いの内側に入り込む。

 

「シャアアア!!」

 

蛇の鳴き声の直後、顎にアッパーが直撃した。

 

打ち上げられた百春、其処にパンターが飛び込んで何度も切りつける。

 

その際にスラスターが破損、空中での自由を失ってしまう。

 

最後にポーラーのダブルスレッジハンマーが直撃、百春は無残に地面に叩きつけられる。

 

だが百春は膝をつかなかった。両足で地面に着地して、踏ん張ってみせた。其処には負けたくないという強い意思を感じる事ができた。

 

「どうした、まだ戦うのか?今のお前では我々には勝てないぞ」

 

一箇所に集まる進化体、ヒューロッグは自分達の勝利を確信して余裕をみせている。

 

「生憎だね、最近少し負けず嫌いになったんだよ……それにここから先に行かせたら、皆倒されちゃうだろ?」

 

百春は花を構える。

 

脚の装甲には破損が目立つ。流石に一人でも苦しい相手を三人も相手するのは無理がある。

 

「色々と無くしてきた人生だからね、失ってきた中でせっかく得たものだからね…………辛いんだよ」

 

それを聞いてヒューロッグは笑った。

 

「……そうか、失いたくないか……残念だな、我々にはこれ以上失うモノがないからな。君とは違って、コレからは得る事しかできないんだ。何もかもを手に入れてみせるさ」

 

ヒューロッグ達はそれぞれの遠距離攻撃用の武器を構える。そして最大威力までエネルギーを貯める。

 

「これでお終いだよ……お別れだ、失う者よ」

 

放たれた一撃、迷う事無く百春に向かっていく。

 

「……ああ、負けたくないな」

 

花を持つ百春の手に力が入る。

 

心が肉体を突き動かす。

 

負けたくないという強い意思が勝手に肉体を動かしてくれる。

 

「そうだよね、シロノ──」

 

走馬灯が頭の中を駆け巡る。

 

今一瞬に過去永遠が繰り返される。

 

黄金の煌めきが彼の目に見える。

 

刹那の為に全てが存在する。

 

全てを理解している。飛び立つための翼ならば既にこの肉体に宿している。

 

後は己の覚悟だけだ。コレを成せば、彼は大空に飛び立つ事ができる。

 

「行けるよね?」

 

共鳴。

 

『──ええ、行きましょう』

 

 

 

 

黄金の風が突き抜けた。

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

目の前で起きた現象に進化体の三人は何が起きたのか全く理解できずにただ呆然としている。

 

百春が目の前から消え去っている。

 

エネルギーの爆心地にいたはずの百春はその姿を消していた。というよりも彼に当たるはずだったエネルギーそのものがなくなっていた。

 

「何処だ、何処に行きやがったチキォオオオオオ!!」

 

目標を見失ったパンターは怒号をあげながら周囲を見回す。

 

「逃げたのか?殺させろォオオオオオオ!!」

 

ポーラーも同様のようだ。

 

「…………後ろだ」

 

ヒューロッグだけは百春の居場所に気づいた。

 

だが最初から居場所に気づいていたわけではない。一瞬完全に見失っていたのだ。

 

ヒューロッグの機体は蛇の見た目に相応しく他の進化体に備え付けられているセンサーよりも精度が高い。

 

それでも完全に見失ってしまった。

 

速度だの何だのという次元ではなかった。

 

完全に消えたのだ。

 

そしてまた現れた。

 

この世界から乖離してみせた。

 

「なんだ……アレ」

 

振り返った三人は、其処にいた百春──白式の姿に驚いた。

 

純白と黄金を基盤にした全身装甲、所々に煌めく星のような輝きの金色のラインが入っている。

 

そして特徴的なのは両肩にある巨大なウイングスラスター、今までは片翼だったのが両翼に変化してしいるのだ。

 

その姿、あまりにも神々しい。

 

白騎士とも黒零とも違う百春とシロノのための機体。

 

輝きは流星の如く。

 

黄金の戦士。

 

名は。

 

「『白式(ビャクシキ)()(マコト)』」




できる限り完結にむけて頑張る。

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