インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第105話

 

その映像は世界中で流れていた。

 

世界中のあらゆる放送局や個人のパソコンなどをジャックして、世界中の人々に見せつけるように流れていた。

 

今の世界を作り上げた人間、ISを生み出した人間、世界中のありとあらゆる組織がその人間を探している。

 

篠ノ之束の無残な姿がそこには映し出されていた。

 

それはまるで一つの時代の終わりと、新たな時代の始まりを世界中に知らしめているように見えた。

 

『これは世界中の人間に送る、存在証明』

 

玉座の裏から一人の少女が姿を現した。

 

銀色の長い髪、常に閉じられた瞳。

 

「……クロエ・クロニクル」

 

姿を現したのは束と一緒に生活しているクロエ・クロニクルだった。

 

『今日、この日、たった今、ISの生みの親である篠ノ之束は我々が殺しました』

 

淡々と喋り始めるクロエ、そして彼女の後ろに六人の人間が並んだ。

 

全員がクロエと同じような漆黒の黒目、そして統一された漆黒の軍服を身に纏っている。

 

『我々の名前は進化体(エヴォリュード)、人の身にISを取り込んだ者たち。生体同期型ISを手に入れた人を超えた存在』

 

「進化体《エヴォリュード》……」

 

生体同期型IS、ゼロはソレについて束に聞かされていた。簡潔に言えば自分の肉体にISを取り込む事。

 

『今日この日より、我々は戦いを始める。これは我々の産まれた意味を知るための戦いである…………そしてこれはそのための号砲である。鳴れ、黒鍵(ワールド・パージ)!』

 

 

 

次の瞬間、世界が悲鳴をあげた。

 

世界から生命の意思が切り離されていく。

 

激音、爆音、騒音、静音、ありとあらゆる音が混じり合ったような音がスピーカーを通じて世界に響いた。

 

「あっ!?あああああああ!!!???」

 

あまりにも理解不能なその音に、ゼロとアリサは思わず耳を塞いでしまったが、それでも脳内に直接響いているように止まらない。

 

(意識が、切り離される!?)

 

その音がなんなのかゼロはわかった。

 

「アリサ!ISを展開しろ!」

 

「わかった!」

 

「音を塞げ、黒零」

 

「アイリス!」

 

二人はISを展開、ゼロはその直後チャクラでドーム状の壁を作り上げて音を遮断する。

 

ISが音を自動調整する。

 

「一夏くん、今の音、何!?」

 

珍しくアリサが取り乱している。

 

「催眠音声だ。何か道具使って封じてなければ、今頃ぶっ倒れてる。多分世界中寝ちまってるよ。マズイな」

 

音の正体は催眠音声、黒鍵に元々あった能力を改良したものなのだろう。

 

今頃は世界中のあらゆるところで人々が意識と肉体を切り離されてしまっているのだろう。

 

「アリサ、こうなっちまったら仕方がない。デートは中止だ。IS学園に戻るぞ……あと、皇さん達の無事を確認してくれ」

 

「わかった」

 

二人は空に飛び上がり、IS学園に向かう。

 

長い長いクリスマス・イブが始まってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「一夏、誘宵、無事だったか」

 

二人がIS学園に戻ってくるなり、織斑千冬が出迎えた。

 

彼女も催眠音声から逃れる事に成功したのだろう。

 

「ああ、コッチは無事だ。変な奴には絡まれたけどな…………ソッチは大丈夫だったのか?」

 

「私は咄嗟の判断で機械を破壊したから、音を聞かずにすんだ…………だが学園の大半の人間はあの音とやらを聞いて眠ってしまったようだ。今は動ける人間で安全を確保している」

 

「ならすぐに、動ける専用機持ちの人間を集めた方が良い。いつでも動けるようにな。多分、国の機能は大半が麻痺しちまってる。そっちはそっちで動け、俺は元の場所にいく」

 

「わかった。それと一夏、束のことなんだ────」

 

「わかってる。だが今は時間が惜しい。さっさとこれを解決しないと、寒空に放られた人間が凍え死にまくるぞ」

 

世界中の人間が眠るという異常事態、早く解決しなければ以前のフランス以上の被害が世界に降り注いでしまう。

 

「アリサ、準備を済ませておいてくれ」

 

「一夏くんは?」

 

「一度部屋に戻る。直ぐに行くから、一人にしてくれ」

 

「……わかった」

 

急ぎ足で立ち去るゼロ、その背中を見て、首をかしげながらアリサは見送った。

 

自室に向けてゼロは早足で進んで行く。

 

部屋に着いて扉を開けて中にはいるなり、上着を脱ぎ捨ててソファーに座った。

 

「ふぅーっ」

 

息を大きく吐き出して、気持ちを整える。天井を見上げること数秒。

 

千冬にはあんな事を言ってはいたが、束の死をゼロも悲しんでいるのだろう。

 

「で?どういう事ですか?束さん」

 

ゼロは部屋に備え付けられたテレビに向けて、死んだはずの束の名前を呼んだ。

 

いるはずがないのに、誰もいないのに、呼んだ。

 

『あら、ばれちゃった?』

 

モニターの中にデフォルメされた束が出現した。その姿はまるで亡国機業のリリスと同じような姿をしていた。

 

「貴方がタダで死ぬわけないじゃないですか。あんな簡単に死んでたら、今頃十回以上は死んでますよ」

 

『あははー、確かにそうだね。それにしても凄いと思わない?束さんもリリスと同じようになれたんだよ、電脳妖精(サイバーエルフ)にね』

 

電脳妖精(サイバーエルフ)、それはISコアにそれぞれある人格の事である。

 

ISコアの強さは電脳妖精の強さと同義と言っても過言ではない。中でも特に我の強い覚醒したコアの強さはしてないコアとは比べ物にならない。

 

「凄いですね」

 

『あれ?意外に反応が薄い?これでも束さん、リリスから話を聞いて頑張ったんだよ。今の束さんは殺される直前のデータが全て入った状態だよ」

 

画面の中でガンガンに動き回っている束、正直なところ目にうるさい。

 

「……そんな事より、あの音は何なんですか?黒鍵に催眠機能があるのは聞いていましたが、あそこまで酷いとは聞いてませんでしたよ」

 

ゼロの言葉を聞いて束の動きが止まった。

 

「束さん?」

 

その様を異様に思って、ゼロは問いかけた。

 

『……黒鍵の力なら、あんな範囲の催眠はできない。でもくーちゃんは別のISコアの力を借りて、あの規模の力を発動させてる』

 

「別のコア?」

 

『そう。私が作り上げたISコアの中で最悪のコア、ラストナンバーNo.1000(アナザー・ゼロ)。その力をくーちゃんは使ってる……まさか、使うなんてね』

 

No.1000(アナザー・ゼロ)、その名前を聞いた瞬間にゼロの背中に寒気が走った。

 

No.1000の恐ろしさはゼロもよくわかる。アレを感じた時の事をよく覚えている。

 

自分の使っているNo.000と同格のコア、手がかかると判断した。

 

「No.1000、アレも覚醒したコアでしたよね」

 

『そうだね…………そう言えばいっくんにも誰にも言ってなかったけど、元々No.000とNo.1000は一つのコアだったんだよ』

 

「…………は?」

 

束の口、そう言っていいのかわからないが、から飛び出した発言に、ゼロは空いた口が塞がらなかった。

 

『元々あった始まりの一つのコアに二つの人格が産まれてね、それを私が分離させてNo.000を作り上げ、何年か後にいろんな感情を込めてNo.1000を作り上げた。始まりにして終わりのコア』

 

「なんか、凄え事聞いたわ」

 

ゼロは束の話に驚かせれ、それ以上聞こうとしたが時間がなかったのでやめた。

 

「束さん、マドカの専用機は完成してますか?」

 

『殆ど完成してるよ、後はマドカちゃんがのって細かい調整するくらいかな……後は黒鷹も用意してるよ。いつでも出せる』

 

「わかりました、ありがとうございます……それでは、行ってきます」

 

普段着から戦闘服に着替え終え、ゼロは部屋を立ち去ろうとする。

 

『いっくん、くーちゃんを頼んだよ。彼女はまだ何もわかってないから…………私もできる限り手伝うよ』

 

「……わかってます」

 

部屋を出て、ゼロは長い日に向けて飛び出す。

 




前回の話で束が死んでタグを追加しないのかと幾つか質問が来ましたが、こういう事なので追加すべきかしないべきなのか悩んでいたのです。

死んでんのか生きてんのかよくわからないからね。

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