インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

102 / 137
難産。
元々この修学旅行編は予定してなかったからね。


第102話

 

 

「ハアアアア!!」

 

アリサの銃撃がクルーシャの乗る十字架型のISに被弾する。

 

「よっと」

 

続けざまにティファニアが背後から襲いかかり、二刀流で機体を痛めつける。

 

クルーシャが機体を振り回してティファニアを投げ飛ばすと、すかさずアリサが距離を詰めて十字架の中心を蹴り、飛ばす。

 

アリサとティファニアは二人がかりでたちの悪い戦い方をしていた。クルーシャの得意な遠距離からの攻撃をさせない為に、必ず何方かが近接攻撃をしかけ、もう一方が援護射撃を行う。

 

常にこの状態のまま二対一で戦い続ける。ただでさえ性能の高い覚醒コアのIS二機を同時に相手取れるほどの技量と機体の性能をクルーシャは持っていなかった。

 

「アリサちゃん、そのままにしていて」

 

ティファニアの乗るシエルのウイングスラスターが大きく広がる。背中にある二つのエネルギー砲が肩にかけられる。腰にあるエネルギー砲も同様に前に突き出る。

 

シエルは近距離や中距離の戦闘も可能なのだが、最も得意なのは圧倒的な火力による砲撃戦。相手よりも高い火力で押し切り、遠距離から超威力の砲撃で圧倒する。

 

「全力全開、最大開放、久しぶりの一撃!」

 

上空に向けて最大威力の一撃を放つ。決して地上に向けて撃ってはいけない。下手をすれば周辺一帯が更地になってしまうからだ。

 

合計四門の銃口から放たれるゴリラドラゴンの一撃並、もしくはそれ以上の威力のエネルギー砲。

 

クルーシャを飲み込もうとする一撃、しかし彼女の前に数機のISが飛び出して盾になる。それらは先ほどティファニアとアリサが行動不能にした機体で、まさか動けるとは二人とも思っていなかった。

 

自ら進んで死にに行くその光景にティファニアは戸惑ったが、もうこの際なんでも良い。更に火力をあげて盾になったISごと焼き払うことにした。

 

圧倒的破壊力、シエルの砲撃は一瞬で全てを飲み込んでしまった。

 

「…………逃した」

 

クルーシャを殺し切った感覚はティファニアにはなかった。飲み込む直前に盾になったアイエスを見捨てて上空に逃がしてしまった。

 

「あと、ちょっと早く撃てば良かった」

 

シエルが元の形態に戻る。

 

「ティファちゃん、大丈夫?」

 

「大丈夫、だけど大丈夫じゃない。敵を逃がしてしまった」

 

アリサが飛んで来て隣に移動する。

 

「でも、撃退したなら今はいいじゃない。それよりも他の場所に行って、救助を手伝いましょう」

 

「そうだね…………気づいてる?一夏のこと」

 

「うん」

 

「さっきから尋常じゃない殺気出して戦ってるのよ……こんなに殺気出してるのいつ以来かしら」 

 

遠くを見つめる二人、その先では激闘があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その領域は誰の侵入も許される気配はない。

 

互いにそれぞれの組織で最強の名を持つことを許された人間たち。

 

必要最低限の動きで相手の攻撃を躱して、最高のタイミングでカウンターをいれる。

 

互いに周囲の被害なんて頭に入っていない。ゼロは理解しているのだ、ガーベラ相手に周囲に配慮しながら勝利するのは不可能だということに。

 

少し戦うだけで近くの建物が崩壊する。

 

エッフェル塔や凱旋門が未だ崩壊していないのは奇跡と言って良い。

 

「面倒だな」

 

実体剣、零雪を振るいながら、ゼロはガーベラの動きにイラついつていた。

 

「アハッ!」

 

ガーベラはドリルレイピアにチャクラを纏わせて攻撃を行う。一振りが建物を破壊する。

 

マトモに当たるわけにはいかない。

 

「もっと!」

 

白薔薇の両肩のエネルギー砲が光を放ち始める。

 

見るだけで危険なのだということがわかる。

 

「チッ!」

 

ゼロは自分の足元の道路を踏み砕いて、地下鉄の路線への通り道を作る。

 

穴に落ちると同時にエネルギーの閃光が今の今までいた場所を通り過ぎた。

 

ガーベラも穴の中に入ってくる。

 

狭い地下鉄の路線上での戦いは容赦なく施設を破壊するものであった。

 

空洞を支えるための柱は盾にされ、壁は相手の装甲を削るために利用される。

 

戦いは移動し過ぎて駅の構内にたどり着く。

 

彼らが戦っていた路線は既に破壊されていて、修復されるまでにはかなりの月日が必要になりそうだ。

 

「ああ!」

 

「はああ!」

 

ゼロは右手にエネルギーのランスを、ガーベラは実体のランスを呼び出して突き刺し合う。

 

チャクラの盾で攻撃を防ぎながら、互いに一撃を入れようと必死に抗う。

 

両者マトモな一撃が入らぬまま戦いは続いていく。

 

「狭い通路、ここならどう!?」

 

ガーベラが駅の構内に花粉を撒き散らす。狭い場所、マトモな爆発をすればこの場所は簡単に崩壊してしまう。

 

「ナメんなよ!」

 

ゼロは躊躇わずにエネルギーを放って花粉を爆発させる。

 

駅全体に爆発が広がる。二人はチャクラの盾を球体状に張り巡らせながら、爆発を防ぎ、駅からの脱出を目指す。

 

爆炎を背景に両者同時に街に飛び出す。

 

背中合わせ、両者同時に放った上段後ろ回し蹴り。それは破裂音とともにつば競り合う。

 

「やっぱ貴方は楽しい!デュノアの隠し子はつまらなかった。なんか二つコア混じってたけど、あの程度じゃ差は埋まらないの!」

 

「当たり前だろうが!一流のパイロットが一流の機体にのって一流の力になる。二流三流が頑張っても二流三流だろ」

 

ゼロは右手でエネルギーの丸ノコを生み出す。全力投擲、投げられた丸ノコはガーベラに躱され、背後にあった複数の建造物を両断した。

 

「それもそうかもね!」

 

互いに既に極限状態。

 

相手の僅かな動きで敵の次の動きを予測する。ISとの呼吸を合わせて敵を迎え撃つ。

 

ゼロは両手に遠距離武器『零砲』を呼び出す。普段は右手があるためにあまり使われない武装ではあるが、ガーベラが相手となると出し惜しみはしない。

 

チョロチョロと蜻蛉のように動き回るガーベラに向けて銃を乱射する。

 

動き回るガーベラの動きを制限する弾丸、そして制限したところを正確に撃ち抜く弾丸の二種類で潰しにかかる。

 

弾丸に込められた僅かな殺意の差を見極めながらガーベラは躱していく。

 

「こりゃあ、面倒ね」

 

ガーベラは一度後ろに下がる。

 

ゼロも銃を撃ちながらガーベラを追跡する。

 

入り組んだ街並みを抜けて二人は広い広場に辿り着いた。

 

その場所は避難区域の一つに指定されており、今も沢山の避難民と彼らを守っているフランスのIS操縦者とIS学園の生徒がいる。

 

広場に突然困難が訪れる。あのISが何なのか全員知らない。

 

二人に武器が向けられるが本人達は気にしていない様子だ。

 

撃ったら殺す。動いても殺す。気配だけで二人は告げる。

 

目線を少しでもそらせば、ヘルメット越しでも感じ取ることができる。

 

膠着状態が続く…………と思われたが。

 

「ちょっと!ここで何やってるのよ!」

 

ISの群れの中から更識楯無が飛び出した。

 

彼女はゼロと一緒にこのパリに来て、彼がゴリラドラゴンと戦う直前に黒鷹から離脱させられた。

 

「……少し黙れ。それとそこにいる奴らを動かすな。動かしたら殺しかねない。手助けは不要だ」

 

殺しかねないという言葉は冗談ではないのだろう。溢れ出る殺気が物語っている。

 

その異様な雰囲気に楯無は思わず怯んでしまった。

 

「手助け不要って、そいつ強いんでしょ?一人で戦えるの?」

 

楯無の目から見てもガーベラは格上の相手だということがわかる。

 

「テメエらが幾らいても邪魔になる。一度も連携合わせたことねえだろ……せめてアリサかティファの何方かがいれば良いんだけどよお。最悪百春だな」

 

ガーベラの方を向きながらゼロがつぶやく。

 

その直後、一機のISが群れの中を飛び出してゼロに襲いかかった。その機体は打鉄、つまりはIS学園の人間なのだ。

 

そしてゼロと楯無は思った。

 

((コッチかよ!))

 

せめて向こうを攻撃しろと二人は思った。

 

殺意の指針は決まった。ガーベラから目線を逸らさずに近づいて来た打鉄に対処する。

 

だがその瞬間にゼロの意識が僅かに打鉄に向けられてしまった。そしてそれにガーベラは気づいてしまった。

 

右手で振るわれた刃を受け止め、左手でチャクラの衝撃波で内蔵を貫く。

 

その隙にガーベラが近づいていた。

 

「ああ!ああ!」

 

イラつきと共にゼロは打鉄の右手首をとって肩を砕きながら強引に力任せの関節技をしかけた。背中に腕を回されて悲鳴をあげる。

 

「アハッ!」

 

ガーベラがドリルレイピアを持って突撃してくる。

 

「せめて盾!」

 

関節技を決めた状態で打鉄を盾の代わりにする。激しい音と共に絶対防御が削られていく。

 

蹴り飛ばし、後ろに下がる。

 

「邪魔!」

 

打鉄がゼロに向けて投げ飛ばされる。宙を舞う打鉄。

 

ゼロは前進に切り替えて空中にある打鉄の足を掴んだ。

 

手っ取り早い武器を手に入れた。

 

質量の大きい武器だ。

 

「ナアアアアアアア!!」

 

全力で打鉄という名前のつけられてあるハンマーを振るう。中に乗っている人間のことなんざどうでも良い。

 

目の前の人間を殺すことの方が価値がある。

 

「チッ!」

 

ガーベラは横にそれてそれを躱し、ハンマーはビタンという音と共に地面に叩きつけられる。

 

「もういっちょオオオ!」

 

両足をつかんで今度はジャイアントスイング、投げ飛ばされて今度は砲弾代わり、だがこれも躱される。

 

「ウオオオオオオオオ!!!!」

 

「ハアアアアアアアア!!!!」

 

再び近接格闘に移行する。

 

それを見た他の人間達はその異常な戦いに目を奪われた。

 

「コイヤアアアア!!」

 

ゼロの手には愛用している零を構えた。

 

「イイネエエエエ!!」

 

ガーベラもドリルレイピアを回収して、今度は大斧を呼びだして両手でつかんだ。

 

技術、速度のぶつかり合いとはうってかわって力と力のぶつかり合いに早変わりした。

 

二人は戦いを繰り広げながらこの広場から移動していく。

 

武器を振るうだけで周囲の建物が破壊されていく。

 

移動していくうちに気づいた時にはショッピングモールの中にいた。

 

二人の頭の中に最初に戦った時の記憶が走った。

 

懐かしくなって思わず笑ってしまった。

 

狭い通路の中で縦横無尽に刃を降り続ける両者、周囲は既にズタボロ。

 

ガーベラが一歩後ろに飛んで吹き抜けを通って一階に移動する。

 

二階と一階、上にいるのはゼロ。

 

「どうせ両肩だろ?」

 

ガーベラの次の攻撃を予測した。

 

その予測通りに一階から二階に向けてエネルギー砲が放たれた。白薔薇の両肩にあるエネルギー砲からの一撃なのだろう。

 

ゼロは右手の指先からエネルギー泡を放って打ち消す。

 

「……そしてここでビットからの攻撃」

 

背後から頭をめがけて迫っていたビットからの砲撃を頭を動かすだけで躱す。

 

「あら、それも躱す?」

 

下の階からガーベラが声を出した。続けざまに剣山のように何十発もエネルギーの弾丸が撃ち込まれてきた。

 

ゼロは吹き抜けから天井をぶち破って屋上に飛び出る。

 

「ぶっ飛べ!」

 

建物の内部に向けてエネルギーが流し込まれる。濁流のようなエネルギーが破壊を続ける。

 

「アハハハッ!!!!」

 

狂った笑い声と共にチャクラの盾を纏ったガーベラが屋上に飛び出してきた。

 

傷のついている様子はない。

 

「やっぱ、やっぱ楽しい!だからもっと──」

 

その時ガーベラの動きが止まった。どうやら通信が着たらしく独り言を言っている。

 

数秒のうちに通信は切れて、ガーベラは目に見えてテンションを落としていた。

 

「どうした?」

 

その変化に疑問を持ったゼロが尋ねる。

 

「撤退命令。任務は完了したから戻れとさ、アタシの方は完了してないのに」

 

「そうか、ならば撤退した方が良いな。テメエの任務は一生完了しないんだから」

 

「面白いこというのね……次こそは跪かせてあげる。そして王として迎えてあげる。だからそれまで楽しみにしてて」

 

ガーベラが飛び上がり、上空に飛んでいく。

 

ゼロはそれを黙って見上げた。ここで彼女を追いかけるよりか他の場所の手伝いに行った方が有益になると考えたからだ。

 

 

 

今ここで一つの戦いが終わった。

 

しかしこれは始まりの戦い。

 

これから広がって行く激動の始まり。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。