インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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ようやく100話、150話迄に終わればいいな


第100話

「この辺りの敵は、もう片付け終わったか」

 

エムはパリに着くなり、早速ネオのISを数機倒した。

 

ゼロが到着するまであと十数分、エムはできる限り場を整えることにした。

 

周囲を索敵、すると此方に向かって来る二機のISが確認できた。どちらも亡国機業のISではない。

 

エムのIS『サイレント・ゼフィルス』は本来ならば遠距離攻撃型のIS、最近束に改修してもらって近接兵装をつけてもらったのだが、近距離で戦うには不安がある。

 

エムはその場から離れようとするが、それよりも早く二機が襲来した。

 

轟音と砂煙と共に何かがエムの横を通過した。

 

エムがソレを見ると、一機のISが地面に転がっていた。エムはそのISに見覚えはなかったが、パイロットの顔には見覚えがあった。

 

「……シャルロット・デュノア」

 

フランスの代表候補生でIS学園の一年生、フランスのデュノア社の社長の隠し子、そんな彼女も今は無様に失神している。

 

乗っているISは既に半壊、動く気配はない。

 

「みーつけた」

 

エムはその声を聞いた途端、体全体に嫌な汗が流れ、命を取られたような感覚があった。

 

振り向きながらライフルで敵を狙い、頭部を狙って弾丸を放った。

 

「殺意の射線が正確ね、見切って欲しいの?

 

だがもう一機のISはその一撃を簡単に躱してみせた。

 

「ソレはネオの……ガーベラか」

 

エムは面倒な相手と出会ったと思った。ガーベラは近接格闘能力なら、ゼロに比肩してしまうかもしれないほどの強敵。今のエムが相手をするには厳しすぎる。

 

「王は、どこ?」

 

「……王」

 

ガーベラが言っている言葉がエムにはわからない。王と言われても、ソレに当たる様な人物を彼女は知らないのだから。

 

「王よ、それともゼロか…………もしくは蝶羽一夏と言えばわかるはずでしょ?」

 

「……!?」

 

ガーベラの口からなぜその名前が出たのか、エムにはわからない。

 

彼女の言う王という存在と自分の義兄であり上司でもある一夏がイコールでは結ばれなかった。

 

「どう言うことだ、何故ゼロが王なのだ」

 

「貴方には関係のないことよ。まあ、時間が彼を呼び寄せてくれるでしょ。だから、それまでは貴方で愉しませてよ………さっきから頭の中が知らない声で煩いのよ!」

 

ガーベラが一歩前に出ると彼女が纏う白薔薇が不気味な鼓動をあげる。

 

ISが叫んでいる。早く解き放てと叫んでいる。

 

彼女から放たれる圧力にエムは無意識のうちに後退していた。

 

エムはこの圧力に覚えがあった。しかし、それが本当だとすればピンチは大ピンチに早変わりしてしまう。

 

(……コアの覚醒)

 

もしそれが本当なのだとしたらエムは一目散に逃げる必要がある。

 

覚醒したコアと戦えるのは単独ではゼロかティファニアの二人しかいない。覚醒したコアとそうでないコアの間には明確な性能差があるからだ。

 

覚醒の予兆はある、だがガーベラのコアは未だ覚醒していない。覚醒する前ならば勝てる可能性は僅かながらある。

 

ならばエムが取るべき行動は一つだ。

 

(撤退しながら、時間を稼ぐ!)

 

ゼロがやって来るまでの時間稼ぎ、ガーベラに勝てないと判断したエムは逃げを優先した。

 

勝てないならばそれなりのやり方で戦うだけだ。

 

周囲にビットを展開しながらエムは後方に下がる。地面に倒れているデュノアの事など一切気にかけていない。そんなモノに気をかける余裕があるならばガーベラに向けた方が良い。

 

高度な技術である偏光射撃を交えながら射撃戦。背後、側面、正面、全ての方向からエムはガーベラを攻め立てる。

 

だがガーベラは容易くソレらを見切って躱す。

 

「死線が見える。捉えられる。これが、極致!!」

 

エムの精密射撃をガーベラは簡単に躱して、距離を詰めた。

 

態とらしく、ガーベラはエムに顔を近づけた。

 

「どうした?近づいたよ?」

 

「ッなめるな!」

 

エムは新たに付けられた二本のランスをそれぞれ掴むと、近づいてきたガーベラにソレで応戦する。

 

接近戦ではエムが完全に押されている。ビットの射撃で背後から襲いかかってもガーベラには簡単に躱されてしまう。

 

「ならば!」

 

サイレント・ゼフィルスが出しているビットの配置を変える。

 

更にガーベラに向けてランスを投げつけて動きを止めて、後ろに瞬時加速を使って距離を取る。

 

スターブレイカーを構えて、エネルギーを最大限まで貯める。

 

「ハアッ!」

 

サイレント・ゼフィルスが行える最大化力の一点集中攻撃。ビットとライフルによる同時攻撃。

 

突撃してくるガーベラ、直撃コースだ。

 

「甘くて温い!」

 

ドリル回転を行うがガーベラのレイピアが最大化力の一撃を打ち砕いた。 

 

「嘘ッ!?」

 

「真実ッ!!」

 

エムの顔面を狙った鋭い突き、エムはこの一撃をかろうじて躱すが自身の顔を隠していたヘルメットが破損してしまった。

 

使えなくなったヘルメットを投げ捨てるエム。

 

そして、追撃を仕掛けようとしたガーベラの動きが突如止まった。

 

「貴様は……織斑か?織斑だったのか?」

 

ガーベラはエムの顔を覗き込む様に近づいた。

 

「その名前は……捨ててる!」

 

エムは呼び出したナイフでガーベラの顔目掛けて突きを行う。

 

だがそれも簡単にガーベラに受け止められる。

 

「でも織斑だ。その顔がそれ以外に何を示している。織斑だろ!!」

 

ガーベラの蹴りがエムを吹き飛ばす。

 

「そうか、お前が織斑マドカだったのか……昔こっちが誘拐して奪われたと聞いていたが、まさか王と一緒にいたとはな。裏切り者の織斑が!!」

 

ガーベラがエムを投げ飛ばした。

 

更に追撃にもう一撃蹴りを放つが、エムは腕を十字に組んでこの攻撃を受け止めるが吹き飛ばされる。

 

「それとも貴様にはわからないのか?そうか若かったな、ならば知らぬが道理。だが殺す」

 

ガーベラが突撃する。容赦のない攻撃でエムを攻めたてるが、エムは展開しているビットをガーベラにぶつけながら時間を稼ぐ。

 

ゼロが来るまであと何分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおお!!」

 

「はあっ!」

 

壮絶な音と共に凄絶な破壊音が周囲に響き渡る。

 

この場所では現在ラウラ・ボーデヴィッヒとネオのIS部隊の一人が戦っていた。

 

ネオのISはそこらにいる量産機と似ているが細部が少し豪奢になっているため特別な機体……隊長か副隊長の機体なのだと言うことがわかる。

 

かれこれ数分、休みなく戦うラウラの肉体は多少の休みが欲しくなってきた。

 

呼吸する余裕すら残されていない戦い。

 

ラウラは敵の腹を蹴り飛ばして大きく距離をとった。

 

「……厄介だな。増援は見込めないし、何より相手が強い」

 

相手の実力は自分と同じかそれ以上と見ているラウラは増援を望む。敵に勝つには自分が有利な位置になるのが手っ取り早い、奇策で勝つための手段を彼女は持ち合わせていない。

 

正面から打ち破るしかない。

 

再度攻撃を仕掛けようとした瞬間、横道から一台の近未来的なデザインのバイクが全速で飛び出してネオのISを撥ね飛ばした。

 

飛び出したバイクはウィリー走行を行いながら、ラウラの前に止まった。

 

バイクは人が乗るにしては大きすぎる。だが目の前にいる人間は完璧に操縦している。

 

イマイチ状況の飲み込めないラウラ。

 

「IS学園の人間か?」

 

男の声だった。

 

バイクに乗った男はヘルメットを被ったままラウラに話しかけた。

 

「そうだ……貴様は何者だ」

 

「あいつらの敵で、お前たちの仲間ではない。だから敵意を向けるな」

 

男はバイクから降りるとヘルメットを脱いだ。

 

銀色の髪が炎に照らされる。

 

「……アドルフか?」

 

ラウラはヘルメットを脱いだ男の顔を見て、自分と同じ試験官ベイビーである男の名前を呼んだ。

 

「何でお前が生きている?」

 

「お前が殺したからか?」

 

ラウラが無言で頷いた。

 

「お前はあの日、私を除いた遺伝子強化体を皆殺しにした日、私が胸を撃ち抜いて殺したはずだぞ」

 

ラウラの頭の中にその時の記憶が流れている。

 

遺伝子強化体、アドルフが砂漠で殺したゲイル・ボーデヴィッヒが主導で行っていた優秀な人間を作り上げるためのドイツの計画。

 

「たかが胸を撃たれたくらいで死んでたまるか、ナノマシンがあるのだぞ。あの程度の傷はすぐに回復する。死体を確認しなかったお前のミスだ」

 

遺伝子強化体計画はアドルフによって全てを破壊されてしまった。遺伝子強化体はアドルフによってラウラ以外殺されてしまい、責任者のゲイルも殺されてしまった。

 

「お前は何であの日、皆を殺した。そして何故私だけ生かした。私は何年もそれが気になっていた」

 

ラウラは遺伝子強化体の唯一の生き残りとしてドイツ軍から期待の目を向けられていた。そしてその期待に答えようと常に努力を行ってきた。

 

だからこそ、自分の瞳を異物と入れ替えもした。

 

「知りたいのか?」

 

「ああ」

 

「それは教えられないな。だからこそ、悩み続けろ。生きてる意味を」

 

アドルフはニヒルに笑った。それはまるでラウラを試しているかのようであった。

 

瓦礫をどかしながらアドルフに撥ねられたネオの兵士がようやく姿を現した。

 

「……さて、こちらも仕事と行くか」

 

アドルフがライダースーツの袖をまくって、左腕につけてあるガントレットを露出させる。

 

「それは……IS?何故?」

 

ラウラにはそのガントレットがISの待機形態であることがすぐわかった。

 

何故男であるアドルフがつけているのかはラウラにはわからない。

 

アドルフが右手でガントレットに触れるとガントレットから起動音が発生した。そしてソレを口元に近づける。

 

「……変身」

 

アドルフの肉体を光が包み込み、それが晴れるとアドルフはISのような何かを身に纏っていた。

 

「それは?」

 

「IS擬きだ。進化するためのモノ、TFEと呼んでいる。篠ノ之博士のお陰で漸く実践段階まで進展したよ、まあ今は三機しかないがね」

 

IS擬き、TFEはISと同じようにISコアを使用している。そもそもコレは以前アドルフが砂漠の研究施設で使った無人ISを纏うという技術を束とリリスの二人によって発展させて作り上げたモノだ。

 

アドルフは自分が乗っていたバイクに触れるとソレは分離変形してIS擬きの鎧になってアドルフの身を包んだ。速度に特化したようなシャープな見た目。

 

「おい、ラウラ」

 

「なんだ」

 

「俺たちがあのISの動きを止める。だからお前がトドメをさせ。こっちには決め手がない」

 

「止められるのか?」

 

「甘くみるなよ……行くぞ!」

 

『『応ッ!』』

 

物陰からさらに二機のTFEが飛び出した。 こちらの二機はアドルフのモノとは異なり、重厚な見た目。

 

突然現れたISコアの反応に戸惑うネオの兵士、何方のTFEに対応しようか一瞬迷い、その隙を突かれてアドルフが真正面から近づいた。

 

思わず構える兵士、しかしアドルフは何もすることなくスラスターを吹かせて後方に下がる。

 

兵士はソレを見て、アドルフに向けて突撃するが背後から二本のワイヤーブレードが兵士の両腕に絡みついた。

 

「よくやったグレイ、ジーク」

 

二機のTFEがワイヤーで兵士を拘束する。単純な機体のパワーでいえばTFEが上回っているようで、ピンと張ったワイヤーが動きを止めている。

 

「これで完全だ」

 

アドルフが両手をネオの兵士に向けて突き出した。両手からシャボン玉の表面の様な色をした膜が兵士を捉える。

 

「これは……AICか?」

 

AICそれはラウラのISに搭載されている装備で、簡単にいえば物体の動きを止めるモノだ。

 

「この程度のモノ、我らの技術力を以てすれば簡単に再現できる……さあ、トドメをさせ」

 

「わかっている!」

 

ラウラがアドルフに促されて敵目掛けてレールガンを放つ。

 

一発目、胸を抉る様な弾丸が直撃した。動けないために威力を全く殺すことができなかった。

 

クールタイムを挟んでの二発目、今度は頭を直撃。あまりの衝撃に敵は気を失いかける。

 

「トドメだ」

 

アドルフがAICを解除する。グレイとジークの二人がワイヤーを利用して敵を上空に投げ飛ばし、ワイヤーを回収する。

 

ジークとグレイの二人が敵目掛けて跳躍を行い、空中でそれぞれ首四の字と足四の字固めを行う。

 

「行くぞ」

 

アドルフの纏うTFEの両肩からツノの様なパーツが出現する。

 

瞬時加速を行い一瞬で最高速度に到達する。上空にいる二人に向かって突撃、超高速の両肩によるショルダータックルが敵の背中に直撃する。

 

三点同時攻撃による破壊の衝撃、背骨、首骨、股関節の全てが砕け散る。

 

「「「TFEデコレーションツリー!」」」

 

三位一体の必殺技、高火力の武装を積んでいないので、代わりに彼らはこの様にして格闘術で相手の息の根を止める様にしている。

 

これもゼロから習ったもので、相手への詰め寄り方、どの技が使用するのに適しているのかを教わった。

 

男によるISの操縦に関するデータが大量にあったから、武器を使わないISによる格闘術に関するデータがあったからこのTFEは作ることができた。

 

 

 

敵の鼓動が止まる。その段階からもう一段階強く強く締め上げて完全に息の根を止める。

 

三人同時にしかけていた技を解除して敵を投げ飛ばす。

 

地面に着地。

 

「他の場所に行くか?」

 

グレイがアドルフに問いかける。

 

「ああ、だが今度は救助活動が優先だ。戦うのは…………来たようだな」

 

何かを感じ取ったのか、アドルフは曇天の空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曇天の空を突き破って巨大な漆黒の怪鳥がパリの街を舞う。

 

怪鳥から何かが飛び出してパリの街に落ちるように飛んで行った。

 

「何だあれ?兄さんか?……兄さんだ」

 

シャンゼリゼ通りでゴリラドラゴン(仮称)と相手をしていた百春は怪鳥に兄であるゼロが乗っていると確信した。

 

どうしてこんな短時間で兄が来れたのかわからないが、増援は非常に喜ばしいことであった。

 

怪鳥が空中で幾度も羽ばたきながらその場に滞空してゴリラドラゴンを睨みつける。

 

ゴリラドラゴンも両手で大きくドラミングを行いながら怪鳥を威嚇する。

 

先に動いたのはゴリラドラゴン、威嚇射撃として口からエネルギー砲放つ。

 

怪鳥はこれを躱してゴリラドラゴンとの距離を一気に詰める。だがそんなことはゴリラドラゴンも予想済み、近づいて来たところを硬く握りしめた左拳で殴りにかかる。

 

その一撃を鳥は右足で受け止め、左足でゴリラドラゴンの顔面に蹴りを何度もいれる。

 

それはまるで怪獣大決戦、映画のような光景が百春の目の前で繰り広げられている。

 

怪鳥が翼を大きく羽ばたかせて距離を取り、口を広げる。

 

ゴリラドラゴンも同じように怪鳥目掛けて大口を広げる。

 

互いの口から放たれる極太のエネルギー砲、その直撃によって発生した光と衝撃に百春は反射的に顔をそらしてしまった。

 

光と衝撃が収まると怪鳥は何時の間にやら姿を消していた。そしてその代わりに何時の間にか百春の隣にISが立っていた。

 

「兄さん、どうやってここにきたの?」

 

「見てわからなかったか?飛んできたんだよ、三十分でな」

 

黒零──ゼロは三十分で日本からフランスまで無事に到達した。

 

「テメエエエエエエエ!!!ゼロオオオオオオオオ!!」

 

ゴリラドラゴンの操縦者が大声を上げる。

 

「あ?この声聞いたことがあるな。あれか?四肢切断したスカーラとかいうのか。なんだよ、何時の間にか立派でゴツイ四肢持ってんじゃねえか」

 

「テメエのせいで!テメエのセイデエエエエエエ!!」

 

ゴリラドラゴンの全力のパンチをゼロは容易く躱した。

 

「なんだぁ?そんなに四肢切られたのが嬉しかったのか?だったら首も切って見栄え良くしてやろうか?死体で生け花してやるよ」

 

「死ねよやアアアアアアアア!!」

 

追撃の一撃、ゼロはこれも簡単に躱して百春の隣に移動する。

 

「この場はお前に任せていいか?大丈夫だろ、アレ雑魚だし。俺が出張るのはアレじゃない」

 

ゼロは百春の方を見ながら、ゴリラドラゴンを指差した。

 

雑魚

 

ザコ

 

ざこ

 

その言葉に激怒したのかスカーラはゼロ目掛けて極太のエネルギー砲を放った。

 

「だからね」

 

ゼロは得物である大剣『零』を呼び出して、天高くかかげる。

 

零落極夜

 

「それがだよ」

 

一振りでエネルギーの流れを両断してみせた。事も無げにパリの街を火の海に包んだ攻撃を防いでみせた。

 

「んじゃあ、この雑魚は任せた。俺はこのゲッソリする感覚の原因に突撃する……頼んだぞ」

 

百春の肩をポンと軽く叩いてから、ゼロは何処かに向かって行った。

 

残された百春は巨大な化け物に立ち向かう。


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