ストライク・ザ・ブラッド~白き焔~   作:燕尾

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燕尾でございまーす!

お魚銜えたドラちゃーん! おやつよー!




……はい、すみませんでした。第八話です。


戦王の使者編
第八話


「はーい、そこまでですよー」

 

深夜の古い倉庫で間の抜けた声が通る。彼の視線の先にはカードゲームに興じる男たちが数人いた。

 

「だれだ!?」

 

倉庫内の男たちが一斉に立ち上がる。

白髪紅眼で細身の身体、女の子の服を着せれば間違えそうな中性的な顔立ちをした少年は(うやうや)しく一礼をして、

 

「楠劉曹といいます。密入国の犯罪魔族たちによる武器の闇取引が行われているという情報が入ってきまして、こちらとしましては見過ごせないので大人しく捕まってください」

 

「ふん、ガキ一人になにができる」

 

そういって男たちはゲラゲラと笑い始める。

失礼極まりない男たちの態度にも劉曹は気にもしない様子で、手を挙げる。

 

「そうですかわかりました、それでは――狩りの時間だ」

 

劉曹の言葉が合図のように、投擲されていた音響閃光弾が炸裂する。その直後、ボディーアーマーを着こんだ特区警備隊強襲班(アイランド・ガードきょうしゅうはん)が突入し始めた。そして視界を奪われた男たちをサブマシンガンで滅多打(めったう)ちにする。

急襲を受けるとは思っていなかった男たちは為す統べなく倒れ伏す。そんな彼らを劉曹は覚めた目で見下ろす。

 

「まさか、本当に俺一人だけがここにきたと思ってたのか? 普通に考えてありえないだろ。獣"人"って言ってもお前らの知能は犬以下か?」

 

「ち、くしょう……」

 

男たちは劉曹の挑発に返すことも出来ずに(うめ)くだけだった。

 

「あっけないもんだな、拘束してくれ」

特区警備隊に指示を出して行動不能にした獣人たちを拘束させる。そこで劉曹は気づいた。

容疑者の獣人は全部で八人。しかし、今目の前にいるのは七人。一人足りないのだ。

 

「一人逃したか」

はあ、とため息を洩らす劉曹に強襲班の分隊長が申し訳なさそうに頷く。

 

「そのようで、いかがいたしましょう?」

 

強襲班の分隊長が聞いてくる。劉曹は面倒くさいな、と呟きながらも、

 

「あんたたちはこの獣人たちを連行、俺は取り逃した一人を追う」

 

「了解しました、お気をつけて」

 

敬礼する隊長を後目に劉曹は気配をたどり、捕り逃した一人を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ、クソクソクソッ!! やってくれたな、人間どもが!」

 

倉庫からからがら脱出した豹頭の男は深夜の街を疾走する。

武器の取引を潰され、同志を失った。計画に支障はないが上の信用も失ったのは間違いない。このままおめおめと逃げ帰っても用済みと始末されるだけだろう。

こうなったのもさっきの少年と彼が引き連れてきた特区警備隊のせいだ――

油断していた事実もそっちのけで男の頭は復讐心でいっぱいいだった。

 

「許さんぞ、やつら……必ず後悔させてやる」

 

男は懐からあらかじめ仕掛けておいた爆弾のリモコンを取り出し起爆スイッチに指をかける。

 

「同志の(かたき)、思い知れ――!」

 

そう叫んで男は起爆スイッチを押す。だが、いつまで経っても爆発することはなかった。

男は何度も起爆スイッチを押しなおすがそれでも反応がない。

何故だッ!! と喚く男の後ろから唐突に気だるげな声が聞こえる。

 

「今どき、暗号化処理のされていないアナログ無線式起爆装置を使ってもすぐ対処されるのは普通わかるだろ。今の時代はハイテクなんだ。ほんとに犬以下か?」

 

「おまえは、さっきの……どうやって俺に追いついた?」

 

馬鹿にするように呟いた劉曹を豹頭の男は睨む。劉曹は呆れたように男を見る。

 

「世の中には、お前ら獣人より速く移動できる奴もいるってことだ。自分たちが一番だとは思わない方がいい」

 

「ただの小僧が、調子に乗るな!」

 

男がトップスピードで劉曹に襲いかかる。所詮は人間、自分の攻撃は避けられないと男は思っていた。

しかし、男の攻撃は空を切った。その瞬間、背中から衝撃が走る。いつのまにか後ろに回りこんでいた劉曹に蹴飛ばされたのだ。

 

「なんだと……」

 

男はなにが起きたのか理解できなかった。

 

「さっきも言っただろ、おまえより早く動けるやつもいるって。まああまり隙がないのは訓練された獣人といったところか。だが、俺からしてみればまだ動きに無駄がが多いな」

 

「殺す、絶対に殺す!」

 

自分より大きく離れた少年に指摘された男は再び鉤爪を振るう。だが、何度やっても劉曹にはあたることはなかった。

 

「そろそろいいだろう、明日学校もあるしな」

 

そして劉曹は姿を消した。男はあたりをキョロキョロ見回しているが劉曹を捉えることができない。

 

「どこに行った!?」

 

「ここだ」

 

男の言葉に答えるように劉曹は顎を目がけて回し蹴りを放つ。

悲鳴を上げることもできず、吹き飛ばされた男は意識を失った。

 

「はあ、ようやく終わった。なんでこんな時間に一般高校生の俺が攻魔官の真似事を……もう少し楽な仕事をするはずだったんだけどなあ……」

 

残りの獣人を特区警備隊(アイランド・ガード)に引き渡した劉曹はひとり愚痴をこぼしていた。

携帯を確認すると時刻は午前四時。海のほうでは空がうっすらと明るくなっていた。

 

「あー……報告めんどくさい、学園でいいか……」

 

劉曹は那月にメールをして家に帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「眠い、眠すぎる……」

 

劉曹が家についたころには完全に夜が明けていた。当然、寝る時間もなく劉曹は欠伸(あくび)を噛み殺しながら登校している。

 

「おはようございます、楠先輩」

 

後ろから声をかけられる。振り返るとそこには古城と不機嫌そうな雪菜、そして凪沙がいた。

 

「おはよう三人とも。古城はなんで鼻血出して……ふあーあ」

 

「なんだか眠そうだね、そう君。昨日はちゃんと寝たの? きちんとした生活しないと駄目だよ?」

 

凪沙は心配そうに劉曹の顔を見る。

 

「ああ、気をつけるよ。昨日はいろいろあってね……そっちもなんかあったみたいだな」

 

古城と雪菜を交互に見る劉曹。凪沙はやれやれという風に溜息を出す。

 

「そうなんだよ、実は今朝……」

 

「古城が起きてリビングにいったときなぜか朝食が三人分あって、母親が帰ってきたのかと思った古城が凪沙ちゃんに聴こうと思ってノックもせず凪沙ちゃんの部屋に入ったら、実はチアガールの衣装の採寸に来ていた姫柊の下着姿を偶然見てしまった……ってところか?」

 

「そうなんだよ、まったくこの変態君は本当にどうしようも……って、なんでわかったの!?」

 

言おうとしたことを当てられて驚く凪沙。

古城と雪菜も唖然として劉曹を見ている。劉曹は視線を古城に移して、

 

「というか古城、この年になったら普通家族でも部屋に入るときはノックをするもんだろ。明らかに古城の過失だ」

 

「いいえ、楠先輩。暁先輩がいやらしい人だと失念していた私が悪いんです」

 

「だめだよ、雪菜ちゃん。この変態君の行いを簡単にゆるしちゃ」

 

三者三様それぞれ口にする。あまりの言い様に古城が軽くキレた。

 

「おまえらな……」

 

睨んでくる古城に自業自得だ、と劉曹は一蹴する。取り合ってすらもらえなかった古城は溜息をついた。

 

「ところで、なんでチアの衣装の採寸なんてしてたんだ?」

 

気を取り直した古城が二人に聞く。すると雪菜は気鬱(きうつ)な表情を浮かべ、

 

「そんなつもりはなかったんですけど、どうしても断り切れなくて……」

 

重苦しげに深々と息を吐く。そうそう、と対照的に明るい声で凪沙が笑い、

 

「クラスの男子全員が、土下座して雪菜ちゃんに頼んだの。姫がチアの衣装で応援してくれるなら家臣一同なんでもする、死に物狂いで優勝目指してがんばるって」

 

「男子全員、土下座?」

 

「アホすぎるだろ、凪沙ちゃんのクラスの男子たち……」

 

凪沙の説明に古城は唖然とし、劉曹はドン引きしていた。

 

「普通ならそう君みたいにドン引きするけど、ほら、相手が雪菜ちゃんだし、男子がそう言いたくなる気持ちもわかるから、女子も協力しようって話になったんだ」

 

「恐るべし、姫。クラスを掌握しているな……」

 

「そ、そんなことしてません!」

 

ニヤニヤした目で雪菜を見る劉曹に焦ったように反論する雪菜。

 

「それでおまえも一緒になってチアをやるのか、凪沙」

 

「へっへー、いいでしょ。あ、もしかして古城君も応援して欲しかった?」

 

「いやそれはべつにどうでもいい」

 

古城は無頓着(むとんちゃく)に答えて首を振る。くるくるとよく動く凪沙の表情が、たちまち目に見えて不機嫌なものへと変化して、

 

「えー、どうして!? うれしくないの!?」

 

「たかが学校の球技大会で、そんな気合の入れた恰好で妹に応援されたら恥ずかしいっての」

 

「は、恥ずかしい……恰好……」

 

古城の素っ気ない口調で言い放った言葉に雪菜は憂鬱(ゆううつ)そうにうつむく。

 

「いや、違う。姫柊に応援されるのが恥ずかしいとか、そういう意味じゃないからな」

 

言い繕うとした古城にますます凪沙は不機嫌な様子で、

 

「は? なにそれ? 雪菜ちゃんはよくて、あたしに応援されるのは恥ずかしいわけ!?」

 

「そうじゃねーよ。学校の球技大会なんて遊びみたいなもんだから、わざわざ見に来なくたっていいってこと」

 

古城は面倒臭げに言い訳する。そんな古城を見て劉曹は溜息をつく。凪沙もどこか不安そうな口調で、

 

「……古城君、もしかしてまだ気にしてる? その……去年の大会のこと」

 

「大会……? ああ、違う。それは関係ねーよ」

 

「本当に?」

 

「綺麗さっぱり無関係だ。俺はべつにバスケが嫌いになったわけじゃないからな」

 

古城は笑いながら妹の額をぽんぽんと叩く。

 

「あの……楠先輩?」

 

目配せをして問いかけてきた雪菜に、劉曹は静かに首を振った。

 

「あんまり人の過去を詳しく詮索(せんさく)してやるな、ある程度のことは聞いたんだろ?」

 

自分の言おうとしたことを見破られて思わず目をむく雪菜。劉曹は凪沙に聞こえないように続けて、

 

「それに古城に本気でスポーツなんてやらせてみろ、試合にすらならん。それは古城もわかっているようだが」

 

「あ……」

 

今の古城は世界最強の吸血鬼、"第四真祖"である。普通の高校生に混じってインターハイ出場なぞすれば簡単に勝ててしまう。球技大会で手を抜いたとしても異常な身体能力を見せてしまうだろう。

 

「でも、それをいうなら楠先輩もですよね」

 

「おいおい、俺は魔族じゃないんだぞ?」

 

「そうですけど第四真祖以上の力を持つといわれている"白炎の神魔"もかわりはないですよ」

事実を言い放つ雪菜に、ぐっ、と言葉に詰まる劉曹。

 

「ま、まあ、おれも本気なんて出さないよ、出場しないってのが一番いいんだけどなあ」

 

「だめだよ、そう君。あたしそう君の試合も楽しみにしているんだから」

 

「いや、だけどな……」

 

「出場しないなんて絶対だめだからね。あたし楽しみにしているんだから」

 

「……はい」

 

いつのまにか機嫌のよくなった凪沙に押し切られる劉曹。

 

「おまえも凪沙には弱いんだな」

 

古城にそういわれて溜息をつく劉曹だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――以上、昨日の報告。何か質問あるか? 那月ちゃ――ってあぶな!」

 

放課後、昨日の件の報告をしにきた劉曹はギリギリのところで飛んできた辞書をかわす。

 

「教師をちゃん付けで呼ぶ名と何度言えばわかる」

 

「だって、もう容姿からしてちゃんって呼んでもおかしくは……すみませんでした」

 

ギロリと睨まれた劉曹はおとなしく謝っておく。

あいも変わらず南宮那月は黒いレースのいわゆるゴスロリ服を着ている。それに加え、低身長なので子供に見えるのは仕方のないことだろう。

 

「ふん、それにしても黒死皇派の死に損ないどもがいまさら何をしようというのか」

 

那月は不機嫌そうに資料を放り投げて紅茶を口にする。

 

「まあそれもそうだけど、問題はそれだけじゃない」

 

「どういうことだ」

 

那月が問いかけると劉曹は少し面倒くさそうな面持ちでポケットから黒の封筒を出す。

 

「今朝、ある人物から手紙が届いてたんだよ。この手紙の送り主がこれまためんどくさい奴でね」

 

「まわりくどい説明はいい、誰だ?」

 

催促され、劉曹はとても面倒くさそうな表情でその送り主の名を言う。

 

「蛇遣い、アルデアル公国君主ディミトリエ・バトラー」

 

「ちっ……次から次へと」

 

思わず舌打ちをする那月。だが、劉曹の話はそれだけでは終わらなかった。

 

「もしかしたら、黒死皇派とも関わりがあるかもしれないな」

 

「なんだと」

 

睨むような視線を送ってくる那月に対し、劉曹は淡々と告げた。

 

「直接加担じゃないがあの変人のことだ、そういう情報を嗅ぎつけてきた、ということもないことはない。それに古城のこともバレてるだろう。まあ、あくまで憶測の話だが」

 

「だが、そうだとしたら余計に面倒だ。楠、追加依頼だ。有事の際の沈静化をしろ。報酬は上乗せする」

 

「了解……というか、もはややってることが攻魔官の仕事だよな。いいのか? 資格も持ってないやつがそんなことして」

 

意地悪な問いかけをする劉曹に那月はニヤリと不適に笑い答える。

 

「いまはこういうことを生業(なりわい)としてやっているおまえのことだ、そんなのは気にもしていないだろう?」

 

ごもっとも、と核心を突かれた劉曹もまたニヤリと笑う。

 

「そうだ。おい、こっちに来い」

 

すると那月は思い出したように誰かを呼んだ。

 

「こいつと一緒に行動しろ」

 

「アスタルテ?」

 

扉の奥から出てきたのは藍色の髪の少女――アスタルテだった。

 

「どうしてここに? てか、なんでメイド服なんだ?」

 

彼女は以前、ロタリンギアの殲教師(せんきょうし)ルードルフ・オイスタッハの従者として彼と一緒に魔族狩りやキーストーンゲート襲撃などしていた人工生命体(ホムンクルズ)だ。

そのアスタルテがメイド服でここにいることに疑問を持つ劉曹。

 

「アスタルテはあの一件のことで三年間の保護観察処分を受けることになってな。私が身元保証人になった」

 

「まあ、考えたらそれが妥当な処分だろうな」

 

「それに、忠実なメイドが一人欲しかったしな」

 

「それが身元保証人を引き受けた理由か……」

 

ひどい理由に呆れる劉曹。那月は相変わらずである。

 

「とにかく、今回はアスタルテと事にあたれ、いいな」

 

「了解、よろしくな。アスタルテ」

 

命令受諾(アクセプト)

 

左右対称の人工的な顔立ちで感情のない淡い水色の瞳の少女は端的(たんてき)に頷くだけだった。

 





いかがでしたでしょうか?

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ではまた。

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