約二週間ぶりですね大変お待たせしました!!
第七話です。これで聖者の右腕編完結です!
「
出現する雷光の獅子。戦車ほどもある巨体は、荒れ狂う雷の魔力の塊。
その眷獣は古城の怒りに呼応して、力が大きくなっている。
「これほどの力をこの空間で使うとは、無謀な!」
雷の獅子の前足がオイスタッハ目がけて振り下ろされる。その攻撃はオイスタッハを掠めただけ。普通ならばなんともない。だが相手は第四真祖の眷獣。それだけでオイスタッハの巨体が数メートル撥ね飛ばされていた。
そして眷獣の攻撃の余波は、キーストンゲートにまで及んでいた。
撒き散らされた稲妻が壁やら監視カメラやらを次々と破壊していく。
「これが第四真祖の眷獣の力か……!」
「アスタルテ――!」
「行け、"
「やりなさい、アスタルテ!」
ぶつかり合う雷光の獅子と人型の眷獣。その瞬間、アスタルテの眷獣を包む虹色の光が輝きを増した。
神格振動波の防御結界が、古城の眷獣の攻撃を受け止め、反射する。
「うおおおおおおおっ!」
「先輩! 落ち着いてください。先輩!」
怒りのままに眷獣を振るう古城を落ち着かせようとする雪菜だが、彼の耳には届かない。雪狼霞で古城の眷獣を止めることもできない。そんなことをすれば
アスタルテに跳ね返された魔力の雷が、暴発してキーストンゲートを襲う。分厚い天井があっさり打ち砕かれ、壁を抉り、吹き飛ばす。
崩壊していく様をみて雪菜は呆然と立ち尽くしている。
「一体どうすれば……」
「落ち……つけ……。姫柊……」
「楠先輩!」
振り向くと、そこには血まみれで息を荒々しくしている劉曹が立っていた。
雪菜はふらふらな足取りで歩く劉曹を慌てて支える。力が入らないのか劉曹は全体重を雪菜に預けた。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫……そうに……見え、るか? 眼科を、お勧め……するぞ」
死にかけているのに劉曹の口調にどこか安心感を覚えてしまう雪菜。この人なら何とかしてくれる、そう思えるのだ。
「少し離れてろ」
そういわれて、劉曹から距離をとる。雪菜という支えを失った劉曹は倒れそうになるも震える膝に鞭を打ち、倒れるのを我慢する。
「
劉曹の身体が輝く。その光はみるみると劉曹の傷を癒していった。
「(なんて暖かい光……心地いい……)」
近くにいた雪菜にも劉曹が発している光にここが戦場だというのも忘れるほどの暖かさを感じた。ただ熱があるだけではない、全てを包み込むような優しい暖かさ。
雪菜はその光に思わず見入ってしまった。
「くそ、やっぱり全快とはいかないか」
毒づいた劉曹の頭からは未だに血が流れていた。だが、あの状態からここまで回復できただけでも十分なものだと雪菜は思う。
「まあいい、姫柊、こっち来い」
すると雪菜の手を取る劉曹。唐突な行動に雪菜は戸惑うも劉曹はそんなことお構いなしにギュッと手を握り締める。
「なにをするつもりですか?」
「少しじっとしてろ――
そう呟くと今度は赤く光ってその光が雪菜の身体を伝って雪狼霞に流れ込み、雪菜の身体から今までの疲労が一切なくなった。
「これは!?」
「俺の力を流し込んだ。これであの人工生命体の防御結界を確実に破れるはずだ。まず俺は古城を落ち着かせる。あとはおまえの出番だ、姫柊」
「わかりました」
「さて、さっさと終わらせようか。この
劉曹は跳躍し手を天に掲げる。劉曹の手の中に小さなうねりが生じ、透明の小さな玉が作り出される。
「死ぬなよ二人とも――
作り出された玉がアスタルテと黄金の獅子の間に放たれる。地面についた瞬間、大きな衝撃が襲う。
「これは!? 下がりなさいアスタルテ!」
生物的危機感を感じ取ったのかアスタルテはオイスタッハの助言より前に後ろに下がっていた。
古城は目の前の衝撃に耐えるように足を踏ん張っている。
「なんだ? いったいなにが起きたんだ!?」
いきなりのことで古城も我に返った様子だ。そんな彼に劉曹は呆れたように声をかける。
「まったく、少しは力を抑えろよ古城。おかげでここにいる全員が死ぬところだったぞ」
「劉曹! お前、無事だったのか!?」
「勝手に人を殺すな馬鹿、これ以上はここも持たない。さっさと片をつけるぞ」
「――おう!」
二人はオイスタッハに向き直る。今いる場所も古城の眷獣のせいで崩壊しかけている。あまり長い時間は掛けていられない。
「顕現せよ――獅子王アリウム!」
再び現れる白炎の獅子。その咆哮は地を揺るがすほどだ。
「何度も悪いな、最大火力でやってくれ」
劉曹の指示で白炎を吐き出す獅子。それは最初より強大なものであった。
「同じことをしても無駄なだけです。アスタルテ――!」
アスタルテはオイスタッハの盾のように前に立ち、白炎を受け止める。
だが、劉曹はニヤリと笑い、
「いや、これでいいんだ」
そう呟いた劉曹の脇から雪菜が飛び出した。
「――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る」
銀色の槍とともに、彼女が舞う。神に勝利を祈願する剣士のように。あるいは勝利の預言を授ける巫女のように。
「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪人百鬼を討たせ給え!」
粛々とした祝詞とともに、雪菜の槍が輝きを放ち始める。
「ぬ、いかん!」
雪菜の狙いに気づいたオイスタッハが、無防備な雪菜めがけて戦斧を投擲げる。しかしオイスタッハの放った戦斧は雪菜に届く前に劉曹に迎撃される。
その隙に雪菜が駆けた。音もなく彼女は宙を舞う。
「雪霞狼!」
次の瞬間、銀色の槍が、アスタルテの防御結界を突き破って、顔のない人型の眷獣の頭部に深々と突き刺さる。
「古城!」
ここまでくれば古城も劉曹と雪菜の行動の意味を理解していた。
「"
避雷針となった雪霞狼に古城の眷獣が牙を立てる。
雷に姿を変えた眷獣の魔力が"
魔力の塊である眷獣を倒す方法はより強力な魔力をぶつけること――
真祖の眷獣の圧倒的な魔力が、今度こそアスタルテの眷獣を焼き尽くし、消滅させる。
「アスタルテ……ッ!?」
その場に倒れこむ人工生命対の少女を呆然と見てうめくオイスタッハ。
動揺する
「これで終わりだ、ルードルフ・オイスタッハ」
鎧越しで彼の腹部を殴りつけた。鎧は砕け、オイスタッハはよろめく。そして追い討ちのように、彼の頭をまわし蹴りした。
屈強なオイスタッハの身体が、吹き飛んだ。何度かバウンドして、ついに倒れる。
「聖遺物は必ず返還させる。屈辱的かもしれないが今は我慢してくれ」
要石のほうへと手を伸ばしている彼に劉曹は声をかける。そして
「ふう、やっと終わった」
直りきっていない頭から痛みを感じるも劉曹は軽く伸びをしてつぶやく。
オイスタッハは意識を失っている。たとえ意識を取り戻したとしても、彼に戦闘を続ける意思はないだろう。劉曹たちがアスタルテを倒した時点で、彼の敗北は決まった。オイスタッハの聖戦は終わったのだ。
「さて、古城、この
「わかってる」
そう言って二人は倒れているアスタルテを見下ろした。
ひどく消耗していたが、彼女はまだ生きていた。彼女の寿命を喰っている眷獣を古城の支配下に置けば彼女はまだ長く生きることができるのだ。
「俺はまだやることがあるから先に出てるわ、古城、死ぬなよ――」
「なんだって――?」
最後の言葉が聞こえなかった古城は訊き直すが、じゃあな、と劉曹が手を振って消える。
このあと、最下層から男の悲鳴が聞こえたのだが、劉曹は気にせずとある場所へと向かうのだった。
「かくして血の伴侶を得た暁古城は眷獣一体を掌握。また一歩、完全なる第四真祖に近づいた、というわけだ」
夜の彩海学園高等部。誰もいないはずの教室に、一人の男子生徒の姿がある。
短い髪を逆立てて、ヘッドフォンを首からぶら下げた少年だ。
壁に寄りかかる彼の隣には、一羽の烏。
「しかし、わからんな。あんな化け物を、なぜわざわざあんたらが目覚めさせようとしてんのか……」
「それがこいつらの目的なんだろう。姫柊を送り込んだのも古城を自分たちの扱いやすいようにするためだろ」
「っ!!」
ばっ、と少年が振り向くとそこにはいるはずのないと思っていた人物の姿がいた。
「よう、基樹。面白そうな話をしてんな。俺も混ぜてくれよ」
「劉曹、どうしておまえが……」
矢瀬基樹は警戒したように劉曹を見る。
「安心しな。別にお前が第四真祖の監視役ということをあいつらにばらすことはしない。いまはそこの彼女に話があってね」
「"白焔の神魔"か。久しぶりですね」
劉曹の二つ名を聞いた基樹は目を見開いて劉曹を見る。只者ではないと、前から感じてはいたが、まさか二年前に真祖三人を同時に相手取った少年だとはさすがに思っていなかったのだ。
「ああ、数ヶ月ぶりだな、"
「何のことでしょうか?」
「とぼけるな。俺から言わせてみれば
「………」
烏は黙って話を聞いている。劉曹はさらに怒気をこめたような口調で喋る。
「なにを考えているのかは知らんが、ほどほどにしておけよ。もし、一線を越えようものなら」
基樹は息が詰まる。劉曹の言葉の節々から感じる威圧が尋常ではないからだ。身体の穴という穴から汗が噴き出す。
「――
普段の彼からは想像し難いほどの殺気と低い声。正気を保てているのが奇跡のように思えた。
「……肝に銘じておこう」
しばしの沈黙の後、それだけを言って烏は一枚の紙となり、ふわりと風にのって舞い上がる。彼女がいなくなった瞬間、劉曹からでていた殺気が消えた。
「なあ、劉曹」
重圧から開放された基樹が発した第一声は問いかけの声だった。
「どうした?」
先ほどまでの殺伐とした雰囲気はなく普通の友人として接するような声で応える劉曹。
「こんなところを見るのは初めてだがなんでおまえはあの人らに
そのとき彼が一瞬誰かを
「昔、色々あってな」
「やっぱり、教えてくれねーのな」
はぐらかされるが最初から期待をしていなかった基樹は苦笑いで流す。劉曹は自分のことを話すことはほとんどないのだ。
さて、とわざとらしく背伸びをして話は終わりといわんばかりに出口に向かって歩く劉曹。
「帰るか。あ、俺のことは秘密にしといてくれ」
そういって劉曹は帰っていった。その姿を見送って、基樹は
「やれやれ……めんどくさいことになりそうだ」
彼の呟きは、無人の教室に響いて消えるだけだった。
「熱い……焼ける。焦げる。灰になる……つか、追々試ってなんだ。あのチビッ子担任、絶対俺のこといたぶって遊んでやがるだろ!」
宿題漬けの週末を乗り越えた月曜日の放課後。古城は学生食堂の端っこの、テラス席に突っ伏していた。
「うるさい、古城。夏休みの追試の点数が出席日数の埋め合わせに足りなかったからだろうが。それに夏休み明けの授業もサボってんだ。しかたないだろ」
報われないぜ、と
「確かに絃神島を沈没の危機から救った代償がこれだと
自業自得だ、と劉曹はため息混じりに言う。夏休み最後に古城が受けた追試験の点数がサボりをカバーするだけの点数に到達せず追々試を受けなければならなくなったのだ。
「でも、浅葱に勉強教えて貰えているんだからまだいいだろ」
「浅葱なあ……」
古城ははあ、とため息をつく。
キーストンゲート襲撃の一件以来、妙に浅葱が親切になっており、今日もわざわざ放課後居残って勉強を教えてくれている。
その浅葱は、飲み物を買うために購買部の方へと出かけていた。
「…………」
浅葱からやっておけ、と言われた問題集から、無意識に目を逸らす古城。
浅葱はすごく成績がいいが、教えるのが上手くない。なので劉曹も補助として古城の勉強を見ているのだが、どうも古城の様子がおかしい。
そこで劉曹は一つの考えにいたる。
「……姫柊のことが心配か?」
「まあな。あんなことしちまったし」
古城はまた溜息をつく。
オイスタッハとアスタルテと戦うため古城は眷獣を一体掌握した。眷獣を掌握するということは当然、アレをしたということだ。本人の了承があったとはいえ、古城は気が気でなかった。
「先輩」
すると雪菜が古城たちのもとへ来る。
「姫柊、どうだった?」
古城はさっそく結果を聞く。雪菜は、心配ない、とうなずいて、
「検査結果は
そう聞いて古城はほっと胸を撫で下ろす。
「よかったよ。痛い思いをさせたし、姫柊を俺の血の従者にしちまったかと気が気じゃなかったんだ」
「少し血が出ただけですみましたし、あの日なら比較的安全ってわかってましたから。それに先輩に吸われた
「おーい、お前ら。勘違いされそうな会話は二人のときだけにしておけ。でないと……」
途中で割り込んできた劉曹が雪菜の背後の植え込みの方を指した。そこからゆらりとゾンビのように立ち上がる少女たちがいた。それを見た瞬間、古城の全身が凍りついた。
「ふーん……痛い思いをさせて、血が出て検査して、安全日で陰性なのね?」
「古城君のドスケベ! 変態っ! エロっ!」
「浅葱!? それに凪沙まで!」
浅葱は古城を
「あなたが姫柊さんね。いい機会だからはっきりさせておきたいんだけど、古城とどういう関係なの?」
「わたしは暁先輩の監視役です」
雪菜が冷静に言い返す。
「監視? ストーカーってこと?」
「違います。私は先輩が悪事を働かないようにと思って――」
「そのあなたが、このバカを誘惑してどうするのよ!?」
「それはそう……ですけど……」
「違うだろ、姫柊。そこは否定しろ!」
古城は納得してしまいそうになる雪菜に思わず叫ぶ。浅葱は、そんな古城を蔑むように冷ややかに眺めて、
「誰か、ここに
「やめろ、浅葱! 劉曹もとめてくれっ!」
古城は劉曹に助けを求める。しかし、
「これはお前の行動の結果だ。後始末も自分で何とかするんだな」
そういって手を振りながらその場を離れる劉曹。
ちらりと見れば、その場から逃れようとするも二人の少女に前を塞がれてうんざりとした表情を浮べている古城とただおろおろとしている雪菜。
一体だけとはいえ眷獣を掌握した古城は完全な第四真祖へと近づいていく。そして今回のことで第四真祖が暁古城で絃神島にいるのがばれるのももはや時間の問題だろう。この先どんなことに巻き込まれるのか誰にもわからない。
「動き出した運命の歯車はもう誰にも止められない、か。古城、お前はこの先どう生きる?」
劉曹の呟きは誰にも聞こえることはなかった。
いかがでしたでしょうか?
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