ストライク・ザ・ブラッド~白き焔~   作:燕尾

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一週間ちょっとぶりです。燕尾です。

大学後期とバイトの生活がそろそろ始まると思うと憂鬱ですね。

六話です……どうぞ……


第六話

「西欧教会の"神"に仕えた聖人の遺体……聖遺物っていうんだってな。あんたの目的はこれってわけか」

 

古城は哀れみの目で見ながら言う。

空間の中央に置かれているのは誰だかわからない人の腕だ。

 

「貴方たちが絃神島と呼ぶこの都市が設計されたのは、今から四十年前のこと」

 

低く厳かな声で、オイスタッハが語りだす。その口調には司教としてのふさわしい威厳があった。

 

「レイライン――東洋で言う龍脈が通る海洋上に人口の浮島を造り、その霊力で都市を繁栄させよういう発想に基づいています」

 

「魔族特区には理想的な条件だな」

 

「都市の設計者、絃神千羅はよくやったといえるでしょう。彼は東西南北----四つに分割した人工島を風水でいうところの四神に見立て、それらを有機的に繋ぐことで龍脈を制御しようとした。だが、どうしても解決できない問題が一つだけ残ったのです」

 

「要石の強度、だな……」

 

古城のつぶやきにオイスタッハが重々しく首肯(しゅこう)する。

 

「いかにも、四神の長たる黄龍の役割を果たすに足る強度の建材を作り出す技術は四十年前にはなかった。ゆえに彼は忌まわしき邪法に手を染めた」

 

「供儀建材……」

 

弱々しく雪菜はうめく。

 

「そう。魔族どもが跳梁(ちょうりょう)する都市を支える"人柱"として彼が選んだのは、我らの聖堂より簒奪(さんだつ)した尊き聖人の遺体でした。決して許せるものではありません。ゆえに!」

 

オイスタッハは話は終わりといわんばかりに戦斧を構える。

 

「我らは実力をもって我らの聖遺物を奪還します! 立ち去るがいい、第四真祖よ。これは我らと、この都市との聖戦です!」

 

「それは違うな」

 

するといきなり聞きなれた声がオイスタッハの言葉を否定した。

 

「お前がやっているのはただの私戦(しせん)――自力救済だ。聖戦なんて大層なものじゃない」

 

「劉曹!」「楠先輩!?」

 

オイスタッハたちが破壊したドアから、よっ、といつもの軽い挨拶をする劉曹。

 

「"白炎の神魔"……」

 

オイスタッハは憎々しげにうめく。

劉曹はオイスタッハを無視して古城たちのもとへ跳躍する。そして古城たちにこれ以上にない笑顔を向け、

 

「ふたりとも、これが終わったら説教だから」

 

それだけを言い放った。古城と雪菜は顔面を蒼白にしてうん、と頷く。

さて、と劉曹はオイスタッハのほうを振り向き、オイスタッハを睨む。

 

「聞かせろ、殲教師。なぜおまえはこんな方法をとった? 他にも聖遺物を取り戻す手段はあっただろう」

 

「……貴方にわかりますか? 今現在も我らの信仰を踏みにじられているこの屈辱」

 

オイスタッハは怒りに満ちた口調で答える。しかし、劉曹はさぁな、と軽く否定する。宗教に入っておらず信仰もない彼にとってはオイスタッハの気持ちなど知る由もないのだ。

 

「確かにあんたたちの気持ちはわかる。絃神千羅は最低だ。だけど、何も知らずにこの島で暮らしている五十六万人を殺してどうする? 無関係なやつらを巻き込むんじゃねーよ!」

 

しかし、古城はオイスタッハの言葉に強く反論する。彼の気持ちはわからなくもない、だからと言って一個人が大勢の命を奪う理由にはならない。

 

「それはこの街が贖うべき罪です。その程度の犠牲、一顧だにする価値もなし」

 

オイスタッハは冷酷に告げる。

そんな彼の前に立ちはだかったのは雪菜だった。凛と澄んだ声で叫ぶ。

 

「供儀建材の使用は、今は国際条約で禁止されています。ましてやそれが簒奪された聖人の遺体を使ったものなら尚更……!」

 

「だから、なんだというのです、剣巫よ? この国の裁判所にでも訴えろと?」

 

「現在の技術なら、人柱なんか使わなくても人工島の連結に必要な強度の要石が作れるはずです。要石を交換して、聖遺物を返却することも――」

 

「貴方は、己の肉親が人々に踏みつけにされて苦しんでいるときにも、同じことが言えるのですか?」

 

そういわれた雪菜の背中に、動揺が走る。あえてオイスタッハは肉親を知らない雪菜に言い放ったのだ。

 

「オッサン……あんたは……!」

 

激昂した古城が、オイスタッハに詰め寄ろうとする。

だがそれを、雪菜が左腕を伸ばして制止した。大丈夫、というふうに微笑んでみせる。

 

「もう話はいいでしょう。我らは聖遺物を奪還する。邪魔立てすると言うなら実力をもって排除するまで――アスタルテ!」

 

命令受諾(アクセプト)執行せよ(イクスキュート)、"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"――」

 

沈黙していたアスタルテが感情のない声で答える。

 

「古城、姫柊。俺はあの人工生命体をやる。お前らはあの殲教師を止めろ」

 

古城と雪菜はともに頷きオイスタッハのほうを向く。

 

「なあ、オッサン。俺はあんたに胴体をぶった切られた借りがあるんだ。とっくにくたばった設計者に対する復讐なんかよりも先に、その決着をつけようか」

 

古城の全身を稲妻が包む。古城の血の中に棲まう眷獣が目覚めようとしているのだ。

 

「さあ、始めようか、オッサン――ここから先は、第四真祖の戦争(ケンカ)だ」

 

雷光をまとった右腕を掲げて、古城が吼える。

古城の隣で寄り添うように銀の槍を構えて、雪菜が悪戯(いたずら)っぽく微笑んだ。

 

「いいえ、先輩。わたしたちの聖戦(ケンカ)、です――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおッ――!」

 

青白い稲妻を撒き散らしながら古城がオイスタッハに殴りかかる。

 

だがオイスタッハは、巨体に似合わない敏捷(びんしょう)さで古城をかわし、戦斧で反撃してくる。

速くて、重い。まともに当たれば古城の肉体は一撃で両断される。

 

「凄まじい魔力。ですがそのような攻撃では私に触れることはできませんよ。まるで浅はかな素人同然の動きですね、第四真祖!」

 

「本当に素人なんだよ。俺は!」

 

「わたしもいますよ!」

 

雪菜は一瞬でオイスタッハに詰め寄り銀の槍を一閃する。

戦斧で防ぐオイスタッハ。連撃が来ると思っていたが雪菜はすぐにオイスタッハから距離をとる。するといつの間にか後ろに回っていた古城が魔力で作った雷球をオイスタッハに投げつける。その威力は殲教師の表情を強張らせた。

 

「くッ……! 第四真祖と剣巫、やはり侮れませんね。先ほどの言葉は撤回しましょう。ここからは私も相応の覚悟を持ってあなた方の相手をします」

 

「なに……っ!?」

 

オイスタッハの全身から噴出した凄まじい呪力に、古城の顔から血の気が引いた。

殲教師がまとう法衣の隙間から、輝きが漏れる。法衣の下に着こんだ装甲強化服が黄金の光を放っているのだ。その輝きを見た古城の瞳に激痛が走り、光を浴びた古城の肌が焼ける。

 

「ロタリンギアの技術によって造られし聖戦装備"要塞の衣(アルカサバ)"――この光をもちて我が障害を排除する!」

 

オイスタッハの攻撃の速度が増した。装甲鎧が、彼の筋力を強化しているのだ。

 

「先輩!」

 

オイスタッハの戦斧を雪狼霞で受け止める雪菜。その隙に古城はオイスタッハから距離をとる。だが、黄金の光で視界を奪われた二人は防戦一方だ。

 

「おい、大丈夫――」

 

執行せよ(イクスキュート)、"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"」

 

余所見をしている暇はないといわんばかりに眷獣をまとったアスタルテは劉曹へと襲いかかる。拳は最大級の威力を持つ呪砲の一撃に等しい威力だ。その拳が嵐のように劉曹を襲う。

劉曹はギリギリのところでかわしながら気づかれないように古城と雪菜からアスタルテを遠ざける。そして、

 

「おまえはあの殲教師に従っているだけだろうが、ちょっとやりすぎだ」

 

アスタルテと距離をとった劉曹の目の前で、空気がうねりだす。

見たことのない現象に古城と雪菜はもちろん、オイスタッハまでその光景を注視していた。

 

「なんだ、あれは!?」

 

「これは魔力!? いや、違う!」

 

膨大な力を感じ取り、その場の全員がうろたえる。

 

召喚(サモン)――顕現(けんげん)せよ、獅子王アリウム」

 

出現したのは、白炎をまとった赤獅子――

大きさこそ普通だが、纏っている白炎と持っている力は凄まじいものだった。

 

「あまり力は使いたくないんだが、仕方ない」

 

白炎の獅子はアスタルテに向かって炎を吐く。

だがアスタルテは虹色の眷獣をまとった手でその炎を受け止め、吸収する。

 

「無駄なことです、"白炎の神魔"。いくら貴方でも今のアスタルテには勝てま――」

 

「なに寝ぼけたこと言ってんだ」

 

「ああああああ!」

 

すると炎を吸収していたアスタルテが突然苦しみ始めた。

 

「アスタルテ……ッ!? 貴様、なにをした」

 

「得体の知れないものを吸収するからそうなる。アリウムは吸血鬼たちが使役する眷獣とはまったくの別個体だ」

 

「なに……ッ?」

 

「こいつは眷獣が存在する異界とは違う世界に住まう生物だ。その世界では魔力や呪力といった概念は存在するみたいだが、こいつは神力を使う」

 

劉曹の説明に古城と雪菜、オイスタッハは驚きを隠せない。それもそのはず、この世に存在している力とはまったく別の、聞いたことのない力だからだ。

 

「(楠先輩、本当に何者なんだろう)」

 

「さて、頼みの人工生命体(ホムンクルズ)はもう使えない。どうする殲教師。俺としてはさっさと降参してほしいんだが」

 

静かに歩み寄っていく劉曹に殲教師はニヤリと笑みを浮べる。

 

「貴方こそなにを言っているんですか。まだ終わりではありませんよ? アスタルテ!」

 

「なんだと? ――――ッ!!」

 

オイスタッハが嘲笑した理由に気づいた劉曹だったが、すでに遅い。いつの間にか復活したアスタルテに殴り飛ばされた。魔族でも瀕死にする拳をモロに喰らった劉曹は壁に叩きつけられる。

 

「劉曹ッ!!」「楠先輩!」

 

古城と雪菜が呼びかけるが反応がない。ピクリとも動かず血を流して倒れている。

 

「あなたに対して何も対策をしていないとでも思いですか。万が一のことを考えて自己治癒の能力を与えておいて正解でした」

 

最も一度限りの能力ですが、とオイスタッハが言うも劉曹には届かない。

 

「"白炎の神魔"といっても生身の人間、あの攻撃には耐えれるはずもない。あとはあなた方です」

 

オイスタッハは戦斧を構え直し、先ほどより速いスピードで古城の方へ襲いかかった。古城は呆然と立ち尽くしている。

 

「先輩!?」

 

雪菜は戦斧が古城に当たる寸前に雪霞狼で弾く。

 

「先輩、どうしたんです――」

 

そこまで言いかけて、古城の様子を見て雪菜は息を呑んだ。

怒りに顔を歪めている古城。異常なほどの稲妻が古城から放たれている。

 

「くそ……くそおおおおおおおおッ!」

 

「先輩、落ち着いてください!」

 

雪菜が声をかけるが古城の耳に入らない。そしてオイスタッハを目がけて突き出した古城の右腕が、鮮血を噴く。

 

「"焔光の夜伯"の血脈を受け継ぎし者、暁古城が、汝の枷を解き放つ――!」

 

その鮮血が、輝く雷光へと変わった。第四真祖の眷獣が現れる瞬間である。

 

疾く在れ(きやがれ)! 五番目の眷獣、"獅子の黄金(レグルス・アウルム)"――!」

 

 




いかがでしたでしょうか

シルバーウィークも終わりこれから仕事や学校で忙しくなると思いますが皆さんも頑張ってください!

健康が一番! また次回お会いしましょう!!

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