ストライク・ザ・ブラッド~白き焔~   作:燕尾

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燕尾でございマース!
四話目です。ごゆっくりどうぞ


第四話

 

 

古城たちをマンションまで送った劉曹が家に着いたのは日付が変わる頃だった。そしてことの出来事を那月に報告するため、資料をまとめているうちに朝方になり、少しでも寝ないとまずいとベッドに潜った結果、

 

 

「……」

 

 

時刻は八時十五分。完全に寝過ごしていた。

 

 

「しまった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう……ってなんだ、これ」

 

 

身支度だけして家を飛び出した劉曹はギリギリに学校に着いた。欠伸をかみ殺しながら教室に入るとその中は異常に殺気立っていた。

殺気の原因はクラス大半の男子。そしてその殺気は一人の男子生徒に集中していた。

 

 

「おい、古城。おまえなにしたんだ」

 

 

殺気の集中砲火を浴びている親友、暁古城に訊く。

 

 

「………」

 

 

古城は脂汗をたらしてこちらを見ずにただ黙っている。

 

 

「築島、この状況はどうなってんの?」

 

 

なにも話そうとしないので近くで古城を見下ろしているクラスメイト、築島倫に訊いてみる。

 

 

「ん? ああ、楠くんおはよう。さっき那月ちゃんがきてね、なんか昨日の夜のことで話があるって呼び出しくらったんだよ。中等部の転校生と一緒に、ね。――さて、暁くん。どういうことなのかな? 昨日の夜のこと、詳しく説明してくれる?」

 

 

劉曹に説明してもう一度古城に向き直る。倫はにこやかに古城に訊いてるが迫力がすさまじい。

 

 

「昨日の夜って、あれのことか」

 

 

呟く劉曹に視線で助けを求めてくる古城。しかし劉曹は自分で何とかしろ、と視線で返すとうなだれつつも打開するため古城はようやく口を開いた。

 

 

「つ、築島。これはいろいろあってだな……あれ、浅葱は?」

 

 

「浅葱なら、あっちだよ」

 

 

さっきまで一緒にいた浅葱がいなくなったことに気づいた古城が問いかけると、倫は無表情に教室の後ろを指した。

浅葱はなぜかゴミ箱の隣に立って、手に持っていた紙の束をビリビリと無心に破り続けている。

 

 

「ま、待て。それって、もしかして俺が頼んだ世界史のレポート……」

 

 

うろたえる古城を浅葱は静かな怒気をはらんだ半眼で睨みつけ、

 

 

「ふん」

 

 

荒っぽく鼻を鳴らして、破り終えた紙をまとめてゴミ箱に投げ捨てた。

 

 

「あーあ、浅葱様はご立腹のようですな。古城?」

 

 

わざとらしく言う劉曹に古城は顔をしかめて溜息をつくだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか、暁……なんでお前までいるんだ楠」

 

 

昼休みに入り、古城、雪菜、劉曹は生徒指導室に来ていた。那月は劉曹の顔を見るなり嫌そうな顔をした。

 

 

「俺は昨日の出来事を報告にね。俺に言っておいて忘れるだなんて、それはないと思うぞ。ついにボケが入り始めたか那月ちゃ――はいすいません調子に乗りました。だからその魔力こめて振り上げた扇子をおろしてください那月先――ゲボォ!」

 

 

無慈悲にも振り下ろされた扇子の角は劉曹の額にクリティカルヒットした。

悶絶する劉曹を那月は一瞥して古城たちに向き直る。

 

 

「さて、おまえたち。昨日、アイランド・イーストで派手な事故が起きたのは知ってるな?」

 

 

「え、ええ。それはまあ」

 

 

昨日の事件の当事者である古城たちは居心地悪い気分で頷く。雪菜も緊張した面持ちだった。

 

 

「実を言うとここ二ヶ月の間に六件、似たような事件が起きている。今回のやつで七件目だ。さすがに"旧き世代"が巻き込まれたのは初めてだが」

 

 

那月はそう言って、分厚い資料の束をテーブルの上に投げ出した。

 

 

「こいつらはあのときの……」

 

 

資料に貼り付けられている写真を見て古城はつぶやく。そこに移っていたのは劉曹と古城が初めて雪菜と出会った日に彼女をナンパしようとして一悶着あった吸血鬼と獣人の二人組みだった。

 

 

「いまお前が見ているのは六件目の被害者の写真だ。発見されたのは二日前だそうだが……知り合いか?」

 

 

「この前街をぶらぶらしていたときにこいつらと色々あってな。知り合いってわけじゃない」

 

 

復活した劉曹は額をこすりながら言う。

どうでもいい連中なのだが、気になった古城は問いかけた。

 

 

「こいつらは……どうなったんだ?」

 

 

「入院中だ。一命は取り留めたそうだが、今も意識は戻っていない。生命力が取り柄の獣人(イヌ)と不老不死の吸血鬼(コウモリ)を相手に、どうやったらそんなことができるのかは知らないが」

 

 

険しい目つきで訊いてくる古城を眺めて、那月は優雅に頬杖をついた。

 

 

「お前たちを呼び出したのは、それが理由だ」

 

 

「え?」

 

 

「なにが目的かは知らんが、この無差別の魔族狩りをしている犯人は、今も捕まっていない。つまり、暁古城、お前が襲われる可能性もあるということだ」

 

 

「あ、ああ……そうか。そっすね」

 

 

「企業に飼われている魔族や、その血族には、魔族狩りに気をつけろとすでに警告が回っているらしい。お前にはそんな上等な知り合いはいないだろうから、あたしが代わりに警告してやる。感謝するがいい」

 

 

「はあ。それはどうも」

 

 

「というわけでこの事件が片付くまではしばらく昨日のような夜遊びは控えるんだな」

 

 

「は……」

 

 

あまりにもさりげない口調に、古城は思わず、はい、とうなずいてしまいそうになる。しかしその直前劉曹に突っつかれた。

 

 

「いや、夜遊びとか言われても、なんのことだか」

 

 

「……ふん、まあいい。とにかく警告はしたからな。暁と中学生は行っていいぞ。楠は残れ」

 

 

那月は二人に、出て行け、と追い払うように手を振った。古城と雪菜は立ち上がって、生徒指導室から立ち去ろうとする。

 

 

「ああ、そうだ。ちょっと待て、そこの中学生」

 

 

不意に那月が、雪菜を呼び止めた。

那月は黒いドレスの胸元から何かを取り出して、雪菜へと軽く放った。

 

 

「……ネコマたん……」

 

 

自分の失言に気づいた雪菜はハッと口元を抑える。そんな雪菜を見上げて、那月はニヤリと不適に笑った。

 

 

「忘れ物だ。そいつはおまえのだろう?」

 

 

雪菜はなにも言わず静かに会釈をして、古城と部屋を出て行った。

 

 

「……ほんと、意地悪いな」

 

 

横目で見る劉曹に那月はふん、と不機嫌に鼻を鳴らして紅茶を飲み干す。

 

 

「それで、昨日はなにがあったんだ?」

 

 

「ああ、アイランドイーストの倉庫街で"旧き世代"が襲撃された。襲撃の主犯はロタリンギアの殲教師(せんきょうし)人工生命体(ホムンクルズ)の少女だ、これ資料」

 

 

殲教師(せんきょうし)だと? なぜ、西欧教会の祓魔師(ふつまし)が魔族狩りをしている」

 

 

資料をめくりながら呟く那月。

 

 

「それはわからん。だが、問題はもう一人のほうだ」

 

 

「どういうことだ」

 

 

那月が怪訝そうに訊いてくる。劉曹は真面目な面持ちで答えた。

 

 

殲教師(せんきょうし)についていた人工生命体(ホムンクルズ)の少女は眷獣を使っていた。能力は相手の魔力を簒奪。おそらく孵化前の眷獣を寄生させ……」

 

 

そこまで言って劉曹は気づいた。那月も劉曹と同じ答えに行き着いたように話す。

 

 

「魔族を襲撃していたのは魔力を得るため。つまりその人工生命体(ホムンクルズ)の命を繋ぐためか」

 

 

本来吸血鬼が使役する眷獣は、実体化する際に凄まじい勢いで宿主の命を喰らうのだ。だからこそ眷獣を扱えるのは不老不死で無限の生命力を持つ吸血鬼だけしかいない。

だが、どんなものにも抜け道というものは存在する。条件さえ満たすことが出来れば吸血鬼でなくとも眷獣を宿し、扱うことが出来るのだ。

いま那月が言ったように彼女の寿命を延ばすために魔族を襲っているのなら――

 

 

「――魔族襲撃は本来の目的じゃない。となると西欧教会と絃神島に関係していること」

 

 

情報が少なすぎるため、結論を出すことが出来ない二人。すると、昼休み終了のチャイムが鳴り(ひび)く。

はあ、とため息をついた那月は劉曹が渡した資料を閉じて、新たに入れた紅茶に口をつける。

 

 

「西欧教会の僧侶(ボウズ)がどういう目的でこの島に来たかは今はまだわからん。とりあえず楠、おまえはいつでも動けるようにしておけ」

 

 

「俺は攻魔師でもなんでもないんだがな……まあ首をつっこんだ以上はやるか、それに生活もかかってるし」

 

 

そういって劉曹は生徒指導室を去った。廊下を歩いているうちに劉曹は、ふと、あることに気づいた。

 

 

「そういえば、朝からなにも食べれてないじゃん、おれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室に入った劉曹は朝とはまた違った違和感を感じた。

クラスメイトたちがなんかビクビクするように席に座って一人の女子生徒をちらちらと見ているのだ。その女子生徒は不機嫌オーラを撒き散らしながらただ黙っている。

 

 

「浅葱、どうかしたのか?」

 

 

その女子生徒、浅葱に問いかけるも彼女は、別に、とぶっきらぼうに答えるだけだった。

教室を見渡すと古城がいないことに気づいた劉曹は原因がなんなのかすぐにわかった。

一応、確認のためにあることを問いかける。

 

 

「……浅葱。古城どこに行ったかわかるか?」

 

 

すると、浅葱は劉曹をキッと睨みつけ、

 

 

「知らないわよ! 急用ができたとかいってどっか行ったのよ!」

 

 

「そ、そうか……大変だなおまえも」

 

 

怒鳴り散らす浅葱にさすがに劉曹も同情した。まわりを見渡すと、とばっちりを恐れたクラスメイトは慌てて目を逸らし、基樹と倫はよくいったな、といった目で見ている。

 

 

「授業は受けてから行くか。ここで俺も急用ができたとかいうと絶対やばい」

 

 

殲教師(せんきょうし)や眷獣を使う人工生命体(ホムンクルズ)より浅葱の方が恐ろしい、そう思う劉曹だった。

 

 





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